Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

タン・ドゥンが駄目ならルーファス!のはずが、、

2008-08-28 | お知らせ・その他
メトの観客の平均年齢を下げ、定番レパートリーに疲れた常連客の心を再び取り戻すには
どうすればよいか?
(私は全然疲れてませんが、そのようなオペラヘッドも存在するのはこちらの記事の通り。)

そんな問いを絶え間なく投げかけ続ける支配人ゲルプ氏、
時に、それは、タン・ドゥンの珍作品として結晶し、我々オペラヘッドたちに軽い眩暈を引き起こさせも
するわけですが、彼の探索はまだまだ続いているようです。

タン・ドゥンが駄目なら、これでどうだ!と振り出して来たのは、
ルーファス・ウェインライト。
NY州はラインベックの出身で、育ったのはNY州とカナダのモントリオール、
現在30代半ばのシンガーソングライターで、
(ネットで彼の歌を聴いていただければわかると思いますが、ジャンルわけがしずらく、
大体、ロックだの、フォークだの、そういったジャンル分けそのものが現在
無意味になりつつあるので、シンガーソングライターという表現にしました。)
彼が1998年にデビューしたときには、ほとんどオペラ以外の音楽を聴かなくなって来ていた私にも、
”逸材の登場!”と、日本のロック雑誌『Rockin' On』や
アメリカのローリング・ストーン誌などでも絶賛され、
話題になっていた記憶があります。
映画『シュレック』や『アイ・アム・サム』などに彼の歌が使用されていたので、
ご存知の方も多いかもしれません。

なんと、その彼に、ゲルプ氏率いるメトが、新作をコミッションしていたようです。
というのも、ルーファス自身、オペラが大好きで、
彼のファースト・アルバムに収められている”バルセロナ Barcelona” という曲は、
ヴェルディの『マクベス』のリブレットから詞を引用していることでも知られています。
(ちなみに、第三幕、マクベスと魔女が登場するシーンの、”Fuggi regal fantasma 
消えよ、王の亡霊よ!”という言葉がそれです。)

そして、そのルーファスがメトのために書く予定だったオペラのタイトルは、
その名もこてこての、『プリマ・ドンナ Prima Donna』で、
内容は、”1970年代のパリで、年老いていくあるソプラノの人生の一日。”
って、それ、思いっきり、マリア・カラスのことじゃ、、、?!
カラスを愛しまくっている私ですし、タン・ドゥンよりは作品が化けるかもしれない可能性もあったので、
これはかなり楽しみにしていたのですが、
どうやら、この企画、残念ながら、作品がほとんど出来上がったところで頓挫してしまったようです。

理由は、どうやら、ルーファスが、”リブレットはフランス語で書く!”と言って譲らなかったことと、
2014年(!)になるまで、メトが新作をスケジュールに組み込める余地がない、という二点。
大体、ゲルプ氏自身、2014年までメトにいるんだろうか、、という素朴な疑問はさておき、
フランス語云々について、私は、”フランス語では、なぜいけないの?”という感じなのですが、
ゲルプ氏は、英語での新作、ということにものすごいこだわりがあるらしいです。

ゲルプ氏が語ったところによると、ルーファスが、フランス語で作品を
書き始めたというのも知っていたそうなのですが、
”英語に切り替えてくれるだろう、と期待していたのだけど、
どうしても彼はフランス語で書きたかったようだね。”
って、、、何を根拠に切り替えてくれる、と思ったのか、、。

さらに、”メトで、英語でも可能であるのに、英語でない新作オペラを上演するということは、
それだけで、集客の面で障害になるのです。”とまで。

確かに、字幕を読むという行為に拒否反応がある方もいるでしょうし、
そういった一面もあるにはあると思いますが、
しかし、各言語にはその言葉が持っている音やリズムやカラーがあって、
そのオペラにつけられた音楽や描こうとしている内容に合う音を有した言語、
合わない言語、というのは絶対あると思う。
実際、マリア・カラス(をモデルとしたソプラノ歌手)のフランスで過ごした最後の日々の一日を
描く作品であるならば、確かに、英語じゃないよな、、という気もします。

ルーファスの方も、最初は、一旦フランス語で書いて、
それを後で英訳にしたものを作品につけ直すことに同意していたそうなのですが、
一旦作曲の作業が進み始めると、
”フランス語の言葉が書いた音楽にあまりにも密接に結びついてしまった。”
と語っているそうで、でも、それってとっても当たり前のことだと私は思うのですが、、。
なぜに、そのように音と言葉が溶け合っている状態を壊してまで英訳にしなければ
いけないのか、私には全くわかりません。
大体が、英語って、あんまりオペラにのりやすい言葉ではもともとないと思う。

ルーファス・ファンの方は、そんな大作がお釈迦に、、と嘆くことなかれ!
どうやら、メトとの企画がぽしゃった後、
マンチェスターがこの作品を受け入れ、2009年7月のインターナショナル・フェスティバルで、
プレミアされることになっているようです。
どんな作品かご興味のある方は、2009年はイギリス旅行を企画いたしましょう。

獰猛な野獣の前に、支配人ついに跪く!

2008-08-23 | お知らせ・その他
ライブ・イン・HD(ライブ・ビューイング)の成功
(今や他のオペラハウスにも広まりつつある同種の試みの先駆けとなった)、
オペラハウスでの快調なチケット・セールス、
意欲的なレパートリーおよび演出家の採用、などで、
メトの現支配人であるゲルプ氏に対するオペラヘッドの一般的な認知はまずは概ね好意的だった、
といっていいでしょう。
8/11までは。
(合唱がよくなったことを彼の功績に入れている人もいるようですが、
コーラス・マスターの交代はすでに前支配人ヴォルピ氏の時代に内定していたことで、
これはゲルプ氏の功績ではありません。)

さて、8/11に身の毛もよだつ世にもおそろしい”合戦”が、メト側と、
その中核をオペラヘッドがなしているサブスクライバーたちとの間で勃発したことは
8/12の記事に書いたとおり。

NYのオペラヘッドたちのブログの間でも、
”ゲルプ(←もはや呼び捨て!)はサブスクライバーに謝罪すべし!”という声が広がり、
合戦以来、メト、いえ、もう少しピン・ポイントではっきり言うなら、
『ゲルプ氏』から謝罪どころか、何の音沙汰もない間、
”こうなったら、別の新聞に投書して、とことんまでメトの不手際を暴いてやる!”
”メトから別のオペラハウスにサブスクライバーの鞍替えをするようオペラヘッドたちに呼びかけている、
という趣旨の手紙を今日ゲルプ氏に送りつけてやりました。”と吠えるオペラヘッドたち多数。
しかし、”別のオペラハウス”って、どこ、、?
シティ・オペラやワシントンなら私はのりませんよ。
シティ・オペラはモルティエの牙城になるし、DCは遠い。

あげくの果てには、
”私はメトに勤めてまだほんの数年ですが、自分の知る限り、
ゲルプ氏は私腹を肥やすことしか考えておらず、
彼の功績も、メト全体のことを考えてのものとはどうしても思えない”という過激な書き込みまで、、。

まあ、この最後の意見には、
”オペラを上演するということはお金がかかること。
どんなにチケット・セールスがあがったとしても、ほとんど全てのお金が
新しいプロダクションやらなにやらの費用に消えていくはずであって、
私腹を肥やすということが果たして可能なのかは疑問。
いずれにせよ、ゲルプ氏がチケット・セールスを押し上げたことは評価しなくては。”
という意見もあり、オペラヘッド全体の意見では決してありません。

