犬養万葉今昔―犬養孝先生著「万葉の旅」を訪ねて

犬養孝先生名著「万葉の旅」記載の万葉故地309箇所を訪ね、先生が撮られれたのと同じ場所に立った写真撮影を目指す紀行。

■日めくり万葉集Vol・2(016)玉梓の

2011年05月28日 | 日めくり万葉集
NHK教育TVで「日めくり万葉集」第2弾が始まりました。
平日の午前中ということで 勤めの方は 見る機会に恵まれません。
また 見落とされた方も 居られるやも知れません。
そこで ここで取り上げて 訳し・「みじかものがたり」を 掲載したく思います。
ご覧下さい。

【四月十八日】放映分

玉梓たまづさの 妹は玉かも あしひきの 清き山辺やまへに けば散りぬる
 《あぁあの児 玉やったんか 灰にして 山でいたら 散って仕舞しもたで》
                          作者未詳―(巻七・一四一五)


【万葉歌みじかものがたり】背向そがひしく》

生きてりゃこそ 仲うできる
後で悔やむは 甲斐なき仕業しわざ
玉はくだける 花散り枯れる
独り明ける まんじり無しに

さきはひの いかなる人か 黒髪の 白くなるまで 妹が声を聞く
《どんなにか しあわせやろな 黒い髪 しろ成るまでも 妹声こえ聞ける人》
                          作者未詳―(巻七・一四一一)
我が背子を 何処いづちかめと さき竹の 背向そがひしく 今し悔しも
《あの人は 何処どこも行かへん 思い込み け寝たん 悔やまれるがな》
                          作者未詳―(巻七・一四一二)
庭つ鳥 かけり尾の 乱れ尾の 長き心も 思ほえぬかも
にわとりの なごうに伸びた ぉみたい のんびり気持ち うち、、ようならん》
                          作者未詳―(巻七・一四一三)
薦枕こもまくら あひきし子も あらばこそ くらくも しみせめ
薦枕こもまくら して寝たあの児 るんなら よるけるん し思うのに》
                          作者未詳―(巻七・一四一四)
玉梓たまづさの 妹は玉かも あしひきの 清き山辺やまへに けば散りぬる
《あぁあの児 玉やったんか 灰にして 山でいたら 散って仕舞しもたで》
                          作者未詳―(巻七・一四一五)
玉梓たまづさの 妹は花かも あしひきの この山蔭やまかげに けばせぬる
《あぁあの児 花やったんか 灰にして 山でいたら 消えて仕舞しもたで》
                          作者未詳―(巻七・一四一六)
名児なごの海を 朝漕ぎ来れば 海中わたなかに 鹿子かこぞ鳴くなる あはれその鹿子かこ
名児なご海を 朝漕いでくと 海の上 鹿鳴いとるで あぁあの昔鹿しか
                       (遠い昔に 死んで仕舞たんや)》
                          作者未詳―(巻七・一四一七)

    昔の鹿のものがたり】
     昔刀我野とがのに 棲むつがい鹿しか
     牡鹿おじか通うよ 淡路の野島
     待つは年若 側妻そばめ雌鹿めじか
     ある夜夢見た 牡鹿おじかが問うた
     「背中せなに雪積み すすきが生えた」
     聞いたつま鹿じか うらのて答う
     「すすき生えるは 射られし矢ぞよ
      雪の積もるは 塩漬け運命さだめ
       海を渡れば 漁師に射られ
      塩漬け肉に されるが前兆しるし
     妻鹿つまいさめに 聞く耳持たず
     おじ鹿野島へ 海へと渡る
     待つは釣船 矢つがえ漁師
     夜明け静寂しじまに 鹿子かこ鳴く声が
           摂津国風土記逸文より)


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■日めくり万葉集Vol・2(015)常人の

2011年05月25日 | 日めくり万葉集
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【四月十五日】放映分

常人つねひとの 恋ふといふよりは あまりにて 我れは死ぬべく なりにたらずや
  恋しさは 普通のもんと 違うんや この恋しさは 死んでまうほど》
                          大伴坂上郎女―〈巻十八・四〇八〇〉


