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Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

PARSIFAL (Sat Mtn, Mar 2, 2013)

2013-03-02 | メトロポリタン・オペラ
『パルシファル』の公演の全体像についてはこちら

注:この記事はライブ・イン・HD(ライブ・ビューイング)の収録日の公演をオペラハウスで観たものの感想です。ライブ・イン・HDを鑑賞される予定の方は、読みすすめられる際、その点をご了承ください。

**第五日目**

HDの日。ドレス・サークルの最前列で鑑賞。
第四日の公演が若干いびつながらエキサイティングな公演だったとすれば、第五日の公演は完成度の高さと公演のエネルギーの高さのバランスが最もよく取れていた公演だったと言ってよいだろう。
個々の歌手のベストの歌唱は他の日に跨っているのだが、全公演の中で一本だけDVD化する公演を好きに選んでいい、と言われれば、全体としての完成度の高さから、この日の公演を私も選ぶことになると思う。
ランの残りの二つの公演は指揮がフィッシュに変わってしまうので、ガッティの指揮する公演はこれで最後になってしまったわけだが、
彼のためにも今日はいい演奏をしたい!という意欲がひしひしとオケから感じられた。
カウフマンの歌唱には前回のような自分でアクセルを踏みすぎているのにも気付かないような暴走(そして、私はそういう暴走が結構好きだ。)はなかったが、
最初から最後まで見事な歌唱のコントロール配分と完全にフォーカスの定まった発声(そのために他の日の歌唱と比べて声の重量感・重圧感が若干違って感じた程だ)で、
前回のように危うげな音が出てそれをきっかけにコントロールに注意を払わなければならなくなる、ということがなく、末広がりに、最後に向かうほど良くなって、
クライマックスに最も良いポイントを合わせられる、という、声楽的には理想的な展開の歌唱になっていたと思う。
HDの日には暴走型よりもやはりこのような歌唱になるのは当然だし、この長さの作品になると、どこに自分の声や歌唱の一番良いところを持っていくか、という、マラソン選手にも似た計算が重要になってくる。
ラストで舞台下手に近い客席から始まって、センター、そして舞台上手に近い客席、と順にパルシファルが指先からオーディエンスにエネルギーを送るかのような仕草をするが、
これは聖杯と聖槍が出すエネルギーを、そして、それを可能にした”共苦”というコンセプトをオーディエンスと分かち合うためにある。
だから、これは単なる”振り付け”ではない。『パルシファル』という作品のメッセージそのものであり、この一見簡単に見える動きの中からオーディエンスがそれを感じるように演技しなければならない。
オペラハウスにいた我々はそのエネルギーの波及を確かに感じ取った。
今回、感想を書くにあたって、歌唱パートの日本語訳は白水社の『ワーグナー パルジファル』(日本ワーグナー協会監修 三宅幸夫/池上純一編訳)に拠っているが、
この場を借りて、この三宅さんと池上さんという会ったこともないお二人に心からの感謝を述べたい。
今回、カウフマン、パペ、マッティ、ダライマン、二キーチン、ブラッタバーグという素晴らしいソリスト陣、優秀な演出に指揮・オケ・合唱に恵まれて、『パルシファル』という作品を堪能したが、
そこにさらなるレイヤーを与えてくれたのはこの書物だ。
今回公演前の再学習として英訳とこのお二人が手がけられた邦訳、両方拝読したが、
お二人が翻訳と解説を通して見せているほとんど執念と言ってもよいこだわりとこの作品への奉仕の精神はそれ自体が一つのアートになっている、と私は感じた。
作品中何度も歌われ、この作品のキーワードと言ってもよいMitleidという言葉に与えられている”共苦”という訳も素晴らしいと思う。
私が使用した英訳、そしてメトの字幕でもそうだが、この言葉が単にcompassionという風に訳されていて、
この言葉は現代では同情というニュアンスも多分に含むようになっている(し、compassionの一般的な和訳は”同情”だ)が、
苦しんでいる人を外から見て”同情”するのと、苦しんでいる人の心に自分も居て”共苦”するのとでは大違いだ。
それを言うとメトの『パルシファル』の英語字幕は人がオペラの舞台を見ながら文字を読める時間との関係との兼ね合いもあるのだろうが、訳が随分荒く、
NYのワグネリアンたちからも”原文の意味が出来っていない。”と多く嘆きの声が上がっている。
HDの日本上映はメトの英訳字幕からの和訳になるのだろうが、出来ることならば、三宅さん/池上さん訳を採用して頂きたいと強く思う。

**出待ち編**

公演の内容が本当に良かったので、『パルシファル』で出待ちをするなら今日だろう、、ということで出待ちです。
事前に打ち合わせたわけではないのですが、ステージ・ドアにはゆみゆみさんとKinoxさんもいらっしゃっていて、
後、日本からいらっしゃっていたお着物がお似合いで本当に素敵でいらしたパペ・ファンの女性の方を含めた4人で楽しくお喋りしながらでしたので、
本当はそうでもなかったのかもしれませんが、いつもよりも早く、あっという間に全員が出てきたような気がしました。
最初に捕獲したのは演出家のジラール。気の毒にこのHDの日すら一名激しくブーを食らわせていた人がいて、出てきた時は憮然とした表情でしたが、
カナダかフランスから来たと思しき可愛いギャルに”良かったですう~。”とフランス語で話しかけられるといきなりでれでれ。
ったく、フランス語圏のおやじはどいつもこいつも。
それにしても、煙草吸いながらサインするの、やめて欲しい。ええ、思いっきり上昇して来た煙が煙草嫌いのMadokakipの鼻腔を直撃しましたとも。

