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文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

半七捕物帳 24 小女郎狐

2021-06-30 23:14:51 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 これは、半七捕物帳のなかでも変わり種と言えるだろう。何しろ半七親分が捕物をしていないのだ。ここで取り扱われるのは、半七が書き留めていた話。

 江戸時代の裁判と言うと、TVドラマなどでは、お奉行様が好き勝手にやっているように見える。本書によれば、実は、奉行所には一定の「目安書」というものがあって、それに従って判決を下したというのだ。今で言えば判例集のようなものか。だから、これから外れたようん判決はなかなか出せなかったらしい。

 問題は、天領の代官所である。その土地の出来事は代官所で裁判するのが原則だが、手に余る事件の場合は、変な捌をして、後で譴責を受けないよう、「何々の仕置可申付哉、御伺」と江戸の方に問い合わせていたという。それに対し、奉行所は「御指図書」と言う返事を返していた。

 奉行所では後日の参考のため、「御仕置例書」と言う帳面に書きとどめて置く。この蝶面は係の他は見ることが出来ないのだが、半七は贔屓にしてくれる吟味与力から貸してもらって、珍しい事件を書き抜いていた。

 この話は、その「御仕置例書」に乗っている話で、今から170年以上も前の話である。

 下総国新石下村で、5人の若い男が猪番小屋で松葉でいぶされ即死、2人が半死半生となった。死んだ5人は罠にかかった子狐を松葉燻で責め殺している。これは、眷属の子狐が殺されたことに怒った小女郎狐のしわざか。そして事件は意外な展開を見せる。

 このように、最初はホラー風味で始まっているが、終わってみると不思議なことは何もなかったという、ある意味このシリーズの定番か。

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

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半七捕物帳 15 鷹のゆくえ

2021-06-29 21:14:22 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 先般伝七捕物帳のレビューを書いたが、アマゾンの青空文庫にはあれ1話しか見当たらなかったので。またまた、半七捕物帳に帰ってきた。半七捕物帳は明治になってから、半七老人が思い出話を語るという形式となっており、この話も例外ではない。また、最初はスリラー仕立てになっている場合が多いが、この話に限ってはそんなものは見られない。

 ここで扱われる事件は、鷹匠が鷹を逃がしたというもの。鷹は庶民が飼うことはできず、鷹は将軍家のものだ。そしてそれを預かっているのが鷹匠である。身分は決して高くなかったが、将軍家の鷹を預かっているので威張り散らし、民衆からは嫌われていた。その鷹匠のひとり、三井金之助が、お鷹馴らしに野外に出て品川の丸屋という遊女屋へ泊った時の事。金之助を接待したお八重という抱妓は、金之助の人柄が案外良かったことからすっかり仲良くなり、朝方いちゃいちゃしていた。それに驚いた鷹が逃げ出したという訳である。

 事件が公になれば、当事者は切腹。死罪となるものも出る。なんとか、事を穏便に収めようとする半七親分も珍しい。この話では、殺人事件のようなものは起こらない。半七捕物帳の他の話を考えると異色と言っていいかもしれない。最後は、半七親分の気風の良さが出ているかな。

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

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乳を刺す 黒門町伝七捕物帳

2021-06-10 08:14:35 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 最近半七捕物帳をよく読んでいるが、これは半七でなく伝七。中村梅之助さん主演のテレビドラマを記憶している人も多いと思う。

 伝七親分の十手には紫の房が付いている。歴史に詳しい人なら、ここで「あれ?」と思うのではないか。そもそも岡っ引きの十手に房を付けることは認められていない。ましてや紫の房など、普通は、岡っ引きの雇い主である同心を飛び越え、与力にしか許されないものである。

 これは、伝七の雇い主は奉行(遠山の金さん)であり、特例として与力なみの権限が与えられているという設定だからだ。もちろん、身分にうるさい江戸時代のこと、実際にはこんなことはなかっただろうが、あくまで、フィクションとして楽しめばいいと思う。

さて、物語の方だが、大奥に勤めている伊吹屋の娘お由利が、実家に宿退りをしている時、何者かに殺害される。タイトルの「乳を刺す」というのは、お由利が、乳房の下を心臓まで達するように一突きで殺されたことによる。これを解決するのが伝七親分という訳だ。そして解き明かされるのは、ただただ悲劇といってよいだろう。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

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傷痕のメッセージ

2021-05-26 07:33:27 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 天久鷹央の推理カルテシリーズなどで知られるミステリー作家であり、現役の医師でもある著者による本書。知念さんは、最近ワクチンに関する事項をツイッターで発信しているので、私も読ませてもらっている。

