<Part I から続く>
幕が開く前に、右隣にお座りになっていた80歳代と思しき女性と少しお話。
彼女のオペラヘッド・デビューは15歳の時で、
『エルナーニ』は、なんと、メトが1966年に現在の所在地であるリンカーン・センターに移る前、
39丁目とブロードウェイにあったいわゆる”Old Met ”と呼ばれているオペラハウスで
鑑賞して以来だそうで、その時のキャストは、ウォーレン、ミラノフを含む豪華キャストだったそうです。
(今、ネットで調べてみたのですが、これはもしかして、1956年の公演でしょうか?
ならば、エルナーニがデル・モナコ、エルヴィーラがジンカ・ミラノフ、
ドン・カルロがレナード・ウォーレン、シルヴァがチェーザレ・シエピ、
指揮がミトロプーロスという、ものすごい超ウルトラ豪華キャストです。
確かに、『エルナーニ』、こういう豪華キャストじゃないと、再び観にいく気にならないかも、、。
そんな豪華なキャストで見た事があるなら、今日のキャスト、きついでしょうね。
この女性が一幕で眠りの国に行かれていた理由がこれでわかりました。)
しかし、こうして、遺産というのか、長い歴史が受け継がれていくのがオペラの楽しみの一つでもあり、
こういう少しお歳を召したオペラヘッドの方とお話するのが私は大、大、大好きです。
第二幕
シルヴァ家の城。
まもなくシルヴァとエルヴィーラの婚礼の宴が始まろうとしています。
どうやらエルヴィーラは、エルナーニを守るためにシルヴァと結婚することにしたらしい、、と思っていたら、
そこに再び、今度は巡礼者に変装したエルナーニ登場。
着飾った人々の間に、ぬぼーっとネズミ男のようないでたちで立っているエルナーニは相当怪しいですが、
一幕の、あんた!どうやって城にまぎれこんだ!?という格好に比べると、
これはなかなか賢い作戦。
うむ、エルナーニも少しは頭を使えるようになったか、と思ったら、やっぱり猿は猿。
シルヴァに手をひかれ、ウェディング・ドレスを付けて登場したエルヴィーラを見て、
こらえきれず、巡礼の衣装をかなぐりすててしまいます。ありゃりゃ。
またしても唐突、一幕ではそんな話、微塵もなかったじゃないか!と言いたくもなりますが、
エルナーニ、どうやら、インターミッションの間に、盗賊として指名手配の身になっており、
その首をとったものには賞金が与えられるそうなのであります。
(これは多分に王が仕組んだものと考えられます。本当に心憎い19歳なのだ!)
エルヴィーラが他の男と結婚するとなった今、完全に自暴自棄モードのエルナーニは、
”さあ!私の首を結婚の祝いにとるがよい!!”と叫んで大暴れしたうえに、
自分の一族の身の上話まで聞かせる始末。
ここは三重唱でそれぞれが自分の気持ちを吐露するという、
ヴェルディが『リゴレット』の四重唱で大輪の花を咲かせた手法の原点が見られます。
一幕が終わって、どんどん自分の後の登場人物がレベルアップしていくのに危機感を覚えたか、
ジョルダーニがこの幕から少し安定した歌を聴かせるようになってきて、
三重唱はなかなかの出来。
さて、大人のシルヴァは、エルナーニの話に心動かされるものがあったのか、
はたまた考えるところがあったか、エルナーニの挑発には乗らず、お付きのものをひきつれ、
”さあ、エルヴィーラ、お前も来なさい。”といいながら、城の中へ。
ここで、”お前も来なさい”と言われているのに、軽くシカトのエルヴィーラ。
都合よく、エルナーニと二人きりになるチャンス到来!!!
シルヴァもすぐにエルヴィーラがついて来ていないことに気付きそうなものなのに、、。
ああ、ご都合主義のベル・カント万歳!
