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文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

今昔百鬼拾遺 河童

2020-08-10 08:49:04 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 

 この作品は、昨年、出版社3社を横断する形で刊行されたもののうち、2番目に当たる。話の中心となるのは、前巻と同じく京極堂の妹で科学雑誌稀譚月報の記者である中禅寺敦子と「絡新婦の理(じょろうぐものことわり)」に出てきた女子高生の呉美由紀。

 物語は、美由紀とその友人たちが、河童談義、尻談義を行っている場面から始まる。尻談義は、河童が尻子玉を抜くという話から来ている。女三人寄ると姦しいというが、彼女たちの話がなんともいえず面白いのだ。それにしても、河童に対していろいろな呼び方があるものだ。

 この作品でも、ヘンな人が出てくる。ヘンな人と言うと、榎木津や、敦子の兄の京極堂などがその最たるものだ。関口もかなりヘンな人に分類されるだろう。この作品に出てくるのは、多々良勝五郎という在野の妖怪研究家。この先生、主役を務める「今昔続百鬼」という作品があるので、こちらでもレギュラーになるのかと思いきや、次の巻の天狗には名前しか出てこなかった。

 夷隅川水系で相次いで死体が見つかる。その共通項は、尻が丸出しになっていたということ。果たして河童の仕業なのか?

 この作品で扱われているのは、戦後の物資横流しや迷信に基づいた差別など。しかしやっぱり、京極堂の付き物落としや榎木津のハチャメチャぶりが懐かしい。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

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霊視刑事夕雨子1 誰かがそこにいる

2020-07-27 08:55:27 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 主人公は大崎夕雨子という、警視庁中野署の刑事課に勤める若手女性刑事。彼女は、他の人とは違う。そうタイトルの通り、「視える人」なのだ。普段は、亡き祖母からもらった念のこもったストールでその力を抑えているが、ストールを外すと、視える人になる。彼女とペアを組むのは警視庁捜査一課から異動してきた野島という女刑事。噂によれば、何かをやらかして、捜査一課から所轄に飛ばされてきたらしい。作者は「浜村渚の数学ノート」などで知られる青柳碧人さん。

 夕雨子はただ視えるだけで、除霊などの特別な力はない。でも彼女に関わってくるのはこの巻に関しては悪霊は出てこないのだ。寧ろ夕雨子を助けてくれるような霊もいる。夕雨子は野崎といっしょに、事件の解決を図ることにより、霊の心残りを解決するのだ。

 実は夕雨子が警察官になったのには理由がある。小学生のころ参加した子供キャンプで、仲が良くなった荒木公佳という児が行方不明になった。それを解決するための情報が欲しいからだ。

 残念ながら、それは群馬県警の管轄。警視庁に入った夕雨子には群馬県警の情報に直接触れることはできない。しかし、野島が捜査一課に復帰するのに協力すれば、その暁には、群馬県警から情報を貰ってあげるという。そういう目的があるんなら、最初から群馬県警に入ればいいと思うのだが。どうも夕雨子、警察の仕組みをよく知らなかったらしい。

 この作品は、野崎や霊たちに助けられて、夕雨子が刑事として成長していくという話なのだろうか。次巻以降がどのような展開となるのか楽しみである。

 もちろん、敵役も出てくる。野島が捜査一課時代にペアを組んでいたという有原という男。事件があると所轄に乗り込んでくるのだがこれがなんとも偉そうなのだ。

 夕雨子の階級は巡査というのは書かれているが、野島や有原の階級ははっきりしない。しかし、偉そうな態度といい、部下がいることから、有原は班長クラスだと思う。ということは階級は警部補ということか。そして野崎も有原とタメ口で言い争っていることから、同じような階級だと思われる。まさか有原が管理官ということはないと思う。管理官だとしたらその階級は警視だ。野崎が同じような階級だとしたら、所轄の課長(階級は警部)の下に配属されることはないだろう。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

