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★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ウィリー・ボスコフスキー指揮ウィーン・モーツァルト合奏団のモーツァルト:セレナード第9番「ポストホルン」

2024-01-15 11:05:56 | 管弦楽曲


モーツァルト:セレナード第9番「ポストホルン」

指揮:ウィリー・ボスコフスキー

管弦楽:ウィーン・モーツァルト合奏団

ポストホルン:アドルフ・ホラー

発売:1973年

LP:ロンドンレコード L18C5066

 このLPレコードは、モーツァルト:セレナード第9番「ポストホルン」。この曲は、いろいろな意味で、リスナーの注目を集める曲である。その中の一つが、モーツァルトがポストホルンをどうしてセレナードに採り入れたのかということだ。ポストホルンとは、郵便馬車のラッパのことを指す。通常なら音楽の楽器には到底使われることのないはずである。そこで、推理されたのは、当時、ラッパ吹きの名人が居て、モーツァルトが、この名人に一度ポストホルンを吹かしてみたらどう吹きこなすか、聴いてみたいという、モーツァルト一流の茶目っ気から採用したという説。もう一つは、この頃モーツァルトは、大司教との折り合いが悪くなっており、ザルツブルクを去りたいという自分の思いを伝えようとして、当時唯一の交通機関であった馬車を象徴するポストホルンを採用したという説だ。また、第5楽章がニ短調であることに象徴されるように、どことなく全体的に憂愁の感情が打ち出され、華やかなセレナードからすると違和感が残る。これにも、モーツァルトはザルツブルクを去って行く知人への思いを託したからである、という説もある。しかし、いずれも真相は闇の中ということで未だ持って解明には至っていない。いずれにせよ、このセレナードは、マンハイムとパリへの旅行でモーツァルトが得た経験が巧みに取り入れられている名曲として人気のあることだけは確かで、今でもコンサートでよく演奏される。このLPレコードでは、ウィーン生まれ、ウィーン育ちの生粋のウィーン子であるウィリー・ボスコフスキーの指揮の下、ウィーン・モーツァルト合奏団が名演奏を繰り広げている。ウィリー・ボスコフスキー(1909年―1991年)は、ウィーン・フィルのコンサートマスターを務めたかたわら、指揮活動も行ったことで知られる。ウィーン国立音楽アカデミーに9歳で入学、「フリッツ・クライスラー賞」を受賞。学生時代から各地でソロ活動を行う。卒業後は、1932年ウィーン国立歌劇場管弦楽団に入団。翌年にはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団に入団。ヴァイオリニストとしての奏法は、ウィーン流派として、当時彼の右に出るものはないと言われるほど完璧なものであった。このLPレコードでは、ヴァイオリニストとしてではなく、指揮者の立場でウィーン流派としての真髄を聴かせてくれている。ここでの演奏内容の何と雅であることか。“古き良き時代”という言葉が、思わず頭をよぎる名録音だ。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇ロベール・カザドシュとユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団のフランク:交響的変奏曲/ダンディ:フランス山人の歌による交響曲

