文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

書評:イノベーション戦略の論理 - 確率の経営とは何か

2014-12-13 11:42:02 | 書評:ビジネス
イノベーション戦略の論理 - 確率の経営とは何か (中公新書)
クリエーター情報なし
中央公論新社


 イノベーションを成功させるための論理は、米国流のコーポレート・ガバナンス論ではなく、「イノベーション確率最大化基準」によるべしと説く、「イノベーション戦略の論理 - 確率の経営とは何か」(原田勉:中公新書)。

 本書は、イノベーションの成功確率は、Q(n,p)=1-(1-p)^n (n:試行回数、p;各試行の成功確率、^:階乗を表す)で表されるのだから、nかpの値を大きくすれば、イノベーションの成功確率は上がると説く。この式自体は、自明なものだが、実際にこれを経営に活かそうとすると色々な点で行き詰る。

 まず各試行の成功確率pをどうやって求めるのだろうということだ。そもそも、何か新しいことをやるからイノベーションなのであって、初めからpが分かるようなものなら、そんなものはイノベーションではない。著者は、<pがナイト流不確実性を反映していて確率計算できなかったとしても、何ら大きな問題は発生しない>(p47)と書いているが、それでは、計算できない数式を持ちだす事に、いったいどんな意味があるのか。

 また、<もともと大数の法則が成立しないイノベーションという現象を、類似した試行、プロジェクトを複数回試みることによって、ナイト流不確実性を客観性の高いリスクへと近似的にも翻訳する事が可能になるのである>(p46)とあるが、これはひとつのモデリングに過ぎない。そのモデルが、実際の現象に当てはまるかどうかは、きちんとした検証が必要だ。

 さらに、nを大きくするにしても、一般に企業の予算はそれほど潤沢ではない。本書中には、「大数の法則」なる言葉がよく使われているが、それが成り立つ程、多くの試行ができる企業なんて、どこにもありはしないのだ。

 そして、企業家が目指すのは、イノベーション確率を最大化する事ではない。イノベーションによって生み出される利益を最大化することだ。いくらイノベーションが成功しても、赤字になってしまっては本末転倒なのである。

 そもそもイノベーションと言うのは、新しいビジネスモデルを作ったり、画期的な製品を開発したり、生産工程を大幅に改善したりと、個別具体的なものである。ところが、経済学者たちは、「イノベーション」という抽象的な言葉で、それを十派ひとからげに扱ってしまうことが好きだ。これは<経済学では、生産関数のシフトのことをイノベーションと定義する>(p131)という一言に端的に現れていると言えよう。 しかし、生産関数のシフトは、イノベーションの結果であって、イノベーションそのものではないというのは言うまでもないことだろう。

 本書の内容が、果たして実際に具体的なイノベーションに結びつくかは疑問である。少し読んでは、そのロジックに頭をひねることの連続で、少なくとも私には、この内容を活かしていく事は無理だ。

☆☆

※本記事は、姉妹ブログと同時掲載です。

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JR山口駅

2014-12-12 20:06:12 | 旅行:山口県


 これは、ちょっと前に仕事で降りたJR山口駅。山口駅は、JR山口線の中心駅だ。山口線は、山陽本線の新山口駅(旧小郡駅)と山陰本線の益田駅を結ぶローカル線で、ここから益田まで行く途中に、津和野がある。

 県庁所在地なのに、ローカル線しか通っていなかったためか、昔は山口市は日本一人口の少ない県庁所在地だったのだが、平成の合併で、新幹線の駅のある小郡町といっしょになり、人口も増えて、現在では、1位の座は鳥取市に譲って、下から3番目の位置に甘んじている。




 そして、これが駅前に飾ってある、巨大な大内雛。大内雛は、かって西の京として栄えた大内氏の時代まで遡ることができる民芸品で、そのまるっこいフォルムがとても愛らしい。


 

 これは、駅から少し歩いたところにある、繁華街の入り口。昔はもっと活気があったのだが、少し寂しくなっている。

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牧野大内塗大内人形製作所





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書評:1964年の東京オリンピック開催を情熱で実現した人 フレッド和田勇