【万葉歌みじかものがたり】斎瓮いわいべ据ゑつ》
天平 十八年〈746〉
家持に 越中のかみの任が下った
政界で重きをすには 
地方 での長官修行が習いだ
遅すぎたきらいはあるものの
坂上郎女いらつめの 中央への働きかけが 功を奏したか

 を都に置いての赴任
家持への 家としての面目めんぼく
一人旅の娘婿への 憂慮ゆうりょが胸をよぎる 

草枕 旅行く君を さきくあれと 斎瓮いはひべゑつ とこ
《赴任旅 どうか無事でと とこに 陰膳かげぜんえて 祈っておるで》
今のごと  恋しく君が 思ほえば いかにかもせむ するすべのなさ
 今更の ようにあんたが 思われる どしたらえんか わからへんがな》
旅ににし 君しもぎて いめに見ゆ が片恋の 繁ければかも
《旅った あんたしょっちゅう 夢に見る 一人思いが 激しいからか》
道のなか 国つ御神みかみは 旅行きも らぬ君を 恵みたまはな
 越中の 国の神さん 守ってや この子あんまり 旅知らんから》
                          大伴坂上郎女―〈巻十七・三九二七~三〇〉

赴任後の 家刀自いえとじの 気遣い 越の地迄追う
常人つねひとの 恋ふといふよりは あまりにて 我れは死ぬべく なりにたらずや
 恋しさは 普通のもんと 違うんや この恋しさは 死んでまうほど》 
片思かたおもひを 馬にふつまに おほて 越辺こしべらば 人かたはむかも
 この思い 馬の背中に 全部乗せ 送れば誰ぞ 知ってくれるか》
                          大伴坂上郎女―〈巻十八・四〇八〇~一〉

心配り の 嬉しさ
家持 も おどけ応える
天離あまざかる ひなやっこに 天人あめひとし かく恋すらば 生けるしるしあり
《越にる わしをこんなに 恋慕う 天女おるんや 嬉しいかぎり》
常のこひ いまだまぬに みやこより 馬に恋ば になへむかも
 恋心 募ってるのに 更にまた 馬の恋荷で 潰れてしまう》
                          大伴家持―〈巻十八・四〇八二~三〉

あかときに 名告なのり鳴くなる 霍公鳥ほととぎす いやめづらしく 思ほゆるかも
《朝やでと うて鳴いてた ホトトギス 常より一層 うるわし思う》 
                          大伴家持―〈巻十八・四〇八四〉
郎女 の心を察し 
なん とは無しの歌をも添える 家持の優しさ


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■日めくり万葉集Vol・2(014)玉垂の

2011年05月21日 | 日めくり万葉集
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【四月十四日】放映分

玉垂たまだれの 小簾をすのすけきに かよ
  垂乳根たらちねの 母がはさば 風とまをさむ

《このすだれ 隙間すきま通って かよといでやな
  音しても おかあいたら 風やてうわ》
                          作者未詳―(巻十一・二三六四)



【万葉歌みじかものがたり】《母がはさば》
としごろむすめ かかえるおや
下手 な虫なぞ 寄らしてなるか
厳重げんじゅう監視みはり 怠りなしに
日毎ひごと夜毎よごとの 警戒しき

当の娘は えを迎え
親の目ぬすみ 男と出来る
忍ぶ 男の 足音聞いて
娘どきどき おや目をらす

垂乳根たらちねの 母にさはらば いたづらに いましれも 事のなるべき
《おはんに 邪魔されたなら あんたうち 二人の仲は 台無しなるで》【正述心緒】
                          作者未詳―(巻十一・二五一七)
  
垂乳根たらちねの 母にまをさば 君もれも 逢ふとはなしに 年ぞぬべき
かあちゃんに うて仕舞しもたら 二人とも もうわれんで これからずっと》【正述心緒】
                          作者未詳―(巻十一・二五五七)
  
そかれと 問はば答へむ すべをなみ 君が使つかひを 帰しつるかも
だれやんと 聞かれ返事が へんで あんたの使つかい 帰して仕舞しもた》【正述心緒】
                          作者未詳―(巻十一・二五四五)
  