ただ、私の個人的な意見では、”私腹”には、業績、各界や有名人とのつながり、といった、
単純にお金で計ることのできないものも含まれると思うので、それも加味すると、
ゲルプ氏の動機が純粋に”メトのため”といった高尚なものであるかどうかは何ともいえません。
”メトを収入のあがるオペラハウスに生まれ変わらせ、オペラ界を活性化するきっかけにもなった。”
ということが、彼の経歴に入ることになれば、この後、ゲルプ氏が任期を終えて、
どんなキャリア・パスを踏むことになっても、その輝かしい業績のために、
ひっぱりだこ、しかも高収入つき、という可能性はおおいにありうるでしょうから。
しかし、私は、きちんとするべきことさえしていただければ、
結果としてキャリアのためにメトを利用することになっても、
まあ、いいのではないかな、という気もします。
どちらかとお友達にならなければならないとするなら、
スマートかつビジネスライクなやり方は苦手、でもメトを愛する心は人一倍!
の熱血過激派、ヴォルピ氏の方をとりますが。
(*ちなみに、ヴォルピ前支配人は、メトの大道具係から、
叩き上げで支配人のポジションまでにのし上がった人物で、
しかし、その出自から、メトの大パトロンたちには、
”自分たちとは世界が違う人間”として、最後まで完全には受け入れられることがなかったのは、
自身の著書、『史上最強のオペラ』で明かしているとおりです。)

さて、ヴォルピ氏とは出自が対照的な”ぼん”のゲルプ氏は、
スマートなやり方で、今まですいすいと色々なことをこなして来ており、
いかにも都会的なのですが、今回の事件で初めて、メトの野獣たち、
つまり、メトの常連であるオペラヘッドたちと対峙することになりました。
ヴォルピ氏なら、もともとサブスクライバーの怒りを買うようなことはしないか、
あっても、”てめーら、がたがたうっせーんだよ、ばかやろう!”と怒鳴り返して済ませそうですが、
ゲルプ氏は、今まで好意的だった彼らがなぜいきなりこんな野獣に変身するのだ?と
うろたえるばかりなことでしょう。
ふふふ。ゲルプ氏、まだまだオペラヘッドたちの性格を完全には把握していないようですね。
彼はまず初心に戻り、そこから始めなければいけないでしょう。

”オペラヘッドを軽く見るべからず。”

オープニング・ナイトは、大パトロンや有名人の率が増え、
いわゆるうるさ型のオペラヘッドの率が少ないということと、
(オープニング・ナイトのお祭り的雰囲気に合わせて、
彼らも大人しく行動しているだけではないか?と思われるかも知れませんが、
オペラを観始めた途端、そんな場を読んだ行動が不可能になるのが、
オペラヘッドたる由縁であるので、私は実際にその率が低い、とみています。
また、オープニング・ナイトは、暗黙のドレス・コードがあるので、
着飾って観に行くのが苦手な向きには、見合わせる人もいるようです。)
それに加えて8/11の事件では、パトロンたちへの被害はゼロであった、という事実より、
何とか切り抜けられる、とたかをくくっていたのでしょうが、
ゲルプ氏、ふと、気付いたに違いありません。
その前に、パヴァロッティのための『レクイエム』があった、と、、。
この大イベントに支配人として参加しないわけにはいかないし、
イベントの趣旨と抽選による無料チケットの配布ということから、
高齢の、いえ、高齢ゆえの、というべきか、超うるさ型野獣系オペラヘッドたちが
多数参列することは必至。
彼らの冷たい視線を背中と頭に感じながら、マネージャー・ボックス
(メトでは、舞台に向かってセンター・パルテールの一番左のボックス)で
全曲を聴きとおすのはさぞ辛いことでしょう。

さて、ボックス・オフィスに並んで、担当の女性と話しても話しても、意思の疎通が叶わず、
欲しいチケットがとれずに、どんどん後ろに長蛇の列が出来て、
彼らの冷たい視線を感じながら、声を張り上げてチケットをとり続ける自分、、
という妙な夢から目が覚めたばかりの今日土曜の朝、さあ、メールをチェックしよう、とPCを立ち上げたら、
”ピーター・ゲルプからのメッセージ”と題されたeメールが届いていました。



内容は以下の通りです。

『2008年8月22日

サブスクライバーの皆様へ

8月11日の月曜日は、サブスクライバーおよびパトロンへの先行チケット販売初日ということで
ボックス・オフィスに来てくださったオペラ・ファンの方たちに、
大変なフラストレーションを感じさせる一日となってしまいました。

エクスチェンジについて規制が増えた点をもっときちんとお知らせすべきであったことと、
この手紙を読んでいらっしゃるあなた、および、他のサブスクライバーは、
メトにとってかけがえのない存在であることから、
今回の件で生じた一切について私より謝罪を申し上げたいと思います。

四シーズン前にメトはインスタント・チケット・エクスチェンジ(*サブスクリプションの
オーダーを行う時点でエクスチェンジの内容も申し出ること。)という
異例の方法を採用しましたが、
それはサブスクリプションの売り上げが不安定で、一般のチケット・セールスも落ち込み始めている時期でした。
しかし、再びチケットセールスが上向きとなった今、そのような方法を維持することは困難となっています。
我々メトとしても、サブスクライバーの方たちには満足頂きたいので、
今シーズンは、ある種のエクスチェンジは引き続き認められるとし、
さらに、サブスクライバーとパトロンには、一般発売の前に個別のチケットを購入できる機会を
提供することにしたわけです。

多くの無料公演、ラッシュ・チケット制度、より多くの新プロダクション、
そして、映画館、テレビでの普通局(*ケーブル局に対しての)での放送やラジオでの放送、をはじめ、
メトは今までにかつてないほどオペラ・ファンに多くを提供しており、
その点について、私は大変誇りに感じております。

時間を割いてご意見をお送りくださった多くの方たちにお礼を申し上げ、
8/11に発生した混乱についてお詫びいたします。
来シーズンには、必ずプロセスがスムーズに運ぶよう徹底してまいります。
皆様のメトへの愛情と情熱に心から感謝いたします。

総支配人
ピーター・ゲルプ』


何気にヴォルピ氏時代のチケットセールスの悪さを持ち出すあたり、
”なんなの?ちょっと卑怯じゃなくって?”と思わされ、かつ、
あいかわらず、このメールを観ただけでは、新しいポリシーの細かいことが一切わからないし、
どこでそれを閲覧できるのかも明記されていないので、
”全然解決になってないじゃん!”というのが私の意見ですが、
”とりあえず、謝っとけ!”というところなのでしょう、、。
これで溜飲をさげるオペラヘッドもいるかもしれませんが、
私はそれよりも、まさにメールで書かれているように、”情報が徹底していなかったこと”を
反省し、そのための対策を打ってほしい。

しかし、まあ、これで、メトの常連たちを怒らせるとどういうことになるか、
という教訓にはなったことでしょう。
”時間を割いてご意見をお送りくださった”とやんわり書かれているこの”ご意見”が、
野獣の一撃のように激しく攻撃的だったことは想像に難くありません。
また”皆様のメトへの愛情と情熱”の、この愛情と情熱が、
ゲルプ氏には常軌を逸したレベルのものであると感じられたことでしょう。
8/11の事件の後には、ボックス・オフィスに向かう道順を示したオペラハウス内のポスターに、
サブスクライバーがゲルプ氏を罵る言葉がなぐり書きされていたりもしたそうです。
”ぼん”のゲルプ氏は、ヴォルピ氏と違って、パトロンには受けがいいでしょうが、
パトロンとはまた違う世界にいる多くのオペラヘッドたちの機嫌を総支配人は絶対に軽く見てはいけないのです。
覚えておくように!
オペラヘッドは野獣なり!!

では、自分で歌わせてもらいます~ 『アドリアナ・ルクヴルール』交代劇の結末

2008-08-20 | お知らせ・その他
こう来ましたか!

