モーツァルト:行進曲K.237
セレナード第4番K.203
指揮:エド・デ・ワールト
管弦楽:ドレスデン国立管弦楽団
ヴァイオリン:ウト・ウギ
録音:1973年11月17日~23日、ドレスデン
発売:1981年
LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード)
このLPレコードで指揮をしているのが、オランダ出身のエド・デ・ワールト(1941年生まれ)である。エド・デ・ワールトは、名門アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団でオーボエ奏者として活躍。1964年「ミトロプーロス指揮者コンクール」で優勝した。その後、ニューヨーク・フィルでバーンスタインの副指揮者として1年間を過ごし、1973年にはロッテルダム・フィルの首席指揮者に就任。一方、ヴァイオリンのソロの演奏しているウト・ウギ(1944年生まれ)は、イタリア出身。ジョルジュ・エネスコに師事した後、キジアーナ音楽院で学ぶ。世界各地で演奏活動を行い、1980年に初来日している。イタリアにおいては、最も著名なヴァイオリニストの一人として知られ、イタリアのヴァイオリン流派の伝統の正統継承者としてみなされている。このLPレコードでは、セレナード第4番の第2、第3、第4楽章でのヴァイオリン独奏により、この曲全体がぐっと引き締まった印象をリスナーに与える。セレナード第4番は、「コロレド・セレナード」と呼ばれることがある。コロレド大司教はモーツァルトの才能にまったく気付かず、モーツァルトを一人の召使としか評価しなかったために、二人は最後には喧嘩をしてしまう。モーツァルトは、大司教側近のアルコ伯爵に、お尻をけとばされ、戸外へ突き出されてしまったというエピソードも残っている。そんなことで職を失ったモーツァルトは、貧困の生活を余儀なくされる。1774年に作曲された全部で8つの楽章からなるこのセレナードは、そんないわく付きの曲ではあるが、セレナード枠を越えたスケールの大きさと厳粛な雰囲気を漂わせた堂々としたセレナードとして知られる。また、第2、第3、第4楽章では、独奏ヴァイオリンがヴァイオリン協奏曲のような効果を発揮している点も注目される。もし、モーツァルトの作品でまだ“隠れた傑作”があるとするなら、その筆頭に挙げられてもおかしくないような内容の充実した作品に仕上げられている。このLPレコードでは、セレナード第4番の前に行進曲が収録されているが、これは当時、セレナードやディヴェルティメントの前後に行進曲を演奏して、聴衆の入退場をスムーズに行った名残である。エド・デ・ワールトの指揮は、そんなセレナードを誠に正統的に演奏しており、ウト・ウギのヴァイオリンのソロ演奏とともに、この曲の真価を知らしめることに見事成功しているのである。(LPC)
ドヴォルザーク:弦楽セレナーデ op.22
管楽セレナーデ op.44
録音:1963年12月18日―22日、ハンブルグ大音楽堂
指揮:ハンス・シュミット=イッセルシュテット
管弦楽:北ドイツ放送交響楽団
このLPレコードは、古今の弦楽セレナードの傑作の一つに数えられるドヴォルザークの「弦楽セレナーデ」(作品22)と管楽器群が活躍する「セレナード」(作品44)の2曲が収められている。「弦楽セレナード」の方は、ドヴォルザークが大家としての道を歩み始めた頃の33歳の時に作曲された曲であり、全部で5つの楽章からなっている。曲想は実に若々しく、曲全体が青春の喜びに溢れているといった感じが直接伝わってくる。今では弦楽セレナードと言うと直ぐにチャイコフスキーの曲を思い出すが、このドヴォルザークの曲は、明るくしかも楽しい曲調に終始し、聴き易さの点ではチャイコフスキーの曲を数段上回ると、私などは思っている。この曲は昔はラジオなどからしょっちゅう流されていたが、最近はコンサートなどでもあまり取り上げられなったのは、実に残念なことではある。もっと広く聴かれてもいい名曲だ。一方、オーボエ、クラリネット、ファゴット各2、コントラ・ファゴット1、ホルン3およびチェロとコントラバスのために書かれたホ短調の「セレナード」の方は、「弦楽セレナード」の3年後の1878年に作曲された。何か農村の野外音楽を思わせる郷土色豊かな曲で、全部で4楽章からなる。管楽器の音色が実に印象的であり、「弦楽セレナード」ほど一般性はないが、噛めば噛むほど味わいが溢れてくるような懐かしさに溢れた作品である。これら2曲の指揮は、ドイツの名指揮者だったハンス・シュミット=イッセルシュテット(1900年―1973年)が務めている。ハンス・シュミット=イッセルシュテットは、ドイツ、ベルリン出身。1935年ハンブルク国立歌劇場の首席指揮者となり、1942年にはベルリン・ドイツ・オペラの歌劇監督に就任。