goo blog サービス終了のお知らせ 

★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ワルター指揮コロンビア交響楽団のモーツァルト:交響曲第25番/第29番

2021-11-04 09:39:15 | 交響曲(モーツァルト)


モーツァルト:交響曲第25番/第29番

指揮:ブルーノ・ワルター

管弦楽:コロンビア交響楽団

録音:交響曲第25番(1954年12月10日)/交響曲第29番(1954年12月29日~30日)

LP:CBS・ソニー 15AC 660

 巨匠ブルーノ・ワルター(1876年―1962年)の残した録音は、若い頃のウィーンを中心に活躍した時代、円熟期のニューヨーク・フィル時代、それに晩年のコロンビア交響楽団と3つの時代分けられるが、このLPレコードは、コロンビア交響楽団との録音である。コロンビア交響楽団とはいったいどんな楽団だったのであろうか。1950年代のアメリカ西海岸のハリウッドは、映画の都として、その黄金時代を謳歌していたが、演奏家も、全米あるいはヨーロッパから一流の奏者が集まり、ワーナー・ブラザース交響楽団、パラマウント交響楽団、ハリウッド交響楽団など、映画会社お抱えのオーケストラの一員として活躍していた。しかし、そんな映画のサウンド・トラック演奏だけでは飽き足らない演奏家達が、音楽監督カーメン・ドラゴンのもとに結集して創設されたのが、グレンデール交響楽団である。同楽団は、録音の際は、それぞれ別名で録音していた。このためグレンデール交響楽団の名はほとんど知られることはなかった。つまり、同楽団がCBSへの録音の際に使用した名称がコロンビア交響楽団ということにほかならない。若い頃のワルターは、典雅この上ない指揮ぶりであった。それに対しニューヨーク・フィルとコンビを組んだ時代は、がらりとその指揮ぶりが変わり、力強く、スケールの大きいものに変貌した。それらに対しコロンビア響との時代は、これまで指揮者として歩んできた道程を振り返るような、一段と高い立場で巨匠が晩年に到達した心境が綴られている。モーツァルトの交響曲第25番は、1773年夏のウィーン旅行から帰って、同年末にザルツブルグで完成した。後期の第40番と酷似していることから、”小ト短調交響曲”とも呼ばれている。曲全体が緻密な構成力と緊迫感に包まれている。これは、ウィーン旅行における“シュトゥルム・ウント・ドラング(疾風怒濤)”に強い影響を受けたことによるものと考えられる。第29番は、第25番を書いてすぐ、1774年初めに作曲された。第25番が「暗」とするなら、第29番は、生の歓喜が零れ落ちるような魅力的な旋律に彩られた「明」の交響曲と位置づけられよう。このLPレコードの第25番の指揮は、若い頃のワルターの力強さをまだ十分に残していることが聴きとれる。曲の出だしから猛烈な迫力で、聴くものを圧倒する。この時、ワルター78歳。一方、第29番はの方は、静かにモーツァルトと向き合い、淡々とモーツァルトの世界を描いており、ワルターが晩年に到達した心境を覗く思いがする。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇フェルナン・ウーブラドゥ指揮室内管弦楽団のモーツァルト:交響曲第31番「パリ」/バレエ音楽「レ・プティ・リアン」

2021-07-15 10:03:57 | 交響曲(モーツァルト)