メト新シーズンの『トロヴァトーレ』マンリーコ役に予定されていたサルヴァトーレ・リチトラが降板、
代わりに同シーズン『アドリアナ・ルクヴルール』のマウリツィオ役を歌うはずだった
マルセロ・アルヴァレスがマンリーコ役に入ることになったのは先日の記事であげたとおり。

リチトラの降板の理由ですが、プレイビルのサイトには
”個人的な理由により”という記述になっているし、
リチトラのオフィシャル・サイトにいたっては、”今年はメトでマンリーコ役を歌う予定”と
書かれたままなのを見ると、もしかすると、リチトラの降板が先にありき、ではなく、
恐怖の演目乗り換え常習男アルヴァレスの、
”やっぱり、俺、マウリツィオ役、無理かも。マンリーコなら歌えるよん。”
というわがままが先にあったのではないか、との疑惑が募ります。

メトの方がリチトラにお願いして降りてもらった、という可能性もあります。
(翌シーズンなどに埋め合わせをする、という交換条件で、こういった交渉が行われることがあるのは、
『マリア・ストゥアルダ』の記事のアントナッチの例にもある通り。)

私が実際に被害にあったアルヴァレスの演目乗り換えは、
メト昨シーズンの『ホフマン物語』→『カルメン』しかありませんが、
もう、決め付けの独断で、”常習”ということにさせていただきました。
もし今回も彼のわがままが原因だとしたら、私は言いたい。
いつからそんな王様テノールになったんだ?!と。
一旦コミットしたら、死んでも決められた時期までに役をものにしろ!!(『アドリアナ・ルクヴルール』)、
勝手に役から卒業するんじゃない!(これは『ホフマン物語』)

さて、交代劇といえば思い出されるのが、昨シーズンの『ロミオとジュリエット』。
こちらはアルヴァレスのわがままとは少し状況が違いますが、
ヴィラゾンが体調不良により全公演日からのキャンセルをシーズン直前に発表。
ネトレプコは一度もキャンセルをせずに頑張ってくれましたが、
急な交代劇のため、4人のテノールが公演日を分割して歌ってくれて何とかしのいだのでした。
この時の『ロミオとジュリエット』のメインの指揮者がドミンゴ。

そして、新シーズンの『トロヴァトーレ』交代劇のあおりをくった形の『アドリアナ・ルクヴルール』、
こちらも指揮はドミンゴの予定でした。
おそるべし、、、ドミンゴが指揮をすると何かが起こる!!呪われた指揮者?!

しかし、彼はオペラ界できわめて信望が厚い人なので、彼にお願いされたテノールで、
この役を歌えて、かつ、スケジュールに都合のつく人なら、喜んで引き受けてくれるはずなので、
ドミンゴ、誰を連れてきてくれるのかしら?と楽しみにしていたらば、

彼が連れてきたその人は、、、なんと、”自分”でした!!!
そう、マウリツィオ役の代役は、プラシド・ドミンゴに決定です!!
そっかー、この手がありましたねー。
これなら、チケットはむしろ売り上げが伸びそうだし、メトも”うはうは状態”でしょう。

1968年にドミンゴが、フランコ・コレッリの代役として入り、
レナータ・テバルディの相手役という重責を果たしつつ、
メトでセンセーショナルなデビューを飾ったのが、
まさにこの『アドリアナ・ルクヴルール』のマウリツィオ役で、
彼にとってもメトと縁深く、かつ思い出のある役、ということで、話題性も十分です。
あまりにも全てがはまりすぎで、もしや、この交代劇全てが最初から
仕組まれていたのではないか?という気がするほど、、。
ただし、2/17の公演だけはドミンゴではなく、他のテノールがカバーに入る予定ですが、
誰になるかはまだ発表されていません。


(その1968年の公演からのテバルディとドミンゴ。)

さすがにドミンゴが指揮をしながら歌うわけにはいかない、というわけで、
指揮の方も代役が決定しました。
メトの苦境を救えるのはこの人しかいない!!というわけで、マルコ・アルミリアートです。
やった!よくぞ、スケジュールが空いていてくれたものです。
彼はメトで振る指揮者の中で最も好きな人の一人で、
かつ、ドミンゴの指揮には、普段からちょっと???な私なので、
『アドリアナ・ルクヴルール』単体で見ると、この交代劇は、全ての面で、喜ばしい変更です。

ヴェルレクで、パヴァロッティを聴き、パヴァロッティを悼む

2008-08-19 | お知らせ・その他
昨年(2007年)は、7月に亡くなったビヴァリー・シルズの追悼会がメトで
9月16日に執り行われることになりましたが、なんとその追悼会の直前の9/6にパヴァロッティが逝去。

NYのオペラ・シーンでの二人の存在の大きさを考えると合同の追悼会というのは考えられず、
しかし、すでに2007-8年シーズンが始まろうという時期だったために、
パヴァロッティのために別途の追悼会を同年に追加で行うには時間がないうえ、
するからにはきちんとしたものを、、というメトの意向だったのでしょう。

彼の一周忌のすぐ後の、今年、新シーズンが始まる直前の9/18に、メトで、パヴァロッティを偲んで、
ヴェルディの『レクイエム』が演奏されることになりました。

8/18にメトのサイトで発表されたところでは、メト・オケと合唱をレヴァインが指揮。
って、レヴァイン、ついこの間手術を受けたばっかりなのに大丈夫?!
指揮台で倒れる、などというしゃれにならない事態に陥らないことを祈るばかりです。

そして、テノール・パートをメト御用達テノール、マルチェロ・ジョルダーニが歌い、
バス・パートにジェームズ・モリス、ソプラノ・パートにバルバラ・フリットリ、
メゾ・パートにオルガ・ボロディナが入るという、非常に豪華かつ興味深い布陣になっています。

チケット争奪に関する数々の事件で、メトも思うところがいろいろあったのか、
朝早くからチケット取りで並ぶ人を防ぐため、今回は抽選制を採用。
メトのサイトから申し込む、電話で申し込む、メトのロビーにある応募箱を通して申し込む、
という3つの方法があり、サイトと電話については8/20に受付け開始、
ロビーでの申し込みはすでに始まっています。
ただし、当然ながら、早く申し込んだからといって、抽選結果には何の関係もありません。
郵送とeメールでの申し込みは受け付けられませんのでご注意を。
また1人につき、一口の応募のみ有効で、複数口申し込んだ方は失格とされますので
こちらも注意が必要です。締め切りは9/3の夜8時です。
抽選の結果の発表は9/8で、当選者にはeメールか郵送にて通知が入ることになっており、
メトのサイトにも名前が発表されます。
チケットは無料で、当選者には2枚チケットが配布されます。
当選者は9/15の夕方6時までにボックス・オフィスでチケットを受け取ることになっており、
この時間までに引き取り手のなかったチケットについては他の応募者にまわされるそうです。
当選者の方は通知のeメールか郵便物、および身分を証明できるものをお忘れなく。

(応募される方へ:上の情報は8/19現在メトのサイトにあがっている情報を概訳したもので、
間違いはないと思いますが、当ブログは情報の間違いなどでトラブルが生じましても
一切の責任は負いませんので、ご自分でメトの担当の方やサイトを通して
きちんと確認されることをお願いします。)

このヴェルレクの演奏を含む追悼会はNY時間9/18の夕方5時スタートの予定で、
シリウス(衛星ラジオ)およびメトのサイトのライブストリーミングでも聴くことができます。

さて、このヴェルディ作曲による『レクイエム』ですが、
”これはもはや鎮魂曲などというものではない。
もう一つのヴェルディによるオペラだ!”という人もいるほど熱い曲で、
オペラ好きには、いえ、そうでなくても、たまらない曲になっています。

幸運の女神からの御加護でオペラハウスで生でこの演奏を聴くことになる方、
また残念ながら御加護が薄く、もしくはNYにお住まいでないために、ラジオやウェブでお聴きになる方に、
ぜひ予習としてお奨めしたい録音を先日発掘しましたのでご紹介します。

