Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

CARMEN (Sat, Feb 16, 2008) Part I

2008-02-16 | メトロポリタン・オペラ
マチネの『マノン・レスコー』の公演で今ひとつ、盛り上がれなかったこともあって、
突然、ダブル・ヘッダーの夜の『カルメン』が重荷に感じてきました。
13日にシリウスで聴いた限り、ボロディナのカルメンが私の好みのタイプではないうえ、
メトでのドン・ホセ役デビューを果たしたアルヴァレスの歌唱も、
他の役での彼の歌唱と比すると、やや魅力に欠けるように感じられ、、。
マチネの後、家に一時帰宅し、愛犬と戯れているうちに、今日は『カルメン』よりも犬と遊んでた方がよかったかも、
とオペラヘッド失格すれすれの発言が頭をかすめる。
でも、失格はもちろん嫌なので、開演30分前に気を取り直して、メトを目指し、家を後にする。

1996年にメトはこの『カルメン』を持って来日公演を行ってますね。
今日は、その時のゼッフィレッリのプロダクションと全く同じ。
その来日公演のキャストは、カルメンがワルトラウト・マイヤー、ドン・ホセがルイス・リマ、
そして、ミカエラにアンジェラ・ゲオルギューという顔合わせでした。

私の友人かつバレエ鑑賞のメンターが、昨年11月にNYを訪れた際、おみやげとして持参してくれた、
ヴォルピ前総支配人著『史上最強のオペラ』(原題:The Toughest Show on Earth)では、
氏が在任中に体験した、面白く、かつ時にはおぞましい数々のエピソードが披露されていますが、
その中にある、ゲオルギューかつら拒否事件
(ゲオルギューが、ミカエラ役用に準備されたかつらの色が気に食わない、と、公演での着用を拒否した事件。)
は、この来日公演時の『カルメン』で発生したものですし、
また、演出家のゼッフィレッリが、デニス・グレイヴズを御所望だったにかかわらず、
マイヤーがカルメン役に配役されたのが気に入らず、彼女に一切演技上の手助けをしなかった(これはひどい話です!)話も披露されていて、
この『カルメン』、なかなかに面白い歴史を持った演目のようです。

特に、後者のマイヤーの話は、前回のシリウス鑑賞日記で書いた内容と絡んできますが、
私が理想とする、クールなカルメン役を実現できる可能性と実力のある人だっただけに、
ゼッフィレッリ、本当に、私はあなたに腹がたっています。

ちなみに、その来日公演でのマイヤーは、そんなゼッフィレッリとの関係が影響してか、
役が体についていないような印象で、およそ彼女らしくなかったのを思い出します。
ワーグナーの作品では、深い解釈に基づいた素晴らしい歌唱を披露してくれる歌手なだけに、
本当に残念と言わねばなりません。

で、ふと考えると、この作品、メトによって演奏されるのを私が見るのは、なんとこの1997年夏の来日公演以来、
10年半ぶりのことのようです。
そんなわけで、一度見たプロダクションとはいえ、随分、細かいところは記憶の彼方にふっとんでいたことが、
今日の公演鑑賞中、度々確認されました。
特に当時はブログなどという気のきいたものがなかったため、最初は自分でオペラ・データベースみたいなものを作って、
一応記録をとっていたのですが、ブログの気軽さとは比べ物にならず、
やがてすっかり面倒くさくなって、頓挫。
よって、その来日公演については一切記録がないのです。

しかし、結論を言うと、逆になまじか記録がないため、初めて見たときのような発見があってなかなか楽しかった。

前奏曲の間、緞帳が開いたすぐうしろに、ジュートとかケナフを思わせる、
少し集めの麻の生地に、赤や青の彩色を入れたような模様がスクリーンに映し出され、
やがてそれが、カルメンの顔写真や、闘牛の新聞記事といったイメージ画像に、
変わっていきます。
この麻っぽい生地は、広場のシーンでも、リーリャス・パスティヤの酒場のシーンなどでも、
天蓋に用いられていたりして、全編を通じて印象深く採用されています。