モーツァルト:交響曲第31番「パリ」K.297
       バレエ音楽「レ・プティ・リアン―序曲と13舞曲」K.追加Ⅰ‐10

指揮:フェルナン・ウーブラドゥ

管弦楽:フェルナン・ウーブラドゥ室内管弦楽団

録音:1955年10月~11月

LP:東芝EMI EAC‐30126

 これは、「パリのモーツァルト」と題されたシリーズのVOL.7に当たるLPレコード。モーツァルトは、1774年~1778年の、いわいるザルツブルグ時代の4年間には、交響曲を作曲しなかった。この4年間の沈黙の後、新しい創作期の口火を切って、1778年に書かれたのが、「パリ」と名付けられた、この交響曲第31番である。コンセール・スピリチュエルのル・グロの依頼で、1778年5月から6月の間にパリで作曲された。このためこの交響曲は、後に「パリ」という愛称で呼ばれるようになったのである。コンセール・スピリチュエルは、宗教的な声楽曲の演奏を目的に設立されたが、その後は次第に、世俗的なオーケストラ作品も取り上げるようになり、中でも、交響曲と協奏曲の分野に力を注いでいた。パリでテノール歌手として活躍していたル・グロ(1730年―1793年)が、1777年にコンセール・スピリチュエルの指導者として迎え入れられた翌年の1778年3月23日に、モーツァルトはパリに到着する。そこで、ル・グロは、6月18日の聖体の祭日(聖体祭)のコンサートのための新作をモーツァルトに依頼し、モーツァルトは6月12日にこれを完成させた。初演は、予定通り、6月18日のコンサートにおいて、ル・グロの指揮で演奏された。このLPレコードで指揮をしているフェルナン・ウーブラドゥ(1903年―1986年)は、フランスのファゴット奏者兼指揮者。パリ音楽院で学び、パリ音楽院管弦楽団およびパリ・オペラ座管弦楽団の首席ファゴット奏者として活躍。1939年には自ら、フェルナン・ウーブラドゥ室内管弦楽団を結成した。1941年からはパリ音楽院の室内楽科教授として、ジャック・ランスロやピエール・ピエルロらを育成したことでも知られる。このLPレコードでのウーブラドゥの指揮は、明快極まりないもので、若き日のモーツァルトを髣髴とさせるはつらつとした演奏に終始する。この交響曲の持つ華やかで、如何にも聖体祭を祝福するムードを存分に盛り上げるに相応しい演奏内容となっている。次に、モーツァルトは、パリでオペラ座のメートル・ド・バレエ(バレエ・マスター)に就任したノヴェール(1727年―1810年)に会い、バレエ音楽の作曲の依頼を受ける。そして完成したのが、序曲と13の舞曲からなるバレエ音楽「レ・プティ・リアン(些細なものという意味)」である。ここでのウーブラドゥの指揮は、あたかも目前でパリ・オペラ座の踊り子が、バレエを踊っているかのような、華やかで快活な雰囲気に終始する。パリの演奏家たちの、本場もののなせる技が光る。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇テオドール・グシュルバウアー指揮バンベルグ交響楽団のモーツァルト:交響曲第38番「プラハ」/第39番

2021-04-26 09:51:51 | 交響曲(モーツァルト)