さて、二人きりになった途端、
”なんだよー!お前はシルヴァの奴と結婚する気だったのかよ!”ときれるエルナーニ。
ここでエルヴィーラが吐く言葉が奮ってる。
”いいえ、あなたが死んだと思っていたのよ(その根拠は一体、、?)
だから、私も祭壇の前まで行ったら死のうと思っていたんです。”
エルヴィーラ、嘘付けっ!!!!
私も”シルヴァの奴と結婚する気だったじゃねえか!”に一票だ!!
本当は、”あなたが死んだから、まあ、シルヴァでいいかと思って、、”じゃないのか?
(しかし、彼女の名誉のためにふれておくと、この前に、ティアラも指環もつけていないことを
シルヴァに指摘される場面があるので、一応、婚礼に気乗りはしていないらしい。)
しかし、こんなハチャメチャな言い訳にも情をほだされ、
”そうだったのか!”とひしっとエルヴィーラと抱き合うエルナーニはやっぱり猿です。
一方、相当歩いてから、”エルヴィーラがついてきとらんじゃないか?!”と
気付いたらしいシルヴァが一人で舞い戻って来ます。
そこで目にしたものは若い二人の抱擁!
この時にこそ、シルヴァの心に本格的な復讐の種が撒かれたといえます。
彼の ”(首をとるより)もっと恐ろしい復讐を No, vendetta piu tremenda "
という言葉が怖いです。
フルラネットは怒りをあからさまには表現せず、
まるで心の中でゆっくりと小さい種火が段々大きな炎となっていくような表現で、ひきこまれました。
やがて王ドン・カルロが現われると、シルヴァはエルナーニを城の中にかくまいます。
それもこれも、本音は、ドン・カルロなんかにエルナーニに復讐する役をとられてたまるか、
俺が自分の手で復讐を下すのだ!という思いからなのではないでしょうか?
シルヴァ、怒らせると、かなり怖いおやじです。
王に、”犯罪人をかくまうと、叛逆の罪に問うぞ!”と脅されても、
シルヴァは、”それならば私の頭をおとりください”と平然とのたまう。
王がそんなことは出来ないのを承知の上で。このあたりの駆け引きはなかなか面白いです。
エルナーニのような子猿には絶対真似の出来ない大人の勝負。
エルヴィーラがことをおさめようと進み出ると、王は彼女を担保に引き下がります。
隠れ場所から現われたエルナーニは王がエルヴィーラを連れ去ったことを聞き、
”彼は我々の恋敵なのに、おめおめと彼女を連れ去られるとは何てことをしたんだ!”と激昂。
しかし、最終的には王に頭が上がらないシルヴァには、
エルナーニの隠れ場所についてすっとぼけることはできてもそれが限界。
エルヴィーラを引き止めることが出来たはずがありません。
そこで、二人は一致団結して、彼女を王から取り戻すことを誓います。
エルナーニはその誓いの印として、角笛をシルヴァに預け、
”この角笛が鳴るときには私は自らの命を絶つ”と約束します。
つまり、シルヴァに命を預けたわけです。
ああ、そんな約束さえしなければ、、、。エルナーニの脳たりんぶりには本当にあきれかえるばかり。
この角笛をシルヴァに預けるシーンの音楽は前奏曲にも登場し、
このオペラのキーの場面となっています。
インターミッションをはさんで、第三幕の開始前には、左隣にお座りのご夫婦と会話。
このご夫婦もオペラヘッズで、オペラハウスにもよく足を運ばれているようですが、
またライブ・イン・HDもかなりの頻度で楽しまれているとのことでした。
ライブ・イン・HDは、劇場にいる時とはまた全然違う楽しみ方ができるのがいいですよ、とおっしゃる。
私も映画館で観てみたい!!
