Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

TURANDOT (Sat, Apr 28, 2007)

2007-04-28 | メトロポリタン・オペラ
プロフィールにもある通り、オペラのシーズンが終わると仮死状態に入る私なので、
シーズンの終わりが見えてきたこの頃、すっかり元気をなくし気味なのですが、
気を取り直して。。。

今日はとっても楽しみにしていたBキャストによるトゥーランドット。
カラフ役のマージソンはそのままですが、
メインの登場人物では、トゥーランドットがErika Sunnegardhに、
リューがLiping Zhangに入れ替わりました。
また、それ以外の役も大部分が入れ替わっているために、
前回の公演とは、歌唱面ではまったく違うものになることは間違いなさそうなので、これまた楽しみ。

それにしても、今さらながら、トゥーランドットって人気演目なのだ、と再確認。
Bキャストだし、公演回数も結構多いし、どっかで好みの席がとれるでしょう、などと、
のんびり構えていたら、2週間ほど先にチェックしたところ、
好みの席どころか、sold outになってしまっている席種が多く、
窓口でしか買えないサイドのボックス席も売り切れ、
絶対にオーケストラ席(一階席)の後ろには座らないというモットー
(舞台から遠すぎるし、席がぎちぎちでリラックスできないし、
さらには段差が少ないので、舞台とともに200人くらいの頭を眺めなければいけない。)の私は、
今回仕方なく、初めて、parterre正面席に座るという贅沢を体験したのでした。
そんな席で、この頻度でオペラを見れるほどリッチでないゆえ。。
コストをのぞけば、やはり快適なのは間違いないです。
ボックス席でありながら、窮屈な感じがしないし、
空調は思う存分浴びれるし(って寒がりな人には拷問ですが。。)、
何よりも舞台との距離感というか、がどの他の席よりも、まるで自分のために上演していただいているようなダイレクトさを感じさせる。
グランド・ティアご贔屓の私も、このダイレクト感については、敗北を認めざるを得ません。
ただ、グランド・ティアとの最大の違いは、ボックス席って、
みなさん、誰かと一緒に来ている人が多く、下手すると、ボックスごと、家族、親戚、友人関係でお買い上げ、というケースも。
今回、私のボックスは総お買上げではありませんでしたが、ご夫婦、カップルが多くて、皆さん、会話は内輪。
こうなると、今日を含め、たいていメトに行くときは一人で見に行く私などは、
ぽつねん、とただ座っているだけになってしまうのでした。
他の席種のよいところは、私のような一人で参加組でも、
必ず会話をしかけてくれる方たちがいるところ。(もしくはこちらから仕掛ける相手がいるところ。)
考えてみれば、他の席種でも、みなさん結構ご夫婦やカップルでいらっしゃっているのですが、
ボックスでない、一列の席だというだけで、一気に会話がしやすい雰囲気になるのです。
ボックスという環境が、そのような、全然知らない人との会話を楽しむ貴重な機会をはばんでいるようで、
私はやっぱり今後もグランド・ティアびいきで行くわ!と決意を新たにしたのでした。

さて、そんな風にぽつねんと座ること数分。いよいよ、第一幕。
オケが気合が入っていてよい。特に金管。特にトランペット。
トランペットはばりばり吹く部分と、あと、ソリストとのアカンパニーとして、
リリカルに吹かなければいけない部分が結構交互に出てきたりして、
スイッチが大変なはずのこの作品を、首席奏者の方がいともたやすいことであるかのように、
吹きこなしていて、素晴らしかった。
演奏箇所が多いだけに、たいていどこかでマイナーな傷が出るものなのですが、
力強い箇所でのボリューム感といい、リリカルな場面でのやさしい感じといい、
ほとんど通しで完璧だったのではないでしょうか。
特に一幕と三幕は、聞いているこちらがアドレナリン全開放出になるほど!
一幕に関しては、完全に歌唱陣よりもオケがドライブしていたと思います。

ピン、ポン、パンを除く脇役陣は、断然今回の演奏のキャストの方が良かった。
まず、役人、歌う場面は本当に少ないながら、
冒頭のオケの演奏の後に第一声を発する役なので、
公演全体の、第一印象と雰囲気を決定付ける大事な役だと私は思うのですが、
前回公演のJames Courtneyよりも、今回のPatrick Carfizziの方が深い魅力的な声で、一気に引き込まれました。
それでいうと、ティムール(カラフのお父さん)役も、
今回のHao Jiang Tian(前回はOren Gradus)の方がずっと感情のこもった歌唱が聴けました。

