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「沖で待つ」 絲山秋子 文春文庫

2019-11-19 | 読書

  

 

短い三編がいろどりよく収まっている。彩は地味だがそれぞれの趣向は違っている、中の「沖で待つ」は芥川賞受賞作。多くの書評が好意的なので書きづらいが、まだ絲山ファンを諦めていないので残しておこう。
 
芥川賞とは知らなかった。 「海の仙人」が面白かったし、絲山さんという作者も初対面からいい感じだった。 もう一冊読んでみようと、予備知識なしで、これも外れないつもりで買ってきたら、芥川賞で、よしこれは当りだと思った。
そして外れた。絲山さんの作風はこれだろうか、好きになった作家だけに、ここにきて実力を感じる次の作を読む気分がまだ湧いてこない。 「海の仙人」の虚実皮膜の間を膨らまし日常の出来事を滑り込ませたあのうら哀しい面白さ、上手い仕業はどこに行ったのだろう。
 

 勤労感謝の日
絲山さんだと超期待しなければとても面白い(知らないだけでこれが本領だったかもしれないが)語り口のいささか伝法な所、失業し収入はわずかな失業保険に頼って暮らしているところ、自然にいじけた心境になるのが真に迫っていて上手い。 仕事でも生活でも、見合いでも妥協はしてない、自分を見失ってはいない。三十歳半ばであっぱれな爽快な生き方ともいえる。 見合いの席で,冴えない、全くあまりないくらいダサイ男を、内心のけなし方も気持ちいい。 「ヤな人生だね」見合いから逃げ出したスナックで「地獄を回避したんだね」と微妙な会話。なんてことはないが、勤労感謝の日の出来事が印象的でいい。
 

 沖で待つ
経験から書かれたらしいお仕事小説。 雇用機会均等法もあって、女性総合職の見本品のように採用された職場で、住宅機器の営業。配属されたのは地方の営業所勤務で、苦労話が具体的で面白い。 それでもここにはあまり目新しい読みどころはない。 身近な住宅機器なので、専業主婦の私でも多少内容は把握できる。まして私事だけれど、最近一階と二階のトイレの水が変なことに同時に止まらなくなった、浄水器の分岐栓のトラブルから始まって、ガス温水器の故障、風呂のジャグジーが夜中に動き出す、門扉のロックができなくなった、など立て続けで、修理を見学しながらカタログを調べたので、ずいぶん詳しくはなった。業者のせいにする所はなく設備が老化してきたことで、今時は何でも便利だが長持ちしないと実感した。もうとっくに保証期間が過ぎましたと言われれば出る幕はない、備品もありませんとなれば取り替えるしかないし。ということだから、業者のミスには悪質クレーマーもいるかもしれない。指示ミスや発注ミスの苦労は良策を捻り出すか給料と引き換えに諦めるしかない。

そんな中の人間関係は、同期は男女でも恋愛感情なしで付き合える仲間意識が育つとか、信頼も友情も育ってきて、独特の共通のお仕事体験があれば愚痴も言い合えるなど、これも初めて就職した頃同期で群れていたことを思い出すと目新しくはなかったし男女意識が稀薄でもおかしくない。 特に親しい仲で、先に死んだらPCのメモリーを取り出してほしいと約束する部分。どんな秘密かといえば「詩」なので別段恥ずかしいようなことも書かれていないし、特に秘密を告白したいようなものでもない。でも自分の正直な内面に強い羞恥心でも持っていれば、そこはそうなのかも知れないが。 主人公が向かいのマンションの男を盗み撮りして保存してある方が恥ずかしいだろうに、約束があるのに先に死なれてどうする。まぁやり方も分かったことだし、早めに自分で処理しておくのかな。 「沖で待つ」というなんか奥行きのありそうなタイトルだと思ったが、絲山さんは簡単に詩の一部から持ってきただけだった。肩透かし。 マンションを出た所で投身自殺の下敷きになるなんて最低の不幸が降ってくることもあるのだ。どう気をつければいいのか分からないという話が絲山さんらしい。
 

みなみのしまのぶんたろう
みんな分かっている、当てこすり小説かな。出版社も作家も読者も、あてこすられ人もなんか一段落ちた気がした。ひらがなばかりは一年生でも読みにくいでしょう。 長いカタカナの電文は祝電でも読みにくいのに。
色々言いたいけれど、二冊しか読まずに書いている程度では、片足突っ込んだ絲山世界から抜け出せそうもない。
 
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