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★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇若き日のアシュケナージのたラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番/練習曲集「音の絵」Op.39より第1、2、5番

2020-12-24 09:40:59 | 協奏曲(ピアノ)

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番
       練習曲集「音の絵」Op.39より第1、2、5番

ピアノ:ウラジーミル・アシュケナージ

指揮:キリル・コンドラシン

管弦楽:モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1975年

LP:GT 9048

LP:キングレコード

 ラフマニノフの父母は、ともに裕福なロシア貴族の家系の出身であったようだが、ラフマニノフが生まれた頃には、一家はかなり没落していたようだ。ところが、9歳の時、ついに一家は破産してしまう。しかし、ラフマニノフだけは音楽の才能を認められ、奨学金を得てペテルブルク音楽院で学ぶことができた。その後、モスクワ音楽院に転入しピアノを学び、1891年にスクリャービンとともに金メダルを分け合って卒業したほどその才能を発揮した。同年ピアノ協奏曲第1番が完成している。1895年に交響曲第1番を完成させたが、この曲の初演時の不評がもとで神経衰弱となり、以後作曲を中止せざるを得ない状況にまで陥ってしまった。しかし、精神科医ニコライ・ダーリの治療を受けることで、再び創作への意欲を回復させ、1901年に完成したのが、今回のLPレコードのピアノ協奏曲第2番である。ところがその後十月革命が起こったロシアを嫌い、1917年12月、ラフマニノフは家族とともにロシアを後にし、スカンディナヴィア諸国への演奏旅行に出かけてしまう。この時には、日本に立ち寄り、演奏会も開いている。その後、ラフマニノフそのままニ度とロシアには戻ることはなかった。このLPレコードは、ピアノ協奏曲の名曲中の名曲であるラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番を、わが国でもお馴染みのウラジーミル・アシュケナージ(1937年生まれ)がピアノ独奏、そして旧ソ連の名指揮者キリル・コンドラシン(1914年―1981年)指揮モスクワ・フィルが伴奏をするという、ロシアを代表する演奏家たちによるこの録音であることが、他の録音とは一線を画している。この録音のアシュケナージのピアノ演奏は、肩の力を抜いて、何処か故郷ロシアを思い描くように、ゆっくりとしたテンポで弾き進む。過剰な演出は、少しもないのに何か物悲しく、切々とした演奏内容がリスナーの胸を強く打つ。ここでの演奏は、他の演奏家によるラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番の次元とは、全く違って聴こえる。劇的な要素を極力排除し、繊細さと静寂さが前面に顔を覗かせる。極論すると、我々がいつも聴いているこの曲とは別の曲ようにも聴こえるのだ。ここまで聴いてきて、ようやくこの演奏の真意が伝わって来た。「この曲は、一般に考えられているような、きらびやかな外向的な曲ではなく、精神性の高い内向的な曲なのだ」と主張しているようでもある。特に第2楽章などを聴くと、この思いを強く感じる。練習曲集「音の絵」からの3曲の演奏は、ラフマニノフに対するアシュケナージの思いがこもった名演。(LPC) 


◇クラシック音楽LP◇ステファンスカのグリーグ:ピアノ協奏曲/スメンジャンカのショパン:ピアノ協奏曲第2番

2020-12-17 09:35:42 | 協奏曲(ピアノ)

 