今回で3回目のマージソンのカラフ役。今までの中では、もっとも調子が良かったですが、
環境や調子以前に、まず、声質があまり私の好みではない、ということがはっきりしました。
一番気になるのは、特に声を張り上げる場面で、微妙に妙なディストーションというか、
雑音のような音が混じることで、
もうこれは声質の問題ゆえ、どうのこうの言ってもしょうがないとは思いながら。。
それと、もう一点は、たまにださいこぶしが回ること。
コレルリ・ファンの私ですから、
決してこぶしが全部だめなわけではないのですけど。
あとは、およそ感情というものが伝わってこないところが、痛い。
今、コレルリの、メトでの1961年のライブ録音を聴いてみたのですが、
例えば、リューの”お聞きください、王子様”のアリアの後、
リューをなぐさめる”泣くな、リュー”。
もう、コレルリが一フレーズ、Non piangere, Liuと歌いだすだけで、
自分を慕うリューの気持ちを知りながら、やわらかくそれを退ける、
思いやり深くて、男らしいが一途な王子の性格が滲みでてくるよう。
マージソンの歌にはそういった王子の性格描写が欠けているように思います。

リューのLiping Zhangは、無難に乗り切ったものの、
声質、テクニックの両面で、ホンさんとの間にはだいぶ差があるように感じました。
まず、ホンさんのあのすきとおるような、しかし決してパワフルすぎない声は、
けなげなリュー役にぴったりで、あれ以上の適役はないと思われるほどなので、
Liping Zhangのやや泥臭くて、人間くさい声質は、ことリューに関しては
あまり適していないように思えます。
しかし、声質はどうにもならないとしても、テクニックの方は問題。
数日前のラジオの中継で聞いたときは割としっかり歌っていたように思ったのですが、
今日の演奏では、まず、してほしくないところでのあからさまな息継ぎ、
それから音程のコントロールを少し失った箇所があった、など、
物足りなかったです。声のサイズはホンさんとほとんど変わらないのですが、
やはり役柄が歌唱面で練りきれていないように聴こえました。
特にプレミアでの、これ以上はうまく歌えないと思われるほどのホンさんの見事な歌唱を聞いてしまったので。。

ピン、ポン、パンの3人のアンサンブルが乱れがちだったのも残念。
前回の3人(Patriarco、Stevenson、Valdes)がものすごく息のあった歌唱を聞かせていたので、比べるのも酷ですが、
今回のYun, McVeigh, Reidの3人はもう少しコンビネーションに改善の余地がありそうです。

第二幕では、オケのコントロールが少し乱れたのが残念。
そして、いよいよトゥーランドット姫、Erika Sunnegardhが登場。
ラジオ放送で事前に聞いたところでは、若干カバリエを思わせる、
温かい、それでいて透き通るような声質のうえに、
音程のコントロールも確か。
ラジオ放送で唯一つかみどころがないのはメトのような大ホールで、
実際どれくらいの声量で聴こえるのか、というところで、
これが生で(劇場で)聴く楽しみの一つでもあるのですが、
ここが盲点でした。
ラジオ放送では声量豊かに聴こえたのですが、
ほんとに、彼女の場合、一回りどころか半周り、いや1/4周りだけでもよいのですが、
あとほんの少しボリュームが出れば!!
ビルギット・ニルソンの鋼鉄のような歌唱に慣れて、耳をつんざくような響きを期待していくと、
In questa reggiaがあまりにも優しい響きなのに、ちょっと不意打ちを食らいます。
このアプローチはこのアプローチで面白いとは思うのですが、
もう少し全体的に声のサイズを底上げしない限り、
言葉がオケを越えてはっきり聴こえてこない箇所があるのは厳しい。
それ以外の箇所で聞ける力強い響きを聞く限り、不可能ではないようにも思うのですが、
無理しすぎると声を潰すし、難しいところです。
それだけでもやはりニルソンがいかに稀有な存在だったかということがわかるもの。。
しかし、そこの若干の不満を除いては、大変ユニークな役作りだったと思います。
グルーバーのように、前半はとにかくブルドーザーのように歌う歌手たちが多いなかで、
Sunnegardhの役作りはもっとフェミニンというか、すでに最初からか弱さが透けて見える姫。
もともとのきれいな声の質のせいか、役作りのせいか、
ニルソンやグルーバーのように、刀のようなシャープな響きに比べると、
少し言葉がまったりして聞こえる傾向にあるのも、好きになれるかなれないかの分かれ目になるかも知れません。
私はなかなか面白いと思いました。

第三幕は、先にも書いたとおり、ニ幕で我々を不安に陥れたオケが復活して、素晴らしい幕に。
マージソンも、”誰も寝てはならぬ”を、彼にしてはうまく決め、
リューの死をはさんで、意外にもびっくり、ティムール役のTianの名演技、名唱が舞台を引き締めました。
さて、前回に続き、これはマルコ・アルミリアート(指揮者)の仕業か何なのか、
プッチーニが絶筆した箇所(リューの死)以降もテンションが高い演奏を聞かせてくれました。
一般に芸術レベルがここで、かくっと下がると言われていますが、
うまく演奏されれば、そこまで悪くないのかな?と思えるほどには、
よく聞こえるので(回りくどい表現だけど)、最後まで完成させてくれたアルファーノにはやはり感謝すべきなのでしょう。


