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「カラマーゾフの妹」 高野史緒 講談社

2014-12-08 | 読書

第58回江戸川乱歩賞受賞作


読みたいと思って待っていたらやっと回ってきた。昔読んだがぼんやりしか覚えていない「カラマーゾフの兄弟」。今あらためて読んでも大丈夫解るのだろうか。先にアノ長い長い本編を読んだほうがいいのだろうか。迷っているうちに手元に来てしまった。
こういうのを杞憂と言うのだろう。読んでみたら、もう面白くて最後まで読んでしまわないと眠れない、久々に読書の楽しみを実感した。

作者がこの本を書いたのはとても勇気がある。驚いたのは隅々まで読み込んで、原作(前作)のポイントは必ず抑えてある。その上で新しい展開をたっぷり読ませてくれる。なんといっても事件の13年後。あの事件は解決済みで犯人に審判もくだり、関係者もそれぞれの生活に戻っている。そこからどうなったか。

三男のイワンは事件のときにはモスクワに発っていた。だが大審判の折には父フョードルを殺害したのは長男のドーミートリー(ミーチャ)だという判決を受けいれていた。法廷で人格を疑われるほど錯乱し暴言を吐いたことも今では「忘れられていった。
頭脳明晰だったイワンは内務省に勤め、未解決事件の特別捜査官になっている。

その後も頭痛と幻覚、記憶が途切れるという症状に悩まされ、原因は心の深いところにある何かのストレスだろう、時々現れる謎の記憶の断片も繋がりがあるのかも知れないと、うすうす自覚はしている。
次の調査地はを13年前の「カラマーゾフ事件」にして、故郷(スコトプリゴニエスク、、わたしはここが一口にいえないので故郷とする;;)に帰ってきた。
そこには以前オデッサの事件の折の通訳、トロヤノフスキーが来ていた。彼はイワンが調べ始めた「カラマーゾフ事件」に深い関心を持っていたし、心理学者として、イワンの症状にも関心があった。

そして、過去の事件を現代の捜査法に照らして、謎を解いていく。
当時この事件のゴシップで仕事を増やし、名士になってしまっているラキーチンもいた。予審判事ネリュードフ。そして今も天使のような弟、アレクセイ(アリョーシャ)は結婚して故郷に残り、教会の仕事をしながら子供たちの育成につとめ、人々から尊敬されている。

事件の発端から、13年前の時間を掘り起こし、イワンの心の底に沈んでいる出来事から、長兄ドミートリー(ミーシャ)の冤罪が姿を現してくる。しかし彼はイワンの努力で20年の刑が減刑され13年になったのだが、シベリアの過酷な生活で亡くなっていた。

悪の分身のような私生児で異母兄弟のスメルジャコフは裁判の前日に自殺していた。

順調に調査が進んでいるとき、ラキーチンと、ネリュードフが撲殺される。凶器は父親フョードルのときのもに酷似していた。

イワンは、頭痛が酷くなり時々人格が分離する、そして自覚がないままに悪魔的人格に変異する。「悪魔だ」と名乗りそばにいるトロヤノフスキーに語りかける。
一度は幼い少女の人格が出た。
以前の大審判の暴言も、他人格が現れて暴れたのではなかっただろうか、イワンは思い乱れていく。

記憶にないが思い出すと嫌悪感が溢れてくる遠い領地、そんな中でイワンは譲られた土地を見に行く。そこには領主用の家もあったが何の記憶もなく、やはり過去には別人格が来ていたらしい。村人は彼を見知っていて、そのときの出来事を思い出し始める。当時そこには母も生まれたばかりの妹も兄弟もいて、すぐに亡くなってしまった妹の葬儀をして教会の墓に埋めていた。その妹も彼の記憶の底の底に眠っていた。

それは彼の多重人格の証明であり、今も頭痛になって現れる根源的なストレスの痕跡だった。

こうして過去に戻り、資料に当たり、事件当時見逃していた時間のずれを発見する。

そして。当時兄弟が全員で憎み、誰が殺してもおかしくない状態の中で、父親の撲殺時間に時間的にかなう人物が浮かび上がる。


原点を読み込んでミステリにした、そもそもの原点の読み込みがすばらしい。作者の文章力にも脱帽する。

その上、アレクセイが、愛国思想の実現のために組政治犯の仲間に入り、ロケットや砲弾を作る地下組織で働く、電算機を使った速度や燃料消化に従う重量の変化や軌道演算の部分、計算上可能だと思われるロケット打ち上げ構想を実現しようとする、SF的部分も今風で面白い。

イワンがトロヤノフスキーと知り合うオデッサの事件には、イギリスからホームズも参加していたらしいという、ウフッとなるサービス記述もる。

面白かった。






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