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令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

家待・越中編(二)(31)秀(ほ)にか出でなむ

2011年05月03日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年8月9日】

しび突くと 海人あまともせる 漁火いざりび
           にか出でなむ 我が下思したもひ




書持ふみもちが 夢枕に立った 
人懐ひとなつっこい たたえ 語りかける
「兄上 今日は一つ 歌修練のおさらい 如何いかがです
 近頃の歌 書持 いささか に落ちませぬ
  人麻呂様 赤人様 それに憶良様
 まねぶは 良う御座いますが
 ちと 模倣まねりが過ぎまする
  形は 出来申しても 
 心え 少しも 兄上では ありませぬ
 ことに 長歌ちょうかに そのきざし 多う見られます
 それは ともあれ この弥生やよい初めの
 はるそのとうに始まる 一連
  あれは 見事に 御座いました
 まさしく 家持ここにありのおもむき
 いや 感服かんぷくこの上なく・・・」

 ・・・おお 夢であったか
  書持め 痛い所 突きおって
 政治まつりごとがらみ 人がらみ
 忸怩じくじたる 歌詠みも 致し方なしなのじゃ)

 に気付かされたか その後の家持 
書持との 歌修練がとき思わせる
こころなおな歌が多い
 五月】
の花を くた長雨ながめの はなみずに 寄る木屑こづみなす 寄らむ児もがも
の花を しぼます長雨あめの 水に浮く 木屑きくず寄るな わし寄る児し》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二一七)
しび突くと 海人あまともせる 漁火いざりびの にか出でなむ 我が下思したもひ
こ燃える まぐろ漁師の 漁火ィみたい 人知られや 秘めた思いが》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二一八)
 六月十五日】
我がやどの 萩咲きにけり 秋風の 吹かむを待たば いととほみかも
《庭の萩 あわてもんやで もう咲いた 秋の来るのん 待てんてうか》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二一九)
【九月三日】うたげ
この時雨しぐれ いたくな降りそ 我妹子わぎもこに 見せむがために 黄葉もみち採りてむ
時雨しぐれ雨 えろりなや 散る前に あの児に見せる 黄葉もみじ採りたい》
                         ―久米広縄くめのひろつな―(巻十九・四二二二)
青丹あおによし 奈良人見むと 我が背子せこが しめけむ黄葉もみち つちに落ちめやも
《奈良で待つ あの児見せよと 目ぇつけた 広縄あんた黄葉もみじ めった散らんで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二二三)
【十月十六日】さかん秦石竹はだのいわたけに勤務報告出発はなむけ
あしひきの 山の黄葉もみちに しづくあひて 散らむ山道やまぢを 君が越えまく
石竹あんたはん しずくに濡れた 黄葉もみじの 散る山道を 越えて行くんや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二二五)
 翌天平勝宝三年四月十六日】
二上ふたがみの しげに こもりにし その霍公鳥ほととぎす 待てど鳴かず
二上ふたがみの 峰の繁みに こもってる あのほととぎす 鳴きにんがな》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二三九)




家待・越中編(二)(32)雪踏み平(なら)し

2011年04月29日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年8月12日】

あらたしき 年の初めは 弥年いやとしに 雪踏みならし つねかくにもが


書持 の 夢での 歌批評
家持は うたう喜び 感じていた
 そうじゃ 歌は 楽しむもの
 上手うまくなろう
 先人さきひとに 追いつこう
 など と 思うては ならぬのじゃ
 これ こそ 歌が宿しおる心
  と遊ぶ
 これ じゃ これ
 やはり  書持 歌の師じゃ)

天平 勝宝二年(750)暮から 翌年初め
 の日が続く

 十二月】雪の日
この雪の 消残けのこる時に いざ行かな 山たちばなの 実の照るも見む
《この雪が 消えまだらなる 時分とき来たら 橘実たちばな照るん 見に行こかいな》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二二六)