 水木千早は外科医である。純正医大を卒業後2年間の初期研修後純正医大第一外科医局に入って3年間外科医として勤務し、今は慣例に従い、病理部で1年間の修行中。彼女の指導医が、大学の同級生だった刀祢紫織。

 千早の父・穣は末期がんのため、彼女の勤める病院に入院中だが、千早とは微妙な関係だった。その穣がある時見舞いに来た千早に言った言葉。
「たんに血が繋がっているからといって、親子になれるわけじゃない」(p26)

 穣の血が繋がった子供は、自分しかいないはず。千早はそれを自分に対する拒絶の言葉だと思い落ち込む。

 さらに、穣は奇妙な遺言を残していた。自分が死んだら解剖してくれというのだ。穣の胃には、内視鏡で暗号が刻まれていた。千早は、警備員とばかり思っていた穣が、元刑事だったことを、彼女に接触してきた警視庁捜査一課の刑事である桜井公康から知らされる。穣が追っていたのは、「千羽鶴」と呼ばれる連続幼女殺人鬼。28年前のことだ。そして、穣の胃に刻まれた暗号の示す場所には、千羽鶴の5番目かつ最後の被害者となる1歳になったばかりの陣内桜子と目される遺骨が埋まっていた。穣の死後千羽鶴は28年の時を超えて犯行を再開する。ただし、今度のターゲットは幼女ではなく大人の女性だ。

 なぜ、穣は陣内桜子の遺骨の場所を知っていたのか?彼の「たんに血が繋がって・・・」と言う発言の真意は?なぜ千羽鶴は28年の時を超えて再び犯行を重ね始めたのか。

 現役の医師らしく、豊富な医学的な知識が散りばめられている。もちろん、本筋のミステリー部分も意外性満載。読みだしたら止まらなくなる良質の医学ミステリーだろう。もうひとつ、事件を通じて、大学の同級生だったとはいえ、さほど親しくもなかった千早と紫織が鉄壁のコンビになっていく。これは二人を主人公にしたシリーズ化の予感。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

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特等添乗員αの難事件 VI

2021-03-08 09:04:08 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 なんとこのシリーズ7年ぶりの新作である。今回のテーマはK-POP。あまりの懐かしさに思わず買ってしまったが、表紙イラストの感じがいままでとは違う。これまでは浅倉絢奈は、清原紘さんの描く清楚な感じが頭に焼き付いていたのだが、この巻はイラストレータが変わり、なんだか濃くなっている。肉食系の浅倉絢奈と言った方がいいかもしれない。絢奈と並んでいるのは同期の榎本妃華莉(ひかり)と松永美波だろう。この3人が韓国ツアーに同行することになる。

 韓国風メイクをオルチャンメイクというらしい。松岡さんの作品はこうした新しいことを知るのに便利だ。ところで絢奈たちが濃く見えるのは韓国風のメイクをしているからかもしれない。次のような一節がある。ツアーの参加者が絢奈たち3人に言ったセリフだ。

「お三方ともすごいメイク・・・・・・。どんなグループのコスプレですか」(p62)



 ずっと清原さんのイラストを見ている身としては違和感がありありなのだが。そういえば、昨年出た万能鑑定士Qシリーズ新作の表紙イラストも清原さん以外の人が手掛けていた。新作ということで、絵師を変えたのだろうか。

 描かれるのは、韓国ツアーでツアー客が行方不明になった話。そしてブラックな韓国芸能事務所。私は、韓流にもK-POPにもまったく興味がないので、表紙イラストを手掛ける人が交代したことの方が影響が大きかった。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

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半七捕物帳 38 人形使い

2021-03-04 08:09:53 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 

 これも半七捕物帳の一話。半七捕物帳は、前半ホラー風味で、実は不思議なことは何もなかったというようなストーリーのものが多いが、この話は、不思議なことが起こり、不思議は不思議として謎解きのようなものは特にない。

 今回の話の中心となるのはあやつり人形芝居一座の若竹紋作と吉田冠蔵の二人。この二人、最初は仲が良かったが、ある事件を境に犬猿の仲となった。この原因と言うのが不思議なことである。二人が使っている人形が夜中に斬りあっているのを紋作が目撃したのである。自分の人形が斬られる寸前、紋作は我を忘れて、相手の人形を煙管で殴った。それが原因で冠蔵の人形に大きな疵ができ、二人の仲が悪くなったのである。