2023-11-20 09:44:16 | 管弦楽曲


フランク:ピアノとオーケストラのための「交響的変奏曲」
ダンディ:ピアノとオーケストラのための「フランス山人の歌による交響曲」

ピアノ:ロベール・カザドシュ

指揮:ユージン・オーマンディ

管弦楽:フィラデルフィア管弦楽団

録音:1959年8月3日

発売:1977年

LP:CBS/SONY 13AC 293

 このLPレコードには、フランスの作曲家のフランクと、その弟子のダンディとがそれぞれ作曲した、ピアノとオーケストラのための作品が2曲収められている。フランク:交響的変奏曲は、全体が3部に分けられるピアノとオーケストラのための変奏曲であるが、通常の変奏曲のように一つのテーマを基に変奏曲が展開されるのではなく、ピアノとオーケストラがそれぞれ異なるテーマの変奏曲を奏でていく。このため通常の変奏曲と思って聴くと面食らうことになる。ピアノが独自のメロディーを弾いていたかと思うと、次の瞬間には、ピアノとオーケストラが調和して、あたかもピアノ協奏曲であるかのような響きを聴かせる。「フランクの最も飾らない、最も禁欲主義的とも言える作品である。ことによるとフランクは自分自身を喜ばせるために、この曲をかいたのではないか」とライナーノートに高橋昭氏が書いているように、フランクの独白のような独特の響きがあり、好き嫌いが分かれる曲ではなかろうか。一方、ダンディ:フランスの山人の歌による交響曲は、3楽章からなる作品で、牧歌的で雄大な風景画を思わせ、誰もが直ぐに好きになれそうな曲。ピアノとオーケストラのための作品であるが、何故か交響曲という名称が付けられている。ダンディが愛したラングドック地方のセヴァンヌの山々を眺め、書き留めた民謡を基につくられた曲であり、「セヴァンヌ交響曲」とも言われることがある。フランクがよく使った循環形式による、愛すべき作品に仕上がっている。フランス出身のロベール・カサドシュ(1899年―1972年)は、このLPレコードで誠実感に溢れた、暖かみのある、透き通った演奏に徹しており、これら2曲の素晴らしさ余すところなくリスナーに届けてくれる。ロベール・カサドシュは、フランス・パリ出身。パリ音楽院でルイ・ディエメに師事。世界各地で頻繁にギャビー夫人と演奏し録音した。1935年からアメリカ音楽院で教鞭を執り、第二次世界大戦中は米国に亡命。戦後は1950年に帰国し、1952年までアメリカ音楽院の院長を務めた。ギャビー夫人と息子ジャンとの共演により、モーツァルトの「2台ピアノのための協奏曲」や「3台ピアノのための協奏曲」を録音している。カザドシュの演奏は、曲に真正面から取り組み、決して誇張せず、知的で洗練された情感で高い評価を得ていた。作曲家としては7曲の交響曲、3曲のピアノ協奏曲、多数の室内楽曲などを遺している。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇ルドルフ・ケンペ 指揮ロイヤル・フィルのスメタナ:歌劇「売られた花嫁」からの音楽(「序曲」「ポルカ」「ブリアント」「道化師の踊り」)ほか

2023-10-30 09:42:22 | 管弦楽曲


スメタナ:歌劇「売られた花嫁」からの音楽(「序曲」「ポルカ」「ブリアント」「道化師の踊り」)

       指揮:ルドルフ・ケンペ
     
       管弦楽:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

エネスコ:ルーマニア狂詩曲第1番/ドヴォルザーク:スラブ舞曲第10番

       指揮:ギーカ・ズドラフコヴィッチ

       管弦楽:ベルグラード・フィルハーモニー管弦楽団

LP:東芝EMI(SERAPHIM) EAC‐30192

 指揮のルドルフ・ケンペ(1910年―1976年)は、ドイツのドレスデン近郊の生まれ。ドレスデン音楽大学で学ぶ。1929年、ゲヴァントハウス管弦楽団のオーボエ奏者を務め、その後、歌劇場の指揮者となる。1950年ドレスデン国立歌劇場の音楽監督、1952年バイエルン国立歌劇場の音楽監督に就任。その後、バイロイト音楽祭に登場。さらに、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の各首席指揮者に就任し、最後は、BBC交響楽団の常任指揮者を務めた。来日は一度も果たさなかったが、録音により日本でも多くのファンを有していた。その指揮ぶりは、ドイツの正統的なものであり、少しの誇張もない。このため、一面では特徴に乏しい指揮ともみられることがあり、必ずしも高い評価ばかりではなかった。しかし、遺された録音より、最近になって、そのドイツの正統的な演奏ぶりが再評価され、話題を集めたことは記憶に新しい。ケンペは、このLPレコードでは、スメタナの歌劇「売られた花嫁」からの音楽(「序曲」「ポルカ」「ブリアント」「道化師の踊り」)を指揮している。歌劇「売られた花嫁」は、ボヘミアの農村を舞台に若者の恋愛を扱った作品でチェコの代表的な国民オペラ作品として名高い。序曲が特に有名で、単独で演奏会に採り上げられることも多い。台本作者はカレル・サビナ。3幕(第1幕:ボヘミアの春祭りの最中のボヘミア地方の農村の広場/第2幕:村の居酒屋/第3幕:村の広場)からなるオペラ・ブッファ。作曲は1863年から開始され1866年に完成し、その年に初演された。このLPレコードにおいてケンペは、スメタナという民族音楽の代表的作曲家の作品でも、ドイツの作曲家の作品のように、実に堂々ときっちと気品のある指揮ぶりをみせており、自らの持てる特徴を存分に発揮した演奏と言うことができる。一方、ドヴォルザーク:スラブ舞曲第10番とエネスコ:ルーマニア狂詩曲第1番を指揮しているギーカ・ズドラフコヴィッチ(1914年生まれ)は、ユーゴ・スラヴィアの指揮者。最初は、オーケストラでオーボエを演奏しながら、ベオグラード音楽アカデミーで作曲と指揮を学び、チェコに留学して名指揮者ヴァツラフ・ターリッヒに師事。帰国後は、母校の教授を務めるとともに、ベオグラード・フィルの指揮者を務めた。このLPレコードでは躍動的で、そして優美な演奏を披露している。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇ロバート・アーヴィング指揮フィルハーモニア管弦楽団のドリーブ:「コッペリア」「シルヴィア」/ショパン(ダグラス編曲):「レ・シルフィード」

