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文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

半七捕物帳 11 朝顔屋敷

2020-10-29 10:16:39 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 これも半七捕物帳の中の話だ。半七が八丁堀の槇原という同心から依頼された事件だ。杉野という大身の旗本の息子大三郎が、素読吟味に行く途中で行方不明となる。中小姓と中間がついて行ったにも拘らずだ。大三郎はひとつぶ種であり、何としても探し出さなくてはならない。素読吟味とは、お茶の水の湯島聖堂(昌平坂学問所)で行われていたもので、身分の上下を問わず武家の子供が十二、三歳になるとチャレンジするものだと言う。内容は当時の学問であった四書五経を音読するというものである。

 いったい大三郎は神隠しにあったのか。これを解決するのが我らが半七親分という訳だが、前半はこのようにホラー風味で話が進んでいく。しかし、後半からは、半七親分が事件の謎を解くというミステリー要素一色となる。

 なお表題の「朝顔屋敷」とは、杉野家のことである。化け物屋敷として有名だという設定である。なんでも遠い先代の主人が、何かの原因で妾を手打ちにしたが、このとき手打ちにされた妾は朝顔の浴衣を着ていたことから、それ以来朝顔の花が咲くとこの家に凶事が起こると言うのだ。この話は、その伝承をうまく組み合わせて、うまく事件に繋げていると思う。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

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神話の密室 天久鷹央の事件カルテ

2020-10-21 10:13:49 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 現役の医者でもある作者の描く医療ミステリー。収録されているのは、バッカスの病室、神のハンマーの2編。天久鷹央とその部下の小鳥遊優が医療をテーマとしたミステリーに挑むという話である。どちらの話も、全体のタイトルの「神話の密室」に合った話だ。

〇バッカスの病室
 有名ミステリー作家の宇治川心吾が酩酊状態で、鷹央が副院長兼統括診断部長である点異界総合病院に搬送されてくる。アルコール依存症だった宇治川はそのまま閉鎖病棟に入院することになるが、アルコールなどないはずの閉鎖病棟で、宇治側は再び酩酊状態になる。これを解決するのが鷹央先生という訳だ。
 アルコールを体内で製造する人がいると言う話をテレビで視たことがあったので、最初、これのオチもそれかと思ったのだが、全然違っていた。まさかそんな結論になるとは。神とはもちろん酒の神のバッカスで、密室とは閉鎖病棟のことである。

〇神のハンマー
 小鳥遊の大学時代の空手部のコーチだった早坂が、キックボクシングで、日本チャンピオンとなった瞬間に崩れ落ちてそのまま亡くなってしまう。ここで神とは北欧神話のトール。彼は雷神であり、その武器はミョルニルというハンマー。そして密室とは、1000人以上の観客が見ているリングの上で起きた事件。つまり実質的には密室という訳だ。この謎に挑むのが、大学時代に関わりがある小鳥遊君だが、ヒントは鷹央が出している。

 このシリーズ、いとうのいぢさんのイラストとよく合っていると思う。いとうさんの描く鷹央先生は何とも魅力的だ。私はあまり医学には詳しくないので、あまり突っ込めないのが何とも残念(笑)。

☆☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

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半七捕物帳 53 新カチカチ山

2020-10-18 08:30:47 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 本書は岡本綺堂の半七捕物帳の一つだが、カチカチ山とタイトルに付いているからといって、別に誰かに後ろから火を付けられる訳ではない。おばあさんを婆汁にして食べるというわけではない。カチカチ山においては、タヌキの乗る泥船が沈むが、この作品でも船が沈む。別に泥船という訳ではなく普通の船である。カチカチ山との共通点は舟が沈むというこの一点だけ。

 築地の本願寺のそばに浅井因幡守と言う3000石の旗本がいた。3000石というとかなりの大身である。梅見の帰りに因幡守は、妾のお早、娘のお春そして女中3人と船に乗ったのだが、船の底に穴が空き、乗っていた人たちが水死するという事件が起きた。この事件の真相を調べるのが我らが半七親分というわけだ。