荒熊あらくまの むといふ山の 師歯迫山しはせやま めて問ふとも が名は告らじ
《おはんが なんぼうちめ んねても うもんかいな あんたの名前》【寄物陳思】
                          作者未詳―(巻十一・二六九六)
                         (め)

れぞこの が宿呼ぶ垂乳根たらちねの 母にころはえ ものれを
《おはんに しかめられ 沈むのに 誰やほんまに 家来て呼ぶん》【正述心緒】
                          作者未詳―(巻十一・二五二七)
  
 旋頭歌】
玉垂たまだれの 小簾をすのすけきに かよ
垂乳根たらちねの 母がはさば 風とまをさむ

《このすだれ 隙間すきま通って かよといでやな
 音しても おかあいたら 風やてうわ》
                          作者未詳―(巻十一・二三六四)
  
玉垂たまだれの 小簾をす垂簾たれすを 行きかちに さずとも 君はかよはせ
ととかか 間にすだれ らすから とも出来んが りんとかよて》【正述心緒】
                          作者未詳―(巻十一・二五五六)
  
奥山の 真木まきいたを 押し開き しゑやね のちは何せむ
《がっしりの 板戸バアンと 押し開けて 出てあとは どうでもなるで》【正述心緒】
                          作者未詳―(巻十一・二五一九)


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■日めくり万葉集Vol・2(013)春の苑

2011年05月18日 | 日めくり万葉集
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【四月十三日】放映分

春のその くれなゐにほふ 桃の花 したる道に 出で立つ娘子をとめ

 《はるそので あこうにえる 桃の花 その下道したみちに 立つ乙女児おとめごよ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一三九〕



【万葉歌みじかものがたり】したる道に》
こしは 四年目の春を 迎えた
天平 勝宝二年〔750〕
思えば 
やみせの春 
大黒おおくろ」・池主・長歌失くしの春
池主諫言かんげんにより 一年の歌停止ちょうじかれたは 
昨年 の春であった

 今年の春の 穏やかなこと
 なん と 心躍る 春であることか〕

春 三月を迎え 短日たんじつの連作
その 歌は 新しい気に満ち
どこか みやこ風心ふぜいただよ
大嬢おおいらつめが 運んでしか

【三月一日 暮れ】春の苑のももすももの花見て 二首
春のその くれなゐにほふ 桃の花 したる道に 出で立つ娘子をとめ
はるそので あこうにえる 桃の花 その下道したみちに 立つ乙女児おとめごよ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一三九〕
我が苑の すももの花か 庭にる はだれのいまだ 残りたるかも
《庭散るは すもも落花はなか っとった 雪がまだらに 残っとるんか》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一四〇〕

【  〃  夜】飛びかけしぎを見て
けて ものがなしきに さ夜けて 羽振はぶき鳴くしぎ が田にか
《春なって 物憂ものうよるに 羽ばたいて 鳴いてるしぎは 何処どこの田やろか》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一四一〕

 三月二日】柳を折取り 都偲んで
春の日に れる柳を 取り持ちて 見れば都の 大路おほぢし思ほゆ
《春の日に 芽吹く柳を 眺めたら 奈良の大路おおじの 柳なつかかし》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一四二〕

【 〃 】堅香子草かたかごを折取りて
物部もののふの 八十やそ娘子をとめらが まがふ 寺井てらゐうへの 堅香子かたかごの花
《乙女らが 多数よけ集まって 水を汲む 湧水わきみず場所に 咲く堅香子かたかごよ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一四三〕

  〃 】帰る雁を見て 二首
つばめ来る 時になりぬと 雁がねは 本郷くにしのひつつ 雲がくり鳴く
つばめ来る 季節なったと 雁の奴 故郷くにしのんで 雲なか鳴くよ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一四四〕
けて かく帰るとも 秋風に 黄葉もみちの山を 越えざらめや
《春になり 帰って仕舞ても 秋風の 黄葉もみじの山を 越えまた来るで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一四五〕


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■日めくり万葉集Vol・2(012)たまきはる

2011年05月11日 | 日めくり万葉集
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【四月十二日】放映分