ひそかにヴェルレク好きである私は、いろいろな盤をCDでこれまで買いあさってきましたが、
実は意外とこれは!という一枚がないな、、というのが正直な印象でした。
4つの各パートそれぞれ、そして合唱にも、本当に美しい曲が与えられているのですが、
なかなかこれら全部とオケが揃うという例は少ない。
なので、私の連れが、”素晴らしいヴェルレクの演奏を見つけた!”と、
後ろでスピーカーからがんがん流れるヴェルレクの音をバックに興奮して電話をしてきたときには、
”ふーん、まあ、そうは言っても、絶対どこかに欠点があるからなあ、、”と思いつつ、
”じゃ、今日、観るから、家に持ってきてね。”とお願いしたのでした。

さて、その日の夜遅く、仕事を終え、手にヴェルレクのDVD(映像ものだった!)を抱えて現われた彼。
もう時間も遅いので、ヴェルレク鑑賞会はまた日を改めてかな、、と思いきや、
意外にも彼がしつこい。
”最初の数曲だけでもいいから、観てもいい?”。
彼がこのようにしつこくなるときは、相当な出来である証なので、私も俄然やる気に。

それがこのDVD。



カラヤン指揮、ミラノ・スカラ座のオケと合唱。
以前のどれかの記事でも書いたけれど、私はカラヤンの演奏についてはどれでも好きなわけではなく、
特に80年代あたりに録音したものに多い、きんきらぴかぴかの演奏については、
”あらまあ、、”と口をあんぐりしてしまうのみであるのだけれど、
しかし、彼が作品とその演奏の方向性ではまったときは実に素晴らしく、
オペラの演奏の中にも傑出したものが多いです。
私はどちらかというと、特にオペラの演奏に関しては、
比較的彼のキャリアの前期のほうに、そういった聴きどころのあるものが
多いような気がするのだけれど、
このDVDの演奏は1967年のもので、まだまだ完全にぴかぴかになってしまう前のもので、
わざとらしくない、素直な感じが残っていて、好ましいです。

オケ、合唱ともになかなかですが、とにかくものすごいのが、独唱陣。
ソプラノのレオンタイン・プライスが、ほとんど完全無欠といってもよいほどの
素晴らしい歌唱を聴かせています。
次から次へと、ものすごい迫力で高音をものにしていく様は、
しまいに、連れと私から思わず、”すげ~っ!”と笑いが出るほど。
爽快すぎます。
このパートには、ヴェルディの中~後期の作品のソプラノ・ロールと共通するものが求められるように思うのですが、
アイーダのタイトル・ロールなどを得意としていたプライスなので、本当に危なげなく、
しかも、彼女のスモーキーな声が、曲の雰囲気にもぴったりで、この曲を歌った歴代の歌手の中でも、
最も私の理想に近い歌唱といえます。

そして、負けてないのが、メゾのパートを歌うフィオレンツァ・コッソット。
彼女のちょっと硬質なメゾ声、これがまたよい!
プライスの、黒人ゆえのややまったりした(ここではあくまでいい意味で)声質と熱めの歌唱に対し、
このコッソットが非常にクールに歌っているのが、またいいコントラストをなしているのです。

女声陣のいずれもがこれだけすごい歌を聴かせるヴェルレクというのは滅多にあるものではありません。

もしかすると4人の中では一番影が薄いくらいの感じがするのは、
バス・パートのニコライ・ギャウロフ。
って、いいのか?!そんな贅沢!!
ギャウロフといえば、歴代の最もすぐれたバス歌手として、10本の指には必ず入ってくるであろう大御所ですよ!!

なぜ、彼の影が薄い気がするかということを考えてみるに、先に述べた女声陣のすごさと、
そして、テノールのパートを歌った歌手の初々しさと美声があげられるかと思うのですが、
そのテノール・パートを歌っているのが、なんと、キャリアの驀進がまさに始まった31~2歳の頃の
パヴァロッティその人なのです。

その声の美しさはもうこの頃から際立っています。
とにかく瑞々しい美声。
亡くなる間際までトレードマークであったあのあご髭も当時はなく、体型もかなりスリム。
必死になってカラヤンの方を見ながら、初々しい面持ちで歌うパヴァロッティの姿に、
そんな彼がもうこの世にはおらず、その彼を偲ぶ演奏会で、
今年、同じヴェルレクを聴くことになるとは、、と
メトで彼の全盛期の頃の素晴らしい生歌を数多く聴いたことのある私の連れ、
一回りオペラ・デビューが遅く、かろうじて、パヴァロッティを生で聴くことができた
(当然ながら、全盛期の勢いはなかったが、もうあの声を生で、しかも、
メトで聴けたというのが感激だった。)私ともに、
涙なしでは見ることができない思いでした。

どうやら生の演奏会をまるまる収録したものではなく、
限りなくゲネプロのような不思議な映像で、
(最後のソプラノの独唱の”リベラ・メ”で、いきなり、
残り三ソリストが姿を消し、椅子だけになっている、、というのも不思議。
最後のほんの数分なんだから、他の三名も座ってくれればいいのに、、。
”はい、あたしらの仕事は終わったんで帰らせてもらいます、ってな感じなのである。)
レコードの録音と同様に、ある程度修正は入っているかもしれませんが、
それでも、同条件といえる、正規の録音盤でも、こんなにクオリティの高い演奏はそうありません。

カラヤンという王様ががっちり固めているせいか、この一級のキャストが、
自分のエゴを捨て、ひたすら真摯に演奏に取り組んでいる、
それがこの演奏の最大の美点だと思います。
その結果、作品の良さがいかんなく引き出され、この曲の良さがじわーっと染み出してくる感じが良い。
おおげさで人目を引く演奏は他にもあるかも知れませんが、
作品の地のよさを引き出す演奏こそ、よい演奏です。
というわけで、9/18の追悼会の模様を聴く予定の方は、予習用の教科DVDとして最適。
そうでない方も、ぜひご覧になってみてください。
こんな演奏と比べられる9/18の歌唱&演奏陣はたまったものではないでしょうが。

またですか、、チケット騒動 2008

2008-08-16 | お知らせ・その他
正直、メトの今年のエクスチェンジに関する大混乱ぶりについての記事を8/12にアップした時には、
多くのオペラヘッドが頭から蒸気を噴きだすほどに怒っている様を、
対岸の火事を見るつもりで眺めていました。

昨年体験したチケット発券にまつわる数々の事件は、こちらの記事にあるとおりですが、
今年は、昨年の反省点を踏まえ、いろいろ私なりに工夫を重ね、
新シーズンのチケットのオーダーに関しては、万全の体制でのぞんだので、
私の計算では、この身に火の粉が降り落ちることなどありえないことだったのです。

しかし。
ありえないことが起こり得るのがメト。嗚呼。

私は開いている時間が限られているボックスオフィスで、
口頭なだけにミスコミュニケーションが起こる可能性がゼロではない係員とあれこれやりとりするよりは、
すぐにeメールという目に見える手段で、オーダーのコンファメーションを返してくれるウェブをずっと多用してきました。
特にシーズンオープン前のチケット購入は、枚数が多いので、
ウェブのオーダーの方が確実である、と信じて疑いませんでした。

昨年の最大の反省点は、このウェブでのオーダーを入れる際に、
一オーダーの中にたくさんの公演を含めてしまうかわりに、
少数の公演ごとに個別のオーダーを落としていったために、
(例えば、5公演分を一つのオーダーとして出すかわりに、一公演ずつ5個のオーダーを出す、など。)
オーダーの数そのものが膨大になり、
発券の際、もともと混乱しているチケットセールスの担当者をさらにカオス状態に陥れたこと。

今年は出来るだけたくさんの公演を一つのオーダーの中に含めるようにし、
オーダーの数をできるだけ少なくすることにしました。
なぜ、”できるだけ”かというと、ウェブは一つのオーダーを入れ始めてから
きめられた時間内に発注の確認のボタンをおさないと、
おさえたはずのチケットが全部リリースされてしまうので、
一つのオーダーの中に含める公演の数にはある程度、限界があるのです。
また、キャストの変更が多いと、どうしても追加でオーダーを入れることになるのですが、
これはもちろん、新たな別のオーダーとして取り扱われます。