2014-12-11 16:46:40 | 書評:小説(その他)
1964年の東京オリンピック開催を情熱で実現した人 フレッド和田勇 (世のため人のため絵本シリーズ1)
クリエーター情報なし
出版文化社


 「世のため人のため絵本シリーズ」の第1巻となる「1964年の東京オリンピック開催を情熱で実現した人 フレッド和田勇」(松岡節/文 さかいしん/絵:出版文化社)。

 若い人は、東京オリンピックと言えば、2020年に開催予定のものを思い浮かべるだろう。しかし、ある年代以上の者になると、1964年に開催された東京オリンピックを懐かしく思い出すものと思う。

 男子体操、レスリングや柔道、そして女子バレーなどでの日本勢の活躍。外国勢も、裸足のアベベのマラソンでの力走、女子体操のチャフラフスカの華麗な演技などは、多くの人の感動を呼んだ。しかし、この東京オリンピック開催の裏で、一人の日系アメリカ人の活躍があったことはあまり知られていないのではないか。

 その人の名は、フレッド和田勇。実業家として成功をおさめたが、家が貧しくて、4歳から9歳まで、和歌山の祖父母の家に預けられたり、太平洋戦争が始まったために、厳しい生活を強いられたりと、大変な苦労も経験している。

 彼は、日本のために、世界各国を巡り、オリンピック招致に尽力した。1964年の東京オリンピックは、和田さんがいなければ幻に終わったかもしれないのだ。まだまだ日本がそれほど豊かではなかった時代。東京オリンピックの開催は、多くの人に夢と希望を与えた。

 通常、和田さんのような人は、伝記では、なかなか取り上げられないだろう。しかし、小さいうちに、このような、世のため人のために働いた人がいたことを知ることは、子供たちの心を豊かにするためには有益に違いない。現代のように、世の中がギスギスしてる時代にこそ、本書のようなものが求められるのではないだろうか。

 また、本書は、絵本ではあるが、文章の方もしっかりしており、使用されている語彙の数も割と多い。絵本でありがちなように、本来漢字で書くべきものを、無理やりにひらがなで記述したりというようなことはもされていないが、漢字には、最初に出て来たときに、ふりがなが振ってあったりするので、何度も読んでいけば、知らず知らずのうちに語彙が増えることも期待できるだろう。一人で読むのなら、小学校中学年くらいが良いと思うが、低学年でも、お父さんお母さんといっしょに読めば大丈夫だろう。

☆☆☆☆

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書評:愛の裏側は闇(3)

2014-12-09 19:47:32 | 書評:小説(その他)
愛の裏側は闇(3)
クリエーター情報なし
東京創元社


 政治的、宗教的に混乱を極めるシリアを舞台にした、現代のロミオとジュリエットの物語、「愛の裏側は闇」(ラフィク・シャミ/酒寄進一:東京創元社)の完結編。

 前巻では、修道院に入れられたファリードの受難を中心に描かれていた。神の使途を養成するはずの修道院は、閉ざされた空間の中の虚飾と欺瞞、対立と暴力が支配する世界だった。母クレアにより、修道院から救い出されたファリードだが、この3巻でも、彼の受難は続く。

 政治犯として、収容所に入れられ、釈放されて教師になるも、校長と衝突して、国境近くの戦闘地区に飛ばされる。そして、再び、収容所での囚われの生活。そこは、拷問と虐待がはびこる場所。特に、新しい所長が着任してからは、ファリードにとっては、この世の地獄。殺されるのを待つだけの毎日。驚いたことに、こんなところにも、ムシュターク家とシャヒーン家の因縁が絡んでいたのである。一方、ラナーにも受難が降りかかる。家族の企みにより、いとこのラーミに犯され、無理やり結婚させられてしまった。精神に変調をきたしたラナーは、精神病院に入れられてしまうのだ。

 ファリードの家族とラナーの家族の態度が正反対なのがすごい。ファリードが地獄の収容所から生きて帰れたのは、彼の両親が手を回してくれたためだし、母親のクレアは、昔から彼とラナーの理解者であった。父親のエリアスとは、昔は必ずしも上手く行っていなかったが、今はファリードを助けるためなら何でもするような勢いだ。しかし、ラナーの家族は、彼女を不幸させるようなことしかしてこなかった。一体、何のための家族か。