たまきはる いのちむかひ 恋ひむゆは 君がみ船の 楫柄かじからにもが

《死にそうな 思いをしつつ がるより あんたの船の 梶になりたい》
                         ―笠金村―〔巻八・一四五五〕 



【万葉歌みじかものがたり】《はや還りませ》
天平五年〔733〕春うるう三月
ここ 難波なにわ 三津の浜は 人であふれていた
遣唐使船が  集結している
ざわめきの中 大使 丹比真人広成たじひのまひとひろなりの手を握るは 笠金村かさのかなむら 無事な航海を祈っての 見送りだ

玉襷たまだすき 懸けぬ時無く いきに わがふ君は 
うつせみの 世の人なれば 大君おほきみの みことかしこみ
 
一時いっときも 忘れもせんと 気に懸けて わしが大事や 思うひと
 人の世つとめ 果たすため 天皇おおきみさんの めい受けて》
夕されば たづが妻呼ぶ 難波潟なにはがた 三津みつさきより 
大船に 真楫繁貫まかじしじぬき 白波の 高き 荒海あるみを 島伝ひ い別れ行かば
 
《難波のかたの 三津の崎
 梶いっぱいの 大船で 波の立ってる 荒海あらうみの 島を伝うて 出かけらる》
とどまれる われはぬさ引き いはひつつ 君をば待たむ はや還りませ
《後に残った このわしは 向けのぬさを まつりして 待ってるよって 早よ帰ってや》
                         ―笠金村―〔巻八・一四五三〕 
波のうへゆ 見ゆる小島こしまの 雲隠り あな息づかし 相別れなば
《波しの 小島を雲が 隠すよに あんたと別れ 溜息ためいきでるよ》
                         ―笠金村―〔巻八・一四五四〕 
たまきはる いのちむかひ 恋ひむゆは 君がみ船の 楫柄かじからにもが
《死にそうな 思いをしつつ がるより あんたの船の 梶になりたい》
                         ―笠金村―〔巻八・一四五五〕 

見送り喧噪けんそうの中
急ぎ作りの歌を 広成ひろなりに託す人がいた
独り息子を  伴の一員として差し出す 母親

秋萩あきはぎを 妻問つまど鹿こそ 独子ひとりごに 子持てりといへ 
鹿児かこじもの わが独子の 草枕 旅にし行けば
 
《秋の萩 妻にしたいと 鳴く鹿は ひと小鹿  持つという
 その鹿みたい 独り子の うちの子供が 旅に行く》 
竹珠たかだまを しじにり 斎瓮いはひべに 木綿ゆふ取りでて 
いはひつつ わが吾子わがこ 真幸まさきくありこそ

たけたまいっぱい 刺しいて 神まつつぼ ぬさ垂らし
 み慎んで うちの子が 無事であってと 祈りする》
                         ―作者未詳―〔巻九・一七九〇〕 
旅人たびびとの 宿りせむ野に 霜降しもふらば わが子羽ぐくめ あめ鶴群たづむら
《宿る野に 霜が降ったら 天の鶴 羽根を広げて うちの子かばえ》
                         ―作者未詳―〔巻九・一七九一〕 

それぞれの  思いを乗せ 船は一路 西へ


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■日めくり万葉集Vol・2(011)うつせみの

2011年05月07日 | 日めくり万葉集
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【四月十一日】放映分

うつせみの 命を惜しみ 浪にぬれ 伊良虞いらごの島の 玉藻刈り

  《仕様しょうなしに 伊良湖の島で 波に濡れ 藻ぉうんは 死にとないから》
                         ―麻続王をみのおほきみ―(巻一・二四


【万葉歌みじかものがたり】《伊良虞の島の》
「お前さま 一人者ひとりものかい 自分で 藻刈もかりなど 召使めしつかいにでも させれば いものを」
「よしなよ あの人は 何も 答えなさらん 都のながされびと らしい」
夕日が 伊勢の海の方に 沈む 
浜を 引き上げる 海女あまの影は 小さくなる
背を伸ばし おぼろな目で 神島を見ている 麻続王おみのおおきみ
「口は わざわいの元・・・」