続けて、ご主人の方が、今シーズンで一番良かった公演は?とお尋ねになるので、
”それはもう10/27のマチネの『蝶々夫人』がダントツでした。”と言うと、うんうんとうなずかれ、
”『ピーター・グライムズ』はどう思われました?”と少しこちらの反応を伺うようにお聞きになるので、
”いやー、あれも素晴らしい作品かつ公演だと思いました!大好きです。”と言うと、
おお、あなたも!!!と嬉しそうな表情をされ、そこからひとしきり『ピーター・グライムズ』の話題に。
『ピーター・グライムズ』には、他の人はどう感じただろう?
これが素晴らしい作品だと思うのは私だけ?と見た側に躊躇させるものがあるようですが、
私がお話させていただいた方はみな絶賛されています。
第三幕
エクス・ラ・シャペル(現ドイツのアーヘンの旧フランス名)にある大聖堂。
ここにはカール大帝が埋葬されています。
舞台には大きな台座にのった、4メートルほどもありそうな馬の銅像が。
闇に包まれる中、神聖ローマ帝国の次の皇帝に選ばれるのは自分か?という期待のもと、
富と権力がいかに無益であるか、もしも自分が選ばれたなら、むしろ、すぐれた統治者になりたい、と
夢を語る ”おお、青春時代の夢と偽りの幻影よ Oh, de' verd'anni miei ”。
歌の内容は感動的ではありますが、よくよく考えてみると、
この急な性格の転換ぶりはどうなんでしょうか?
ハンプソンの歌は安定感はあるのですが、やや深みに欠ける気もします。
その意味では、フルラネットと対照的な歌唱。
人の気配に、ドン・カルロは銅像の台座に身を隠します。
あらわれたのはエルナーニとシルヴァの部下たち。
エルヴィーラを取り戻すには、王を殺すしかない!と、これまた非常に飛躍した理論により、
暗殺という不穏な計画のもとに集まった彼らです。
エルナーニが王を殺害する役回りを与えられるのですが、部下たちがこれでスペインにも
ちょっとはましな未来が訪れるかも、と歌う個所があるのを見ると、
ドン・カルロ、一体今までどういう統治を行っていたのだ?と思わされます。
ここで歌われる陰謀の合唱では、やっと最近のメトの男性合唱らしい勇壮な響きと、
ぴたっとタイミングのそろった歌唱が出て一安心。
こうして聴いてみると、特にテノールのパートの水準の上昇が著しいように思います。
やがて大砲がなり、ドン・カルロが神聖ローマ帝国皇帝カール5世となったことが知らされます。
ここで、いきなりドン・カルロが隠れ場所から出てくるのですが、
ということは、彼がもはやアンタッチャブルな存在になった、ということを表現していると思われ、
スペイン王というだけでも高い地位ですが、神聖ローマ帝国というのはこれまた格別な地位ということなのでしょう。
さて、ついさっき、”皇帝になったら~”などと、あんなにしおらしく歌っていたはずのドン・カルロは、
喉元過ぎれば熱さを忘れる、とばかりに、
”お前ら、俺様に謀反などを図りおって!ちんぴら(エルナーニの部下)は牢獄行き、
貴族(シルヴァ寄りの人々)は処刑だ!!”と吠える。
そこに、”俺様ももとは貴族だ!だから処刑にしてくれ!”と訴えるエルナーニ。
そう、彼も、ドン・カルロに転覆されなければ、スペインの貴族として存在していたはずの人間なんである。
そのあたりのバックグラウンドから来る堂々とした押し出しが、
山賊に慕われ、ボスに奉られた原因の一つでしょうか?
王の皇帝即位を祝って集まった人々の中にいたエルヴィーラが、
”あなたには今やこのうえない力が与えられました。
今、慈悲をひとつ人々にかけることで、さらにあなたの栄光を輝けるものとするのはいかがでしょう?”と、
なかなかに上手い方法で王、いえ今や皇帝でした、に恩赦を進言。
皇帝になって気分は最高のドン・カルロなので、エルヴィーラの言葉に従い、全員の恩赦を決定。
さらに喜びをわかちあうエルヴィーラとエルナーニを見て、二人の結婚まで許してしまうのである。
あれ?皇帝、、、
あなたのエルヴィーラへの思いはそんなもんだったんですかい??!!