 旗本に関係する事件を岡っ引きの半七が調べるというのも少し変なのだが、浅井因幡守の奥方や親戚筋が、事件の謎解きを内密に八丁堀に頼み込んできたという設定だ。この謎を見事に半七親分は解くわけだが、そこには邪恋というような女の情念があった。半七親分の言うことには

女は案外におそろしい料簡を起こすものだ。


らしい。

 ミステリーとしては、なかなか面白かったが、カチカチ山と名付けるには少し不足かな。
 

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

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半七捕物帳 06 半鐘の怪

2020-10-09 13:21:12 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 江戸の街で不思議な事件が起こった。誰もいないのに、火の見櫓の半鐘が鳴り出すのだ。事件はこれだけではない。雨の夜、お北という大店の番頭の妾がさしている傘が急に重くなり、何者かに、頭を掴まれたのである。果たして妖怪の仕業か。

 この事件の犯人として疑われたのが、権太郎という鍛冶屋見習いのいたずら坊主。確かな証拠はないのに、親方たちに引き擦っていかれた自身番で、殴られたり、しばられて転がされたりと、さんざんな目に合っている。さすがは江戸時代、確かな証拠がないのに、皆で疑われた者をリンチする。今だったらとんでもないことだ。

 幸いな事に、権太郎が縛られて転がされている時に、半鐘が鳴り出したので、権太郎の無実が証明された訳だが。今だったら権太郎にそんな仕打ちをした連中の方も何らかの罪に問われるが、江戸時代にはそんな法はなかったのだろう。

 この事件を解決に導いたのが、我らが半七親分という訳だ。感のいい人は、なんとなく犯人の見当がつくのだろうが、このように話の前半は怪談調で始まる。半七捕物帳に収められている話はこういったものが多い。ホラーとミステリーの融合。方向性は少し違うような気がするが、もしかしたら、作者は三津田信三さんの先駆者と言ってもいいのかもしれない。

☆☆☆☆

※初出は「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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耳袋秘帖 神楽坂迷い道殺人事件

2020-09-26 19:52:27 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 江戸は神楽坂を舞台に、名奉行根岸肥前守と大泥棒品川左衛門の知恵比べ。風野真知雄の「耳袋秘帖 神楽坂迷い道殺人事件」(文春文庫)である。

 神楽坂では、七福神めぐりが流行していた。といっても、神楽坂にある本来の七福神は、善國寺にある毘沙門天だけなのだが、後の6つは色々な店が七福神の役を務めていて、買い物をして7種類の判子を集めると、最後の店で割引が受けられるという。今でいうスタンプラリーのようなものだと思えば良い。

 物語は、それぞれ七福神の名を織り込んだ7つの章から成り立っており、それぞれ七福神の役を務める人物に関する出来事が描かれているのだが、最後まで読んでいくと、品川左衛門のなんとも遠大な計画が明かになる。なんと、この大泥棒は、毘沙門天の宝を狙っていたのだ。この宝というのが意外や意外・・・。

 もちろん最後には、品川左衛門は、我らがお奉行根岸さまに完敗するのだが、この盗みのために、これでもかというくらいの色々な布石を打っているのがすごい。一つ一つの出来事に、果たしてどんな意味があるのかを想像しながら読めば、一層この話を楽しめるだろう。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

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半七捕物帳 02 石灯籠

2020-09-07 10:38:23 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 岡本綺堂の代表作、半七捕物帳。この話は半七の最初の事件である。まだ半七が神田の吉五郎という岡っ引きの下で働いていた頃の物語だ。これも、「わたし」が明治になってから、半七老人の話を聞くと言う形になっている。半七は、日本橋の木綿店の通い番頭の子として生まれた。十三の時に父に死に別れ、母は父のあとを継いでもとの店に奉公することを期待していたが、半七は道楽の味を覚えて家を飛び出し、吉五郎の子分となったらしい。

 さて事件の方だが、日本橋の小間物屋菊村の娘・菊が、行方不明になった。菊村の主人は5年前に死に、今はその女房のお寅が女あるじだという。菊は一度帰ってきたがすぐまた居なくなってしまった。そしてお寅が殺害される。菊に殺されたという。本当に菊は親を殺害したのか。これを解決したのが半七というわけだ。