モーツァルト:交響曲第38番「プラハ」
       交響曲第39番

指揮:テオドール・グシュルバウアー

管弦楽:バンベルグ交響楽団

LP:日本コロムビア OP‐7012‐RE

 世の中には、実力以上に評価される指揮者もいれば、実力があるのに知名度はそう高くない指揮者もいる。このLPレコードでモーツァルト:交響曲第38番「プラハ」と交響曲第39番指揮をしているテオドール・グシュルバウアー(1939年生まれ)は、どちらかというと後者に当たるようだ。特にこのLPレコードでの交響曲第38番「プラハ」の名演ぶりには圧倒的なものがある。フリッチャイの求心力とシューリヒトの緻密さを兼ね備えたような演奏内容とでも言ったらいいのであろうか。グシュルバウアーは、ウィーンの生まれで、ウィーン国立音楽院に学ぶ。ウィーン・フォルクスオーパーやザルツブルク州立劇場の指揮者を経て、1969年にリヨン歌劇場の首席指揮者に就任。以後、リンツ・ブルックナー管弦楽団、ストラスブール・フィルハーモニー管弦楽団、ラインラント=プファルツ州立フィルハーモニー管弦楽団の各首席指揮者を歴任。モーツァルトの交響曲第38番は、プラハにおいて初演されたため、「プラハ」の愛称で親しまれている曲。曲は全3楽章からなる。このLPレコードでのグシュルバウアーの指揮ぶりは、実に堂々としており、その構成美は数多くある同曲の録音を大きく上回る。緻密の中にも、毅然たる意志力が見え隠れし、聴いていてもその充実した演奏に釘付けとなる。音の一つ一つが躍動しているのである。決して上っ滑りな音楽なんかでは毛頭なく、さりとて重々し過ぎることもない。中庸を行く演奏であるかもしれないが、同時に強烈な光が解き放されるような、今聴いても、その新鮮さに溢れた演奏には驚かされる。一方、モーツァルトの交響曲第39番は、1788年6月にウィーンで作曲された。第40番と第41番とともに、“三大交響曲”と言われ、その最初を飾る曲。交響曲第38番「プラハ」は、オペラ「フィガロの結婚」との親和性が指摘されるが、この交響曲第39番は、オペラ「ドン・ジョヴァンニ」との関係がしばしば語られる。当時のモーツァルトは貧困に喘いでいたわけであるが、天才とは、そんな自己の境遇と真逆な曲風を作曲できるということか。曲は第38番とは異なり通常の4楽章構成であるが、モーツァルトの作品では例外的に木管楽器群にオーボエは使っていない。交響曲第39番でのグシュルバウアーの指揮は、基本的には第38番と同一なことが言えるが、この第39番では、力強さを前面に出すというよりも、何か憂いを含んだような表現が強調される。グシュルバウアーが、作曲時のモーツァルトの境遇を斟酌して、憂いを含ませて指揮したかのように私には感じられた。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇パリ時代に書かれた名作モーツァルト:交響曲第31番「パリ」/フルートとハープのための協奏曲

2021-03-01 09:38:45 | 交響曲(モーツァルト)

モーツァルト:交響曲第31番「パリ」

   指揮:オトマール・スウィトナー
   管弦楽:ドレスデン国立管弦楽団

モーツァルト:フルートとハープのための協奏曲

   フルート:エレーヌ・シェーファー
   ハープ:マリリン・コステロ
   
   指揮:ユーディ・メニューイン
   管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団

LP:東芝EMI EAC‐30171

 これは、モーツァルトがパリに滞在していた時の作品2曲を収めたLPレコードである。モーツァルトは、1778年3月(22歳)にパリに到着した。パリ旅行には母のマリーア・アンナも同行したが、母は健康を害し、亡くなり、当地で埋葬されてしまう。そんなショッキングな出来事が起きた時に、交響曲第31番「パリ」とフルートとハープのための協奏曲が作曲された。2曲とも明るく、優雅で、華やかな趣を持った作風の曲となっている。この理由は、その当時のパリの流行に合わせたことによるものと考えられている。交響曲第31番「パリ」は、パリ旅行の前に訪れたマンハイムで吸収したものに、パリの華やかな音楽性が加わり、大規模な編成の交響曲となっている。このLPレコードには、オトマール・スウィトナー指揮ドレスデン国立管弦楽団による演奏が収録されている。オトマール・スウィトナー(1922年ー2010年)は、オーストリア出身の指揮者。シュターツカペレ・ドレスデン音楽総監督・首席指揮者、ベルリン国立歌劇場音楽総監督などを歴任し、1973年にNHK交響楽団の名誉指揮者に就任。このLpレコードでのスウィトナーの指揮ぶりは、誠に正統的な演奏内容で、如何にも華やかなこの交響曲を、颯爽と指揮して、小気味いいことこの上ない。少しの力もなく、自然に演奏が進むが、内容がぎっしりと詰まっているので、聴き応え十分。要するに表面をなぞったような演奏ではなく、心からの共感を持ってモーツァルトを指揮していることが手に取るように分かるのだ。ドレスデン国立管弦楽団の演奏も一部の隙もなく、スウィトナーの描くモーツァルトの世界を忠実に再現して見せる。B面に収録されたモーツァルト:フルートとハープのための協奏曲は、フルートのエレーヌ・シェーファーとハープのマリリン・コステロを、名ヴァイオリニストだったユーディ・メニューイン(1916年―1999年)がフィルハーモニア管弦楽団を指揮をし、伴奏している珍しい録音。フルートのシェーファーは指揮者のエフレム・クルツ(1900年―1995年)夫人として知られ、ニューヨーク・フィルの首席奏者を務めていた人。ハープのコステロは、フィラデルフィア管弦楽団の首席ハープ奏者だった。ここでの演奏内容は、古き良き時代を思い起こさせる優雅な雰囲気で進められる。一人一人の演奏者が自由に伸び伸びと演奏する雰囲気が伝わってくる。特に、シェーファーのフルート演奏は絶品。これは、同曲の隠れた名録音と言っていい。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇ヨゼフ・カイルベルトのモーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」/セレナード第6番「セレナータ・ノットゥルナ」/第36番「リンツ」/6つのドイツ舞曲集