かように、この作品では、ベル・カント系のむちゃくちゃなストーリー作りが炸裂し続けます。
しかし、これはベル・カント・レパートリーではなく、ヴェルディの作品だったんだ、
と現実に引き戻されるのは、ひとえにこの後、第四幕でのシルヴァ叔父の行動のおかげです。
第四幕
サラゴサのエルナーニ宅。メトの解説によれば、”宮殿”となっている。
(宮殿持ちなのか?落ちぶれた貴族とはいえ、山賊のくせに。
それとも、ドン・カルロからの結婚の贈り物??)
このメトの舞台では、その宮殿(宮殿そのものは観客からは見えない)から
降りてくる石造りの大きな螺旋階段と、宮殿を守っている石壁が舞台装置。
めでたく結婚することになり幸せ絶頂のはずのエルナーニとエルヴィーラですが、
すでにエルナーニはこの幸せが長くは続かないであろうことを予感しています。
自分の人生には常に呪いがつきまとい、そこから逃れることはできない、と歌うエルナーニ。
猿の次に、鬱モードとは、、、やれやれ。
しかし、彼の予感は正しい。
聴こえる角笛の音は、シルヴァがすぐそこまでやって来ているということ、、。
この期に及んでも、エルヴィーラを手放すことは絶対に出来ないシルヴァ。
このシルヴァという人物は、実は老いるということに非常に恐れを抱いている人物ではないかと思います。
だからこそ、あえて矍鑠(かくしゃく)とし続けているし、
エルヴィーラへの一途な恋もその老いるということを否定するための大事なファクターとなっていて、
エルヴィーラを失った時には、一気に老け込んで、そのまま死んでしまいそうな気すらします。
心配するエルヴィーラに口実をつけて場を去らせたエルナーニのもとに、
とうとうシルヴァがあらわれ、”誓いどおりに命を絶ってもらおう。”と言います。
このエルナーニの人生で、最も幸せな瞬間に!
しかし、約束は約束、と片手に毒薬、片手に剣を持ち、どちらかを選ばせるシルヴァ叔父。非情です!!
ついに観念し、剣を握ったエルナーニの元にエルヴィーラが戻ってきます。
エルナーニは剣で胸をつき、エルヴィーラの腕の中で息絶えます。
その後、フルラネット扮するシルヴァが、何の良心の呵責もない様子で、
石畳の螺旋階段をゆっくり登っていく様子に、背筋が寒くなるものを感じました。
全幕通して、シルヴァの心理描写という意味では、
後のヴェルディの数々の名作を彷彿とさせるものがあり、なかなか見ごたえがありましたが、
少しストーリーに色々詰め込みすぎたか、舞台で見ても
やはりストーリーの展開が唐突すぎるように思える個所がそれはもういくつもありました。
衣装とセットの素晴らしさばかりに気が向くということ自体何をかいわんや。
歌唱に関しては、歌を芸と同義に解釈するなら、フルラネットが一つも二つもぬきんでている感じ。
しかし、シルヴァだけではなく、他のキャストも充実していなければ、
この演目をもう一度見るという気にはなれないかも。
それこそ、デル・モナコ、ウォーレン、ミラノフ、シエピのような強烈なキャストでなければ。
Marcello Giordani (Ernani)
Sondra Radvanovsky (Elvira)
Thomas Hampson (Don Carlo)
Ferruccio Furlanetto (Don Ruy Gomez de Silva)
Wendy White (Giovanna)
Keith Miller (Jago)
Ryan Smith (Don Riccardo)
Conductor: Roberto Abbado
Production: Pier Luigi Samaritani
Set Design: Pier Luigi Samaritani
Costume Design: Peter J. Hall
Grand Tier B Odd
ON
***エルナー二 ヴェルディ Ernani Verdi***
幕が開く前に、右隣にお座りになっていた80歳代と思しき女性と少しお話。
彼女のオペラヘッド・デビューは15歳の時で、
『エルナーニ』は、なんと、メトが1966年に現在の所在地であるリンカーン・センターに移る前、
39丁目とブロードウェイにあったいわゆる”Old Met ”と呼ばれているオペラハウスで
鑑賞して以来だそうで、その時のキャストは、ウォーレン、ミラノフを含む豪華キャストだったそうです。
(今、ネットで調べてみたのですが、これはもしかして、1956年の公演でしょうか?
