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文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

書評:白髪鬼

2019-01-11 15:33:29 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
白髪鬼 (江戸川乱歩文庫)
クリエーター情報なし
春陽堂書店

・江戸川乱歩


 この作品の主な登場人物は3人。主人公で語り手の大牟田敏清子爵とその妻瑠璃子、そして親友の川村義雄である。

 内容を端的に言えば、妻と親友に裏切られて、墜落死した男が、先祖代々の墓所で蘇生した後、里見重之と名を変えて、復讐をするという話である。要するに寝取られもの、今風に言えばNTRものというわけだ。大牟田は、墓所に閉じ込められたために、容貌がすっかり変わり白髪になってしまった。本書のタイトルはここから来ている。要するに白髪の復讐鬼ということだ。

 この作品は昭和6年から7年にかけて、講談社の「富士」という雑誌に連載されたものという。そのせいか、姦夫、姦婦、毒婦とか大復讐、大苦痛などといった言い回しに時代を感じてしまう。また今ならこんなことは書かないだろうなという表現も見える(例えばpp7~8の主人公の科白には人種差別的な響きがある)このあたりは、巻末に編集部よりその旨の断りがある通りだ。

 ただし、巻末の解説によると、本作品は黒岩涙香の同名の小説を書き直したもので、さらに涙香は、イギリスの女性作家マリー・コレリの「ヴェンデッタ」を翻案したものだというのだから、ちょっとややこしい。

 前述の通り、少し時代がかった感じを受けるが、乱歩ファンにはそこがいいだろう。ただ、それほどひねった感じもないので、今のミステリーを読みなれている人には物足らないかもしれない。

☆☆☆
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書評:周五郎少年文庫 殺人仮装行列: 探偵小説集

2018-12-14 09:13:51 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
周五郎少年文庫 殺人仮装行列: 探偵小説集 (新潮文庫)
クリエーター情報なし
新潮社

・山本周五郎

 山本周五郎と言えば、私には、「樅ノ木は残った」などの時代小説の大家という認識だった。実は、今まで彼の作品を読んだことがなかったのだが、まさか少年向きのミステリーを書いていようとは。

 本書は、著者が戦前に少年少女向けに発表した短編を18編収録したものだ。だから発表された当時の時代というものを感じてしまう。総じてレトロな感じなのだ。文体だけでなく、独逸(ドイツ)、仏蘭西(フランス)、加奈陀(カナダ)、桑港(サンフランシスコ)と国名や地名が漢字表記にルビがふってある。

 また、いわゆる横文字の表記が、今ならストレート、チューインガム、ヘンリーと書くものが、それぞれ、ストレイト、チュウインガム、ヘンリイとなっているのだ。金剛石と書いてダイヤモンドとルビを振るのは当たり前。手皮包と書いてハンドバッグとなっているのはなるほどと思った。しかし、材料が皮以外だったらどうするんだろうと、ふと思ったのは余談。

 登場人物の名前もなんともレトロだ。何しろ「〇〇吉」という登場人物が多い。例えば、名探偵の名前が「三吉」なのだ。私の親族、親戚にも、戦前生まれの者に、「〇〇吉」という名前の人はいないのだが。おまけに新聞記者が普通に拳銃ぶっ放しているし。戦前は銃規制が今よりずっと緩やかだったのだろうか。

 最後に一つ突っ込んでおきたい。「覆面の歌姫」という作品だ。覆面をした歌姫が世間の話題になっているのだが、その歌姫を評して「姿も稀に見るほど綺麗である。」(p128)とあるが、覆面をしているのに、どうして綺麗だということが分かるのだろう。ルビはマスクとふってあるのだが、仮面じゃなくって覆面だよ。なんだか笑える場面しか想像できないのだが。

☆☆☆

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書評:黒いピラミッド

2018-12-08 14:27:52 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
黒いピラミッド
クリエーター情報なし
KADOKAWA