通常ならオーダー後、ほどなくeメールで送られてくるはずのコンファメーションが、
去年は”システムの不備”を理由に何日も届かない、という事態もあったので、
今年はオーダーの最終画面のスクリーンショットをとり、
届いたeメールのコンファメーションとつけあわせてから、
スクリーンショットを削除する、という慎重さでのぞみました。
結局、今年はeメールのコンファメーションが遅れるという事態は一度もなく、
全ては順調に進んでいるかのように見えました。

そろそろエクスチェンジのほとぼりもさめ、しかも来週の頭からは
一般向け(サブスクライバーでもギルドのメンバーでもない観客用)のチケット発売が始まってしまうという今日、
サブスクリプションおよび先行販売で買ったチケットの発券作業で何か問題があるとすれば、
一般セールスが始まってしまう前に解決しなければ!ということで、
チケットの受け取りのためにメトまで行って参りました。

リンカーン・センターの修復工事がすすんでいるため、メトの正面玄関は全て閉鎖中。
よって、今年に限っては、地階からオペラハウス内の階段を登って
ボックス・オフィスまで向かう特別ルートが設けられました。
久々に入ったオペラハウスでは、どうやら赤絨毯がクリーニングから戻ってきたばかりだったようで、
少し水気を含んだままでした。
シャンデリアとともに、新シーズンに向けて着々と内装に手が入っているようです。

以前は、気が向いた公演を、わりと直前にふらっと購入することが多かったのですが、
ゲルプ氏が着任した2006-7年シーズンから、チケットの人気が上がり始め、
このやり方では見たい公演日を抑えられない可能性があるということを悟ったので、
昨シーズンからは、シーズンの前に頭から終わりまでの鑑賞予定をたて、
その分のチケットをほとんど一括購入する作戦に変更しました。

今日は、一年分の公演なため、かなりの枚数に及んでいるオーダー・コンファメーションの
プリントアウトを持参。

順番がまわってきて窓口に向かうと、今まで時々発券をしてもらったことのあるお兄さんだった。
”かなりキテますが、ここにあるオーダーのチケット、全部発券してください。”
快く受け取ってくださったが、お兄さんは奥の部屋にひっこんだまま、待てど暮らせど出てこない。
後ろに並んでいるオペラヘッドたちからの視線に背中を刺されそうである。
約十分。大小の封筒を抱えつつ、疲労の表情を浮かべたお兄さんがやっと窓口に戻ってきた。

”リング・サイクルとガラ系のチケットはまだ準備中みたいです。”
思わず右の眉がぴくっ!
ほとんど一年先の個別のチケットは発券できるのに、
一番直近の公演であるオープニング・ガラのチケットが準備中ぅ?
しかも、125周年ガラにいたっては、二組チケットを抑えたのですが、
片方の、電話でオーダーを入れた分に関しては、すでに印刷され、私の希望に基づき郵送され、
私の手元にすでにある。
同じ公演で、一組は郵送まで完了していながら、もう一組は印刷準備中とはこれいかに?
さらに、リング・サイクルについては、”チケットの準備が完了しましたので、
ボックスオフィスまでお越しください”というお知らせまでわざわざ郵送してきたくせに。
まったく意味不明なメトの行動である。
今になって落ち着いて考えてみれば、どうして他の個別のチケットはお兄さんが
自分で窓口でプリントアウトできたのに、ガラのチケットは印刷できないのか。
それもよくわからない。明日電話して詰めることにしよう。

しかし、ここで封筒を受け取り、そのまま地下鉄に乗って家に帰ると思ったら大間違い。
ふふふ。私は昨日生まれたばかりの赤ん坊ではない!
昨年のチケット騒動も体験しているのだ。
”そのプリントアウトに記載されている公演のチケットが全部封筒に入っているか調べてね。”
お兄さんが”この鬼!”という表情を目に浮かべながら、
”いやー、あまりに公演の数が膨大なので、大変なんですが、、”
ほとんど泣き声である。しかし、私の表情を見て観念したらしい。
”でも、今、調べてさしあげようと思ってたんですよ、、”
コンピューターのデータとチケットとコンファメーションのプリントアウトとにらめっこするうち、
数公演が入っているまるまる一つのオーダーが欠けていることが発覚し、
大慌てで封筒を取りに奥の部屋に向かうお兄さん。
やはり、チェックは大切!

”リング・サイクルとガラ以外は全部揃ってます。”という言葉をもらったので、
お礼を申し上げて、窓口を離れる。
ここで去年までの私なら、そのまま地下鉄に乗って帰宅してしまったことだろう。
だが、しかし、今年の私は去年の私とは違う。
そのまま、ギフトショップの改装工事のためにテープが張られたすぐそばの
窓口向かいのベンチに座り込み、
持参したペンを取り出しながら、もう一度、各チケットとコンファメーションのつけあわせである。
9月、10月、、、。
警備員のおじさんは最初でこそ私のこの怪しい動きに不審の目を向けていたが、
何をしているか推測できたらしい後はそっとしておいてくださった。

そして、窓口のお兄さんは客越しにこの私の姿が見えるはずである。
”ったく、、、全部チケットはあるといっているのに何てしつこい女だ。”と思ったはずである。
だが、しかし、相手は只者ではない。メトなのだ。
ありえないことが起こってしまう、我らがメトなのである。
私としても気を抜くわけにはいかないのだ。

3つ目のオーダー。
12月○日、『つばめ』 OK。
3月△日、『ルサルカ』 OK。
10月●日、『椿姫』OK。
3月▲日、『夢遊病の女』、、、、
あれ?『夢遊病の女』のチケットがないんですけど。
束の最後に回ってしまったのか?
11月×日、『トリスタンとイゾルデ』 OK。
以上。
『夢遊病の女』がない!このオーダーの束に入っているはずなのに、ない。
他の全部のオーダーをチェックしたが、やっぱり、ない!!!

これは、単なる印刷もれなのか?それとも、去年の『椿姫』のチケットと同様に、
希望の席種がとれなかったからという理由で、他の席種でもよいか?という連絡も何もなく、
勝手にオーダーから外されたのと同じケースか?

またしても頭からスチーム状態で、列の後ろに並びなおし。
どうして、きちんと仕事をすることがこんなに難しいのだろう?

待ち時間の間(ただ、今日は人数も少なく15分くらいで順番がまわってきた。)、
真後ろに並ばれたサブスクライバー歴35年というオペラヘッドとお話しながら
時間を潰す。
このおじいさまはエクスチェンジでいらっしゃったらしいが、
やっぱり$5の手数料にはお冠であった。
”わしは35年もオペラに通って、『椿姫』や『蝶々夫人』は見飽きた。
だから、そんな演目をもっとマイナーな演目に無料でエクスチェンジしてもらえて当然じゃ。”
す、すごい論理、、。
しかもそれを決して嫌味な感じではなく、あくまで無邪気にさらっと可愛くおっしゃるので、
こちらも”いや、その考え方がもう時代遅れなんです。”とはとてもいえない雰囲気。
返還する側のチケットを見せていただくと、そのお言葉どおり、『椿姫』なんかが混じっていました。
”では、ちょっと珍しい演目専門といったところですね。”というと、
”うぬ。なんせ35年だからな。”と、それはそれは誇り高い調子でおっしゃるのでした。
その後、メトでの好みの座席などについて無駄話をしているうちに、係員のおじさんの、”次!”の声が。

窓口に行くと、ついてる!同じお兄さんだ!!
お兄さんの、”ひゃっ!!”という声が聞こえそうだったけれど、かまわず、
『夢遊病の女』のチケットがないんです、、と続け、一体なんでこんなことに?
去年の『椿姫』でも全く同じことが起こったんですけど、
これはよくあること?それとも私だけ?と、畳み掛ける。