 二人の物語の結末は、第1巻から予想されたような最悪のシナリオではなかったことには安堵した。ファリードが、彼を逮捕しようとする、マフディの裏をかいたこと、ラナーが最後にラーミに最高の仕返しをしたことは、全体に陰鬱なトーンで流れるこの作品において、初めて胸がすくような思いを味わせてくれる。

☆☆☆☆

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書評:速読日本一が教える 1日10分速読トレーニング

2014-12-08 21:34:22 | 書評:ビジネス
速読日本一が教える 1日10分速読トレーニング
クリエーター情報なし
日本能率協会マネジメントセンター


 目の前の、嫌になるほどの積読の山。なんとか少しでも低くしたいと思うのだが、高くなる一方である。読書好きの方で、同じ悩みを抱える方は多いだろう。そんなあなたの心の拠り所となりそうなのが、「速読日本一が教える 1日10分速読トレーニング」(角田和将:日本能率協会マネジメントセンター)である。

 世の中には、多くの速読に関する指南書が存在している。私もかなり読んできたが、書かれてあることはほぼ共通しているようだ。目線を速く動かし、視野を広げ、認識力を高め、右脳を活用する、といったようなことである。本書も基本的にはこの路線を踏襲している。

 実は私も、本を読むのはそれほど遅くはない。一般のビジネス書のように、中身がスカスカのものだと、見開きで数秒で読むことができる。しかし、これが小説(ものにもよるが)だったり、専門書だったりすると、どんどん読む速度が落ちてくる。それは、認識して理解するというところで、どうしても時間を取られてしまうからだ。

 おそらく、これは、速読以前の問題なのだろう。例えば、物理学の知識の無い速読名人に、相対性理論の専門書(数式でいっぱいのやつ)を速読してみろと言っても、まずできないだろうと思うからだ。だから、実は速読で理解できる内容というのは、もともとその人が持っている知識・能力で理解できる範囲に限られてくるのだ。

 しかし、本書に記されているようなことは、本を速く読むための基礎技術としては有効だろう。そして、技術を身につけるためには、どうしても地道な訓練が必要だ。一朝一夕に身に着く技術なんてない。本書のタイトルにもあるように、1日10分でいいからトレーニングを続けることが大切なのである。本書には、そのための方法が色々と紹介されている。

 本書が良いのは、速読を目的ではなく、手段と捕えているところだ。本を速く読むことが目的ではない、何のために速読をするかということが大切なのである。全てを速読で片付ける必要もない。じっくりと作品世界を楽しみたいような文学作品や、概念を理解したり、紙とペンで数式を追ったりすることが必要な専門書を読むには速読は向かないだろう。それでも、最初に全体をざっと眺めて頭の中の地図を作るくらいのことには使える。

 やはり、速読が一番向いているのは、いわゆるビジネス書の類である。元々、ビジネス書を読むのは、時間に追われているビジネスマンである。あまり、本を読む習慣が無い人でも、地道にトレーニングを続ければ、ビジネス書なら1日に10冊以上は読めるようになるものと思う(私も、ビジネス書ならそのくらいの自信はある。もっとも、それだけ続けてビジネス本を読むようなモチベーションもないので、やりはしないが)。ビジネス書を読むことが必要な人も、多いことだろう。もっとビジネス書を読みたいあなた。一度試して見ればどうだろうか。

☆☆☆☆

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書評:俺、ツインテールになります。

2014-12-07 16:51:17 | 書評:小説(SF/ファンタジー)
俺、ツインテールになります。 (ガガガ文庫)
クリエーター情報なし
小学館


 最近、深夜アニメを録画しておいて、後で見ることがマイブームになっているが、その中で、最も気に入っているものの一つが、この「俺、ツインテールになります。」(水沢夢/ガガガ文庫)だ。なにしろ、設定のおバカさが半端じゃない。