①グリーグ:ピアノ協奏曲

 ピアノ:ハリーナ・チェルニー=ステファンスカ

 指揮:ヤン・クレンツ
 管弦楽:ポーランド放送交響楽団

②ショパン:ピアノ協奏曲第2番

 ピアノ:レギーナ・スメンジャンカ

 指揮:ヴィトールド・ロヴィッキ
 管弦楽:ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団

発売:1980年2月

LP:日本コロムビア OC‐7268‐PM

 このLPレコードの特徴は、かつて一世を風靡したハリーナ・チェルニー=ステファンスカ(1922年―2001年)とレギーナ・スメンジャンカ(1924年―2011年)の2人の女性ピアニストが、グリーグ:ピアノ協奏曲とショパン:ピアノ協奏曲第2番の2曲のピアノ協奏曲の名曲を録音してあるところにある。ここでは男性ピアニストには求められない、繊細さと温かみの両面を備えたピアノ演奏を聴くことができる。ハリーナ・チェルニー=ステファンスカは、ポーランド出身の女性ピアニスト。1949年に開催された第4回「ショパン国際ピアノコンクール」で第1位および最優秀マズルカ演奏賞を受賞。1957年、1963年、1967年の3回来日している。グリーグ:ピアノ協奏曲は、グリーグ唯一の協奏曲。1868年、デンマークを訪問している間に作曲された初期の傑作で、北欧の自然の情景を思い描かせることから、今でも人気のあるピアノ協奏曲として知られている。ここのLPレコードでのステファンスカのグリーグ:ピアノ協奏曲の演奏は、彼女のピアノ演奏の特徴である繊細で明快なピアノタッチ、正確無比のリズム感が発揮されているのが充分に聴き取れる。ステファンスカのピアノの音色は、限りなく透明で、明るく開放的だが、このことがこの録音でも如何なく発揮され、リスナーは聴き終わると十分な満足感に浸ることができる。ヤン・クレンツ指揮ポーランド放送交響楽団の伴奏もステファンスカのピアノ演奏を十分に盛り立てている。一方、レギーナ・スメンジャンカの弾くショパン:ピアノ協奏曲第2番は、ステファンスカの演奏が開放的なのに対し、内省的で精神性の高い演奏を聴くことができる。ショパン:ピアノ協奏曲第2番は、第1番よりも先の1830年に完成した。第1番同様オーケストラの弱さが指摘されるが、ピアノ演奏部分は第1番同様、ショパン特有の華やかさと憂いに満ちた優れた作品に仕上がっている。レギーナ・スメンジャンカは、ステファンスカ同様、ポーランド出身の女性ピアニストで、これまでしばしば来日している。このLPレコードでのスメンジャンカは、ステファンスカに劣らず繊細さに溢れ、それでいて何か温もりが感じ取れる演奏を披露する。ゆったりとしたテンポを維持し、その演奏内容は詩情あふれるものとなっている。ヴィトールド・ロヴィッキ指揮ワルシャワ国立フィルの伴奏も、スメンジャンカの演奏にぴたりと寄り添い、曲の効果を一掃盛り挙げている。ヴィトールド・ロヴィッキ(1914年―1989年)は、ポーランド放送交響楽団の創立と育成に尽力した指揮者。(LPC) 


◇クラシック音楽LP◇バックハウスのベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番/第2番

2020-12-10 09:37:48 | 協奏曲(ピアノ)