 半七が注目したのが、庭の石灯籠の笠の上にある小さな爪先だけの足跡。ここから半七は事件の解決まで繋げるのだが、この一件が基で、半七は吉五郎の後を継ぐことになってしまう。つまり、この事件あっての半七ということだ。


 小さな事実から推理して真相を炙り出す。まさにミステリーの原点といえよう。

 

☆☆☆☆

※初出は「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

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「紅藍の女」殺人事件

2020-08-28 09:59:26 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 


 一昨年、作者の内田康夫さんが他界されたが、本棚からこの本がたまたま出てきたので再読してみた。読んだのはかなり昔になるので、内容はすっかり記憶から消去されており、新たな気持ちで読むことができたといってよい。ちょうどテレビで冤罪事件の特集をやっていたが、この作品の核となっているのは35年前の冤罪事件。この作品も浅見光彦シリーズの一つだ。ヒロインはピアニストの三郷夕鶴。

 夕鶴は、鼻の脇に大きなホクロのある男から、父の伴太郎に紙片を渡してくれと言われる。その紙片には「はないちもんめ」と書かれていた。これが一連の事件の幕開けになる。

 まず夕鶴の親友の甲戸(かぶと)麻矢の父親の天堂が殺される。更には夕鶴に紙片を渡した男、夕鶴の叔母の梅子も。そこには35年前の因縁があった。

 紹介されるのは「はないちもんめ」という童歌。この歌や遊びは日本中にあるので、語源に関しては、いろいろな説があるが、ここでは「はな」=紅花説をとっている。紅花と言えば、山形県。これはかって、山形県で、紅花にちなんで「紅藍の君」と呼ばれた女性に関する哀しい事件だ。なお、「紅藍の君」という女性は出てくるが、別に被害者にはなっていない。というよりあまり作品中で存在感を発揮していない。

 三郷家は、今は東京に住んでいるものの、祖父の代までは山形に住んでいた。35年前に使用人の黒崎賀久男が殺人事件の冤罪を着せられ、無期懲役となって服役していたのである。この黒崎が出所したという。彼が冤罪を着せられたのは、供太郎や天堂などの偽証による。果たして事件は、冤罪を着せられた黒崎の復讐なのか。

 内田さんの作品は、関係者を実名で登場させることが多いがなぜかこの作品では仮名となっている。まず、三郷家は昔紅花で財を成したというが、調べてみると堀米家というのがあったので、ここをモデルにしたと思われる。また、この作品には、河北町の紅花記念館というものが出てくるが、このモデルは、明らかに河北町の紅花資料館だろう。

 驚くような、どんでん返しもあり、楽しんで読むことが出来たが、ひとつ疑問がある。光彦の友人だという霜原宏志だ。夕鶴と姉の透子のテニスのコーチだったという設定で、光彦と夕鶴の出会いも彼によるところが大きいが、いったい光彦とどういう関係なのか。内田さんはプロットを書かないことで有名だが、話の進み方次第では彼が犯人にされていたのかな?

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

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半七捕物帳 52 妖狐伝

2020-08-24 09:15:30 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 これも半七捕物帳に収められている話だ。タイトルからは、大妖怪がでるようなすごい話を連想してしまう。この話も語り手が、明治に入って、半七老人から思い出話を聞いている体裁となっている。

 最初に半七老人の話として、こんな一節がある。

江戸時代の鈴ヶ森は仕置場で、磔や獄門の名所です。


 名所なのか。江戸見物に来たら、鈴ヶ森は外せないとか・・・。

 さて事件の方だが、鈴ヶ森の縄手い悪い狐が出るという噂が立った。星の明るい夜のこと。巳之助と言う若い男が、若狭屋に勤めている、なじみの女郎・お糸に声をかけられた。お糸の顔がのっぺらぼうに見えた巳之助は、お糸の首を絞めたが、何者かにより昏倒させられてしまう。しかし、お糸は何事もなく若狭屋に勤めていた。これが、妖狐の事件だが、オチが明らかになると、「それ何やねん」と思う人もいるかもしれない。