前奏曲の後の、セビリヤの広場のシーンでは、来日公演ではこんなに白っぽい色遣いだったっけ?
と思うほど、目にまぶしい色を背景に採用。
よく見ると、実は舞台上にはそんなにたくさん人数がいるわけではないのですが、
(同じゼッフィレッリの演出だと、『ラ・ボエーム』や『トゥーランドット』の方が、
舞台上の合唱とエキストラの人数はずっと多いと思う。)
背景に、セビリヤの街の家々の屋根がびっしり連なっているのが描かれていて、
それが、人数を実際よりも多く見せる効果を発揮しているようです。

ゼッフィレッリの動物好きは相変わらずで、ロバやら(小さいロバがめちゃくちゃかわいい。)
児童合唱のメンバーに連れられた犬三匹など、わらわらと舞台上に登場。
ゴールデン・リトリーバーと思われる大型犬は余裕の演技でしたが、
テリアと思われる小型犬は、舞台に乗っていることなどお構いなしで、
客席にお尻を向けて、後ろにいる合唱のメンバーの足の匂いを嗅いだり、とやりたい放題を極めていました。

ミカエラを歌ったコヴァレフスカ。
彼女は、歌に関して言うと、まだまだ改良の余地があるのですが、とにかく、たたずまいが素晴らしい。
この役は、歌がうまいにこしたことはないのですが、私の考えでは何よりも、雰囲気が
かわいらしくないといけません。
というか、個人的には歌がよっぽど下手くそでないかぎり、むしろそっちを優先したい。
この役が不細工な歌手だったり、おばさんっぽかったりすると、一気に気分が萎えます。
その点、コヴァレフスカは、すらっとした立ち姿が美しく、
背が高いのですが、全く威圧的ではなくて、むしろ背筋の伸びた楚々とした雰囲気があるのが、
大変役柄にはまってます。
歌に関しては改良の余地あり、と書きましたが、彼女は柔らかく歌う部分での声のコントロールが
少し苦手なように見受けられ、例えば後の幕にある
アリア”何を恐れることがありましょう Je dis que rien ne m'epouvante”では、
最後の部分がまるで暴れ馬のように、本人にもコントロールがままならない、と言った感じがするのは、
どうにかしなければなりません。
柔らかい高音で最も顕著なその傾向は、よく聴くと、全音域に波及していて、
それが全体的に歌の出来が粗いような印象を与える原因になっているのではないかと思います。

犬を連れた児童合唱は、声の響きはなかなか綺麗なものを持っているのですが、高音に自信がないのか、
音が高くなると、音が極端に小さくなっていくのが難。
多分に心理的なものがあると思うので、さらなる精進をお願いしたいところです。

大人の方の合唱について言うと、今シーズンになって何度も言っているようですが、男性陣の声が本当によくなりました。
パワーもさることながら、以前に比べると、ずっと若々しくハンサムなカラーの声になったような気がし、
特にこの『カルメン』のような演目の合唱ではそれが生きていると思います。
しかし、今日は、女声もなかなか好調で、煙草の歌のシーンは悪くない出来でした。

いよいよ、カルメン役のボロディナ登場。
ハバネラ ”恋は野の鳥 L'amour est un oiseau rebelle "
この方は、『ドン・カルロ』のエボリとか、『アイーダ』のアムネリスとか、
豪勢な衣装を身に着けているとそう気にならないのですが、
(実際、最後の幕で、エスカミーリョに伴って、赤いドレスで現われるシーンは優雅でした。)
そうでない、カルメンの普段着のような衣装で現われると、こんなにご立派な体格だったかしら?と思わされます。
というか、彼女、昔からこんなに大柄(もちろん横に)でしたっけ?