次に現れたのはティトゥレル役のルニ・ブラッタバーグ。
彼はカーテンコールの時以外、舞台には現れないし、プレイビルのソリスト紹介の欄にも載せてもらっていないので、出待ち常連陣にも彼の正体が見破れなかった様子。
ふふふ。私はですね、この日の公演の一週間前にNYのワーグナー・ソサエティの『パルシファル』勉強会に参加したんですが、
ゲストがダライマンとこのルニさんだったんですよ。だから顔ははっきり覚えてるの!
というわけで、彼は私がもらった~!と駆け寄って行って、ペンを差し出すと、”僕の名前は何でしょう?”
うーん。名前は、、、なんだっけ?忘れちゃった(笑)
”僕が誰だかわからずにサインもらおうとしてるの?”と言うので、
”知ってるわよん。ティトゥレル役を歌ったもの。”と言うと、”Very good!"と大喜びでサインしてくれました。
その後は、ルニさん、ルニさん、と常連組にもみくちゃにされてました。彼もお喋りが大好きみたいだし、よかった、よかった。

と、次はニキーチンだ!
体に対して頭が横と前後両方にでかい。あの頭蓋骨の中で声が良く響きそうだなあ、、と見とれてしまった。
だけど、やっぱり、なんかこの人、あたし、こわい(笑)
それでもおそるおそる近付いてサインをお願いします、と言ってペンを差し出すと、
サインしてくれるのはいいんですが、あの、それ、握ってるの、ペンだけじゃなくて私の手ごと握ってるから、、という、、。
だけど、怖くて何も言えない、、。というわけで、私の手ごとつかんでサインをしてくれました。プレイビルのど真ん中にすっごくでかく。
もー!!カウフマンがサインする場所がなくなっちゃったじゃないのよー!!!

そして、続け様にでかい人が二人出て来たと思ったらマッティとパペだ。でけ~っ。
パペもすごく大きいけど、マッティはさらに彼の頭の上から首が出てる位。
ゆみゆみさんが聞きたい!と仰っていた質問をマッティに直撃。
”トロヴァトーレのルーナは歌わないんですか?”
”実は指揮者からは君に絶対向いてるから、って薦められてるんだけどね。でも、まだ完全には準備出来てないかな、って思うから。”
あなた、そんなこと、アンフォルタス役についても言ってたじゃないですか。
案じるより産むが易し!!ルーナももう歌っちゃいましょう!!
だけど、”Someday!"って言ってましたから可能性がないわけではなさそう。楽しみですね。
彼は本当にぶったところや気取ったところがないのが格好いい!

今回の出待ちで思いの外(ん?)素敵だったのはパペ。
私からは一言も日本語では話しかけていないのに、さらさら、、とサインをした後、きちんと目を見ながら物静かな声で”アリガト。”って言ってくれました。
これまで出待ちした中で佇まいが素敵な人ナンバーワンかもしれません。

その間にメークも完全にはとれない状態で出てきていたのがダライマン。
そばで見ると結構おばちゃんだな。私も人のこといえないけど。
字は人柄を表すというけれど、彼女の字はなんかはんこか何かみたいに几帳面で、まめな人なのかな~と思います。

と、そこにやっと現れたカウフマン!!
いやーん、どうしたのー!?
数年前『トスカ』の出待ちの時に身につけていた花輪君みたいなキュートなネッカチーフとスーツから大変身、今日は革ジャンじゃないのー!
それにあの頃と比べると、やっぱりスター歌手っぽい佇まいになって来ましたね。
本当の話なのか単なるガセなのかは知りませんが、彼がヨーロッパのどこかの国で出待ちのファンに対して
”君達が僕に風邪をうつしたりするからもう一緒に写真を撮ったり握手をしたりしない。”と宣言したことがある、という話を聞いたことがあったんですが、
今日は全然皆と普通に写真を撮っているので、私も便乗してiPhoneで一枚パチリして頂きました。
件のお着物の女性がすごく上手に撮ってくださって、しかも、そのままじゃフレームに納まりきらないからもう少し寄って下さい、と、とんでもないナイスな一言を発して下さったおかげで、
ヨナス(あ、ファーストネームベースになってる、、)が肩を組む準備をしてくれたので、これ勿怪の幸い!とばかりに彼の胸にとびこんだせいか、
撮影された写真を見てみたら、私がカウフマンに抱きつかんばかりに近寄っている写真になっていて、思わず”こらこら、、。”と自分に駄目出ししたくなる位です。
内心、彼も”そこまで寄らなくても、、、。”と思っていたことでしょう。
まあ、いいです。今日の公演の思い出と共にこれは私の一生の宝物。プリントアウトしてサインの入ったプレイビルと一緒に額に入れたいと思います。

