フォーレ:ピアノ四重奏曲第2番
即興曲第5番
夜想曲第4番/第6番
舟歌第6番
ピアノ:マルグリット・ロン
ヴァイオリン:ジャック・ティボー
ヴィオラ:モーリス・ビュー
チェロ:ピエール・フルニエ
録音:ピアノ四重奏曲第2番(1940年5月)
即興曲第5番(1933年)/夜想曲第4番(1937年5月)/
第6番(1936年7月)/舟歌第6番(1937年)
LP:東芝音楽工業 GR‐81
このLPレコードは、EMIが20世紀前半に活躍した名演奏家の決定盤と言われているSPレコードを、LPレコード化した“世紀の巨匠たち(Great Recordings of the Century=GRシリーズ)”の中の1枚で、ピアノ:マルグリット・ロン(1874年―1966年)、ヴァイオリン:ジャック・ティボー(1880年―1953年)、ヴィオラ:モーリス・ビュー、チェロ:ピエール・フルニエ(1906年―1986年)という豪華メンバーを揃えたもの。フォーレ:ピアノ四重奏曲第2番においては、以下に書く録音時の状況を知っておかねばならないであろう。フォーレの室内楽曲としては、ヴァイオリンソナタ第1番が一番有名であるが、それに次いで、ピアノ四重奏曲第1番と第2番がよく知られている。ピアノ四重奏曲第2番が作曲されたのは、1866年、フォーレ41歳のときである。第1番から7年が経っており、有名なレクイエムの作曲の前年に当たる。全部で4つの楽章からなるこの曲は、第1番より個性的で、精緻な完成度を誇っている。しかし、全体に地味な印象があるためか、人気では第1番に一歩譲ることになる。このLPレコードでの演奏内容は、幻想的で、しかもどこか息詰まるような、切迫感に包まれた演奏内容である。この理由は、次のマルグリット・ロンの手記を読めば直ちに氷解する。「フォーレのピアノ四重奏曲第2番は、1940年6月10日の午後録音された。ちょうどその日は、ドイツ軍がオランダに侵入した日だったので、悲痛な気分がスタジオを支配していた。私には、ティボーの胸を締め付ける、世にも切ない苦しみがよくわかった。なぜなら、彼の長男のロジェがその方面の最前線に出陣しているのを知っていたからである。私たちは、感動のあまり、根限りの情熱と誠実さで演奏した。その翌日、―ロジェは名誉の戦死を遂げた・・・」。つまり、このフォーレ:ピアノ四重奏曲第2番の演奏は、通常の状態とは異なり、安定感欠けたところはあるが、逆に、言い知れない不安感とか、研ぎ澄まされた感覚が全体を覆い、通常のフォーレの音楽とは異なる、異次元の深みに立ち入った境地が感じられるのである。そんな時でもマルグリット・ロンのピアノ演奏は、冷静さを失うことなく、深く、静かに、時には激しくフォーレ特有の世界を描き切り、演奏の中心的役割を見事に果たしている。ピアノ四重奏曲第2番の後には、フォーレのピアノ独奏曲4曲が、マルグリット・ロンの演奏で録音されている。ここでのロンの演奏は、これらすべての曲において、フォーレの世界のむせぶような味わいが聴き取れる名演と言える。(LPC)。