【正月二日】かみ館でのうたげ 時に雪四尺
あらたしき 年の初めは 弥年いやとしに 雪踏みならし つねかくにもが
瑞兆ずいちょうの 雪踏み固め 新年に つどうたげを 毎年したい》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二二九)

【正月三日】すけ内蔵縄麻呂くらのつなまろ館の宴
降る雪を 腰になづみて まゐし しるしもあるか 年のはじめ
《積る雪 腰でき分け 来た甲斐かいが あるうもんや 初春らしな》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二三〇)

積もり し雪を 固め積んで
白いいわおの 彫刻ほりものにして
なで しこ花を 布もて作り
おもむき深く 飾りし庭に

なでしこは 秋咲くものを 君が家の 雪のいはほに 咲けりけるかも
撫子なでしこは 秋に咲くのに この庭の 雪積み岩の 上で咲いとる》
                         ―久米広縄くめのひろつな―(巻十九・四二三一)
雪の山斎しま いはに植ゑたる なでしこは 千世ちよに咲かぬか 君が插頭かざしに
《雪の庭 雪岩ゆきいわ植えた 撫子なでしこは 守殿あんたの髪で ずっと咲くかな》
                         ―遊行女婦蒲生うかれめがもう―(巻十九・四二三二)
うち羽振はぶき とりは鳴くとも かくばかり 降りく雪に 君いまさめやも
《羽ばたいて とりが鳴いても こないにも 雪積ってて 帰れまへんで》
                         ―内蔵縄麻呂くらのつなまろ―(巻十九・四二三三)
鳴くとりは いやしき鳴けど 降る雪の 千重ちへめこそ 我が立ちかてね
とり鳴いた また鳴いたけど 山ほどに 雪積ったで 腰上げられん》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二三四)




家待・越中編(二)(33)雪な踏みそね

2011年04月26日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年8月16日】

大殿おほとのの このもとほりの 雪な踏みそね
  しばしばも 降らぬ雪ぞ

  山のみに  降りし雪ぞ
  ゆめ寄るな 人や な踏みそね 雪は



久米広縄ひろつな殿 聞き及びしに 
 そなた いにしえの歌集めに 執心しゅうしんよし
  どうかな 雪の歌 何か ござらぬか」
家持のうながしに 久米広縄ひろつな
されば と かねて用意の歌 披露に及ぶ

大殿おほとのの このもとほりの 雪な踏みそね
  しばしばも 降らぬ雪ぞ

  山のみに  降りし雪ぞ
  ゆめ寄るな 人や な踏みそね 雪は

《お屋敷の まわりの雪を 踏まんとき
 滅多めったらん 雪やから
 山しからん 雪やから
  そこのお前ら 近づくな 踏んだらあかん その雪を》
                         ―三形沙弥みかたのさみ―(巻十九・四二二七)

ありつつも し給はむぞ 大殿おほとのの このもとほりの 雪な踏みそね
《いつまでも 見よとなされる 雪なんや 御殿ごてんまわりの 雪踏みないな》
                         ―三形沙弥みかたのさみ―(巻十九・四二二八)

「これなん 藤原房前ふささき様 お召により 三形沙弥殿 お読みの歌 伝えたは 笠子君かさのこぎみ殿」

得意説明の ひろつなに 
家持 たわむれかかる
「さすが ひろつな殿
  それでは 『雪』に似た字に『雷』があるが
  これは どうじゃ 広縄殿」
得たり と 広縄
おそれ多くも その昔 聖武みがどに奉りし 
 犬養命婦みょうぶ(橘三千代)様の御歌」

天雲あまくもを ほろに踏みあだし 鳴神なるかみも 今日けふまさりて かしこけめやも
蹴散けちらして 雲粉々こなごなにする かみなりも 今日の畏怖おそれに 勝つこと出来できん》
                         ―縣犬養三千代あがたいぬかいのみちよ―(巻十九・四二三五)