2021-01-18 09:50:36 | 交響曲(モーツァルト)

モーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」
       セレナード第6番「セレナータ・ノットゥルナ」
       交響曲第36番「リンツ」
       6つのドイツ舞曲集

指揮:ヨゼフ・カイルベルト

管弦楽:バンベルク交響楽団

発売:1978年

LP:キングレコード(テレフンケンレコード) GT 9166

 このLPレコードは、“ヨゼフ・カイルベルトの芸術”と銘打った15枚からなるシリーズの中の1枚。ヨーゼフ・カイルベルト(1908年―1968年)は、ドイツの指揮者。第二次世界大戦以前は、ドレスデン・シュターツカペレの首席指揮者を務め、戦後は、チェコスロヴァキアを脱出したドイツ人演奏家が主体となって結成されたバンベルク交響楽団の首席指揮者に就任し、終生その地位にあった。さらにベルリン国立歌劇場音楽総監督、バイエルン国立歌劇場音楽総監督などを務め、戦後のドイツを代表する指揮者の一人であった。その指揮ぶりは、実に正統的なもので、少しの誇張のない、重厚な響きが特徴。派手なところはないが、音楽を歌わせるところは存分に歌わせ、その解釈は玄人を唸らせるほど内容が深いものがあった。このLPレコードは、そんなカイルベルトがモーツァルトの作品4曲を手兵のバンベルク交響楽団を指揮した録音。交響曲第35番「ハフナー」は、最初から実に堂々とした指揮でスタートする。細部まで目が行き届いた指揮ぶりに感心させられる。奇を衒うところは寸分もなく、あくまで正攻法なのだが、聴き進めていくと、リスナーの耳には豊かな音の響きが心地よく届き、モーツァルトの音楽の面白みがひしひしと伝わってくる。バンベルク交響楽団の演奏は、カイルベルトが手塩にかけて育てただけあって、実に緻密で颯爽とした演奏を披露する。音楽が、川の流れの如く、自然に流れす進むのだ。これは簡単のようだが、実際には難しい奥義ような技術であり、精神的にも一段と高い位置にある演奏家達でなければ到底表現することが難しい技であろう。バンベルク交響楽団の団員達は、カイルベルトの指揮に、全員が心を一つにして、一心不乱に演奏している様が、録音を通してリスナーに熱く伝わってくる。次の交響曲第36番「リンツ」は、モーツァルトがたった数日間で書き上げたという交響曲だが、内容は充実したものに仕上がっており、改めてモーツァルトの才能の凄さを見せつけられる作品。ここでのカイルベルトは、モーツァルトの音楽が持つ形式美を最高の高さまで押し上げ、格調ある指揮ぶりに徹していることが強く印象づけられた。少しも押しつけがましいところがないのだが、その奏でる響きはリスナーの耳の奥まで入り込み、モーツァルトの音楽の真髄を味あわせてくれる。「現在、これほどまで、モーツァルトの豊かな響きを奏でられる指揮者がいるか」と問われればその返答に窮してしまうほどカイルベルトの指揮するモーツァルトの音の響きは豊かであり、何よりも暖かい温もりがする。(LPC)