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影を踏まれた女

2020-07-17 09:35:17 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 岡本綺堂というと、代表作はなんといっても「半七捕物帳」だ。私も、半七づいてよく読んでいるが、実はこの作品のようなホラーも書いている。そういえば、半七捕物帳にもホラー風味で味付けがしてあるものが多かったが、作者の趣味だろうか。

 近江屋という糸屋の娘おせきが、十三夜の前の夜、月明りの中で、五~六人の男の子たちに影を踏まれる。おせきは、今年17歳の容貌(きりょう)よしだった。その日から、おせきは、外に出るのを恐れるようになる。最初は月夜の日だけだったが、ついに日光も恐れるようになった。

 おせきの両親は、行者から蝋燭を渡される。これでおせきの影を映せというのだ。映し出されたおせきの影は・・・。結局おせきは切り殺されることになるのだが、果たしてそれは影を踏まれたためか。いくら自分の影を踏まれると良くないという伝説があっても、影踏み遊びはその頃は結構ポピュラーな遊びだ。影踏み遊びで影を踏まれた人は多いはずで、それが全員恐ろしい目に合っている訳ではない。それともおせきはそのような運命にあり、それが影に現れたのか?

 この話には、まったくミステリー要素はなく、ただ怖く不思議な話だろう。

 

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

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半七捕物帳 47 金の蝋燭

2020-07-01 09:45:58 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 最近半七捕物帳づいている気もするが、これもその中の話の一つだ。やはり、聞き手のわたしが半七老人に昔の話を聞くという体裁になっている。

 1855年(安政2)江戸城の御金蔵が、藤岡藤十郎、野州無宿の富蔵の二人によって破られ、4千両の小判が盗まれたという事件が起きた。

 その年両国橋から女の死骸が上がる。女は風呂敷包みを大事そうに抱えていた。その風呂敷包みから出てきたのが5本の蝋燭。この蝋燭が異様に思いので、変だなと思って人足の一人が一本をそこらの杭にたたきつけると、芯が金の延べ棒だった。これは江戸城の御金蔵破りと何か関係があるのかと緊張した半七だが、調べていくうちに実は全く無関係なことが分かる。

 実は、浅草の田町で金貸しをしている宗兵衛の女房の自爆テロだった。宗兵衛にお光という若い女ができたことに嫉妬した女房が、亭主の旧悪を暴くために、証拠の蝋燭を持って、大川に飛び込んだのだ。

 それにしても女の執念は怖い。半七は、子分の幸次郎にこう言っている。

「自分はひと思いに死んでしまって、あとに残った亭主を磔刑か獄門にでもしてやろうという料簡だろう。女に怨まれちゃあ助からねえ。お前も用心しろよ」



 ところで、宗兵衛の旧悪というのは、中間風の旅の男を殺して持っていた蝋燭を奪ったことだ。芯が金無垢の蝋燭というのは、どうも大名から江戸の役人たちに送る賄賂だったらしい。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

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半七捕物帳 27 化け銀杏

2020-06-13 09:36:18 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 「半七捕物帳」といえば、岡本綺堂の代表作で、捕物を扱った者としては、野村胡堂の「銭形平次捕物控」と双璧をなす作品だろう。何度もTVドラマ化された。この「化け銀杏」もそんな「半七捕物帳」に収められた話のひとつだ。

 この話も、明治の世になって、「わたし」が半七老人の目明し時代の思い出話を聞くという体裁になっている。この「わたし」というのは、どうも新聞記者らしい。

 「わたし」が半七老人のところを訪ねた際に、ちょうど客を送り出すところだった。客は横浜から来た水原忠三郎父子で、この「化け銀杏」は、その忠三郎に関する話だ。

 彼が、日本橋の河内屋十兵衛の店で番頭をしているころ、本郷森川宿の旗本稲川伯耆の用人から、狩野探幽斎の鬼の絵を500両で売りたいと言って来た。忠三郎は350両までなら買い上げてもいいと、胴巻きに金を入れて稲川の屋敷に行った。