・福士俊哉
・KADOKAWA

 本書は、「ピラミッドの怪物」というタイトルで、ホラー大賞を受賞した作品に加筆修正して単行本としたものだ。

 一言で言えば、呪いのアンクの物語。アンクというのはエジプト十字のことだ。分からなければちょっとググって見ればいい。いくらでも画像が出てくるから。サッカラで見つかったというこのアンクを持つ者は、次々に誰かを殺す。時にその相手は自分かもしれない。そして浮かび上がる黒いピラミッド。

 主人公の聖東大学講師日下美羽は、自らもアンクの呪いを受けながら、父の大学時代の友人戌井耕平といっしょにこのアンクを元の場所に返そうとする。向かうは、エジプト。

 日本とエジプトを股にかけたホラーだが、残念なことにそれほどの恐怖は感じない。最後の方はアドベンチャーもののようになっていたし。

 いくつかツッコミたいところがある。大学の組織についてだが、いくらなんでも、常勤の講師の解雇通知を教授名では出さないだろうと思う。

<大学から封書が届いた。なかには事務的な書面があった。”文学部古代オリエント学科講師 二宮智生 上記のものを解雇とする。理由、本学にあるまじき行為が確認されたことによる。定められた規定に則り解雇とする。文学部教授 高城達雄”>(p26)

 このあるまじき行為というのが、二宮と大学院に進む予定でエジプトで事故死した佐倉麻衣という学生との間の非常に親密な関係。これは講師から事務局に異動になったという設定の矢野という男が、准教授候補の二宮を失脚させようと、たまたまみつけた二人の親密な写真を事務局に転送したからだ。しかし家庭の事情で自ら希望して事務局に異動した矢野が、いまさら二宮を失脚させてどうしようというのだろう。家庭の事情が好転している訳でもないのに。

 別に、講師と大学院進学を控えた女子学生が親密な仲になってもいいじゃないか。お互い独身の、成人同士だし。不倫とかじゃなければ、結婚するつもりと言えばそれまでだと思うが、いくら講師と学生(中高生の未成年ならともかく)が親密な仲になったからといって、いきなり解雇通知を送るというのはまず考えられない(そんなことをしたら労基や組合なんかからかなりきついお灸をすえられるぞ!)。いくら高城教授がこの大学の文学部の大ボスでも、こんなことがまかり通るのなら、黒い(ブラック)のはピラミッドではなくこの大学の職場環境ということだろうか。

 矢野の所属している事務局という組織の詳細はよく分からないが、一般に大学の事務方というのは、各研究室からは独立していて、大学内の事務(各種証明書の発行等)をやるのではないかと思う。それとは別に各研究室に事務作業を行う秘書だとか助手のような人がいる場合はあるが。それに、矢野が、高城の「お前は研究室の総務に向いている」(p108)という鶴の一声で、研究室の下働きのようなこともやっているのはちょっと変だ。

 また、一度事務方になったものが、研究室のメンバーに対して言っている事もおかしい。例えば矢野が、佐倉麻衣の事故死により中止になったギザ発掘の資料を整理しようとした、日下美羽に言ったセリフ。

<教授が何をいったか知らないが、この箱は俺が整理する。いいか?>(p46)

 事務方の人間が、研究資料を勝手に整理するというのはあり得ないだろう。そして矢野が自分を「矢野さん」と呼ぶ修士課程の学生である橘花音に言ったセリフ。

<お前、修士の橘だったな。ひとつ言っておく。俺は事務局にいるが、古代エジプト研究者としてのキャリアは一番長いんだ。お前らが俺を呼ぶ時は、矢野さんではない。先生だ。矢野先生。いいか、覚えておけ>(p104)

 勝手に事務方が研究職のように振舞っていいのだろうか? 作者はあまり大学の組織については詳しくないのだろうか。それとも事務方にいても、俺はベテランの研究者なんだという矢野のアンビバレントな心を反映しているのだろうか。

 この矢野の家がアンクの呪いで、火事になっているときに、たまたま通りかかった同じ研究室の日下美羽と橘花音。矢野の家にあったアンクを花音が掴んだ後、美羽へ言ったセリフ。

<ああ、先生、早く、早く逃げましょう!>(p117)

 特に警察や消防に通報した気配もない。他人の専有物であるアンクを取ったうえ、通報もせず逃げだしたのは、君たち人間としてどうよ。

☆☆☆


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書評:魔邸

2018-11-18 21:07:18 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
魔邸
クリエーター情報なし
KADOKAWA