第二次世界大戦後は、北ドイツ放送交響楽団を基盤にし、ベルリン・フィルやウィーン・フィルを初めとする世界の114のオーケストラのタクトを執った。ハンブルク州立歌劇場やコヴェントガーデンなどの主要な歌劇場でも活躍し、1955年から1964年まではロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者も務めた。このLPレコードの2曲とも、細部にわたって細やかな心配りがなされ、実に堅実な指揮ぶりが収められている。伸び伸びとしていて安心して聴いていられる演奏である。少しの衒いもなく、彫の深い演奏を聴くことによって、リスナーは無上の喜びを得ることができるのである。(LPC)
~北欧の抒情シリーズ シベリウス:管弦楽秘曲集~
シベリウス:春の歌
ダンス・インテルメッツォ
森の精(管弦楽のための音画)
パンとエコー
アンダンテ・フェスティヴォ
ヴァルス・ロマンティク
カンツォネッタ
美しい組曲(フルートと弦楽のための)
田園組曲
ロマンス
指揮:チャールズ・グローヴズ
管弦楽:ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団
LP:東芝EMI EAC‐30357
シベリウスの管弦楽曲というと、交響詩「トゥオネラの白鳥」を含むレンミンカイネン組曲(4つの伝説曲)、交響詩「フィンランディア」、交響幻想曲「ポホヨラの娘」、交響詩「タピオラ」、劇音楽/組曲「ペレアスとメリザンド」、劇音楽「テンペスト(嵐)」・・・などを思い浮かべる。そして、それらの曲の内容の素晴らしさに気づかされる。これらの曲は、いずれも北欧音楽特有の美しいメロディーと透明感ある響きに満ちたもので、クラシック音楽の中でも独特の位置を占めている。特に祖国愛に溢れた交響詩「フィンランディア」などは、聴いているうちに熱い思いが胸に迫ってくる名曲中の名曲だ。そんな傑作の多い、シベリウスの管弦楽曲の中でも、「アンダンテ・フェスティヴォ」以外、現在ではあまり演奏されなくなった曲を集めたのが、今回のLPレコードである。現在ではあまり演奏されなくなったといっても、それはシベリウスのこと、それらのすべてが優れた曲であることに、少しも変わりがなく、逆に現在演奏されなくなった理由が分らないほど、それぞれの曲が優れた内容を持っている。「春の歌」は、実に愛らしい雰囲気を持った小曲で、これだけ聴いただけで、シベリウス独特の音の世界を堪能できる。「ダンス・インテルメッツォ」と「森の精」は、第3交響曲から第4交響曲の作曲時期にあたるもので、交響詩風な雰囲気を持っており、特に「森の精」は、第4交響曲を先取りした作品と言われている。現在でもしばしば演奏される「アンダンテ・フェスティヴォ」は、シベリウスの葬儀の際に演奏されたという力作である。最後に収められている「ロマンス」は、有名な交響曲第2番の前に作曲された作品で、若い頃のシベリウスの作風が垣間見えて興味深い。ここではチャールズ・グローヴズ指揮ロイヤル・リヴァプール・フィルのコンビが、北欧の自然をほうふつとさせる、いずれも説得力のある名演を聴かせる。伸びやかなオーケストラの響きがリスナーの心を和ませ、目の前に北欧の自然が広がるような錯覚を覚えるほど。指揮のチャールズ・グローヴズ(1915年―1992年)は、イギリス、ロンドン出身。BBCノーザン管弦楽団(現BBCフィルハーモニック)、ボーンマス交響楽団の首席指揮者を務めた。さらにウェールズ・ナショナル・オペラ音楽監督、ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、イングリッシュ・ナショナル・オペラ音楽監督などを歴任。(LPC)
ラフマニノフ:独唱、合唱と管弦楽のための詩曲「鐘」
指揮:キリル・コンドラシン
管弦楽:モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団
合唱指揮:アレキサンドル・ユルロフ
合唱:アカデミー・ロシア共和国合唱団
独唱:エリザヴェータ・シュムスカヤ(ソプラノ)
ミハイル・ドヴェンマン(テノール)
アレクセイ・ボルシャコフ(バリトン)
発売:1977年
LP:ビクター音楽産業