他にましな写真がいっぱいあるというのに、上の写真を掲載したNYタイムズの意地悪さも、
必ずしもよいこととはいえないですが、今やオペラもビジュアルが大事!というトレンドに追いつこうと、
努力しているデボラ・ヴォイト(*彼女はコヴェント・ガーデンで、太りすぎなのを指摘されたのが悔しかったのか、
なんと脂肪摘出の手術まで受けて、スリムになって昨シーズンオペラの舞台に戻ってきたことで話題となりました。
しかし、ワーグナー作品などのヘビー・ロールを持ち役としている彼女の場合、
声に影響が出る可能性もあるわけで、これはとてつもない博打行為だったと
言わねばなりません。)のような歌手がいるなかで、横に大きくなるがままにまかせているのはどうなのか?
という揶揄もこめられているのかもしれません。

とにかく、カルメンのまわりに群がる男性に思わせぶりな態度で接するカルメンの姿のはずが、
なんだか、周りに集まった若手力士をいたぶる相撲部屋の”姉”弟子、
いや、この化粧とあいまって、女子プロレスのヒーラー(悪役)といった印象で、カルメン役としての視覚的説得力ゼロ。
しかも、歩く様子がまさに、ドシドシ、と言った感じで、身軽な豹のようなイメージは微塵もありません。
私は、オペラ鑑賞に関しては、体格とかルックスについて、男性にも女性にも、
比較的寛容だと自分では思っているのですが、役のイメージにまで悪影響を及ぼすほどのそれはどうかと思う、、。

そして、13日のシリウスの放送(コメント欄参照)で、もしや、、、とふんだとおり、
やっぱりボロディナ版カルメンは、男性をべたべたと撫で回していたのでした。
そうじゃないんだってばー!!!視線で男性を殺すのよー!!!と絶叫したくなるのをこらえて、
耳を傾けると、おやおやおや??
確かに、私の理想とするカルメンとはちょっと違うかもしれませんが、今日のボロディナは悪くありません。
というか、なかなかいい。
このハバネラでの、細かい音符の揺らし方も巧みだし、声もよく出てる。
彼女は、今までの鑑賞の経験から、かなり各公演でのあたりはずれが大きい気がするのですが、
今日は、見事あたりくじ!
前回、スロー気味に振るヴィロームの指揮に、全く非協力的な態度だったのが嘘のように、
今日は、一生懸命、いい意味で指揮に喰らいついている感じがします。
何回か同じキャストでこの『カルメン』の公演を見た友人も、
彼女はこの日の出来が一番よかったと言っておりました。
この作品は、カルメンの歌唱が良くないとお話にならないですから、これはとても嬉しい状況です。

さて、ドン・ホセを歌い演じるアルヴァレス。
この人は、本当に今日、スーパー・パフォーマンスを繰り広げてくれないと、
私の怒りの鉄拳が炸裂するというものです。
何度かこのブログでお話したとおり、もともと、彼のホフマンで『ホフマン物語』の予定だった今シーズンのライン・アップを、
突然のホフマン卒業宣言をもって、演目の変更をメトに強要。
私は、昨年の『椿姫』でありえないほどすばらしいヴィオレッタを歌ったソプラノのストヤノヴァが、
その『ホフマン~』で全公演日歌うというのでとても楽しみにしていたのに、
このアルヴァレスの思いがけない行為のために、ストヤノヴァはミカエラ役でなんとかとどまってくれたものの、
出演日を半分に減らしてしまい、早くにとった今日のチケットはストヤノヴァではなく、コヴァレフスカが歌うことになってしまったので、
急遽追加でストヤノヴァが歌う日もチケットを手配、とさんざんマルセロには振り回されたのであります。
なので、今シーズン、『カルメン』は二度見ることになってます。
ですから、私が彼に素晴らしい歌唱を望んだとて、罪には問われますまい。

とりあえず、ミカエラと絡むシーンは手堅くまとめてました。
オルガの迫力に、カルメンとのシーンでは萎縮しているように見えるアルヴァレスが、
唯一ほっとできる場面が、初々しいコヴァレフスカによるミカエラとのシーンだったとしても、
まあ、気持ちはわかります。
初々しい二人の仲がきちんと表現されていましたので、ここは○。