・三津田信三

 主人公は、母の再婚に伴い、姓が「瀬戸」から「世渡」になった優真という少年。義父となった知英にはなじめなかったが、新しく叔父になった知敬には懐いていた。話は知英が海外赴任をすることになったため、優真が、知敬の持っている別荘で暮らすことになったことから、不気味な事件の幕開けとなる。

 その別荘の裏手には、「じゃじゃ森」という不気味な森が広がる。その森では「神隠し」が起こるとのうわさがあった。知敬の別荘は、かってその森で行方不明になった少年を助け出したことにより、当時の所有者から譲られたものだ。

 しかし最後の方で、意外な真相が明らかになる。神隠しの真実、叔父・知敬の本当の姿など。

 三津田信三といえば、ホラーとミステリーが融合した作風で知られる。この作品もそんな感じだ。読後感は、ちょっと中途半端かなという感じである。ホラーにしては、それほど怖くないし、ミステリーの中に超自然的要素を入れているのは、やりようによっては何でもありになるので、それほど褒められたものではないだろう。ミステリー要素は入れるにしても、もっとぞくぞくするような恐怖を感じるような作品を読みたかった。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

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書評:世界推理短編傑作集2

2018-11-06 12:14:26 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
世界推理短編傑作集2【新版】 (創元推理文庫)
クリエーター情報なし
東京創元社

 最近はあまり翻訳ミステリーは読まないのであるが、編者が江戸川乱歩ということで、どのような話が収録されているかということに興味を引かれて、読んでみた次第だ。収録されているのは、9つの短編。正直作者の名前を知っているのは、「奇妙な足音」のG.K.チェスタトンくらいである。探偵役のブラウン神父というのは、名前くらいは聞いたことがあるが、この作品については初めて読んだ。

 いくつか面白いと思ったものについてコメントしてみよう。「放心家組合」(ロバート・バー)という作品は、最初偽銀貨づくりの話かと思ったのだが、これが詐欺事件に変わっていく。

 名いや迷探偵役はフランス人のユウゼーヌ・ヴァルモンという設定だ。スコットランドヤードの人間をバカだのでくの坊という割には、最後は犯人にしてやられてしまう。作者の名前を見ると、イギリス系のようだが(最初の著者の紹介を見ればやはりイギリス人だった)、どうもイギリス人のフランス人に対する評価(要するにフランス人は口ばっかりというもの)のようなものがあるような気が・・・。

 「赤い絹の肩かけ」(モーリス・ルブラン)はアルセーヌ・リュパンを主人公とするものだ。日本では某マンガの影響か、ルパンの方が通りがいいかもしれない。この作品では、リュパンが名探偵を務めるのかと思ったら、やっぱり怪盗だった。

 「オスカー・ブロズキー事件」(オースチン・フリーマン)では、殺人事件だが、最初に犯人が被害者を殺害する場面が描かれている。要するに犯人も犯行の方法も最初から明らかなのだが、この作品はソーンダイクという名探偵がいかにしてその犯人を突き止めるかというのが読みどころだろう。

 「ブルックベンド荘の悲劇」(アーネスト・ブラマ)という作品では、「高圧電流」という表現が出てきた(p289)のが気になった。電気を知っている人は絶対にこの表現は使わない。「高圧」というのは「電圧」のことで「電流」の場合は「大電流」というからだ。作者が悪いのか翻訳者が悪いのかは分からないが(私なら原文にどう書かれていても科学的に正しい表現にする)、本当に世の中には科学技術オンチが多いのだなと感じる。この手の表現は本当によく目にするので、いちいち指摘するのにくたびれてしまう。

 また、電車線から窓枠まで電線をつないだようだが、電車線側への接続はどうやってやったんだろう。犯罪のために停電なんかするわけはないので、活線でやったということになるのだが、感電せずによくやれたものだ。

 そのほか、「奇妙な跡」(バルドゥイン・グロラー)、「ギルバート・マレル卿の絵」(V.L.ホワイトチャーチ)、「ズームドルフ事件」(M.D.ポースト)、「急行列車内の謎」(F.W.クロフツ)を収録。