Erika Sunnegardh (Turandot)
Richard Margison (Calaf)
Liping Zhang (Liu)
Conductor: Marco Armiliato
Production: Franco Zeffirelli
Ctr Ptr 27 front
ON
***プッチーニ トゥーランドット Puccini Turandot***

LINDEMANN OPERA WORKSHOP (Fri, Apr 27, 2007)

2007-04-27 | マスター・クラス
Lindemann Young Artist Development Program
In an Opera Workshop with James Levine and members of Metropolitan Opera Orchestra

リンデマン・ヤング・アーティスト・デベロップメント・プログラムとは、
有能な若いアーティストを発掘する目的で1980年にメトの音楽総監督レヴァインによって始められたプログラムです。
ステファニー・ブライス、ドウェイン・クロフト、アンドレア・グルーバー、
ネイサン・ガン、アプリーレ・ミッロ、ドーン・アップショー、
ソンドラ・ラドヴァノフスキといった、今メトをはじめとするアメリカの主要歌劇場で活躍しているアメリカ人アーティストたちが、このプログラムの出身だそうです。
プログラムは最長で三年間、音楽様式、違った国の言葉で歌うスキル、
舞台上での動きや演技などをメトのスタッフや外部の講師の先生にコーチングしてもらえるというシステム。
こういうところから歌手の層を厚くしていくという試みは素晴らしいことだと思います。

今日はそのプログラム生のための、レヴァインによるオペラ・ワークショップが
アッパーイーストサイドにあるディカーポ・オペラの劇場を借りて開催されました。今日はメトのオケ伴奏つきです。(前回はピアノ伴奏。)

まず、レヴァインによるワークショップということで、
往年(現役でもよいのですが)の歌手がコーチングする歌唱が主体のワークショップとは一味違って、
オケと一緒に音楽を作っていく、と言う観点からのアドヴァイスが多くて大変興味深かった。

もちろんレヴァインは歌手でもなければ歌のコーチでもないので、
当然といえば当然なのですが、ほとんど、歌唱のテクニックとか発声についての指摘はなし。
オケの指導も入っていたので、歌手のためのワークショップというよりは、
全体のワークショップという雰囲気でした。
でも、間の取り方やリズムについては、参加者にも、かなり細かいアドヴァイスが出ました。
特に、あるアリアで、オケが全停止、歌手の声だけになる場があったのですが、
つい急いで歌いがちな歌手を制して、
”オケの音が止まったとき感情がもっとも高まっているはずで、
その間こそ大切”と言う指摘には、そうそう!!と同感。
またアンサンブルのプログラムで、つい4人全員の声がわれがちに!と
場面に不釣合いなほど大きくなってしまったのですが、
”もうちょっと4人でかたまって顔を寄せてみて!”という指摘が。
すると、つい自然にひそひそ話をするかのような雰囲気になって、
丁度その場にふさわしい声量に。
これらはほんの氷山の一角ですが、
ほんのちょっとのアドバイスで、がらっと歌の雰囲気が変わるのが本当に面白かったです。

プログラムで歌われた曲は、
ナクソス島のアリアドネから "Schlaft Sie?"
ラ・ボエームからミミのアリア "さようなら、あなたの愛の呼ぶ声に Donde lieta"
ランメルモールのルチアから ルチアのアリア "あたりは沈黙に閉ざされ Regnava nel silenzio"
セビリアの理髪師から フィガロのアリア "町の何でも屋に Largo al factotum"
皇帝ティトの慈悲から セストのアリア "ああこの瞬間だけは Deh, per questo istante solo"、ヴィテッリアのアリア "もはや皇后の座は望めない Non piu di fiori"
シモン・ボッカネグラから アメーリアのアリア "暁に星と海は微笑み Come in quest'ora bruna"
ばらの騎士から 三重唱と二重唱”私が誓ったことは、彼を正しいやり方で愛することでした Marie Therese... 夢なのかしら Ist ein Traum"

参加者の人数がわりと少ないために、重唱などでは役が持ち回りになっていて、
はからず合わない役、あまり練習したことのない役がまわってきたせいか、
重唱ではいまいちぱっとしなかった人が、突然ぴんのアリアでは
水を得た魚のように素晴らしい歌を繰り出したり、と、
いかに自分に合った役選びが大切か、ということ、
またこのようなブログを書いている身では、一回歌唱を聴いたきりで判断を下すことの危険さ、など、
数々の発見があり、大変に勉強になりました。