 この紋作と冠蔵の二人が、死体で発見された。ここからが、半七親分の出番というわけである。ああじゃない、こうじゃないと、半七親分、結構この事件にはてこずったようだが、最後はなんとか解決している。その謎解きは意外なものだった。ただ、人形の斬りあいについての謎解きはなく、もしかすると紋作が夢でもみたのではないのだろうか。ただ、このあとにも不思議なことが紹介されており、ホラー的な余韻を残している。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

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泣くなブタカン!: 池谷美咲の演劇部日誌

2021-02-14 11:17:54 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 本書は、「ブタカン」シリーズの完結編となる。何度も言っているようだが、「ブタカン」とは豚の缶詰ではない。「舞台監督」の略である。

 本作では、主人公の美咲も3年生になった。そして2巻までの3年生は卒業。それぞれの進路に。前部長の早乙女君だけは浪人が確定して、予備校通い。

 この巻では、美咲が演劇部に入るきっかけとなった親友のナナコが復帰する。彼女は、珍しい病気で長期入院していたため、2年生への編入だ。

 この巻でも事件が起きる。謎の脅迫文が、演劇部のスタッフの一人であるトミーの下駄箱に入っていたり、1,2年が5人、自分たちの演劇をやりたいので同好会を作り、大量脱退したり。そして3年生も夏休みは受験に専念するため予備校に行きたいと、例年文化祭で講演しているのに、夏休前に講演することになる。そして、元子役で演劇部にはなくてはならない存在になったジュリアにも不審な動きが。おまけにせっかく復帰したナナコもオーストラリアに留学するという。

 前部長で卒業生の早乙女先輩。大学にはどこもふられたようだが、浪人生活がよほど暇なのか、演劇部に入りびたり。でも美咲のことは気に入っているようだ。大学でもいっしょに演劇をやる気満々である。

「最低でもあと四年はやるぞ。そしたら、いつか、『愛してる』の『あ』ぐらいは言ってやってもいい」(p184)



 その時は、「はっ?」となった美咲もまんざらではないようで、結局は早乙女と一緒に演劇をやりたいらしい。

「・・・・・・『愛してる』の『あ』くらいは、言わせてあげてもいいです」(p298)



 さて、このあと二人の関係はどうなるのか。余韻を持たせての完結。大学編も読んでみたいものだが、もっとラブコメ度が高くなるのだろうか。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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風のなかの櫻香

2021-02-03 08:49:37 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 奈良斑鳩の法隆寺に隣接して、中宮寺がある。聖徳太子が開基とも伝えられる、歴史ある門跡尼寺である。この中宮寺をモデルにした尊宮寺に、櫻香(さくらこ)という少女が、施設から引きとられる。内田康夫による浅見光彦シリーズのひとつ、「風のなかの櫻香」(徳間文庫)だ。

 尊宮寺門跡の養女として、厳しくも大切に育てられた櫻香だが、彼女が中学生になると、「櫻香を出家させるな」という謎の手紙が届いたり、彼女の周りに不審な人物がうろついたりといった出来事が起こり始める。どうも、櫻香には、何か出生に関する秘密があるようだ。光彦は、尊宮寺門跡と懇意な母の雪江のいいつけで、事件の背後を調べ始める。

 この作品に女性はたくさん登場するが、やはりヒロインはこの櫻香だろう。「しまなみ幻想」では、15歳の村上咲枝がヒロインだったが、櫻香は、中学生になったばかりということだから、咲枝よりもっと若い。光彦には、さすがにロリコンの気は無いようで、このシリーズに付き物の、ヒロインとのほのかなロマンスの香りというものは無かった。しかし、櫻香はいまどきの中学生とは思えないようなしっかりした少女で、なかなか好感の持てるキャラである。もっと成長した姿を見たいと思うが、このシリーズ100作を超えていても、ずっと光彦が33歳の時の話という設定なので無理だろうな。

 事件の方は、奈良、京都、鳥羽を結ぶ不思議な因縁の糸が櫻香の一点に収束していく。作品中でも使われていたと思うが、まさに仏縁という呼び方が相応しいような驚くべき人間関係が明らかになる。そして、最後に見せたのは、光彦流の粋な解決。光彦は、事件を明らかにする際にも、周りの人たちへの影響を考慮したり、事件に至った事情を斟酌し、杓子定規な解決法は取らないのである。これが、光彦を他の名探偵と一線を画している大きな魅力だ。

 ところで、中宮寺の本尊は、てっきり弥勒菩薩だと思っていたのだが、この作品には、如意輪観音とあった。調べてみると、中宮司のホームページには、確かに如意輪観音と明記されている。弥勒菩薩という見方もあるようだが、如意輪観音というのが寺の公式見解だとは知らなかった。こういった豆知識が得られるのも、この作品の大きな特徴である。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