 結局借金250両の質(かた)として5年間預かるということになった。ところが、その帰り、森川宿で名高い松円寺の化け銀杏のところで、何者かに投げ飛ばされ、残りの100両の金も、絵も自分の羽織さえも無くなっていたのだ。

 この事件を解決するのが我らが半七親分という訳である。実は、盗みを働いたものと忠三郎を投げ飛ばしたやつは別人でお互いにまったく関係がない人物だった。盗みを働いたやつは市中引き回しのうえ獄門になったそうだが、投げ飛ばしたやつは何も書かれてはいない。私としては、こいつも同罪だと思うのだが。

 この話に、化け銀杏の下に女の幽霊が出る話や、鬼の絵に関するちょっとしたどんでん返しなどの味付けがされている。長さ的にも短いので、ちょっとした空き時間に読むには最適だろう。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

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半七捕物帳 59 蟹のお角

2020-06-09 08:44:57 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 この「蟹のお角」と言うタイトルから何を連想するだろうか。おそらく、顔が蟹のように角々しているのではないかと思うだろう。実は違う。情夫が次々に出来ているのだから、蟹のような顔ではなかったのだろう。実は、この二つ名は彼女が体に彫った彫り物から来ているのだ。蟹が胸の先にあるポッチを鋏で挟むような彫り物を彫っているのだ。なんでも背中に彫るより、胸に彫る方がかなり痛いらしい。

 お角は、胸にまで蟹の彫り物を彫っているので、悪党仲間からは一目おかれていたらしい。今で言えば「根性焼き」の跡が沢山あるようなものだろうか。まあ、その世界には詳しくないのでよー分からんが。最も、上半身裸にならないと、蟹の彫り物は見えないのだが。

 珍しく舞台は横浜。半七は江戸から横浜に出張している。今回の被害者も外国人。幕開けは、半七の子分の多吉が横網で早桶を担いだ二人連れの男に出会たこと。念のために言うと横綱ではなく、横網(よこあみ)である。早桶というのは、間に合わせで作った粗末な棺桶のこと。事件当時は、江戸で麻疹(はしか)が大流行し、早桶自体はそう珍しいことではなかったが、なぜか早桶を担いでいた男たちは、多吉の顔を見ると、早桶を大川に投げ込んで逃げ出してしまった。この早桶から出てきたのが、横浜で写真屋をやっている島田庄吉の死体。島田の額には犬という字が書かれていた。

 そして横浜にある異人館に住んでいたハリソン夫婦が変死した。女房のアグネスの方は何かの獣に右足と喉を噛まれて死んでいた。そしてハリソン家で飼っていた大きな洋犬が行方不明になっていた。この事件に挑むのが我らが半七親分という訳だ。

 実はお角はハリソンの情婦で、それに嫉妬したアグネスが、島田と共謀し、お角を部屋に洋犬といっしょに閉じ込めたという事件があったらしい。その時何があったのかははっきり書かれていないが、洋犬はお角に懐き、結果としては、アグネスは洋犬に噛み殺されることになった。しかし、お角は洋犬を憎み、毒殺した挙句、目玉をくりぬいたり、さんざんに切り刻んで川に投げ込んだ。何があったのか想像はできる。きっとそんなことがあったのだろう。いくら男たちの間を渡り歩いたお角でも、まさか雄犬とは・・・・・・。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

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ラメルノエリキサ

2020-06-07 08:45:26 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 主人公は、小峰りなという女子高生。りなが普通の女子高生と違うのは、「目には目を」という復讐体質なこと。なにしろ、されたことは絶対にやり返さないと気が済まない。そんなりなが夜道で背中を切られた。その時犯人が残した言葉がタイトルの「ラメルノエリキサ」という言葉。いったい「ラメルノエリキサ」とは何なのか?