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番/第2番

ピアノ:ウィルヘルム・バックハウス

指揮:ハンス・シュミット・イッセルシュテット

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1973年

LP:キングレコード GLC6020

 ベートーヴェンは、全部で5曲のピアノ協奏曲を書いたが、第3番、第4番、第5番はベートーヴェンらしさが出たピアノ協奏曲の名曲と言われるが、それに対し第1番、第2番の評価はあまり高くない。このLPレコードは、それまでのそのような一般的な評価を一掃した画期的な録音として、後世に長く伝えたいものの一つ。このLPレコードのライナーノートで、宇野功芳氏は「・・・そのような偏見が生ずるのは、ひとえに演奏者の責任ではないだろうか」と書いているが、このLPレコードのバックハウス(1884年―1964年)の演奏を聴き終えた後に、この文章を読むと「全く同感」という気持ちになる。それほど、このLPレコードのバックハウスの演奏は、これら2曲への深い愛着と洞察に富んだものとなっており、優れた演奏内容が光る。人によっては「これら2曲ともモーツァルトの模倣のようなところが見られ、ベートーヴェンらしくない」という見方をする人も、いることはいる。しかし、バックハウスは、そんな批判に一切耳を傾けることはなく、青年期のベートーヴェンの精神を、ものの見事に鍵盤上に再現して見せ、これら2曲が並々ならぬ魅力を湛えた作品であることを証明してみせる。この頃のベートーヴェンは若手ピアニストとして売り出し中の頃であり、自分で弾く曲を自分で作曲する若手ピアニストの一人であった。ひょっとするとベートーヴェンは、耳が悪くならなければ一生ピアニストで終えたかもしれないのだ。ところが耳が聞こえなくなり、止むを得ず作曲家に転向せざるを得なかった。ベートーヴェンの耳が聞こえなくなったらこそ、我々は人類の宝ともいえるベートーヴェンが作曲した数多くの名曲を、今聴くことができるのだ。ピアノ協奏曲第1番と第2番は、その以前の、ベートーヴェンがピアニストとして夢溢れる頃の作品であり、ベートーヴェンの生涯を振り返る時には、欠かせない曲とも言えるのである。この第2番と第3番の第2楽章でのバックハウスの演奏は、第3番、第4番、第5番のピアノ協奏曲で見せる男性的な力強さとは異なり、何と抒情的な優しさに満ちた演奏ぶりをする。それも、こじんまりとまとまった抒情味ではなく、大きな広がりを持ったような抒情味を表現する。この演奏を聴くだけでも、バックハウスは不世出の名ピアニストであったことが分かる。ハンス・シュミット・イッセルシュテット指揮ウィーン・フィルも、バックハウスの感性にぴたりと合わせた見事な伴奏を聴かせてくれる。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇ハンス・リヒター=ハーザーのベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番/第4番

2020-10-22 09:39:21 | 協奏曲(ピアノ)

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番/第4番

ピアノ:ハンス・リヒター=ハーザー

指揮:カルロ・マリア・ジュリーニ(第3番)
   イシュトヴァン・ケルティス(第4番)

管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団

LP:東芝EMI EAC-30064

 このLPレコードでピアノ演奏をしているのは、旧東ドイツ出身のハンス・リヒター=ハーザー(1912年―1980年)である。ドレスデンで生まれ、地元のドレスデン高等音楽学校で学んだ。 第二次世界大戦後は、デトモルト市立管弦楽団指揮者およびデトモルト音楽院ピアノ科教授に就任。しかし、その後、ハンス・リヒター=ハーザーは、ピアニストとしての道を歩むことを決意し、10年のブランクを置いてオランダでピアニストとしての再デビューを図った。聴衆は、突如円熟したピアニストの登場に驚き、その名声はたちまちの内にヨーロッパ中に広まった。1959年にはアメリカ、そして1963年には日本にも訪れ、ベートーヴェンの見事な演奏を披露した。ハンス・リヒター=ハーザーは、ドイツ的な深い感情表現を基本としており、正統的でスケールが大きい演奏が特徴だ。このため、得意としていたのはベートーヴェンやブラームスなどの曲であり、特にベートーヴェンは、当時その右に出る者なしと言われるほどの腕であった。ハンス・リヒター=ハーザーが来日した折、このLPレコードに収められたベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番を「自分の一番気に入った演奏」と言っていたそうである。いわば、このLPレコードは、ハンス・リヒター=ハーザーの自薦盤ともいえる録音である。早速ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番を聴いてみよう。ここでハンス・リヒター=ハーザーは、ベートーヴェンに真正面から取り組んでいるのではあるが、そこには少しの気負いもなく、優雅さが溢れるような流麗なベートーヴェン像が現れることに驚かされる。もっとごつごつとしたベートーヴェンが描かれるのでは、と思いきや、そこにあるのは優美な面持ちのベートーヴェンなのである。これは、ベートーヴェンに挑むというよりは、ベートーヴェンを導き入れるような包容力を持った演奏内容なのである。しかし、ベートーヴェンらしい威厳が少しも失われていないのは、これが名人の演奏なのかと感心させられる。これに対して、第4番の演奏は、充分に男性的でスケールの大きいベートーヴェン像が描かれている。懐の深い演奏とでも言ったいいのであろうか。一つ一つのピアノの音の粒が揃い、音色も限りなく美しいのが驚異的でさえある。これら2曲の演奏に共通して言えるのは、表面的な凡庸なベートーヴェン演奏とは、全く無縁の演奏あるということ。ハンス・リヒター=ハーザーの演奏を聴いていると、ベートーヴェンの心の中に入り込み、あたかもベートヴェン自身がピアノを弾いているような新鮮さが滲み出ている。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇プーランク自身のピアノ演奏を含むプーランク:2台のピアノのための協奏曲/クラヴサンと管弦楽のための“田園のコンセール”(田園協奏曲)

