はぎわら_m の部屋
社会・時事批評、オピニオン、初等物理の気まぐれ考究、物理教育放談

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原油(WTI)価格は、第一次オイルショック以前は2~3ドル/バレル、90年代には20ドル/バレル程度で安定していた。ところが、2003-4年ぐらいから高騰が始まり、2007年から上昇を急加速させて、今では130-140ドルにまで達している。
WTIの長期データ 1946-2008/NightWalker's Investment Blog

特にここ数年の高騰では、枯渇の影響が取りざたされたわけでも、産出コストが跳ね上がったわけでも、供給能力の不足が生じているわけでもないのに、一気に倍以上の値をつけるに至っている。この異常事態は、資本主義国の投機マネーが流入し、先高予想を増幅・加速させた結果であるとしか理解のしようがない。

結果として、産油国には従来の何倍もの利益金が進呈され、消費国では関連物価の上昇による生活苦が生じる。投機型の資本主義が、どれほど愚かなものであるか、、本当にありありと分かる。

投機を左右するのは、実は、実体的な需給の分析結果というよりは「口実」であることをご存知だろうか。「地政学的リスク」という(分かったような分からないような)口実が成り立つ限り、売りは危険で買い安心という構図になる。構図ができれば、相場は、流れにつくのが鉄則であるから、高騰のポジティブフィードバックから抜けられなくなる。--破綻するまで。

実は、原油高騰問題に対して、サミットで為すべきことは一つだった。ブッシュ大統領が、「中東の諸問題については、武力による解決策をとるべきでない.」と発言する一手だった。別に、大した行動は伴わなくてもいい。対中東政策の基調が変わったというメッセージだけで十分だ。(もちろん、「イラクへの軍事介入は間違いでした.ごめんなさい.」と言えば完璧だが、それは無理な相談だろう.)もし、日本の首相がブッシュ大統領を説得しこの発言を導きだせたなら、原油高騰は鎮静化に向かう可能性が高いし、さらに、日本は議長国として(歴史に名を残すほどに)世界から尊敬されたことと思う。

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少し古いが、原油価格を決める要因を見やすく整理・解説したサイト:
原油価格高騰を考える/(財)和歌山社会経済研究所

目下の原油価格の動きを見るのに適したチャート:
NY原油チャート/堂島相場道場

また、わずか10年ほど前の田中宇氏の記事:(現状との対比が鮮烈なのでリンクしておく)
産油国の金庫は空っぽ - 政治不安呼ぶ原油安/田中宇


〔関連トピックス〕
最近の原油のピーク価格144ドルを、何と、オサマ・ビン・ラディンが予言していた。
暗いニュースリンク: オサマ・ビン・ラディン、目標の一部を達成


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〔追記〕
また、最近の池田信夫氏のブログに、原油価格の上昇は悪いニュースか なる記事を見つけたが、、その中の記述:「先物相場によって現物価格が上がることはありえない.(旨)」は全くの誤り。もし、先物が現物より十分高値になっているときには、現物を安値で売り急ぐ人が減って(いわゆる売り惜しみ)、現物価格が上がっていく。もちろん、先物当限(現物受け渡しがあり得る)は現物とほぼ同価格で売買されることとなる。先物は一種の先を見越した市場の人気の現れであり、突発的な状況変化が起きない限り、現物-先物の価格は常に連動・相関する。現物と先物のどちらがどちらを動かすというのでなく、先行きの見込みを巻き込んだ形で相互連動的に変動する。立会で価格を決めるとはこういうことだ。基本中の基本。

〔追記2〕
実は、ここ数日原油価格は急落しており、「ついに原油相場バブルの破裂か?」ともささやかれている(中国新聞ニュース)。本稿は、その直前に書きかけたものであるが、言いたいことの基本は変わらないので、あえて予定どおりの文章として掲載した。いずれにしても、当面、原油価格から目が離せない。

〔追記3〕
この原油高騰の原因は、結局何だったのか。一行で模式説明すれば、、以下のようなことだと思う。

[ブッシュ政権による上げ口実の提供]+[信用取引(カラ売買)資金の過剰拡大]
=[本来数十年スパンぐらいの上げ変動を4年に縮めて実現させた]

信用取引は、現物価格の自然な変動の方向性をひっくり返すということまでは為さない。しかし、信用取引は「せり」の効果を極限までに発揮させる役割を果たす。互いに顔を知る需給関係者どうしの取引なら、「とりあえず前月と同じ水準でよろしく、、」という人間的な要素が入る余地がある。しかし、信用取引では、現物に触れたこともないような各国の投資家が、純粋に差益だけを求めて、巨額の資金で売買をしかけてくる。そこでは、「上げる可能性が高いならばそれより安くは売らない、、」という冷徹な判断以外は一切入らない。少しでもアンバランスな変動要因があるならば、僅かな動きに対してくさびを打ち込むような効果を発揮し、変化の方向を決定づけ、変動幅を拡大させてしまう。さらにまた、原油は天然の貯蔵庫に入っていて、早く売りさばく必要はなく、値崩れしないようなぎりぎりの産油ペースを保ちやすいという特質も効く。産油国が功利に徹するならば、投機による高騰の効果を最大限利益に結びつけるように行動できる。

このようなことを考えれば、ブッシュ政権のように一方的な上げ口実をつくり、中東産油国との関係を緊張させるような国際政策を採ってしまえば、原油価格の高騰が加速度的に前倒しされてしまう結果は当然のこととも言えるのだ。

ビン・ラディンの推定は恐ろしいほど鋭い。さすがに144ドルを超えるまでになれば、需要構造にも相当の揺さぶりが入り始める、、と市場が考えるだろうから、、それ以上一方的に上げるのは難しかろう、、という予想(とラディン自身が考えたかどうかは知らないが.)。さて、今後の価格推移は如何に、、

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