2023-09-25 09:48:19 | 管弦楽曲


ドリーブ:バレエ音楽「コッペリア」
  
 前奏曲(第1幕)/マズルカ(第1幕)/ワルツ(第1幕)/“愛の穂”のバラード(第1幕)/スラヴの主題と変奏曲(第1幕)/祈り(第3幕)/チャルダッシュ(第1幕)      

ドリーブ:バレエ音楽:「シルヴィア」

 前奏曲「狩りの女神」(第1幕)/間奏曲(第1幕)/ゆるやかなワルツ(第1幕)/ピチカート(第3幕)/アンダンテ(第3幕)/行進曲とバッカスの行列(第3幕)
       
ショパン(ダグラス編曲):バレエ音楽「レ・シルフィード」

 序曲(前奏曲op.28-7)/第1曲(ノクターンop.32-2)/第2曲(ワルツop70-1)/第3曲(マズルカop.33-2)/第4曲(マズルカop.67-3)/第5曲(前奏曲op.67-3)/第6曲(ワルツop.64-2)/第7曲(華麗なる大ワルツop.18)

指揮:ロバート・アーヴィング

管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団

ヴァイオリン:ユーディ・メニューイン

LP:東芝EMI EAC‐30095

 バレエ音楽といえば誰もが最初に思い浮かべるのが、ドリーブ(1836年―1891年)の「コッペリア」と「シルヴィア」ではなかろうか。このLPレコードには、この2曲とショパン作曲(ダグラス編曲)の「レ・シルフィード」が収められており、バレエ音楽の醍醐味を存分に味わうことができる。19世紀に入ってバレエは、技術的に大いに進歩したが、一方では、単なる見世物的要素の強い“曲芸”に終始していた。それを、芸術性の高い音楽を付けることによって、バレエ自体を高めることに成功したのがドリーブであり、“バレエ音楽の父”とも言える所以なのである。その思想は「『音楽はバレエのテキストと密接に結びついたものでならない』『劇的な興味を犠牲にして、単に踊り手の技術の見せ場として舞曲がならべられ、音楽がその拍子とりであってはならない』・・・」(吉田徳郎氏、ライナーノートより)など、今考えれば当たり前の考えであっても、当時のバレエ界にとっては画期的な考えであり、丁度、モーツァルトやグルックがオペラで果たしと同じ役割を、ドリーブはバレエにおいて実現させたと言うことができよう。「コッペリア」と「シルヴィア」は、そんなドリーブの真骨頂が遺憾なく発揮されたバレエ音楽の傑作として、現在も多くのファンを魅了して止まない。「コッペリア」は、ドイツ・ロマン派の作家E・T・Aホフマンの原作をもとにつくられた。この曲の特徴は、機知に溢れた旋律と生き生きとしたリズムにあり、全部で前奏曲と20曲からなり、ここでは6曲が演奏されている。「シルビア」は、イタリアの詩人タッソーの物語「アマンタ」に基づいている。作品自体は平凡であるがドリーブが付けた音楽が優れ、現在でもしばしば上演される。ここでは6曲が演奏されている。一方、ショパン作曲(ダグラス編曲)の「レ・シルフィード」も、バレエ音楽の華ともいえる曲で、ショパンの華麗で叙情的なピアノ独奏曲が、実に巧みにオーケストラ曲に編曲され、これもバレエ音楽の名曲として、多くのファンから支持を受けている。これら3曲を演奏しているのがロバート・アーヴィング指揮フィルハーモニア管弦楽団。アーヴィング(1913年―1991年)は、約30年間ニューヨーク・シティ・バレエで音楽監督を務めたバレエ指揮者。華やかな中に、軽やかなバレエ独特のリズム感をふんだんに取り入れた演奏であり、これら3曲のバレエ音楽を楽しむには、これ以上は望めないと思えるほどの熟達した演奏を聴かせてくれる。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇秋山和慶指揮コロムビア・プロムナード管弦楽団の“セレナードの花束”