2020-10-15 09:55:14 | 協奏曲(ピアノ)

プーランク:2台のピアノのための協奏曲
      クラヴサンと管弦楽のための“田園のコンセール”(田園協奏曲)

ピアノ:フランシス・プーランク

ピアノ:ジャック・フェヴリエ

クラヴサン:エーメ・ヴァン・ド・ヴィール

指揮:ジョルジュ・プレートル

管弦楽:パリ音楽院管弦楽団

録音:1957年5月、パリ、サル・ド・ラ・ミュチュアリテ

LP:東芝EMI EAC‐40122

 これはフランスの作曲家で、フランス6人組の一人でもあったプーランク(1899年―1963年)が書いた2つの協奏曲を収録したLPレコードである。「2台のピアノのための協奏曲」では、プーランク自身ピアニストとして演奏しており、プーランクはピアニストとしても一流であったことが裏付けられる録音でもある。交響曲は書かなかったようであるが、声楽をはじめとして、室内楽、宗教的楽劇、オペラ、バレエ音楽、管弦楽曲など幅広く作曲した。父の反対によりパリ音楽院には進学せず3年間の兵役につき、その後本格的に作曲を学び始める。バレエ「牝鹿」、オペラ「ティレジアスの乳房」、オペラ「カルメル派修道女の対話」などを発表し、これらにより次第に高い評価を得ていく。プーランクはフランス音楽の権化みたいに感じられるが、プーランク自身は「フォーレやルーセルは受け付けない」と言っていたという。プーランクは生粋のパリっ子の都会人で、その作風も何かシャンソンに似ているようでもある。このLPレコードのA面に収められた「2台のピアノのための協奏曲」は、プーランクの天真爛漫さが発揮された協奏曲である。リスナーは、2台のピアノとオーケストラ繰り広げる音の絵巻を楽しむといった趣の曲だ。このLPレコードでは、プーランクと幼いころからの友人であったジャック・フェヴリエの2人のピアノ演奏が絶妙に絡み合い、これにジョルジュ・プレートル指揮パリ音楽院管弦楽団の粋なオーケストラの響きがよく溶け合った演奏内容となっている。プーランクの世界は、パリの粋な雰囲気が充満し、そのことでリスナーが心の充足感が得られるような作品が多いと思うが、これはその典型例とも言える作品であり演奏だ。B面に収められた「クラヴサンと管弦楽のための“田園のコンセール”(田園協奏曲)」は、クラブサン(ハープシコード)の名演奏家であったワンダ・ランドフスカに依頼によって作曲された作品。ワンダ・ランドフスカは、クラブサンを現代によみがえらせ、多くの演奏家を育て上げた。そんな人の依頼を受けたプーランクは、協奏曲というよりは、17世紀~18世紀の雰囲気に戻って、あたかも合奏協奏曲風な雰囲気を漂わす。このLPレコードでクラヴサンを演奏しているのは、ワンダ・ランドフスカに師事し、主にスイスで活躍したクラブサン奏者のエーメ・ヴァン・ド・ヴィール。この「田園協奏曲」の演奏内容は、クラブサンの繊細な響きとオーケストラのダイナミックな響きとが、意外にもうまくかみ合い、味わいのある演奏に仕上がっている。(LPC)