女工仲間と喧嘩騒ぎを引き起こし、兵隊(警察のような役目も兼ねているようです)にお縄になったカルメン。
1人で彼女の見張り役を担当させられたドン・ホセに働きかけ始めます。
色仕掛けですが、もちろんカルメンの頭にあるのはどうやって逃走の手伝いをさせようか、ということのみ。
やっぱりカルメン、冷めてる。
しかも、色仕掛けとはいえ、相手をいらいらさせて、注意を向けさせるという難度の高い技を披露します。
自分に絶対なびく。この強い自信がなければ繰り出せる技ではありません。
”トラララララ~”と歌って、段々ドン・ホセをいらいらさせる様子は、
ボロディナの愛想のなさそう、かつふてぶてしそうなキャラが手伝って、なかなかうまいです。
セギディーリャ ”セビリヤの城壁のそばの Pres des remparts de Seville"も、いい。
ボロディナ、今日は本当に調子いいです。



ついにこの取り組み、ボロディナの決まり手、じゃなくって、カルメンの恋愛技にひっかかったドン・ホセが、
彼女を逃がしてやることに同意してしまいます。

アルヴァレスのドン・ホセは、このシーンでのおぼこい雰囲気も、優男的雰囲気も、さらには女々しい感じも少ないのが特徴かも知れません。
ホセ・カレーラスなどの役作りと比べると、割と普通のしっかりした男性っぽい感じがします。
ごく普通の男性がはまってしまった罠、そんな感じを狙った役作りなのか、、。
しかし、それがゆえに、少し、カルメンの術中にまんまとはまってしまう理由が希薄な気も。
割と世間ずれしてそうなのに、なんで?と感じなくもない。
しっかりした男性が罠にはまる、それはそれで面白い発想ですが、
もう少し、必然さを感じさせてほしいと思うのは私だけでしょうか?
このあたりが、シリウスの放送で聴いて感じた役作りが練れていないという印象の一因かもしれません。

ほどけた縄を高々と持ち上げて、舞台奥に走り消えていくカルメン。

ここで一幕が終わり、緞帳が下がるのですが、舞台挨拶にあらわれたメインのキャストの中に、
ボロディナの姿がない。
心配そうに舞台袖を見つめるアルヴァレス。
(そして、意外と意に介していない様子で、実は太い神経の持ち主か?と思わされたコヴァレフスカ。)
もしや、何かの理由でご機嫌を損ねられたか、ボロディナ?!
怒ったら怖そうだものー。
観客にも”どうしたのかしらね?”の声が起こったまま、インターミッションへ。
オルガ、何があったのっ!?


Part II に続く>


Olga Borodina (Carmen)
Marcelo Alvarez (Don Jose)
Maija Kovalevska (Micaela)
Lucio Gallo (Escamillo)
Hao Jiang Tian (Zuniga)
Rachelle Durkin (Frasquita)
Edyta Kulczak (Mercedes)
John Hancock (Le Dancaire)
Jean-Paul Fouchecourt (Le Remendado)
Stephen Gaertner (Morales)
Conductor: Emmanuel Villaume
Production: Franco Zeffirelli
Grand Tier B Odd
ON

***ビゼー カルメン Bizet Carmen***

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2 コメント

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ボロディナ (娑羅)
2008-02-20 09:50:15
確か、以前はもう少し細かったはず....。

どんどん広がっているとの噂を聞きます(汗)

ま、彼女もロシア人。

放っておけば、どんどんふくれるのは間違いないので、ちょっと気にしていただきたいかも。



ところで、カーテンコールに出なかったのが気になります~。
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事の真相は、、 (Madokakip)
2008-02-20 14:45:29
娑羅さん、

ですよねー。
私、彼女が世界の舞台に出始めたころは、もうちょっとすっきりとしていて、
しかも、美人歌手、というイメージがあったのですが、
最近の彼女のとどまるところをしらない成長っぷりに驚いてます。
すでに去年の『ドン・カルロ』のエボリのときよりも大きくなっているような、、。

カーテンコールの真相は、Part IIでふれました。
これも、上のことが寄与したのではないか、と、
怪しんでしまいます。
怪我や、体調不良を防ぐ意味でも、もう少し昔の姿に戻っていただきたいですね。
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