夏目亭

うちの近くの喫茶店トンボロのことは
何回かブログに登場させました
　　　　　　　　　　

店の前には時々折りたたみのテーブルが出されますが
使っている人は見たことがありません

ある日そこに腰掛けて喫煙中の
白衣のコックコートの男性がいました

通り過ぎてから
どこかで見たことのある顔だと思いました
そういえば神楽坂にまた夏目亭ができたと聞いたような
コックコートを着ていなかったら誰だか気付かなかったでしょう

あなたを知っていますよ
心はそう言いたいのに面と向かってそんな言葉はかけられない
ただそれだけのことだから

ほんの数日前チエコさんに
話しかけたいのに言葉がみつからないので話しかけられない人のことを告げると
「中身はなんでもいいのよ
　人生はコミュニケーション
　言葉をかける
　その動作に意味があるんだから
　日本人はとくに自分からはしかけないけど
　あなたも私も自分のうちに人を呼んだり
　しかける人種でしょ
　どんどんやらなくちゃ」
と言われたばかりだ

ここまで考えているうちに家に着いた
でもやっぱり話しかけよう

トンボロまで戻って
男性に声をかけた
「夏目さんですか
　三番町の頃にお店に行きました」
「ああ、夏目です。
　今度神楽坂にお店を出しました」

夏目さんが三番町でお店をやっていたのは
四十年も前のことである
今七十にして新たに店を出すパワー
三番町の店は当時まだなかなかないフランスの味と言われ
加賀まりこ推薦の店と聞いて私は飛んで行ったのだった

「あの頃のお客さんが今もいらしてくださる
　芸者新道で昼もやってますからどうぞ」

芸者新道は
　　　　　　　　　　
神楽坂の中でも
　　　　　　　　　　
ほんとに芸者さんがよく通る
本多横丁のさらに奥

一人で行く勇気がないので
誰かと行ったらまたご報告します