ならば、エルナーニがデル・モナコ、エルヴィーラがジンカ・ミラノフ、
ドン・カルロがレナード・ウォーレン、シルヴァがチェーザレ・シエピ、
指揮がミトロプーロスという、ものすごい超ウルトラ豪華キャストです。
確かに、『エルナーニ』、こういう豪華キャストじゃないと、再び観にいく気にならないかも、、。
そんな豪華なキャストで見た事があるなら、今日のキャスト、きついでしょうね。
この女性が一幕で眠りの国に行かれていた理由がこれでわかりました。)
しかし、こうして、遺産というのか、長い歴史が受け継がれていくのがオペラの楽しみの一つでもあり、
こういう少しお歳を召したオペラヘッドの方とお話するのが私は大、大、大好きです。
第二幕
シルヴァ家の城。
まもなくシルヴァとエルヴィーラの婚礼の宴が始まろうとしています。
どうやらエルヴィーラは、エルナーニを守るためにシルヴァと結婚することにしたらしい、、と思っていたら、
そこに再び、今度は巡礼者に変装したエルナーニ登場。
着飾った人々の間に、ぬぼーっとネズミ男のようないでたちで立っているエルナーニは相当怪しいですが、
一幕の、あんた!どうやって城にまぎれこんだ!?という格好に比べると、
これはなかなか賢い作戦。
うむ、エルナーニも少しは頭を使えるようになったか、と思ったら、やっぱり猿は猿。
シルヴァに手をひかれ、ウェディング・ドレスを付けて登場したエルヴィーラを見て、
こらえきれず、巡礼の衣装をかなぐりすててしまいます。ありゃりゃ。
またしても唐突、一幕ではそんな話、微塵もなかったじゃないか!と言いたくもなりますが、
エルナーニ、どうやら、インターミッションの間に、盗賊として指名手配の身になっており、
その首をとったものには賞金が与えられるそうなのであります。
(これは多分に王が仕組んだものと考えられます。本当に心憎い19歳なのだ!)
エルヴィーラが他の男と結婚するとなった今、完全に自暴自棄モードのエルナーニは、
”さあ!私の首を結婚の祝いにとるがよい!!”と叫んで大暴れしたうえに、
自分の一族の身の上話まで聞かせる始末。
ここは三重唱でそれぞれが自分の気持ちを吐露するという、
ヴェルディが『リゴレット』の四重唱で大輪の花を咲かせた手法の原点が見られます。
一幕が終わって、どんどん自分の後の登場人物がレベルアップしていくのに危機感を覚えたか、
ジョルダーニがこの幕から少し安定した歌を聴かせるようになってきて、
三重唱はなかなかの出来。
さて、大人のシルヴァは、エルナーニの話に心動かされるものがあったのか、
はたまた考えるところがあったか、エルナーニの挑発には乗らず、お付きのものをひきつれ、
”さあ、エルヴィーラ、お前も来なさい。”といいながら、城の中へ。
ここで、”お前も来なさい”と言われているのに、軽くシカトのエルヴィーラ。
都合よく、エルナーニと二人きりになるチャンス到来!!!
シルヴァもすぐにエルヴィーラがついて来ていないことに気付きそうなものなのに、、。
ああ、ご都合主義のベル・カント万歳!