2023-09-18 09:39:25 | 管弦楽曲


シューベルト:セレナード
トセリ:嘆きのセレナード
ブラーガ:天使のセレナード
グノー:セレナード
モシュコフスキー:セレナード
ハイドン:セレナード
ドリゴ:セレナード
ハイケンス:セレナード
レハール:フラスキータのセレナード
ロンバーグ:学生王子のセレナード
チャップリン:マンドリン・セレナード
トスティ:セレナード

指揮:秋山和慶

管弦楽:コロムビア・プロムナード管弦楽団

発売:1970年5月

LP:日本コロムビア MS‐7004‐J
 
 これは、誰もが知っている有名なセレナードをオーケストラで演奏した、聴いていて無性に楽しい曲が詰まったLPレコードだ。セレナードは、夕べに恋人の窓の下で歌う愛の歌であり、小難しい理屈なぞ、この際お引き取り願うしかない。演奏は、秋山和慶指揮コロムビア・プロムナード管弦楽団が、誰が聴いても分かりやすく、そして何よりもロマンティックな響きを聴かせており、心から楽しめる演奏となっているのが嬉しい。クラシック音楽を聴き始めた人から、クラシック音楽の玄人まで等しく聴ける録音なんて、そう滅多にあるものではないが、このLPレコードはそれを現実のものとしている。そんなわけで、このLPレコードは、今でも私の愛聴盤の中の一枚となっている。「シューベルトのセレナード」は、遺作として出版された歌曲集「白鳥の歌」の第4曲。「嘆きのセレナード」は、イタリアのフィレンツェに生まれたトセリが作曲した、過ぎ去った日々の楽しい想い出を懐かしく思う嘆きの歌。「天使のセレナード」は、イタリアのチェリストで作曲家のブラーガの曲で、子供が天使の呼び声にこたえて、母親にさよならを告げる対話風の曲。「グノーのセレナード」は、19世紀の作曲家グノーの優美なメロディーの代表的作品。「モシュコフスキーのセレナード」は、ポーランド生まれのピアニストの「セレナータ」というピアノ曲を編曲したもの。「ハイドンのセレナード」は、ハイドンの弦楽四重奏曲ヘ長調op.3の5の第2楽章アンダンテ・カンタービレで、弱音器を付けて弾く第1ヴァイオリンのメロディー。「ドリゴのセレナード」は、イタリアのパドヴァの生まれで、ペテルブルグ帝室歌劇場でバレエ指揮者として活躍したドリゴの作品で、バレエの一場面に挿入される歌曲として作曲された。「ハイケンスのセレナード」は、第2次世界大戦中に、前線と内地とを結ぶ“希望音楽会”のテーマ音楽にハイケンスが作曲した名曲。「フラスキータのセレナード」は、レハールが作曲したオペレッタ“フラスキータ”の中のロマンティックな曲。「学生王子のセレナード」は、ハンガリー生まれのロンバーグのミュージカルの代表作「学生王子」で歌われる曲。「マンドリン・セレナード」は、1957年制作のチャップリン主演・監督作品の映画「ニューヨークの王様」のロマンティックな主題曲。そして最後の「トスティのセレナード」は、イタリア生まれの作曲家トスティの美しい歌曲。(LPC)