まだブレークする前の若手といえ、かなりレベルが高く、
”どうですか?こんなにこのプログラム、成果が出てます!”と、
ほとんどメトのパトロンで埋められた客席に向かって発表する様子は、
なんだか株主総会をも思わせました。

それぞれの歌手とも、それぞれ大変良いところがあって甲乙つけがたいのですが、
私がマークしたのは、音楽性の豊かなSasha Cooke(声のテクスチャーは素晴らしいのですが、ほっそりした体型のせいか、
少しボリュームが足りないのが残念。しかし、それを補ってあまりある音楽性が強み!)と、
Wendy Bryn Harmer(まだ荒削りなところはありますが、絹のようなきれいな声質にボリュームも十分。しかも、高音から低音まで、声質に切れ目がなく、
メゾも歌えそうな低音の美しさ。)の二人。
これからどんどん活躍の場を増やしていってほしい!!

やはり、各人のアリアでは、それぞれの人が私の技を見よ!と言う感じで、
丁々発止の力比べで、それはそれで楽しかったのですが、
最後のばらの騎士がとてもよかった。
他のプログラムは全部、歌手の歌を聴く、という雰囲気でしたが、
唯一このばらの騎士で、オペラの舞台が目の前に広がるのを感じました。

株主の期待に沿って、皆さんどんどん活躍されることを祈ります!!



Jennifer Black (Soprano)
Sasha Cooke (Mezzo Soprano)
Wendy Bryn Harmer (Soprano)
Courtney Ann Mills (Soprano)
John Michael Moore (Baritone)
Lisette Oropesa (Soprano)
Dicapo Opera Theatre open seat
***リンデマン・オペラ・ワークショップ Lindemann Opera Workshop***

TURANDOT (Sat Mtn, Apr 14, 2007)

2007-04-14 | メトロポリタン・オペラ
今年、ファウストなどを歌っているルース・アン・スウェンソンが、
ニューヨークタイムズによるインタビュー中、微妙にゲルプ支配人を非難した模様。
もともと支配人からのご寵愛がないところに、乳がん発覚という悲しい出来事があり、
それをきっかけ・口実に先のシーズンのキャストから降ろされつつある(少なくとも彼女がそう感じている)というのが趣旨のようです。
また、そのインタビューの中で、自分に似た境遇にあるソプラノとして、
ヘイ・キョン・ホンの名前も挙げてました。

確かに今年はパーク・コンサートの椿姫から、マイスタージンガーのエーファ、
トゥーランドットのリューと登場回数の多かったホンさんですが、
なぜか来年のレパートリーに名前が見当たらない。

ルース・アン・スウェンソンの発言がでっちあげではないとするとひどい話です。
確かにホンさんのヴィオレッタ、エーファはどうなのかな?というところもありましたが、
これは彼女をこれらの役柄にキャスティングしたメトにもいくらかは責任があるわけで、
リュー役での歌唱の良さを考えるとBキャストを含めてもまったく年間通しで出番がないというのは、どうなんでしょう?

そう思いながらもう一度来年のレパートリーとキャストを眺めてみると、
なんだか、確かにもともとメトにはその傾向があるとはいえ、
ビッグ・ネームの歌手への依存と、キャスティングの固定化(Bキャスト、Cキャストを組まず、同一演目はAキャストで通す)がさらに進行しているように思います。
今年はそれでも、新しい顔ぶれの中になかなか期待できそうな人たちがたくさんいたのに、
そんな人たちも来年はまったく戻ってこないし。
(マランビオとか、Siurinaとか、楽しみにしてたんですが。。)
ネトレプコ、ゲオルギュー、フレミングにドミンゴもいいんですが、
別に全部の演目、役柄を彼・彼女たちで聴きたいわけでもないし、
どんどん新しい歌手の人を連れてきたりとか、
同演目でキャスト違いにして聞き比べさせてくれる、とか、
そういう楽しみを提供してくれないと、
NYを訪れる観光客のみを今後ターゲットにしていくならともかく、
シーズンを通して見にいける地元のファンは物足りない。
ハリウッドばりの馬鹿ばかしいスター・システムがリンカーン・センターにまで波及しないことを祈るのみです。

おそらく、こんな背景があってか、
(それは、ルース・アン姉さんと同様、見てなさいよ!って気にもなるでしょう。。)
ホンさんの今日の歌唱は特に前半で、多少力みがあるように見受けられました。
特に第一幕の"Signore, ascolta"は、若干気分をこめすぎたのが、表面的かつわざとらしく聴こえてしまったのが残念。
3月30日に聞いたとつとつと訴えかけるような歌唱のほうが、
仕える身のゆえにずっと口にしたことのなかった王子への思慕が、
初めて機会を得てあふれ出てくる感じがして、よかったのですが。。。
これでは逆効果よ、ホンさん!!と、私もついこぶしに力が入る。

