空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

「あふれた愛」 天童荒太 集英社文庫

2014-09-19 | 読書


最近はミステリを主に読んでいるので、気分転換になるかと、題名に惹かれて買ってきた。
少し暗いが、溢れた愛の持ち主は、精神に障害があったり、少しばかり日常からはみ出すような人々で、平常でない日常の中からでもわずかながらもあふれ出すような愛の物語だった。


とりあえず、愛
磯崎武史は大手広告社から町の紙器の印刷業者に転職した。腎臓に疾患があり、入院のあと社長に拾われた会社だった。契約がうまくいき社長と共に喜んで、高揚した気分のまま帰宅すると、育児ノイローゼ気味の妻が待っていた。
娘の夜泣きとアアトピーなどで、なれない子育てに自信をなくし疲れているようだった。結婚の際両親の快諾を得なかったことで妻の実家は敷居が高かったが、妻子を預けた。妻は心療内科で治療を受けその後に入院したが、退院するとすぐに子供をつれて帰ってきた。
妻の誕生日を祝い、少したったころ、妻が出て行ってしまった。
納品の締め切りに追われ働きすぎた武史は倒れた。
入院先でむつまじい老夫婦に会った。妻は痴呆症で夫を判別できなくなっていた、夫は身体が不自由で車椅子だったが、介助を受けて週に一回ハナミズキの木の下で会うのだという。
何も解らないままに病室に帰る妻が、車椅子が傾いたので片手が上がったように見えた。夫は自分の「バイバイ」と言う声に妻がこたえたように見えて、顔を輝かせて看護師に向かってそのことを話していた。
見送っている武史のそばに妻が来た。「いつまで」「とりあえずもう少し」と妻が言った。

うつろな恋人
塩瀬彰二は過労から不安神経症になりストレス・ケアを受けるために入院した。外出が出来るようになり、入った喫茶店で健康的な笑顔のいい少女に出会った。
次の出会いは病院の談話コーナーだった。忘れた本を見つけてくれたのはあの少女だった。性的な内容の本だったが、古典文学だと薦められて読もうとしていたところだった。少女はそれを見て、なにか文字が書いてる和紙の綴りを見せた。開くと露骨で猥雑な言葉の連なった詩のようなものだった。
カウンセリングで担当医にその話をした。「彼女のイメージとは会わない詩を見せられたんですよ」
喫茶店に行くと彼女がいた。中野まで行って男に会って来たという。詩はデート相手が書いたものだといった。
続きも見てくれと行ってまた詩集を渡された。「私のことを書いてくれた詩なんです」という。
だがそれは、ボードレールが戯れに書いた詩の書き写しだった。彼女がいるという中野のアパートに行ってみると少女はそこの部屋で時間を潰して帰って来るだけだった。
彼女はまた入院した。彰二は退院して会いに行って見ると、詩を書いてくれる恋人の名前が今度は彰二になっていた。

やすらぎの香り
香苗は長女で責任感の強い努力家だった。次第に完璧を目指すことが目標になり神経を病んでいった。過食嘔吐を繰り返すようになっていたが、隠して親の勧める結婚をした。だが夫は全て両親に依存している男だった。見つかった嘔吐が妊娠でなかったというので、離婚。精神科に入院した。
次第に回復して社会復帰病棟に入った。そこは社会に適応するための施設で、外出も出来た。宗教の勧誘を受けて困惑していたとき助けたのが同じ病棟にいる男性だった。付き合い始めて一緒に住むようになった。半年後も変わらなければ結婚を許されることになった。二人は交互に日記を書いてそれを証明にした。
結婚届を貰いに行って緊張のために倒れてしまった。約束は後二日だった。妊娠していることもわかった。職場でも思いやりがあり、夫の茂樹も優しかった。
「やっていけるよ」と言ってくれた。

喪われゆく君に
高校を中退したまま保志浩はアルバイトで暮らしていた。クリスマスの日勤め先の店で男が倒れてそのまま亡くなった。何の手立ても出来なかったのがしこりになっていたが、ケーキを貰って帰ってくると美容師見習いの美季が来ていた。
暫くしてなくなった男の妻が尋ねてきた。様子を聞かせて欲しいと言う。浩之は表が騒がしいことにかこつけてすぐに店から出てしまった。帰って店に顔を出すとまだ妻は待っていた。
彼は様子が気になってアパートに訪ねていく。彼女は家に入れて夫が趣味にしていた風景写真を見せる。花の咲く四季折々の美しい風景がうつっていた、もう一度行きたがった妻に見せるために、美季と同じ風景を訊ねて同じように写真を撮ってくる。そのうち美季が不審がり同行を拒んだ。それからは一人で写真を撮った。
「どうして一人なの」妻は責めるように言い、暫くして引っ越していった。
手紙が来た、新しく出直す気持ちになったと言う。


簡単なあらすじだが、社会に適応できない人たちが、心の病を見つめなおしていく姿が温かい。暗く苦しい物語になっているが、小さな愛が立ち直る切っ掛けを作る、心の中にある欠けた部分を補い合ったり、支えあう姿が静かに胸に響く。
「家族狩り」「永遠の仔」を読んだが救いようのない暗さが印象に残っている。その後の作品は題名だけでも何か違った方向が見える。機会があれば読もうと思っている。



いつもご訪問ありがとうございます。   ↓↓↓
応援クリックをお願い致します/(*^^*)ポッ人気ブログランキングへ

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 京都 大原散策 | トップ | 「64(ロクヨン)」 横山... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読書」カテゴリの最新記事