 この作品は、りなが「ラメルノエリキサ」の謎を解き明かし、犯人を捜すというもの。面白いのはりなの姉。なにしろ、りなが犯人に復讐を企てて逃がしてしまったときに、

「だからね、誰かを傷つけて犯罪者になるくらいなら、いっそ殺されて欲しいな。お姉ちゃん、被害者の姉の方がいいもの。もちろんすっごく悲しいけどね、そっちの方がマシ。お姉ちゃん的には。」(pp145-146)



と言っていたのに、りなが犯人宅に行ったときに、色々迷ったようだが、結局車にスコップとブルーシートを積んで迎えに来る。死体遺棄をする気満々なのだ。りなは一遍に幸せな気分になる。もちろんりなは、犯人を突き止めたが、殺してはいない。

 「ラメルノエリキサ」とは意外なものだった。犯人は、文字通り「中二病」。なんだかよく分からないタイトルにそんな意味があったのかとびっくり。

 面白いし、それほど厚くないので、時間をかけずに一気読みすることができるだろう。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

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遺譜 浅見光彦最後の事件 下

2020-05-19 08:27:54 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 

 本書で扱われるのは、戦時中の因縁に繋がる事件だ。永遠の33歳である光彦が34歳になって、これまでの事件で出会ったヒロインたちから上巻でお誕生会をしてもらい、「平家伝説殺人事件」に出てきた、稲田佐和と再会する。稲田佐和との愛は、殆ど婚約寸前までいったのに、内田センセイの大人の都合でなかったことにされた。

 この下巻では、飛行機嫌いの光彦が、なんと飛行機に乗ってドイツに行く。そこで出会った兄の陽一郎が関係する過去の因縁。これまで光彦は、国内で飛行機に乗ったことはあったし、船で外国に行ったことはあったが、私の記憶にある限りは、たぶんこれが飛行機で外国に行った初めての体験だ。そしてこの事件には兄の陽一郎だけではなく、祖父の陽介も絡んできている。キーワードは、「ヒトラーユーゲント」と「退廃芸術」。

 やはり、光彦にとって、稲田佐和は特別なようで、この巻では佐和のことを考えていることが多いし、神戸で就職した佐和とデートしたりしている。他のヒロインも本作には出ているし、他の事件では佐和のことは全く出てこなかったにも関わらずだ。これはもしかすると、「焼け木杭に火が付いた」というやつだろうか。2人の今後ははっきりとは書かれていないが、どうも光彦は佐和との結婚を意識しているようだ。次の光彦と母の雪江との会話を見て欲しい。

「そう、それなら安心ね。でも佐和さんは神戸の会社に入ったばかりって書いてありましたよ。そんなに急にお辞めになるわけにもいかないと思うけど、どうなさるおつもりかしら?」「それも心配無用です。いざとなったら、僕が神戸に住めばいいんですから」(p329)



なぜか「年貢の納め時」という言葉が浮かんだが、順調に外堀が埋められているようだ(笑) 光彦より一回り以上も年下の佐和のこと、結婚したら可愛くって仕方がないと思う。内田センセイも、いったんは大人の都合から光彦と佐和の中はないことにされたが、やはり心にはひっかかっていたんだろう。

 最後に、細かいことだが、わらび餅について異論がある。

「(前略)昔はこの辺りの山にもわらびが出ましてね。子供の頃は母親と摘みに来て。わらび餅を作ってもらったものです。(後略)」(PP259-260)



 内田さんはわらび餅は、摘んだわらびから作ると思っている節があるが、あれはわらびの根から採れるデンプンから作るもの。そしてデンプンの採れる量は少ないので、普通は家ではわらび餅にはせず、山菜として食べると思う。実は私の故郷はわらびが沢山取れて、私も子供のころ摘んだ覚えがあるが、わらび餅にするというのは聞いたことがない。蓬餅じゃないんだから。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