 では 私めも」
と 遊行女婦うかれめ蒲生がもうも 続ける

天地あめつちの 神は無かれや うつくしき 我が妻さかる 光る神 鳴りはた娘子をとめ たづさはり 共にあらむと 思ひしに こころたがひぬ 
《この天地 神さんほんま らんのか あいらし妻は 死んで仕舞た 光る娘子おとめの 可愛かわい児と 手ぇたずさえて 生きてこと おもてたのんに ごて仕舞た》
言はむすべ すべ知らに 木綿ゆふたすき 肩に取りけ 倭文しつぬさを 手に取り持ちて なけそと 我れは祈れど きて寝し 妹が手本たもとは 雲にたなびく
《言うもるんも からんで 木綿もめんたすきを 肩掛けて 倭文しつぬのぬさ 手に持って ってれなと 祈ったが 手枕てまくら巻いて 共寝た妻は 雲になびいて って仕舞た》
                         ―作者未詳さくしやみしょう―(巻十九・四二三六)
うつつにと 思ひてしかも いめのみに 手本巻き寝と 見ればすべなし
《生きてこそ 意味あるのんに ゆめなかで 手枕てまくら共寝ても 甲斐かいないこっちゃ》
                         ―作者未詳さくしやみしょう―(巻十九・四二三七)



家待・越中編(二)(34)越(こし)に五年(いつとせ)

2011年04月22日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年8月19日】

級離しなざかる 越に五年いつとせ 住み住みて
             立ち別れまく 惜しきよひかも




天平 勝宝三年(751)七月十七日
さくねんらいの び家持に
少納言 昇進 転任の報が届く

 長い 勤めであった
  都へ 京へと 思い過ごせし日々
  しかし いざ決まってみると
 妙に こし生活くらし 懐かしい
  心許しの友が 支えじゃった
 そう云えば 久米広縄ひろつな 租税報告に上京中
  逢えぬが 心残りじゃ
 そうそう これは 二月の出掛けどきの歌)

君がき もしひさにあらば 梅柳 たれとともにか 我がかづらかむ
《行って仕舞て なごうなったら わし誰と 梅と柳で かずらするんや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二三八)

 せめてもの 挨拶歌 残してやらねば)

あらたまの 年の長く あひてし その心引こころびき 忘らえめやも
年月としつきの なごう同じに つかえした 心くしを わし忘れんで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二四八)
石瀬野いはせのに 秋萩しのぎ 馬めて 初鷹狩とがりだに せずや別れむ
石瀬野いわせのへ 萩みしだき 馬並べ 一遍鷹狩かりに 行きたかったな》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二四九)

いよいよ  出発の日
内蔵縄麻呂くらのつなまろ屋敷での 別れのおおやけうたげ
家持  
帰りたく もあり 帰りたくも無しの心

級離しなざかる 越に五年いつとせ 住み住みて 立ち別れまく 惜しきよひかも
《こここしに 五年の年を 過ごしたな 今宵限りや 名残なごりが惜しな》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二五〇)

皆々 見送り途上 射水郡いみずのこおり郡司ぐんじ 屋敷前にて 待ち受けの餞別はなむけ

玉桙たまほこの 道に出で立ち 行く我れは 君が事跡こととを ひてし行かむ
《別れ道 都へ帰る このわしは みなの働き 伝えて来るぞ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二五一)

別れにと立ち寄りし 越前じょう 池主の館
なんと 偶々たまたま 帰路の久米広縄ひろつなが 居合わす
三人の 飲楽うたげ 久方話ひさかたばなしに 花が咲く

君が家に 植ゑたる萩の 初花はつはなを 折りて插頭かざさな 旅別るどち
池主あんた庭 植えた秋萩 初花はつはなを 折って髪挿かざそや 別れの友よ》
                         ―久米広縄くめのひろつな―(巻十九・四二五二)
立ちて居て 待てど待ちかね 出でてし 君に此処ここに逢ひ 插頭かざしつる萩
《待ちに待ち 待ち草臥くたびれて 出てきたが ここで逢えたな さあ萩插頭かざそ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二五三)

心残り消え 晴々ごころの家持 京へと急ぐ