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半七捕物帳 05 お化け師匠

2021-01-31 10:33:13 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 なんだか、子供のころのすり込で、お化けと聞くと、あとにQ〇郎と続けそうになるのだが、これは、半七捕物帳の中の話の一つで「お化け師匠」。

 お化け師匠とは、踊りの師匠である歌女寿(かめじゅ)のことだ。姪の歌女代を娘分としたのはいいが、それはゆくゆくは、自分の食い物にしようという下心から。歌女代に中国辺りの大名の留守居役から、100両で旦那取りの話があったとき、歌女代は体の弱さを理由に首を縦に振らなかったため、その話もやがて立ち消えになった。

 それからが酷い。そのことを恨みに思った歌女寿は、もともと体が弱く、歌女代が床に伏せぎみになったにも関わらず、医者にも見せずにしいたげたのだ。とうとう歌女代18歳の命を散らしてしまった。

 歌女寿がお化け師匠と呼ばれるのは、歌女代の幽霊が出るという噂が広まったからだ。

 そのお化け師匠が殺された。それも、首に蛇がまきついて、いかにも絞殺されたようなのだ。果たして死んだ歌女代の怨念が歌女寿に復讐をしたのか。

 この事件を調べるのが我らが半七親分というわけだが、さすが、半七親分。現場を確認すると子分に池鯉鮒(ちりゅう様)のお札売りを探せと命じる。

 ここで少し説明しておこう。池鯉鮒様のお札とは、知立(ちりゅう)神社のお札で、それには蝮や蛇除けなどの効果があると言われている。知立神社は今でも愛知県にあり、江戸時代は池鯉鮒は、東海道53次の39番目の宿場だった。

 この話もこのシリーズの他の話と同様、最初はホラー風味で始まり、最後はミステリーとなって完結する。半七親分の名推理を楽しもう。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

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恋よりブタカン!: 池谷美咲の演劇部日誌

2021-01-23 10:08:56 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 

 「浜村渚の計算ノート」シリーズなどで知られる著者の「ブタカン」シリーズの第二弾。「ブタカン」といっても豚の缶詰ではない「舞台監督」のことだ。これは都立駒川台高校二年の池谷美咲の物語である。

 ヒロインの池谷美咲は、父が餃子屋の経営に失敗して、借金漬けで極貧の暮らし。自分もバイトに明け暮れ部活どころではない生活だったが、彼女が2年になったころ、ひょんなことから借金を完済でき、遅ればせながら部活で青春を謳歌する余裕ができるのである。親友のナナコが病に倒れたことから、その代わりに演劇部でブタカンをやることになった。この演劇部がちょっと変わっていて、キャスト(演じる人)は全部男子でスタッフ(裏方)は全部女子なのである。

 文化祭でやった「白柚子姫と六人の忍者」が好評で、演劇の地区大会に出ることになった。そのためには上演時間を1時間に収める必要があるが、このままやれば大幅に時間オーバー。そこで登場する忍者を一人減らして「白柚子姫と五人の忍者」にすることを考えたのだが、果たして誰を削るのか。

 脚本を早乙女先輩が書き直しているときちょっとした事件が起こる。なぜかマネキンの右手がUSBメモリになっており、これを使って新脚本を書いているのだが、この右手が盗まれては返却されるということが繰り返された。脚本の内容に対する見立てを付与されて。

 地区大会に入っても事件が起きる。美咲が他校の大道具をケチャップで汚した疑惑をかけられたり、早乙女先輩の脚本にパクリ疑惑がかけられたり。いったい地区大会はどうなってしまうのか。

 ところで、この話には高校演劇界で名が知られているという下條という教師が出てくる。これが、学校も違うのになんだか上から目線で偉そうなのだ。私だったら絶対にこんなのがいる世界はいやだと思うだろう。

 タイトルにある「恋よりブタカン」は、美咲が主役でイケメン西野先輩の言うこと夢うつつに聞いたことへの勘違いからきている。二人と早乙女先輩は、夜公園で話し合うことになったが急に雨が降り出し、2人は遊具に避難する。早乙女もある事情があって公園にはこられなかった。
 眠気の中で美咲が聞いたのは、
「━ ・・・・・・わいいな・・・・」
「━ ・・・・・・きかな、て思うよ、お前のこと」
「━つきあってみないか・・・・・・」(p58)
ここだけ読むと、西野が美咲のことを好きだと思うだろうが、実は全く違うことを言っていた。美咲ちゃん、ドキドキだったのだが、見事玉砕というお話。

 青柳作品らしく、そこかしこに笑える部分がちりばめられ、面白い話だと思う。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

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