マージソンの声は、上階で聞いてもやはり同じ。
音程などはきちんとしているし、一生懸命歌っているのだけれど、
声の質として、この役を歌うに必要なボディと、広がりがないというか、
こじんまりとした平均的な歌唱という印象がぬぐいきれない。

グルーバーが今日は意外と健闘していたのが嬉しかった。
In questa Reggiaで途中音がすっぽぬけるミスがあったので、
大丈夫?!と一瞬ひやりとしましたが、
それ以外は前回よりも数段よかった。



第一幕では集中力とバランスを若干欠いたオケの演奏ですが、
第二幕から持ち直していきます。

転機となったのが、第三幕。
マージソンの”誰も寝てはならぬ”が(彼の声にしては)、
まずまずよい出来だったのもありますが、
今度もやはりホンさん。
ティムールとリューがトゥーランドットの前に引きずり出されて、
王子の名前を言え!と拷問にかけられる場面。
トゥーランドットが、リューを締め上げていた役人に、
Sia lasciata! 離してやりなさい! そして、
リューに向かって Parla! さあ、言いなさい!と詰め寄ったときに、
リューが言う一言、
”Piuttosto morro それくらいならいっそ死にます”
この一フレーズの素晴らしかったこと!
アリアをうまく歌う、というのもよいことですが、
こういう一言をきちんと気持ちを込めて歌える人というのは、ほんといいですね。
ここから一気にドラマが盛り上がり、
そこから最後まで、なかなかグルーバーとマージソンも健闘。
いつもは、リューのアリアが終わると、プッチーニが作曲した部分が終わってしまうこともあって、
一気にテンションがさがってしまうことが多い私なのですが、
それが今日は最後まで緊張感を持って聞くことができました。
プッチーニが最後まで書き上げてくれたら。。。という気持ちは変わらないのですが、
演奏の出来次第では、三幕後半も結構楽しめるという発見が今日はありましたので、大満足。



ところで、インターミッション中にオペラハウスをぶらぶらしていたら、
過去のトゥーランドットの公演で着用された衣装が展示されていました。
”何これ?”というひどいデザインのもありましたが(特に写真ではまあまあに見えても実物をそばで見るとひどい!という例が。。)、
1926年、トゥーランドットの北米プレミアの際に(場所は旧メト)、
トゥーランドット役のマリア・イェリッツァが着用したというドレスはそれはもう
まじかで見ても、写真に残されているものをみても、一級の芸術品!
その美しさにため息が出ました。
冒頭の写真はその衣装を着たイェリッツァ。


Andrea Gruber (Turandot)
Richard Margison (Calaf)
Hei-Kyung Hong (Liu)
Earle Patriarco (Ping)
Tony Stevenson (Pang)
Eduardo Valdes (Pong)
Conductor: Marco Armiliato
Production: Franco Zeffirelli
Dr Circ A Odd
ON
***プッチーニ トゥーランドット Puccini Turandot***

2007-2008年シーズンの演目

2007-04-05 | お知らせ・その他
メトロポリタン・オペラの来シーズンの演目が発表になり、
思うところも書き留めておきたく、ここで紹介。

 必ず見に行く予定!
 微妙。
 多分、行かないな。。

 アイーダ (ヴェルディ)
今シーズンは一度も上演されなかったアイーダですが、また戻ってきますね。
指揮はメトデビューの大野和士。楽しみ!
Aキャストのグレギーナ&ザジックのコンビもさることながら、
カロージ、ブラウンの二人のアイーダにも興味津々。
アムネリスは他にボロディナ、デンティーノが歌う予定。
最低3回は見ることになりそう。。

 仮面舞踏会 (ヴェルディ)
演目としては好きなのだけど、キャストが微妙。
タッカー・ガラ(11/12/2006) でアメリアのアリアを歌ったマランビオが配役されていたら、絶対行くのだけど。。
クライダーとブラウンがアメリア。アイーダのブラウンが良ければ、ブラウンを聞きに行こうと思います。
おっと、リチトラとHvorostovskyも出るのね。
仮面舞踏会で、イタリアの田舎の親父とは対照的な、ノーブルな総督リッカルドをどのようにリチトラが歌うか、ぜひ見てみたい。
多分、行くことになるでしょう。

 セビリヤの理髪師 (ロッシーニ)
楽しい演目ではあるのですが、もともとそんなに好きではないうえに、
今年のキャストから、フアン・ディエゴ・フローレス王子が消えている。。
正直、あまり名前を聞いたことのない人がキャストに多し。
もう少しリサーチをしてから決めようと思います。