さて、二人きりになった途端、
”なんだよー!お前はシルヴァの奴と結婚する気だったのかよ!”ときれるエルナーニ。
ここでエルヴィーラが吐く言葉が奮ってる。
”いいえ、あなたが死んだと思っていたのよ(その根拠は一体、、?)
だから、私も祭壇の前まで行ったら死のうと思っていたんです。”
エルヴィーラ、嘘付けっ!!!!
私も”シルヴァの奴と結婚する気だったじゃねえか!”に一票だ!!
本当は、”あなたが死んだから、まあ、シルヴァでいいかと思って、、”じゃないのか?
(しかし、彼女の名誉のためにふれておくと、この前に、ティアラも指環もつけていないことを
シルヴァに指摘される場面があるので、一応、婚礼に気乗りはしていないらしい。)
しかし、こんなハチャメチャな言い訳にも情をほだされ、
”そうだったのか!”とひしっとエルヴィーラと抱き合うエルナーニはやっぱり猿です。
一方、相当歩いてから、”エルヴィーラがついてきとらんじゃないか?!”と
気付いたらしいシルヴァが一人で舞い戻って来ます。
そこで目にしたものは若い二人の抱擁!
この時にこそ、シルヴァの心に本格的な復讐の種が撒かれたといえます。
彼の ”(首をとるより)もっと恐ろしい復讐を No, vendetta piu tremenda "
という言葉が怖いです。
フルラネットは怒りをあからさまには表現せず、
まるで心の中でゆっくりと小さい種火が段々大きな炎となっていくような表現で、ひきこまれました。
やがて王ドン・カルロが現われると、シルヴァはエルナーニを城の中にかくまいます。
それもこれも、本音は、ドン・カルロなんかにエルナーニに復讐する役をとられてたまるか、
俺が自分の手で復讐を下すのだ!という思いからなのではないでしょうか?
シルヴァ、怒らせると、かなり怖いおやじです。
王に、”犯罪人をかくまうと、叛逆の罪に問うぞ!”と脅されても、
シルヴァは、”それならば私の頭をおとりください”と平然とのたまう。
王がそんなことは出来ないのを承知の上で。このあたりの駆け引きはなかなか面白いです。
エルナーニのような子猿には絶対真似の出来ない大人の勝負。
エルヴィーラがことをおさめようと進み出ると、王は彼女を担保に引き下がります。
隠れ場所から現われたエルナーニは王がエルヴィーラを連れ去ったことを聞き、
”彼は我々の恋敵なのに、おめおめと彼女を連れ去られるとは何てことをしたんだ!”と激昂。
しかし、最終的には王に頭が上がらないシルヴァには、
エルナーニの隠れ場所についてすっとぼけることはできてもそれが限界。
エルヴィーラを引き止めることが出来たはずがありません。
そこで、二人は一致団結して、彼女を王から取り戻すことを誓います。
エルナーニはその誓いの印として、角笛をシルヴァに預け、
”この角笛が鳴るときには私は自らの命を絶つ”と約束します。
つまり、シルヴァに命を預けたわけです。
ああ、そんな約束さえしなければ、、、。エルナーニの脳たりんぶりには本当にあきれかえるばかり。
この角笛をシルヴァに預けるシーンの音楽は前奏曲にも登場し、
このオペラのキーの場面となっています。
インターミッションをはさんで、第三幕の開始前には、左隣にお座りのご夫婦と会話。
このご夫婦もオペラヘッズで、オペラハウスにもよく足を運ばれているようですが、
またライブ・イン・HDもかなりの頻度で楽しまれているとのことでした。
ライブ・イン・HDは、劇場にいる時とはまた全然違う楽しみ方ができるのがいいですよ、とおっしゃる。
私も映画館で観てみたい!!