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今昔百鬼拾遺 鬼

2020-05-17 09:20:14 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 本書の主な登場人物は二人。「絡新婦の理」に出てきた、呉美由紀と京極堂・中禅寺秋彦の妹で中禅寺敦子。 美由紀は、「絡新婦の理」での事件のあと、別の学校に転校していたが、そこでの1学年上の友人片倉ハル子は、「片倉の女は代々刀で斬り殺される運命にある」と恐れていた。そして、その言葉通り、最後の7人目の被害者として切り殺される。

 扱われるのは昭和の辻斬り事件と呼ばれるもの。次々に犯人とされた宇野憲一だが、実は色々と疑問点があった。最後に思わぬ辻斬りの犯人が明らかになる。

 出てくるのは鬼の刀。ここでの鬼とは、新選組鬼の副長と呼ばれた土方俊三のことである。(いやそれは二つ名で、妖怪の鬼ではないだろうというツッコミはなしで(笑))

 このシリーズは昨年3か月連続で出版社を変えて出たものの最初の1冊である。ちなみに他の出版社とは角川、新潮社で、それぞれ「河童」、「天狗」というタイトルが付けられている。

 知らなかったが、「京極堂シリーズ」もいつの間にか「百鬼夜行シリーズ」に組み込まれて、あの凶器になりそうな厚さから一転普通の文庫本の厚さになっている。だから読むときの苦労を考えれば、大分楽になっているが、その分京極堂も榎木津礼二郎も直接は出てこない(間接的には話の中で出てくる)ので、それを期待している人にはちょっと物足らないかもしれない。

 それにしても「鵺の碑」はどうなったんだろう。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

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遺譜 浅見光彦最後の事件 上

2020-05-09 10:23:36 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 この作品で、永遠の33歳の光彦も、ついに34歳になる。33歳の1年間で100以上の事件に遭遇したので、どう考えても計算が合わないので、てっきりパラレルワールドと思っていたが、それらの作品に出てきたヒロインたちが集まって、光彦の34歳の誕生会を開いている。うーん、パラレルで遭遇した事件があるのか。このあと浅見光彦シリーズとしては、内田さんの絶筆となった「孤道」があるので、シリーズの最後から2つ目の作品ということになる。

 ヒロインたちの中でも、シリーズ2作目の「平家伝説殺人事件」に出てきた稲田佐和は別格のようで、作中で二人の仲はほとんど婚約寸前というところまでいったのに、光彦に人気がでたため、作者の大人の都合でなかったことにされたという経緯がある。さすがに光彦は心ときめいたようだが、残念なことに彼女の出演シーンは、誕生会の場面だけで、それ以降には、この上巻には出てこない。

 ところで、光彦は、今回来日した美貌のバイオリニストで名門のお嬢様、アリシア・ライヘンバッハのボディガードをするように依頼される。そして、アリシアの祖母が昔来日したときに預けた「フルトヴェングラーの楽譜」をいっしょに探して欲しいという。もちろん腕っぷしに全く自信のない光彦は断るのだが、兄の陽一郎からも頼まれ、結局は引き受けることになってしまう。

 この上巻のヒロインは、アリシアと同じバイオリニストであり、「高千穂伝説殺人事件」「歌わない笛」に出てきた本沢千恵子とアリシアを除けば、「平城山を越えた女」のヒロインだった阿部美香。彼女は、湧嶋という老人から、戦時中の偽札づくりの話を聞くと言ったまま失踪してしまう。

 このシリーズ、戦争中の因縁が原因の者が多いが、この作品もそうだ。しかし、戦後もう70年以上。だから90歳を超えるものが関係者となる。おそらく、本書執筆時点では、次の作品が内田さんの絶筆となるとは想像していなかっただろうから、戦争中の因縁というのは大分苦しくなったはずで、あえて本作で戦争中の因縁を使ったのは、なにか内田さんなりの意図があってのことだろう。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

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