ラフマニノフの独唱、合唱と管弦楽のための詩曲「鐘」は、米国の小説家で詩人のエドガー・アラン・ポーの詩を、ロシア象徴主義の詩人、コンスタンチン・バリモントがロシア語に訳したテキストに基づいて作曲された。人間の一生の移り行く姿が、トロイカに付けられた小さな鐘や寺院の様々な鐘の音に導かれながら表現される。当初は通常の交響曲として作曲されたため、“合唱交響曲”という名称が付くこともある。第1章「誕生」(銀の鐘が若さの輝きを歌われる)、第2章「結婚」(聖なる婚礼に鳴り響くのは金の鐘)、第3章「不幸」(激動の騒乱を告げる真鍮の警鐘)、第4章「死」(鉄の鐘が告げるのは弔いの悲しみ)―からなる。この曲の作曲のきっかけは、ラフマニノフのもとに未知の女性から送られてきた手紙の中に入っていたエドガー・アラン・ポーの同名の詩であったという。この曲は、ポーの詩をもとにしたためか、どことなくミステリアスな雰囲気が漂う。なお、ラフマニノフの「鐘」というと、全部で5曲からなるピアノ曲「幻想的小品集」作品3に収録されている「前奏曲 嬰ハ短調」作品3-2の「鐘」が有名であるが、この「鐘」とは全く別の曲。指揮のキリル・コンドラシン(1914年―1981年)は、モスクワ音楽院で学び、1960年からはモスクワ・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督に就任、1976年までそのポストにあった。同管弦楽団を指揮して、世界で初めてショスタコーヴィチの交響曲全集を録音したことでも知られる。その後、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の常任客演指揮者に就任する。1967年モスクワ・フィルと初来日した後、1980年には再来日してNHK交響楽団を指揮したこともある。アカデミー・ロシア共和国合唱団は、1990年に創立され、1942年にアカデミー・ロシア共和国合唱団に発展的改組された。モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団は、1951年に創立された。当初の名称はモスクワ・ユース管弦楽団だったが、1953年に改称された。1960年からキリル・コンドラシンを音楽監督に迎えた。「チャイコフスキー国際コンクール」本選のオーケストラとしても有名。このLPレコードの演奏内容は、誕生の祝福、そして晴れがましい婚礼、さらに重々しい日々、最後に悲しい死と、人の一生を象徴する各場面がそれぞれ的確に表現されており、その一つ一つが深みがある演奏で聴くものを圧倒する。特に後半へ向けての迫力は、聴いていて手に汗するほどだ。(LPC)
シベリウス:劇音楽「ペレアスとメリザンド」
組曲「歴史的情景」第1番
劇音楽「白鳥姫」
指揮:パーヴォ・べルグルンド
管弦楽:ボーンマス交響楽団
このLPレコードは、2012年1月25日、82歳の生涯を閉じたヘルシンキ生まれのフィンランドの指揮者、パーヴォ・べルグルンド(1929年―2012年)がボーンマス交響楽団を指揮した録音である。左手で指揮棒を持つ指揮者としてでも有名であったパーヴォ・べルグルンドは、1962年~1971年の10年間は、フィンランド放送交響楽団の首席指揮者を務めた。さらに、1972年~1979年まで、このLPレコードでも演奏している英国のボーンマス交響楽団の首席指揮者、1975年~1961年ヘルシンキ・フィルの音楽監督兼首席指揮者を務めた。パーヴォ・べルグルンドは、北欧作曲家、特にシベリウスのスペシャリストとして名高く、シベリウスの交響曲全集の録音は3度にも及んだほか、同じくシベリウスの「クレルヴォ交響曲」の紹介者としても名高い。このLPレコードでは、お得意のシベリウスの作品を3曲録音している。いずれもシベリウスの作品が持つ、北欧音楽独特の透明感と祖国愛に燃えた情熱とが見事に調和した演奏を聴かせてくれる。劇音楽「ペレアスとメリザンド」(城門にて/メリザンド/海辺にて/庭園の噴水/三人の盲目の姉妹/パストラール/糸を紡ぐメリザンド)は、メーテルリンクの戯曲「ペレアスとメリザンド」の付随音楽。ヘルシンキにあるスウェーデン劇場からの依頼によって1905年に作曲された。同じ題材を用いてドビュッシーやフォーレが作曲しているが、シベリウスの曲は、それらの曲に比べると北欧的色彩が強く感じられる作品となっている。初演は、1905年3月17日に作曲者の指揮によって行われた。組曲「歴史的情景」(全3曲)は、ロシアから圧迫を受けていたフィンランドにおいて、1899年11月3日~5日に行われた愛国的催しのために作曲された組曲で、最初の版には、第4曲目としてあの有名な交響詩「フィンランディア」が含まれていたという。1911年に、シベリウスは、3曲を改訂して新たに「歴史的情景」(序曲/情景/祝祭)作品25として発表した。劇音楽「白鳥姫」(このLPレコードには、全7曲から第2曲ハープの奏で/第3曲ばらを持った乙女/第4曲聞け、こまどりが鳴いている/第6曲白鳥姫と王子が収録されている)は、ストリンドベリーの戯曲のために書いた劇附随音楽。パーヴォ・べルグルンドは、数度来日も果たしているが、改めてLPレコードを通して聴いいてみると、その類稀な美しい表現力に圧倒される思いがする。(LPC)