残念ながらガッティは捕獲できずじまい。ぬぼーっとしてるように見えて、結構逃げ足が早い。巻かれました。


Jonas Kaufmann (Parsifal)
Katarina Dalayman (Kundry)
René Pape (Gurnemanz)
Peter Mattei (Amfortas)
Evgeny Nikitin (Klingsor)
Rúni Brattaberg (Titurel)
Maria Zifchak (A Voice)
Mark Schowalter / Ryan Speedo Green (First / Second Knight of the Grail)
Jennifer Forni / Lauren McNeese / Andrew Stenson / Mario Chang (First / Second /Third / Fourth Sentry)
Kiera Duffy / Lei Xu / Irene Roberts / Haeran Hong / Katherine Whyte / Heather Johnson (Flower Maidens)

Conductor: Daniele Gatti
Production: François Girard
Set design: Michael Levine
Costume design: Thibault Vancraenenbroeck
Lighting design: David Finn
Video design: Peter Flaherty
Choreography: Carolyn Choa
Dramaturg: Serge Lamothe

Dr Circ A Even
OFF (LoA)

*** ワーグナー パルシファル パルジファル Wagner Parsifal ***

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観てきました! (Ree)
2013-04-09 20:50:20
パルジファルのHD鑑賞いたしました。
行けるのが土曜日夜のみでその日夜は数日前から「爆弾低気圧」(台風並みの低気圧)が関東を通過するため不要不急の外出は控えるように、なんて言われていたにも関わらず。
映画館での鑑賞ですので、歌手の声の質とオケの音そのものに関しては評価できないと思います。なので、舞台についての感想ですが、ジラール演出のこのパルジファル、実に素晴らしいですね。1回映像で見ただけですから細かいところまで記憶・理解しているわけではありませんが、この演出、パルシファルの素晴らしい音楽を引き立てる事が出来得る良い舞台だと思います。
読替演出といいつつ、ちゃんと聖杯や聖なる槍、白鳥など象徴的なものは登場してくるし、衣装が現代風なだけであり、演出家のみ理解しうるような自己満足的な読替はしていないので、1度見ただけでもある程度は納得できます。幕間のジラールのインタビューも印象的でした。

そして、とにかく、音楽・歌の邪魔になる余計なものが出てこない。聖杯の騎士たちや花の乙女たちの動きが時に気になるものの、映像で見ている限り主要キャストの歌の邪魔をするものには見えませんでした。
カウフマンはじめ主要キャストの皆さんの表情や細かい演技は映像でアップになるとよくわかるのですが皆さん素晴らしかったと思います。鑑賞者としては楽しめたのですが、現代のワグナー歌手は実に負担が大きいなあ、とも実感させられました。

ところで、1幕の後のインタビューで登場したマッティの左頬と額の赤い水疱様の湿疹が気になりました…映像では1幕では、脇腹の血糊が間違って顔についてしまったのかと思っていたのですが、インタビューでアップ見ると帯状疱疹ではないかと思ったのですが??

今回HD観て、改めてこの舞台を6回も実演鑑賞されたMadokakipさまが本当に羨ましいと思いました。
歌手・音楽・演出全てが高水準で、関わっているスタッフが皆それを実感している舞台、て、本当に滅多に出会えるものではないですものね。
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Reeさん (Madokakip)
2013-04-12 13:50:15
>数日前から「爆弾低気圧」(台風並みの低気圧)が関東を通過

ひーっ!『マイスタージンガー』との重複といい、爆弾低気圧といい、苦闘続くHDですね!!

>今回HD観て、改めてこの舞台を6回も実演鑑賞されたMadokakipさまが本当に羨ましいと思いました

今の私も当時の私が羨ましいです(笑)
ただ、これは“私、6回も観たのよ~!”ということではなく、
ひたすら、いくら私がこの作品を好きとはいえ、6回も観に来る気にさせたジラールの演出とキャストの歌唱、そしてオケや合唱の演奏がすごかったのだ、ということを言いたかったのです!

初日の公演を鑑賞した時は“どうしよう、、これ、、。”と思いました。
ジラールがあの演出に込めた全てを消化出来たとはとても思えず、ブログにのせる感想もはちゃめちゃになりそう、、と。
それがもう一回、いや、もう一回、、となっていった理由だと思います。
良い歌唱と同じように、良い演出というのは、もっと聴きたい、もっと観たい、もっと知りたい、という欲を引き出すものなんだな、と感じました。
より多くのお客さんに劇場に来てもらう最も有効な方法は、今回のような良い公演を打つこと、これに尽きると思います。
学生用や老人用の割引とか若者向けのわかり易い演出といった小手先の技もいいですが、
公演自体が持っている客を何度も引き戻す魔力は何にも変え難い、と思いました。

>インタビューで登場したマッティの左頬と額の赤い水疱様の湿疹

へえ、そうだったんですね。
HDの日に出待ちした際は全然気付きませんでした。

背が高すぎて見えなかったのかな、、(どこまで背が高い?!)
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