そうそう、思い出したけれど、昨年、『椿姫』のチケットが入っていないことを知ったとき、
電話で対応したメトのおじさんは、
”コンファメーションはオーダーを受け取ったというコンファメーションであって、
席がとれたというコンファメーションではない。”と、
こちらが泡を吹きたくなるようなことをさらり、と言ってのけた。
しかし、それが事実だとしたら、最悪である。
なぜなら、このようにまめにチェックをしなければ、メトが
”座席がとれなかったので、金額のチャージはされていません。”というお知らせを送ってくるのは
何週間も後で、気がついた時には行きたい公演日の座席が完売!というケースもあるのだ。
実際、『椿姫』のときは、結局、違う公演日のチケットを買うことを余儀なくされてしまった。

またしても、その時と同様の頓珍漢な説明をされるかと思い、どきどきしながら待つと、
お兄さんが一言。
”オーダーそのものが入ってないみたいです。”
って、その目の前のオーダー・コンファメーションに、
ちゃんと『夢遊病の女』の公演が入ってるでしょーが!!と、叫びだしたい衝動に駆られる。
”でも、クレジット・カードにはチャージされてませんので。”
そんなことが問題なのではない!!!!
チャージされてもいいから、私は座席がほしいのだ!!!!

”ウェブでオーダーをいれ、そのオーダー・コンファメーションにのっている公演が
実際にはオーダーの受付がされていない、というのはどういうことなんですか?”
とにじり寄ると、
”まあ、コンピューターにたまにあることというか、、だからオーダーは電話で、
実際に担当の人間と話す方が確実だと思うんですよね。
電話でのオーダーの場合はこういったエラーが決してないので、、。”

は~~~あ!!???
そんな馬鹿な話、ありますか?!
例えば銀行のATM。
”いやー、ATMがたまに記帳を間違えるんですよ。だから、送金するなら、
ATMからでなく、窓口のテラーに行ってもらったほうがいいですね。”
こんな言葉を銀行員の口から聞いた日には誰だって発狂することでしょう。
でも、このメトのお兄さんが言っていることは究極的にはこれと同じではありませんか。
100%信用できないウェブ・システム、、、そんなのやめちまえ~~~!!!

しかし、謙虚に自らのチケット・チェックの漏れを詫び、
またこのシステムの失敗を謝り、丁寧に応対してくださるお兄さんの姿に、
まあ、このお兄さんのせいではないわな、、と、攻め立てる気も失せる。
この怒りとフラストレーションをどこにぶつければいいのか。
しかも、二年連続で似たようなチケット発券のミス。
同じ失敗が繰り返されるのは大嫌いな私なので、
フィラデルフィアのおばさんに混じって、”何らかのアクションを起こしたい”くらいです。

唯一の救いは、まだ同日の公演の他席種が残っていたこと。
今日来ておいて本当によかった、、。
来週にはなくなっていたかもしれない。

深刻にこのチケット販売から発券までのプロセスをもう一度見直してほしい、と
切に願います。

今度は『トロヴァトーレ』のマンリーコが!!

2008-08-14 | お知らせ・その他
ついおととい 8/11の記事で、ネトレプコがメト2008年シーズン『ラ・ボエーム』の
ミミ役から降板することをお伝えし、他の公演に関しても、
”お目当てのキャストでご覧になりたい方は、公演の日まで、
まめにメトのサイトをチェックされることをおすすめします。”と書いたばかりですが、
それからさらにもう一件、大型なキャスト変更が勃発しました。

今度は『トロヴァトーレ』で、なんと、Aキャストのマンリーコ役に予定されていた
サルヴァトーレ・リチトラが降板!
代わりにマンリーコ役に入るのは、2007-8年シーズンのメトで予定されていた『ホフマン物語』を、
”ホフマン役は卒業したので”という理由で『カルメン』にすげかえさせてホセ役を歌い、
私めから大顰蹙を買ったマルセロ・アルヴァレス。
(というのは、その『ホフマン物語』にキャスティングされていた大期待のストヤノヴァが、
芋づる式にミカエラ役に移動。彼女のミカエラなんて、もったいなさすぎ!
もっとたくさん彼女の歌を聴きたかった!)

リチトラの降板の理由は今のところわかっていませんが、
今回メトのピンチを救ったアルヴァレスは、昨シーズンの罪滅ぼしのつもりか。
しかし、最近少し不安定な歌唱が多かったリチトラなので、
このアルヴァレスへの交替は、観客にとっては悪くないニュースかもしれません。

そういえば数年前に、こんなCDで共演をしている二人。
(左がアルヴァレス、右がリチトラ。)



因縁を感じます。

さて、そのアルヴァレスはもともと2月に予定されている『アドリアナ・ルクヴルール』で、
マウリツィオ役を歌う予定だったのですが、『トロヴァトーレ』への移動により、
現在メトのサイトでは、マウリツィオ役はTBA(to be announced 後日発表)ということになっており、
ここにメトがどのテノールを連れてくるのかも気になるところです。

なので、連呼いたします。
”毎日メトのサイトを要チェック!”です。

(冒頭の写真は、新シーズンのプロモーションのために撮影された、マンリーコ役に扮するリチトラ。
ネトレプコの回に続き、”没になった役シリーズ”ということで、白黒にさせていただきました。合掌。)

メト2008年シーズンキャスト変更 & またしても!のチケット狂騒

2008-08-12 | お知らせ・その他
サブスクリプションのエクスチェンジ(サブスクリプションの中の個別のチケットに
ついてもともと組まれていたセットとは違う別の公演に交換してもらうこと)
およびオペラギルドの会員向けのチケット販売が8/11に始まり、
また8/17には一般向けのチケットもリリースされるとあって、メト関連がにぎわしくなってきました。

① ネトレプコ、2008年シーズンの『ラ・ボエーム』を降板

新シーズンでは、『ラ・ボエーム』と『ランメルモールのルチア』のニ演目で
メトに登場予定だったネトレプコですが、産休を数週間延長したい、という本人の意向で、
『ラ・ボエーム』への出演がキャンセルになりました。



Bキャストのミミに予定されていたコヴァレフスカが棚ぼた式で、
ネトレプコの公演分を含め、全日程を歌うようです。
ロドルフォは2007-8年シーズンと同じヴァルガスと2006-7年シーズンの『三部作』ジャンニ・スキッキで
リヌッチオを歌ったジョルダーノのダブルキャスト。
しかし、ネトレプコのために最初に予定されていた『マノン』の演目そのものを
『ラ・ボエーム』に変更し、そして、その『ラ・ボエーム』まで降板、、。
『ラ・ボエーム』のすぐ後に控えている『ルチア』には登場するそうですが、
ゲルプ氏からネトレプコ嬢への、
”ルチアのHDは絶対にやってもらわにゃ。”という激烈なプレッシャーを感じます。
キャンセルするなら『ラ・ボエーム』でなく、『ルチア』にしてほしかった気もしますが、
そのためには公演の順序を逆転させなければならず、
さすがにアンナ様といえども、それをひっくり返すまでの女王ぶりには至っていないようです。

このほかにも、一番最初に発表されたキャスティングからの変更として、
『カヴ・パグ』のアラーニャの公演分に、サントゥッツァ役としてワルトラウト・マイヤーが入っていたり、
『トロヴァトーレ』のキャスティングのコンビが微妙な組み合わせ方に変更されていたりするので、
お目当てのキャストでご覧になりたい方は、公演の日まで、
まめにメトのサイトをチェックされることをおすすめします。

② 去年に続いて今年も大混乱!今年は題して”チケット交換の悪夢”!!!