 色々なミステリー作家の作品を読めてなかなか興味深かった。もし次に個々の作者の作品を読むことがあれば、より馴染みを持って読むことができるだろう。

☆☆☆

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書評:闇の峠

2018-10-29 09:43:09 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
闇の峠 (新潮文庫)
クリエーター情報なし
新潮社

・諸田玲子

 本書のモチーフとなっている、荻原重秀もその嫡子の乗秀(源八郎)も実在の人物で、父の重秀は、元禄時代に勘定奉行として、貨幣改鋳を行ったことでよく知られる人物だ。しかし、死後に罪人とされ、お家断絶は免れたものの、3700石あった所領は、700石にまで減らされた。源八郎は後に佐渡奉行に昇進しているのだが、赴任先の佐渡の地で1年後に急死している。本作は、この重秀の死と乗秀の急死の謎に迫る歴史ミステリーである。

 主人公はかって荻原重秀の部下だった萩原源左衛門(これも実在の人物)の娘せつ。かって荻原源八郎と縁談が進んでいたが、荻原重秀が罪人になったことから話が立ち消えとなり、今は小姓組の旗本、根来長時の妻になっている。実家の父、源左衛門はこの時、荻原乗秀の相役となる佐渡奉行だった。

 この根来家にある時、江戸町奉行の大岡越前が訪ねてくる。「兼山秘策」という書物を読んだことがあるかというのだ。そこには、20年以上前に起きた荻原重秀の事件のことが書かれているという。そこには重秀が幽閉されて死んだような記載があった。しかし、重秀は生きている間は罪人ではなかった。いったい彼の死の真相は?越前は、この事件を吟味しなおそうとしているのだ。「兼山秘策」とは、江戸時代における金沢の儒学者・青地兼山と麗沢の兄弟が師の室鳩巣から寄せられた書簡を編んだものであるらしい。「兼山麗沢秘策」とも呼ばれている。

 せつには重秀の死の直前に、実家の庭で彼を見かけた記憶がある。その時重秀は、せつの実家の庭に何かを埋めていた。果たして、重秀の死に父は関わっているのか。せつは庭を探してみるものの、埋まっているはずのものは、既に誰かに見つけられていた。ところが、ひょんなことからせつに埋まっていたものが回ってくる。それは、重秀から乗秀に宛てた文であった。その一方で、事件に関係したと思われる者が次々に殺されていく。せつは、事件の真相を求めて、越前の与力左右田藤間、根来家の用人八谷徳兵衛、根来家の使用人喜助らと、乗秀のいる佐渡を目指す。

 この作品で解き明かされるべき謎は二つだ。一つは、20年以上前の重秀の死の真相。もう一つは、今の時点で関係者を殺している犯人は誰かというもの。そしてこの二つの謎は、だんだんとひとつに収束していく。

 20余年前の重秀の死に関する謎は、最初からほぼ明らかなのだが、中心になるのはもう一つの謎の方。いったい昔の事件をもみ消そうとして動いているのは誰か。やがてその人物の正体が明らかになってくるのだが、最後はちょっとあっけない気がする。

☆☆☆☆
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書評:七夕の雨闇: ―毒草師―

2018-09-23 12:51:57 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
七夕の雨闇: ―毒草師― (新潮文庫)
クリエーター情報なし
新潮社

・高田崇史

 QEDシリーズと言えば高田崇史の人気シリーズだが、そこからのスピンオフとして始まったこのシリーズもこれが4作目。今回のテーマは七夕だ。

 七夕と言えば、牽牛と織姫が1年に1回会える日ということで、ロマンチックな響きを感じる人が多いだろう。ところが、本書によれば、七夕は不吉の象徴であり、牽牛と織姫が出会えば悪いことが起きるという。

 今回の事件の舞台は京都。能の竹川流宗家である竹川幸庵が稽古場で毒殺される。しかし、幸庵は、あらゆる毒物に耐性のある解毒斎体質だった。なぜ解毒斎の幸庵が毒殺されたのか。これが一連の連続殺人の幕開けとなった。事件の背景には、まるで糸杉柾宏の漫画、「あきそら」のような世界が」広がる。