続けて、ご主人の方が、今シーズンで一番良かった公演は?とお尋ねになるので、
”それはもう10/27のマチネの『蝶々夫人』がダントツでした。”と言うと、うんうんとうなずかれ、
”『ピーター・グライムズ』はどう思われました?”と少しこちらの反応を伺うようにお聞きになるので、
”いやー、あれも素晴らしい作品かつ公演だと思いました!大好きです。”と言うと、
おお、あなたも!!!と嬉しそうな表情をされ、そこからひとしきり『ピーター・グライムズ』の話題に。
『ピーター・グライムズ』には、他の人はどう感じただろう?
これが素晴らしい作品だと思うのは私だけ?と見た側に躊躇させるものがあるようですが、
私がお話させていただいた方はみな絶賛されています。
第三幕
エクス・ラ・シャペル(現ドイツのアーヘンの旧フランス名)にある大聖堂。
ここにはカール大帝が埋葬されています。
舞台には大きな台座にのった、4メートルほどもありそうな馬の銅像が。
闇に包まれる中、神聖ローマ帝国の次の皇帝に選ばれるのは自分か?という期待のもと、
富と権力がいかに無益であるか、もしも自分が選ばれたなら、むしろ、すぐれた統治者になりたい、と
夢を語る ”おお、青春時代の夢と偽りの幻影よ Oh, de' verd'anni miei ”。
歌の内容は感動的ではありますが、よくよく考えてみると、
この急な性格の転換ぶりはどうなんでしょうか?
ハンプソンの歌は安定感はあるのですが、やや深みに欠ける気もします。
その意味では、フルラネットと対照的な歌唱。
人の気配に、ドン・カルロは銅像の台座に身を隠します。
あらわれたのはエルナーニとシルヴァの部下たち。
エルヴィーラを取り戻すには、王を殺すしかない!と、これまた非常に飛躍した理論により、
暗殺という不穏な計画のもとに集まった彼らです。
エルナーニが王を殺害する役回りを与えられるのですが、部下たちがこれでスペインにも
ちょっとはましな未来が訪れるかも、と歌う個所があるのを見ると、
ドン・カルロ、一体今までどういう統治を行っていたのだ?と思わされます。
ここで歌われる陰謀の合唱では、やっと最近のメトの男性合唱らしい勇壮な響きと、
ぴたっとタイミングのそろった歌唱が出て一安心。
こうして聴いてみると、特にテノールのパートの水準の上昇が著しいように思います。
やがて大砲がなり、ドン・カルロが神聖ローマ帝国皇帝カール5世となったことが知らされます。
ここで、いきなりドン・カルロが隠れ場所から出てくるのですが、
ということは、彼がもはやアンタッチャブルな存在になった、ということを表現していると思われ、
スペイン王というだけでも高い地位ですが、神聖ローマ帝国というのはこれまた格別な地位ということなのでしょう。
さて、ついさっき、”皇帝になったら~”などと、あんなにしおらしく歌っていたはずのドン・カルロは、
喉元過ぎれば熱さを忘れる、とばかりに、
”お前ら、俺様に謀反などを図りおって!ちんぴら(エルナーニの部下)は牢獄行き、
貴族(シルヴァ寄りの人々)は処刑だ!!”と吠える。
そこに、”俺様ももとは貴族だ!だから処刑にしてくれ!”と訴えるエルナーニ。
そう、彼も、ドン・カルロに転覆されなければ、スペインの貴族として存在していたはずの人間なんである。
そのあたりのバックグラウンドから来る堂々とした押し出しが、
山賊に慕われ、ボスに奉られた原因の一つでしょうか?
王の皇帝即位を祝って集まった人々の中にいたエルヴィーラが、
”あなたには今やこのうえない力が与えられました。
今、慈悲をひとつ人々にかけることで、さらにあなたの栄光を輝けるものとするのはいかがでしょう?”と、
なかなかに上手い方法で王、いえ今や皇帝でした、に恩赦を進言。
皇帝になって気分は最高のドン・カルロなので、エルヴィーラの言葉に従い、全員の恩赦を決定。
さらに喜びをわかちあうエルヴィーラとエルナーニを見て、二人の結婚まで許してしまうのである。
あれ?皇帝、、、
あなたのエルヴィーラへの思いはそんなもんだったんですかい??!!