昨シーズンのチケット販売にまつわる大失態も記憶に新しいところ。
個人的には新シーズンのチケット発券のプロセスはましかな?と思っていたのですが
(コンファメーションもきちんとタイムリーに届いたし、
ボックスオフィス止めのチケットが郵送されてくるというような珍妙な出来事も今のところなし。)、
とんでもない!私の知らないところで、こんな大変なことになっていました!
またしても、やらかしてしまったか、メト?!
8/11のNYタイムズの記事によると、サブスクライバーのチケット交換がらみで
大混乱&大騒動をひきおこしてしまったようです。

メトにあらかじめきめられた複数の公演のセット券のことをサブスクリプションといっていますが、
(そして、そのサブスクリプション・チケットを購入する人をサブスクライバーという。)
このサブスクリプションのチケットの一部、または全部の公演を、
きめられた公演以外の日に交換できるエクスチェンジというシステムがあります。
ヴォルピ旧支配人の頃のように、サブスクリプションのオーダーを入れると同時に
エクスチェンジの希望も聞いてくれるという大らかな時代もありましたが、
ゲルプ支配人になってからというもの、メトのチケット・セールスは一層好調をきわめ、
私個人も、全体的にチケット入手が熾烈化しているのをこの身をもって感じます。
また、ゲルプ支配人は、ヴォルピ旧支配人の頃のように、
オペラハウスで長年踏襲されてきたチケット販売の風習をなんとなく放置しておく、
ということが一切なく、無駄なところは全て切り詰め、
また、年季の入ったオペラファンには考えもしない視点でものを見る傾向が
あるのは”リングナッツ激怒事件”でも伺われるとおり。

さて、そのゲルプ氏的視点が次にターゲットにしたのは、サブスクリプションでした。
氏の素朴な疑問は、”サブスクリプションとはセットでチケットを購入するもので、
それだからこそ、値段も若干のディスカウントがされている。
なのに、それを一部(もしくは全部)交換、とはおかしくないか?
いらないチケットは他人に譲るか、ボックスオフィスに寄付返しすべき。”

確かにこのサブスクリプションのチケット交換(エクスチェンジ)が、
ボックスオフィスに膨大な仕事を課し、
かつエクスチェンジは公演の一週間前まで受け付けられるので、
一度抑えられたはずのチケットがずっと後になって流出するなど、
早くチケットの手配をした人よりも、後でチケットの購入手続きをした人のほうに
いいチケットがまわってしまう、という理不尽な事態も生じていたのでした。

エクスチェンジ・システム下では、当然の成り行きとして、
多くの人が、あまり人気のない公演からシーズンの目玉の公演に乗り換える例が多く、
一般のチケットセールスが始まる前に目玉の公演のめぼしい席はほとんど売り切れ、という
ケースもありました。

目玉の公演はできるだけ正規のプライスで売り、人気のない演目も出来るだけ多くチケットをさばく。
これがマネージメント側の究極の目標ですが、これを達成するには、
エクスチェンジを禁止するか、もしくは規制をかけるか、という結論に行き着いた
ゲルプ支配人が布石とした打ち出した新ルールがオペラヘッドの激怒と大混乱を招いてしまったようです。

まず、最大の変化は、ウェブでも郵送でも電話でも、
サブスクリプションのオーダーを入れる段階では、エクスチェンジの希望を出すことができなくなったこと。
これにより、エクスチェンジを希望する人で、人気公演または良席狙いの人は、
いやでもエクスチェンジ受付初日にボックスオフィスに出向かなくてはならなくなりました。
例外は一年に2000ドル以上の寄付をしているパトロンで、彼らには特別な窓口が設置されました。
(しかし、年間に2000ドル以上の寄付をする金銭的余裕のある人は、
大体がエクスチェンジなどという細かい制度自体にあまり興味がないのではないか、
と個人的には思う、、。)
このために、エクスチェンジの受付が始まった8/11には、10時の開始にもかかわらず、
朝の5時(!)にメトにあらわれた人を先頭として、長蛇の列。
しかも、この日はオペラギルドの会員への先行予約日とも重なる、という手際の悪さに、
多くの人が自分の順番が来るまでに、4時間から5時間待ち、という恐ろしい事態に発展してしまいました。
写真からも推察されるとおり、メトの常連である観客たちの平均年齢はかなり高く、
この長い待ち時間をしのぐため、高齢者には椅子が提供される場面もあったそうです。

この尋常でない待ち時間に加えて、オペラヘッズをかんかんに怒らせたのは、
エクスチェンジ一公演につき5ドルの手数料、という新ポリシー。

金さえつめば特別な窓口ですんなり交換を済ませられる、という拝金主義に、
チケット販売の日程の不備、そして、この手数料への怒りも加わって、
”メトのベース支持層を形成しているサブスクライバーを馬鹿にしやがって!”
という声があがったかと思えば、
”今日強いられた状況は、失礼以外の何ものでもない。”という怒りの言葉あり。
あげくの果てには、フィラデルフィアからやってきたという女性から、
”ピーター・ゲルプに何らかのアクションを起す団体を立ち上げようとも思う”という言葉まで!
ひーっ、おそろしいー。
”何らかのアクション”って一体どんなアクション?!
だから、オペラヘッズは粘着質で怖い、と何度もこのブログで警告を発している通りなんです、、。

これに加え、NYタイムズではふれられていませんが、ローカルのオペラヘッズ情報によると、
列に並んでいる間、複数の係員から違った内容の情報が流され、
”新プロダクションものはエクスチェンジの対象外とされ、交換できない”
”いや、四つまでならできる”などなど、情報が錯綜。
結局窓口では、今年も例年どおり、数に制限なく、
新プロ、旧プロ関係なく交換が受け付けられたようですが、こういった情報が
係員から出てきたこと事態、ゲルプ氏の考え、およびこれからの方向を示唆しているようです。

私自身は、観客、特に決まった時期にしかNYに滞在できない旅行者の方々にとっては
ありがたいシステムだとは思うものの、
今までの、収益をロックするためだけのシステムから、実際に収益をアップさせるシステムに
変更していくには、ある程度避けられない流れだと思われ、ゲルプ氏の考えも
それほどおかしいとは思いません。
エクスチェンジの存在を知ったときには、逆にびっくりしたくらいです。

むしろ、リングナッツの時にも書いたとおり、年齢の高いオペラヘッドたちが、
個々のチケットの価値が需要と供給という資本主義的な意味で
アップしているという最近のトレンドと、
それにもとづいた新しいマネジメントの考えについていけていない気がします。

リングナッツの記事に続いて言わせてもらえば、びた一文余計に払わずして、
いい席で人気の演目を見ようという考え自体が甘い!

しかし、ゲルプ氏にも一言言うなら、こういったポリシーの変更は十分時間をもって、
きちんと説明してから行うべき。
リング・サイクル事件もこのエクスチェンジ事件も、いつもいきなりな感じがするのが気になります。
これだとオペラヘッドたちが”騙された”ような気分になって当然。
収益をあげても、大切な既存のファンを失っては意味なし、です。

去年に続き、今年までも、このオペラハウスに並ぶ長蛇の人の列の写真を
当ブログにのせることになるとは予想だにしませんでしたが、
2009-10年シーズンこそは、スムーズなプロセスを期待したいものです。

ライブ・イン・HD DVD発売第二弾は9月

2008-08-10 | お知らせ・その他
当初は5月に発売予定だったライブ・イン・HDからのDVD化第二弾
第一弾は昨年発売された2006-7年シーズンの『エフゲニ・オネーギン』と『清教徒』)。

予定は延びに延び、2008年のシーズン・オープンに合わせて発売か?という噂でしたが、
全く詳細が発表されないので、iN Demandに続いてまたしてもほとんどばっくれまがいの
計画頓挫かと思いきや、とうとうこちらの記事に頂いたコメントにあるとおり、発売が正式に決定しました!


EMIが2007-2008年シーズンについてDVD化権を購入した公演のうち、
どれが商品化され、またされないかが気がかりなところでしたが、全公演、DVD化です!