 表紙イラストの幼女体型のツインテール美少女が主人公のテイルレッド。タイトルに「俺」とあるが、どこかの田舎のお婆さんのように、自分のことを「俺」と呼ぶ、「俺っ娘」と言う訳ではない。その正体は、観束総二という、高校一年生の立派な男子だ。

 この観束総二、ちょっと変わった趣味がある。女の子自身より、そのツインテールの方に魅かれてしまうという、ツインテール大好き少年なのだ。だから、高校生活初日の、部活希望のアンケートに、つい「ツインテール部」なんて訳の分からないことを書いてしまう。

 そんな彼に、異世界から来たトゥアールという美少女が近付いてくる。この世界がアルティメギルという異世界の怪物たちに狙われているというのだ。彼らは人の属性力(エレメーラ)を奪って生きている。属性力といっても、ファンタジーで良くあるような、風属性とか火属性といったような高尚なものではない。リボンだったり人形だったり、貧乳だったり巨乳だったりと、要するに「萌え」属性のことだ。その中で最強の属性が、ツインテール属性という設定なのである。

 なんというアホな設定。アルティメギルは、仮面ライダーに出てくるショッカーの怪人に、「萌え」属性を持たせた「変態さん」を連想すれば、かなり近いのではないかと思う。総二は、トゥアールから渡された空想装甲(テイルギア)により、テイルレッドに変身して、敵と戦うことになるのだが、その変身後の姿が、表紙イラストなのである。つまり、変身すると、ヒーローのはずが、ツインテールのヒロインになってしまうのだ。要するに、主人公が女の子に変身して、変態さんの怪人たちと戦っていくというのが、この作品の基本的な流れである。怪人たちがどんな変態さんなのかというのが、一つの見どころであるのは間違いない。

 もうひとつの見どころは、事あるごとに、総二に迫ってくるトゥアールと、それを阻止しようとする総二の幼馴染の津部愛香のツッコミ。愛香は、総二のことが好きなので、彼が大好きなツインテールにしているのだが、総二が見ているのはツインテールの方ばかり。そんな愛香のトゥアールへのツッコミは、パンチにキック、バックドロップとなかなか過激だ。彼女も、やがてテイルブルーとして、総二と共に闘うことになるのだが、テイルレッドが大人気なのに対して、テイルブルーの方の評判は、なぜか最悪。やはり、凶暴なところが人気が出ない原因なのか。

 トゥアールは、総二の母親にも気に入られていて、いつか息子を男にしてやってねなんて言われている。愛香は、果たして、トゥアールの魔の手?から総二を守りきれるのか。いったいこの3人の関係はどうなっていくのか。そして、アルティメギルは、いったいどんな変態怪人を繰り出してくるのか。度外れたアホらしさによる笑いの連続。とにかく理屈抜きで面白い。

☆☆☆☆☆

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元宇品(宇品島)一周(広島市を歩く135)

2014-12-01 18:27:41 | 旅行:広島県



 もう土曜日のことになるが、天気が良かったので、家族で、元宇品地区を歩いて一周して来た。元宇品地区は、元々は宇品島という小さな島だったのだが、今は陸続きになって、バス便も行き来している。名前の「元宇品」というのは、本来はこの島が宇品地区の名前の由来になっているからだ。

 昔、すぐ近くに住んでいた時には良く散歩がてら歩いて回ったたものだが、久しぶりでとても懐かしい。入口のところは港になっていて、多くの舟が停泊している。




 山の方も、かなり色づき、なかなか綺麗だ。元宇品は、広島市の中心部に近いが、かなりの自然が残っている。しかし、海に近いところには民家も多く、一番端のところには、プリンスホテルも建っている。




 これは、そのプリンスホテルの近くの高台から、海を眺めたところ。大きな船が一艘浮かんでいるのが見える。なんの舟だろうか。




 もう少し行くと、自然の残る海岸線がつづく。ここは、以前自然観察会で来たところだ。しかしこの日は満潮で波もあり、あまり観察ができるような雰囲気ではなかったが。




○関連過去記事
宇品かがやきフェスティバル(広島市を歩く134)
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