あれは 壬申のいくさ三年みとせ後 であったろうか
大友皇子の子 葛野王かどののおうを お見かけし 思わず『こんな 幼気いたいけない子が 苦労するとは』と つぶやいてしまった
それが 天武天皇すめらみことの耳へと入り 流罪
雪深い 因幡いなばであった
因幡は よかった 
国庁があり 役所勤めに 友がいた 
不自由ではあったが 食うには困らなかった 
すぐにでも 許されて と思っていたが 配流はいる
常陸ひたちの 板来いたこ
潮風の 強いところであったが 
なんと言っても 鹿島神宮さまのお膝もと 豊かな土地柄とあって なに不自由ない 暮らしであった 
親しくなった 神官に 流罪の経緯いきさつを聞かれ
葛野王かどののおうが 可哀相と 言っただけじゃ』
と らしてしまった・・・

ここ 伊良虞いらごは なにもない
るのは 田作たづくり民と 網人あみひと海女あま
地は痩せ ロクな作物さくもつは取れない
外海そとうみだけに りょうもままならない
あるのは 打ち寄せる 藻だけ 
これを るしかないのだ

いまでは ならいとなった 苫屋とまやでの寝起き
これだけはと 身につけている 筆を取る 
(今日の 海女あまの声 歌にするか)
打つを 麻続王をみのおほきみ 海人あまとなれや 伊良虞いらごの島の 玉藻たまもります
粗末衣ぼろ着てる 麻続王おみのおおきみ 漁師あまやろか 伊良湖の岸で ってはる》
                         ―麻続王をみのおほきみを見た人―(巻一・二三)
(答えて やらねば なあ) 
うつせみの 命を惜しみ 浪にぬれ 伊良虞いらごの島の 玉藻刈り
仕様しょうなしに 伊良湖の島で 波に濡れ 藻ぉうんは 死にとないから》
                             ―麻続王をみのおほきみ―(巻一・二四)

しかし 伊良虞は いところだ
なにしろ 温かい 
天気も それに 人も・・・ 


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■日めくり万葉集Vol・2(010)うらうらに

2011年05月04日 | 日めくり万葉集
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【四月八日】放映分

うらうらに 照れる春日はるひに 雲雀ひばり上がり こころかなしも ひとりし思へば

  《日ぃうらら 雲雀ひばりさえずる 春やのに 心はずまん 種々いろいろ思うと》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二九二)

【万葉歌みじかものがたり】こころかなしも》
どき 花どき
あたたかさ増す 風は
 の心を 浮き立たせる
しかし  また
淀む霞は だるさ呼び
物思い  深める

(雪の内裏だいり
 あの快活かいかつ歌は キリとした 寒さ故か
  越の春
 身引き締まる寒さ 宿やどしていた
  都の春
 この 物憂ものう
  昔も こうであったろうか)

付き合いづよくなったと 思う家持
我慢 虚勢きょせいの歌詠みが
知らずと こころむしばみを 呼んでいた

一番の 気りは 仲麻呂様うたげ
にらまれせぬかの 警戒ごころ
次いでは 奈良麻呂殿うたげ
誘いこまれせぬかの 用心ごころ
橘諸兄もろえうたげは 気は許せるものの
度重たびかさねは 誰の目が光るやもの 気遣いごころ
かと言って 友同士うたげ 
心寄せ いずれかにの 猜疑さいぎごころ

春の野に 霞たなびき うら悲し このゆふかげに うぐひす鳴くも
《春の野に 霞なびいて 鶯の 声よいや 沈む心に》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二九〇)

我がやどの いささむら竹 吹く風の 音のかそけき このゆふへかも
《庭の小藪やぶ 風おとう 吹き抜ける この夕暮れの さみしさ何や》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二九一)
                                    二月二十三日】

うらうらに 照れる春日はるひに 雲雀ひばり上がり こころかなしも ひとりし思へば
《日ぃうらら 雲雀ひばりさえずる 春やのに 心はずまん 種々いろいろ思うと》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二九二)
                                    二月二十五日】

沈み心  そのままを詠み
さら なる底に 沈み込む
しかるのち
声殺しの こころうち吟じが
うつさんじ となる
気付かずがまま 家持は会得えとくしていた


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