 この事件に乗り出したのが「毒草師」の御名形史紋というわけである。史紋は助手でやはり解毒斎体質の神凪百合、そして今回の事件の依頼人の萬願寺響子と雑誌社「ファーマ・メディカ」での指導係西田真規の4人は京都に向かう。響子は事件に巻き込まれた竹川家の親戚の星祭家の娘と友人であり、そのことから御名形の協力を仰ぐことになったのである。星祭家は、「機姫神社」という神社で、独特の七夕祭りが伝わっていた。しかし、最後の方で御名形本人も言っているように、今回の事件には毒草には関係がない。

 御名形によって解き明かされる七夕についての蘊蓄はすごいと思うが、どこか眉に唾をつけて読んだ方がいいかもしれない。ましてやこれが現実の事件に結びつくとは。でもちょと信じてしまいそうになるのは著者の筆力か。

 ところで、この萬願寺響子、「私は根っからの理系」といいながらも、趣味の四柱推命を東洋の統計学だと訳の分からないことを言う。統計学というなら、いつ誰がどんな母集団からどの程度のサンプリングをして法則を抽出したのか。昔はコンピュータなんてなかったし、ビッグデータという概念すらなかった。この一件から、実は彼女が「根っからの理系」ではないということが分かる。

 またQEDシリーズのスピンオフ作品だけあって、話の中にあちらの主人公である桑原崇らしき人物が出てくる。また桑原の相方である棚旗奈々に至っては、話の中だけでなく最後の方にちょっとだけ登場している。このあたりもこの作品の魅力ではないかと思う。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。


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書評:翡翠の色の、君だけの夏。 「視える」修復士と洋館の謎

2018-08-28 11:10:44 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
翡翠の色の、君だけの夏。「視える」修復士と洋館の謎 (実業之日本社文庫)
クリエーター情報なし
実業之日本社

・渡波 みずき

 ヒロインは橿原ひよりという女子高生。お嬢様学校の海星女学館に、中学受験で外部生として入った才色兼備の女の子だが、どうも自分に自信がない。なにしろ周りは内部進学の、お金持ちのお嬢様ばかり。自分に力があるわけではなく、たまたま金持ちの家に生まれただけなのに、どうもそれを鼻にかけている節がある。

 ひよりは、友達と思っていた常盤綾子に騙されて、彼女の代わりに別荘・翡翠館の修復に立ち会うことになってしまう。この時の綾子の態度が最低である。なにしろ、自分は彼氏とお泊りするので、あんたは貧乏人だから食事代とタクシー代にしろと言って、ひよりに札束を投げつけてくるのだ。

 そのようないきさつがあって、ひよりは、別荘修復のための調査に来ていた遊佐孝仁の手伝いをすることになった。ところがその別荘には悲しい秘密があったのだ。

 それにしても、ひよりってなんて人がいいんだろう。私だったら、その時点で切れて、札束を相手に叩きつけて帰ってしまうだろう。ただし騙された分の交通費と日当分はきちんと内容証明郵便で請求するし、払わなければ訴訟を起こすだろう(笑)。もちろん綾子の悪逆非道ぶりは、あちこちにバラしたうえでだ。

 それにしてもこんなお人よしの人間っているのだろうか。最後はなんだか綾子の家庭環境のせいにしているんだけど、高校生にもなって、家庭環境がどうのこうのいうのは甘えているとしか思えないよな。100%こいつが性悪なだけだと思うんだけど。本当にこんな性悪女がいるのなら、18歳を成人にするのはどうなんだろうと思ってしまう。

 ところで、「視える人」というのは、それほど前面に出ていないような感じかな。それより「修復士」という方の比率が高かったような気がする。何しろ、建物だけでなく、自分に自信がなかったひよりの心も修復してしまうのだから。

 一種のボーイミーツガールものと言ってもよいだろう。しかし、どうして、女子は最初不愛想なオレサマ男が好きなのかな。少女漫画に出てくるヒロインの相手になる男は、だいたいこんな感じだし。まあ、男子でもツンデレ属性というのがあるし、似たようなものか(笑)。でもこれが現実には不幸の始まりになるんだよなあ・・・。