 そしてこの話に収められているのが、天狗の話。京の織物商人・逢坂屋伝兵衛一行が鈴ヶ森で天狗を目撃する。顔が赤く、鼻が高い大天狗だ。口から火を吐いていたという。果たして狐が化けたものか。

 天狗が口から火を吐いていた。時代は幕末で黒船が沢山来ていたころ。天狗の居た場所には西洋葉巻の吸い殻が落ちていたとなると、もうそちらのネタは分かるだろう。

 タイトルはものすごく期待を持たせるが、内容は、なあーんだという感じ。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

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潮騒のアニマ 法医昆虫学捜査官

2020-08-20 09:59:19 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 本書は、法医昆虫学捜査官シリーズの5作目だ。舞台は伊豆諸島の神ノ出島。色々調べてみたが、この島は架空の島のようで、伊豆諸島には、神津島という島があるので、ここがモデルだと思われる。 

 このシリーズは法医昆虫学者の赤堀先生と、警視庁の岩楯警部補そして所轄から一人参加するというスタイルで行っている。今回は新島南署の兵藤晃平巡査部長。ちなみに新島署というのはあるようだが、新島南署はないようだ。新島署は、神津島も所管地区になり、駐在所もある。

 大体所轄から参加する警官は、死体に湧いた蛆ボールの洗礼を受けるのだが、今回、見つかった死体は一部を蛆に食われた跡はあるものの、割ときれいなミイラ。西峰果歩という若い女性だ。この死体の謎に挑戦するのが、我らが赤堀先生という訳だ。

 今回の主役は蛆ではなく、アリ。それもアカカミアリという特定外来生物である。あのヒアリの近縁種で、毒針を持っており、刺されると重篤なアナフィラキシーショックを起こすことがある。蠅はあまり登場しない代わりに、蠅のようなマスコミは登場し、この作品は、マスコミに対する皮肉にもなっているように思う。

 この事件が大量のミイラ死体の発見に繋がったり、別の殺人事件に繋がったりと以外な展開を見せる。そして犯人も。

 赤堀先生が犯人に殺されかけるというのもお約束。もちろんこの作品でもそういった場面がある。

「毎度のことだが、赤堀ほど体を張っている者はいない。しかし、このままでは駄目だと岩楯は思っていた。彼女の仕事の性質上、いつかは取り返しのつかない場面が訪れる。(以下略)」(p481)

 

☆☆☆☆

※初出は「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

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半七捕物帳 23 鬼娘

2020-08-12 09:58:42 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 鬼娘といってもラ〇ちゃんではない。そして、タネも仕掛けもある話だ。確かに犯人は娘だったのだが、服装も白地の浴衣に跣足(はだし)で、決して、トラ模様のビキニなんて来ていない。なにしろ江戸時代の話だ。あの時代にはビキニがあったとは考えられない。ましてや宇宙人などではない。

 と前置きはさておき、本作も岡本綺堂の「半七捕物帳」の中の1作だ。江戸で3件の連続殺人事件が起きた。被害者は若い娘で、いずれも喉笛をかみ切られていた。鬼なら、ムシャムシャと被害者を食べそうなものだが、みな喉笛をかみ切られただけ。

 この作品、ミステリーとしての出来はどうだろう。正直に言うとあまり良いとは言えない。読んでいると、なんとなくネタが想像できるのだ。

半七は袂をさぐって、鼻紙にひねったものを出すと、庄太は大事そうにそれを開けて見た。
「こんなものをどこで見つけたんですえ」
「それは露路の奥の垣根に引っかかっていたのよ。勿論、あすこらのことだから何がくぐるめえものでもねえが、なにしろそれは獣物の毛に相違ねえ」



 想像通りの結末になるのは、予定調和というところだろうか。この半七捕物帳には、最初ホラー風味の味付けがされ、結局タネも仕掛けもありましたというものが多い。この話もその芸風を継いだ作品と言えるかもしれない。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

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