日本ではHMV、アメリカではamazonなどで、
予約受付が始まっており、発売はアメリカが9/16(HMVは9/15となっていますが、
アメリカの発売日を日本時間に換算?!)。

では、ラインアップを。

 『始皇帝』 (The First Emperor)



タン・ドゥン作曲のワールド・プレミアもので、
この作品だけは、一つ前の2006-2007年シーズンの公演がライブ・イン・HDで上演されたときの映像。
(HMVのサイトに表記されているサラ・コバーンといったキャストは2007-2008年シーズン時のキャストで、
このDVDの映像である2006-2007年シーズンの公演のものではありません。
HMV、なぜこんな手の込んだミスを起す?!
ちなみにユエヤン姫をこのDVDで歌うのは、2006-7年シーズンのエリザベス・フトラルです。)

その2006-7シーズン中、収録日とは違う公演で見たこの作品のレポの中で、
私は、かなりめためたにこの作品をけなしまくっており
(実際、2007-8年の公演時には、20分ほどのカットが入った。
ただし、このDVDは、おそらくオリジナルの長さのままだと思います。)
その気持ちは全く変わりませんが、しかし、先日、このDVDと同じ映像を、
映画館で少し観る機会があり、舞台の美しさとオケの迫力はなかなか捨てがたいものがあり、
また映像での方が実公演よりも良さが引き出されている気もし、
映像化に向いた公演だったのかも、という気がしています。
これもひとえに、映画監督で、北京オリンピックの開&閉幕式の演出も担当したチャン・イーモウの演出と、
衣装担当のワダ・エミさんの力の賜物。
あ、しかし、そういえば、指揮をしたのは、タン・ドゥンだった。
オケからこのような演奏を引き出した事実は評価せねばなりません。
メトのオケが下手、なんてわけのわからないことを言っている人はこれを観るべし。
また、ここ一、二年のメトの舞台では(指揮ではなく、あくまで歌の方で、ですが)
孤高の迫力とも言うべきものが出てきはじめているドミンゴの姿が頼もしい。
この作品が持っているのは、一にも二にも彼のおかげ。
メトの来日公演等のワーグナー作品での歌唱で、力が落ちたからと言って嘆くのはやめましょう。
この作品や2007-8年シーズンの『タウリスのイフィジェニア』などでの彼の歌唱を聞けば、
まだまだ素晴らしいものを我々観客に与えてくれる存在であることがわかるはずです。

本当に、リブレットと曲自体がもうちょっとがんばってくれていたらなあ、、と悔やまれる。
作品そのものの出来をある程度、度外視できる方なら、買って決して損はしないDVD。
私は買います、もちろん。

 『マノン・レスコー』 (Manon Lescaut)



金欠気味でどれか一つ買う演目を削除したい、と思っている方には、これを削除することをおすすめします。
ばっさり。
もちろん、公演は一定の水準には達していますが、他のラインアップに比べると、
不思議なくらい、盛り上がりに欠けており、豪奢なセット以外、どこにもメトの良さが出ていない。
レヴァインの指揮もこれを救うことは出来なかったらしく、
『始皇帝』とは雲泥の差。こういう日の公演をたまたま見てしまった人が、
メトのオケはつまらない、というのかもしれません。
この公演でのマッティラの歌で、2008-9年シーズンの『サロメ』に秘そかに不安を感じている私です。
DVD化された公演当日のレポはこちら

 『ヘンゼルとグレーテル』 (Hansel and Gretel)



これをDVD化することを決意したEMIの決断を大いに評価したい!
そのグロテスクな演出に、”こんなの子供に見せられない!”、”悪趣味もいいところ!”、
”素晴らしいオリジナリティ”と賛否両論だった公演。
私は大好きです、この演出。
何よりも、いい年こいて、女装姿で突き抜けた演技を繰り広げるラングリッジが素晴らしすぎ。
歌唱は英語版。
英語でグリム童話だからという理由でオペラハウスに子供を同伴し、
それで”悪趣味”が理由で怒っているのだとしたら、それは親であるあなたの判断ミスだろう、といいたい。
グリム童話が残虐だということを勝手に忘れられても困る。
毒気が抜かれたグリム童話が聞きたければ、
セントラル・パークのお話コーナー(週末に児童向けに童話を朗読する一角)に行けばよいのだから。
英語、グリム童話、という児童を引き付けるアイテムをばらまいておいて、
容赦なく毒を放ちまくったメトと演出担当のリチャード・ジョーンズに拍手。
ジュロウスキ(日本ではユロウスキという表記のようですが、英語での発音にならいます。)
の指揮もなかなか良いです。
世の中、楽しいばかりのメルヘンの世界ではない、ということがわかっている大人と、成熟した子供向け。
DVDの映像と同じ公演日当日のレポはこちら

 『ラ・ボエーム』 (La Boheme)

(冒頭の写真)

うーん、このDVDは微妙です。
歌も滅茶苦茶悪いわけではないし、
ゼッフィレッリのこの『ラ・ボエーム』の演出は、
いまやメトで最も歴史が長く、愛されているプロダクションの一つでもあるので、
それなりに見所はあります。
ただ、この作品の真のすばらしさが出ているか、と聞かれると、答えに躊躇してしまう。
これが、メトの『ラ・ボエーム』の標準だと思われるとしたら少し寂しい。
もう少しベストなキャストを組めるまで待っても良かったのではないか、という気もします。

DVDの映像と同じ公演のレポはこちら
同じ映像を映画館で見たときの感想はこちら


 『マクベス』 (Macbeth)



ここからが真打。
この『マクベス』はオペラが好きなら絶対に買わなければならないDVD。
おそらく映像としては今後、スタンダードな一本の一つとなるであろうほどの公演です。
『始皇帝』に続き、またしてもHMVのサイトはデータの混乱を引き起こしているようで、
大切なマクベス役のクレジットが、アタネリになっています。
予定されていたアタネリから、ルチーチに変更になった経緯は、
同じ公演日のレポにあるとおりで、上のジャケットの写真にもきちんとルチーチの名前が表記されています。
しかも、マクベス夫人役がグルーバーにマクダフにアロニカ?!
一体いつのキャストのデータを使っているんだろう、HMV。
それともEMIの怠慢?
いずれにせよ、グルーバーもアロニカももともとこれらの役で出演予定だった歌手たちですが、
公演のだいぶ前に変更が発表になり、実際にはグレギーナとピッタスが歌っています。

この公演がいかに良い出来であったかは、レポにも口をきわめて書いた通りなので、
もう何も言いますまい。
『マクベス』がこんなに見ごたえのある作品だったのか!と目からうろこ、です。
歌手、オケ、演出、セット、合唱、あらゆる意味で今のメトの良さが集結した公演。

 『ピーター・グライムズ』 (Peter Grimes)



今のメトの良さが出た、といえば、こちらも双璧。
EMIがこの映像のDVD化権を得たと聞いたときは、
”なんとまあなんでこんな地味な演目を、、他にもっとねらい目のものがあるでしょうが!”
などと、ふつつかな感想を持った私ですが、今、大いに訂正させていただきたい!
いや、のみならず、EMIがこの作品をDVD化したのは、おそらくこのシリーズの中でも、
もっとも正しく鮮やかな決断だったといえるでしょう。
この公演が映像に残って、私は本当に嬉しい。
アメリカ中に同じ気持ちのオペラヘッドが無数にいるこのDVD、
絶対に、絶対に、買い損ねてはなりません!!!!
作品そのもののパワフルさと美しさと悲しさを見事に舞台上に現出させた歌手、オケ、合唱、そして演出、
すべてがかみ合ったこの公演が映像に残されたのは本当にラッキーでした。
公演日当日のレポはこちら

2007-8年シーズンのBest Momentsにも選ばれた『マクベス』と『ピーター・グライムズ』に
関しては、どちらか一本を選べ、といわれても、私は選べません。
この二本に関しては当ブログを読んで頂いている方の視聴必須にしたいほど、
Operax3 選定教科DVDともいえる二本です。買ってください。今すぐに。迷っている暇なし。