☆☆☆




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書評:黒後家蜘蛛の会2

2018-08-08 10:25:17 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
黒後家蜘蛛の会2【新版】 (創元推理文庫)
クリエーター情報なし
東京創元社

・アイザック・アシモフ、(訳)池 央耿

 アイザック・アシモフといえば、ロボット工学3原則などでSF作家として知っている人も多いのではないかと思う。しかし、彼はミステリーも書いており、本書もSF的な要素はなく、短編ミステリーを集めたものとなっている。

 タイトルの「黒後家蜘蛛の会」というのは、作者が実際にメンバーとなっている Trap Door Spidersをモデルにした架空の団体だ。この黒後家蜘蛛の会は、ニューヨークのミラノ・レストランで月一回の定例会を開いており、毎回ゲストが招かれる。そのゲストが謎を提示するのだが、黒後家蜘蛛の会のメンバーならぬ給仕のヘンリーが、話を横で聞いただけで謎解きをしてしまうというのが基本的なストーリーである。収められているのは12の短編。一つ一つの話は独立しているので、どの話からでも読むことができるし、あまり連続した読書時間を取れない人でもちょっとずつ読み進めることができるだろう。

 傍で話を聞いていた人が、見事な推理をするというのは、例えば北森鴻の「香奈里屋」シリーズや東川篤哉の「謎解きはディナーの後で」シリーズなどの構造とよく似ている。「岡目八目」という言葉があるが、案外と傍で聞いている方が、事件の本質をよく理解できるのかもしれない。

 このシリーズは、昔読んだ覚えがあるのだが、内容は完全に記憶から抜け、はるか宇宙の彼方だ。読んでいて思い出したということはなく、ほとんど初見のような感じで楽しむことができた。それにしても自らの記憶力のなさには感心する。これが理工学のようにちょっと覚えればあとは自分で導出できるものならいいのだが、そうでないものは昔からすぐに忘れてしまうようだ。だから化学なんかも無機化学まではいいのだが、有機化学になると覚えることが多すぎて、いやになって大学に入ってきっぱり縁を切ったというのは余談。

☆☆☆☆

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書評:妖談へらへら月―耳袋秘帖

2018-07-17 09:52:18 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
妖談へらへら月―耳袋秘帖 (文春文庫)
クリエーター情報なし
文藝春秋

・風野真知雄

 元祖入れ墨奉行の根岸肥前守鎮衛が活躍する「耳袋秘帖」シリーズのうちの一冊。「耳袋秘帖」シリーズは、大きく分けて殺人事件シリーズと妖談シリーズに分けらられるが、この作品は、妖談シリーズの5巻目となる。描かれるのは、さんじゅあんという謎の人物との戦い。なお、妖談シリーズは、7巻目の「妖談うつろ舟」で完結している。さんじゅあんは、新興宗教の教祖のような存在で、その影響は一般庶民だけでなく幕閣にも及んでおり、殺人集団である闇の者とも関係があるようだ。

 江戸では、「神隠し」が頻発していた。例えば、印籠職人卯之吉の一家4人が忽然と姿を消している。手がかりは、子供が話していたという「へらへら月」。いったい「へらへら月」とは何なのか。

 もっとも、作中に出てくる神隠しは、みなが同じ原因という訳ではない。神隠しの裏には、「神隠しと日本人」(小松和彦:角川書店)で指摘されているように、色々な背景が隠されているのだ。本作でも、本筋のさんじゅあんに関係するものばかりでなく、その他のケースも示される。

 作中でちょっと気になった人物が一人いた。生駒左近という元旗本のこつじき。無外流の剣の達人で、旗本きっての奇人と言われ、いったん出家したが、堕落した既存の仏教に愛想をつかし、今は仏の道を求めて、桶の中に済んでいるという。巷では「桶のこつじき」と呼ばれている。なんだか、ギリシアで樽の中に住んでいたという哲人ディオゲネスを連想するではないか。彼に人殺しをさせたいと怪しい男が近づいてくる。こちらもどのような展開を見せるのか読んでみてのお楽しみ。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

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