 ラ・ボエーム (プッチーニ)
毎年、毎年、ゾンビのように(失礼!)生き残っているレパートリー。
アイーダさえ、今年は休みだったってのに。。
まあ、それだけ人気があるんでしょう。
ゲオルギューのミミ、ヴァルガスのロドルフォの1キャストのみ。
ゲオルギューのミミというのは見てみたい気もするが、ヴァルガスってのが気をそぐ(←あまり好きじゃないんです。。。)。考え中。

 皇帝ティトの慈悲 (モーツァルト)
グラハム、そしてここにもヴァルガス(!)。。。
鋭い方ならお気づきかも、ですが、実は私、ドン・ジョバンニ以外はあまりモーツァルトのオペラが好きでない。
ゆえに、今年、魔笛の記事がなかったのです。(=上演されたが、見に行っていない。)
しかし、先日、この皇帝ティトの慈悲の昔のラジオ放送の再放送を耳にして、
聞いてみたいかも!なんて思っていた矢先に、
ヴァルガスで刺してくるとは。。はー、どうしましょうか。

 ホフマン物語 (オッフェンバック)
以前から、ずっと見たかった演目なうえに、
椿姫で神がかり歌唱を聞かせてくださったストヤノーヴァが出演するとなれば、
これは絶対に行かねば!!
↑5月9日にあるとおり、アルバレスの身勝手でカルメンに変更。ホセ=アルバレス、カルメン=ボロディナ、ミカエラ=ストヤノーヴァ。

後宮からの逃走 (モーツァルト)
モーツァルトの初期のオペラという意味では、ティトとの選択になるのかもしれないが、
ティトよりはこっちの方がキャストが魅力的。今年のセビリヤで歌ったダムローと、
マイスタージンガーで歌ったポレンザーニ。
でも、モーツァルト。。

 エルナーニ (ヴェルディ)
キャストはラドヴァノフスキ、ハンプソン、フルラネットと結構良い3人 プラス ジョルダーニ。
ただ、話がつまらないんだなー、このオペラ。

 連隊の娘 (ドニゼッティ)
デッセイとフローレスが共演となれば、演目が何であれ、これは行かなければ!!!

 ファースト・エンペラー (ドゥン)
何も言う事はありますまい。(12/26/2006参照。)特別なアイコンまで使っちゃいました。
行きません。きっぱり。

 賭博者 (プロコフィエフ)
今年のオネーギンで、すっぽかしを喰らったゲルギエフの指揮。
オール・ロシア人キャスト。
作品について勉強して、面白そうなら行きます。

 ヘンゼルとグレーテル (フンパーディンク)
出た!英語のオペラ。危険度高し。
シェーファー、プローライトと、キャストもちょっと。。

 タウリス島のイフィゲニア (グルック)
グラハムとドミンゴの顔合わせ。こちらも少し作品を勉強してから決めたい。

 ランメルモールのルチア (ドニゼッティ)
ずっとずっと聞きたいと思っていたデッセイを遂に生で聞けるうえに、ルチアとは!!
2007-08年シーズンのオープニング・ナイトはこの演目。レヴァイン指揮。
チケットすでにゲットしました!
初日の相手役がジョルダーニであるというとほほな事実はこの際、忘れます。
Bキャストで、マシスというソプラノが歌う予定。聞いてみたい。
そしてAキャストの組み換えで、ジョルダーニがフィリアノティに変わったものも。
こっちを聞きにいくべきだったかも。

 マクベス (ヴェルディ)
マクベス夫人=グルーバー。。。やめてくれ、もう!
今年もすでにトスカ、トゥーランドットで私をショックの底に突き落としたくせに、来年までも。。
しかし!5月の3回の公演は要注目。グルーバーはしょうがないとしても、
カレイヤ、パペ、アルバレスのこの顔ぶれは絶対絶対聞かないと!行きます。
またレヴァイン指揮。

 蝶々夫人 (プッチーニ)
微笑みマーク、3つくらい並べたいくらい、楽しみ!
あの、ラセットが、とうとう蝶々さんを!!!
今年、ドン・カルロと道化師ですばらしい歌唱を聞かせてくれた彼女、
蝶々夫人もすばらしいという情報をゲットしているので、これは本当に早く聞きたい!!
なんと、アラーニャがピンカートン。1キャスト。

 マノン・レスコー (プッチーニ)
どこにでも出てくるジョルダーニはさておき、
マッティラのマノン・レスコーというのは興味あり。1キャスト。
指揮は前半レヴァイン、後半未定。

 ノルマ (ベッリーニ)
以前、演奏会で聞いたかぎりは、グレギーナの表題役に不安が残るも、
サジックがアダルジーザを歌うとあっては、これも聞いておかねば。
よく考えると、アイーダもこのコンビですね。
他にファリーナ。1キャスト。