かように、この作品では、ベル・カント系のむちゃくちゃなストーリー作りが炸裂し続けます。
しかし、これはベル・カント・レパートリーではなく、ヴェルディの作品だったんだ、
と現実に引き戻されるのは、ひとえにこの後、第四幕でのシルヴァ叔父の行動のおかげです。
第四幕
サラゴサのエルナーニ宅。メトの解説によれば、”宮殿”となっている。
(宮殿持ちなのか?落ちぶれた貴族とはいえ、山賊のくせに。
それとも、ドン・カルロからの結婚の贈り物??)
このメトの舞台では、その宮殿(宮殿そのものは観客からは見えない)から
降りてくる石造りの大きな螺旋階段と、宮殿を守っている石壁が舞台装置。
めでたく結婚することになり幸せ絶頂のはずのエルナーニとエルヴィーラですが、
すでにエルナーニはこの幸せが長くは続かないであろうことを予感しています。
自分の人生には常に呪いがつきまとい、そこから逃れることはできない、と歌うエルナーニ。
猿の次に、鬱モードとは、、、やれやれ。
しかし、彼の予感は正しい。
聴こえる角笛の音は、シルヴァがすぐそこまでやって来ているということ、、。
この期に及んでも、エルヴィーラを手放すことは絶対に出来ないシルヴァ。
このシルヴァという人物は、実は老いるということに非常に恐れを抱いている人物ではないかと思います。
だからこそ、あえて矍鑠(かくしゃく)とし続けているし、
エルヴィーラへの一途な恋もその老いるということを否定するための大事なファクターとなっていて、
エルヴィーラを失った時には、一気に老け込んで、そのまま死んでしまいそうな気すらします。
心配するエルヴィーラに口実をつけて場を去らせたエルナーニのもとに、
とうとうシルヴァがあらわれ、”誓いどおりに命を絶ってもらおう。”と言います。
このエルナーニの人生で、最も幸せな瞬間に!
しかし、約束は約束、と片手に毒薬、片手に剣を持ち、どちらかを選ばせるシルヴァ叔父。非情です!!
ついに観念し、剣を握ったエルナーニの元にエルヴィーラが戻ってきます。
エルナーニは剣で胸をつき、エルヴィーラの腕の中で息絶えます。
その後、フルラネット扮するシルヴァが、何の良心の呵責もない様子で、
石畳の螺旋階段をゆっくり登っていく様子に、背筋が寒くなるものを感じました。
全幕通して、シルヴァの心理描写という意味では、
後のヴェルディの数々の名作を彷彿とさせるものがあり、なかなか見ごたえがありましたが、
少しストーリーに色々詰め込みすぎたか、舞台で見ても
やはりストーリーの展開が唐突すぎるように思える個所がそれはもういくつもありました。
衣装とセットの素晴らしさばかりに気が向くということ自体何をかいわんや。
歌唱に関しては、歌を芸と同義に解釈するなら、フルラネットが一つも二つもぬきんでている感じ。
しかし、シルヴァだけではなく、他のキャストも充実していなければ、
この演目をもう一度見るという気にはなれないかも。
それこそ、デル・モナコ、ウォーレン、ミラノフ、シエピのような強烈なキャストでなければ。
Marcello Giordani (Ernani)
Sondra Radvanovsky (Elvira)
Thomas Hampson (Don Carlo)
Ferruccio Furlanetto (Don Ruy Gomez de Silva)
Wendy White (Giovanna)
Keith Miller (Jago)
Ryan Smith (Don Riccardo)
Conductor: Roberto Abbado
Production: Pier Luigi Samaritani
Set Design: Pier Luigi Samaritani
Costume Design: Peter J. Hall
Grand Tier B Odd
ON
***エルナー二 ヴェルディ Ernani Verdi***