モーツァルト:交響曲第39番
ストラヴィンスキー:バレエ音楽「ミューズの神を率いるアポロ」
指揮:エフゲニー・ムラヴィンスキー
管弦楽:レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1965年2月モスクワ音楽院大ホール(ライブ録音)
発売:1977年
LP:ビクター音楽産業 VIC-5069
このLPレコードは、1965年2月モスクワ音楽院大ホールにおけるライブ録音である。ロシアの名指揮者エフゲニー・ムラヴィンスキー(1903年―1988年)の遺した数ある録音の中でもライヴ録音は珍しく、巨匠のナマの演奏を聴くことができる貴重な録音だ。ムラヴィンスキーは、実に50年(1938年―1988年)にわたってレニングラード・フィルハーモニー交響楽団首席指揮者を務めたが、レパートリーは、主にショスタコーヴィチやチャイコフスキーなどロシアものを得意とした。ムラヴィンスキーの指揮は、オーケストラに一糸乱れることのない演奏をさせ、リスナーはそのことに釘づけになるが、ムラヴィンスキーの真の偉大さは、それだけで終わらないところにある。その曲の本質をぐっと握りしめ、それをリスナーの前に明確に示すことによって、感動をリスナーに共感させることにある。つまり、単なる音の羅列でなく、作曲家が楽譜に込めた思いが、ムラヴィンスキーの棒を通して伝わってくる。これは例え幾多の指揮者がいようが、ムラヴィンスキーしかなしえない神業なのだ。このLPレコードのモーツァルト:交響曲第39番は、そんなムラヴィンスキーの特徴を十二分に聴いて取れるライブ録音なのである。ゆっくりとしたテンポの中に、実に奥行きの深い演奏に仕上がっている。それでいて、とっても温かみのある演奏なのだから、一度聴いたらたちまちのうちにムラヴィンスキーファンになるということが少しも不思議には感じられない。静寂の中に熱い思いを込めた指揮ぶりは、何度繰り返し聴いても飽きることはない。もっとも体調が悪いときはムラヴィンスキーの指揮は聴かない方がいいかもしれない。その理由は、聴くこと自体がムラヴィンスキーと共感することになるので、聴くことがあたかもリスナー自身が指揮者になることを意味し、聴き終わったときはぐったりと疲れ果ててしまうからだ。もっとも、これは心地よい疲れなのだが・・・。B面に収容されているストラヴィンスキー:バレエ音楽「ミューズの神を率いるアポロ」は、ストラヴィンスキーが新古典主義の作風に入った時の曲だけに聴きやすく、聴いていて心地よい作品だ。ここでのストラヴィンスキーの指揮ぶりは、モーツァルトやチャイコフスキー、それにベートーヴェンなどを指揮する時とはがらりと様相を変え、実に楽しげに指揮をしている。ムラヴィンスキーの別の一面が垣間見えて、楽しい一時を過ごすことができる。(LPC)