 フィガロの結婚 (モーツァルト)
やたらモーツァルトが多く感じるのは、私があまり彼を好きでないせい?
行くなら11月以降のターフェルが出演の日か。

 オテッロ (ヴェルディ)
フレミング、ボータ、グエルフィ。大好きな演目。絶対行きます。

 ピーター・グライムズ (ブリテン)
危険な英語オペラ。でもラセットが出るのか。。
あとはキャンセル常連のシコフ。
考えます。

 ロミオとジュリエット (グノー)
40周年記念ガラ (04/03/2007)のヴィラゾン、ネトレプココンビが歌う、
おそらく来シーズン最も人気が高くなると思われる演目。
ドミンゴ指揮。ガンも出演。
フランスものが結構合ってそうなネトレプコなので、見に行きます。

 Satyagraha ←読めない (グラス)
1980年に完成された危険なオペラ。(私のもうひとつの法則、現代オペラに気をつけろ!ファースト・エンペラーしかり。)
マハトマ・ガンジーの話らしい。しかし、なぜ、オペラでガンジー。。
その閉じた心がいけない!とわかっていても、つい聞いてしまう。

 椿姫 (ヴェルディ)
フレミングとスウェンソンのダブルキャスト。スウェンソンはこの役で、
何度か聞いたことがあるので、フレミングをぜひ。マルコ(・アルミリアート)指揮。

 トリスタンとイゾルデ (ワーグナー)
ヴォイト、ヘプナーのキャストにレヴァイン指揮。
去年からワーグナーに大はまりなうえ、トリスタンは大好きな演目。楽しみ!

 ワルキューレ (ワーグナー)
トリスタンとワルキューレのダブル攻撃がうれしい。マゼール指揮。
マイスタージンガーで味のある歌唱を聞かせてくれたモリス出演。

 戦争と平和 (プロコフィエフ)
すっぽかし男、ゲルギエフが振る、もうひとつのロシアもの。
プロダクションがまたすばらしいといううわさがあり、賭博者は微妙だが、
こちらは絶対行きます。

 魔笛 (モーツァルト)
イタリア語オペラのゾンビがボエームなら、ドイツ語オペラのそれは、この魔笛。
(たとえが悪くてすみません。でも、作品のすばらしさはどちらも言わずもがな。)
ライオン・キングを演出したジュリー・テイモアの知名度も手伝って、
百万年連続演奏されそうな勢い。キャストがおもしろそうなら行くんですけど。。
多分、行かない。

40TH ANNIVERSARY GALA (Tues, Apr 3, 2007)

2007-04-03 | メトロポリタン・オペラ
ラ・ボエームでの行き過ぎた自己主張(12/05/06)といい、
清教徒での歌詞うろ覚え、といった甘えた態度(01/11/07)といい、
(歌詞をうろ覚えで、どうやってその裏にある感情を表現できるというのでしょう?)
私を今シーズン、著しく失望させてきたネトレプコ。

今日も”アンナとローランド”なんていって、二人のイベントなものだから、
またしても勘違いな態度を見せられるのではないかと不安だったのですが。。

ネトレプコの声のコンディションそのものは絶好調ではなかったのですが、
それがもしかすると幸いしたか、久しぶりに真摯な、役を大切にした歌唱が聴け、
そのうえにヴィラゾンが好調で、大変充実した、楽しいガラを見る/聴くことができました。

ネトレプコについては、
ベルカントの役がそろそろ厳しくなっているのは、かなり明らかで、
従来の彼女のレパートリーからすると、意外にも、愛の妙薬が一番、声楽的には弱かったと思います。
そのかわり、ラ・ボエームのミミが、前回より著しくよくなってました。



役の掘り下げも深くなったというか、今回はより上品な、ややお姫様ちっくなミミとして演じていました。
そういえば、ミミはロドルフォと別れた後、他の男性と一緒になったり、
またお針子(当時のフランスでは、半分売春婦を兼ねていたそう。。)で身をたてていたりしたわけですから、
フレーニ、スコットあたりから脈々と続いている、気のよさそうな気さくなお姉さん(おばさん)というミミ像ばかりが必ずしもどんぴしゃではない気もします。
姫ミミ、なかなか新鮮でした。
前回の演奏でも同じアプローチだったのかも知れないのですが、
きゃぴきゃぴしたところがあまりにも押し出されていて、引いてしまいましたし、
なんだか、別れの場面とのつながりがちぐはく。
ボエームは悲劇ですから、どんなに楽しい場面でも、その悲劇の影が見えてほしい。
その点、今日は一幕だけの演奏でしたが、二人の出会いのシーンから、
そこはかと、悲しみが底流にながれているというか。。。
これなら、この後、二人の別れ、ミミの死へというシークエンスも、
非常に自然に流れると思われ、ぜひ、この雰囲気で、全幕見てみたかったです。
ヴィラゾンの”冷たい手を”が、声のパワーでごり押しする歌唱とは対照的な、
温かみのある歌唱でよかった。
その後を受けたネトレプコの、”私の名前はミミ”も、
以前に聞いたときよりもふくよかな響きが出てきていて、
声の一層の変化が感じられて、興味深かったです。

マノンの修道院のシーンは、
ネトレプコの歌唱もなかなかよかったし、声質、役のキャラクターにもわりと合っていると思うのですが、
少し疲れたか、不調のせいか、途中、声が軽く空洞化して聞こえる部分があって、ひやりとしました。
しかし、ヴィラゾンの好サポートもあり、全体としては、大変見ごたえのあるシーンに。

最後の愛の妙薬は、ヴィラゾンのあまりにも、あまりにものはまり役ぶりに、
笑いが止まりませんでした。
こちらは、テノールの大抵の人が太っているという事実も手伝って、
パヴァロッティを代表とする、太くてのろまなネモリーノというのが、定番になっていますが、
ヴィラゾンの、棒っきれのような体型に、くしゃくしゃ頭(多分かつらと思うが、
地毛の可能性もあり。)、
ぽかんと宙にうかんだ視線といい、まさにうすのろ!!
ヴィラゾンが以前メトのラジオ中継の休憩時間の余興として、
クイズ大会の司会を担当したとき、おしゃべりが本当に面白くて、感心した覚えがあるのですが、
こういうコミカルな役において天下一品なのも納得。
彼のネモリーノを相手にしては、ネトレプコのアディーナすら添え物のように思えてくるほど。
パリの公演では、あまりの喝采に二度歌ったという”人知れぬ涙”は、
やはりパヴァロッティの存在感に一歩も二歩も譲るも、
どちらかというと、そのようにアリア一個だけを取り上げて比べるなどという無粋なことはせず、
全体としての役作りの見事さを賞賛したいと思います。
ああ、今思い出しても笑いがこみあげてきます。

ネトレプコが久々にきちんと役を重視した歌唱を聞かせてくれて、大変満足。
以前ドン・パスクワーレで見せていたような、
アクロバティックな歌唱よりも、実は、
この人の強みは、超高音よりも少し下のレンジで、弱音から中くらいの間の声を出したときになんともいえない響きがでる点ではないかと思います。
ぜひ、無理をしない範囲で、リリックな役をゆっくりと開拓していってほしいです。

話が少し横道にそれますが、今日は、まわりに座っている方々もよかった。
特にガラのようなシチュエーションでは、社交的な雰囲気もシーンの一部ですから、
隣に座っている人が、感じわるい人だと、大興ざめです。

今日の左隣はご夫婦で、サブスクリプションの会員
(メト版、回数券。10ほどの演目を一年を通して、同じ曜日、同じ座席で見るシステム。
私も来シーズンのこれに申し込んでおきました。)、かなりのオペラ通。
右隣は私と同じく一人でいらっしゃった(ここが私と同じ)、年配の(ここは私と同じでない)女性。
4人で今シーズンすでに見に行った演目について意見を戦わせると、
この女性、上品かつ大変丁寧な物言いながら、なかなか鋭い意見をおっしゃる。
この女性が、その後、Hvorostovskyが好きで、エフゲニー・オネーギン(Eugene Onegin)を、
5回(!)も個別で見に行ってしまって。。とおっしゃたのには上には上がいるものだとびっくり。
かつ、初めて目の前で、Hvorostovskyが好き、と断言した方を見つけて、
”ついに捕獲!”と、常日ごろから、”彼のファンをとっつかまえて、どこがよいかじかに聞いてみたい!”
と鼻息の荒かった私ですから、ここは、彼女を問い詰めて。。なんて考えたのですが、
そこでシャンデリアの灯りが落ちて、愛の妙薬がスタート、志なかばにして断念。
よって、今も、なぜHvorostovskyの評価が高いか?という謎は未解決のまま。。
残念!!!


40th Anniversary Gala - Anna & Rolando Celebrate the Met

La Boheme Act 1
Manon Act 3, Scene 2
L'Elisir d'Amore Act 2

Anna Netrebko (Mimi, Manon, Adina)
Rolando Villazon (Rodolfo, Chevalier des Grieux, Nemorino)
Samuel Ramey (Count des Grieux)
Alessandro Corbelli (Doctor Dulcamara)
Mariusz Kwiecien (Marcello, Sergeant Belcore)
Oren Gradus (Colline)
Patrick Carfizzi (Schaunard)
Conductor: Bertrand de Billy
Production: Franco Zeffirelli (La Boheme), Jean-Pierre Ponnelle (Manon), John Copley (L'Elisir)
Dr Circ Box 5 Front
ON
***40周年記念ガラ 40th Anniversary Gala ネトレプコ Netrebko ヴィラゾン Villason***