★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇リヒテルとボリショイ歌劇場弦楽四重奏団のフランク:ピアノ五重奏曲

2023-12-21 09:40:38 | 室内楽曲


フランク:ピアノ五重奏曲

ピアノ:スヴャトスラフ・リヒテル

弦楽四重奏:ボリショイ歌劇場弦楽四重奏団

録音:1956年

LP:日本コロムビア HR‐1014‐RM

 セザール・フランク(1822年―1890年)は、ベルギー出身で、後にフランスで活躍した作曲家である。1837年にパリ音楽院に入学、作曲、ピアノ、オルガン等を学ぶ。1871年にはサン=サーンス、フォーレらとともにフランス国民音楽協会の設立に加わった。さらに1872年にはパリ音楽院の教授に迎えられている。60歳を過ぎた1885年ごろからヴァイオリン・ソナタ、交響曲など、現在よく知られる代表作を次々に作曲した。最晩年に代表作を生み出すような作曲家は、フランク以外では、あまりいないのではなかろうか。作品の傾向は、フランスの作曲家というよりドイツロマン派音楽の系統に近いように感じられる。作品の特徴は、多楽章の曲において、共通の主題を繰り返し登場させる循環形式を駆使し作曲したことで知られる。このLPレコードは、フランクが1879年に作曲したピアノ五重奏曲である。この曲は、古今のピアノ五重奏曲の中でも傑作の一つに数えられているが、ここでも3つの主題による循環形式が用いられ、効果を挙げている。曲の全体の印象は、圧倒的に重厚な感じが強く、フランス音楽というよりドイツロマン派の流れを汲む作品と言えよう。そんな曲を、スヴャトスラフ・リヒテル(1915年―1997年)とボリショイ歌劇場弦楽四重奏団が演奏しており、非常に力強く、うねるような重々しい表現を行い、圧倒的な名演を聴かせる。リヒテルは、非常に男性的なピアニストであると同時に、繊細さも持ち合わせており、全盛期にはピアニストの神様として尊敬を一身に受けていた伝説のピアニストだ。このLPレコードでの演奏は、そういったリヒテルの特徴が全て詰め込まれており、数多い同曲の録音の中でも光る存在と言える。ただ、録音が1956年と古く、音がデッドなところが欠点。スヴャトスラフ・リヒテルは、ドイツ人を父にウクライナで生まれた。主にロシア(旧ソ連)で活躍し、その卓越した演奏技術から20世紀最大のピアニストと称された。 1937年、22歳でモスクワ音楽院に入学し、ゲンリフ・ネイガウスに師事。ネイガウスはリヒテルを「天才である」と言い、時に荒削りの演奏をあえて直そうとはしなかったという。1945年、30歳で「全ソビエト音楽コンクール」ピアノ部門で第1位。1950年に初めて東欧で公演も行うようになり、一部の録音や評価は西側諸国でも認識され、次第に評価が高まって行った。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇イ・ムジチ合奏団のメンデルスゾーン:八重奏曲/ヴォルフ:「イタリアのセレナード」 /ロッシーニ:弦楽ソナタ第3番

2023-11-30 09:39:51 | 室内楽曲


ンデルスゾーン:八重奏曲
ヴォルフ:「イタリアのセレナード」
ロッシーニ:弦楽ソナタ第3番

弦楽合奏:イ・ムジチ合奏団

発売:1979年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) 13P‐167(802 725LY)

 メンデルスゾーン:八重奏曲は、2つの弦楽四重奏団が演奏する楽器編成をとっているが、室内楽的感覚というより、弦楽合奏といった雰囲気に近く、一部分管弦楽や交響曲的な雰囲気も漂わす、メンデルスゾーンが少年期(16歳)に書いた初期の傑作である。少年といっても、この曲を聴くと既に音楽の技術的手法は十分にマスターしていることを窺わせ、メンデルスゾーンの早熟ぶりを垣間見せつける曲となっている。第一ヴァイオリン2、第二ヴァイオリン2、ヴィオラ2、それにチェロ2の合計8つの楽器が融合しあうと同時に、その一つ一つの楽器が自己主張するという、相矛盾する要件を巧みに取り入れているところに感心してしまう。非常に聴きやすく、全体が流れるような快活さに満ちており、表現の簡潔さにも好感が持てる。妙に室内楽的に深刻ぶらないことが、成功した要因として挙げられるのかもしれない。そんなからっとした曲想にピタリとあてはまるのがイ・ムジチ合奏団の演奏だ。イ・ムジチ合奏団は、1952年に、ローマの聖チェチーリア音楽学校に学んだ12人の音楽家によって結成され、指揮者は置かず、ヴァイオリン6挺、ヴィオラ2挺、チェロ2挺、コントラバス1挺、チェンバロ1台の編成によっている。ヴィヴァルディの「四季」で、バロック音楽ブームの火付け役となったこの合奏団は、現在でも活発な演奏活動を展開している。このLPレコードでも、いかにもイタリアの演奏家らしい、歯切れの良い演奏を聴かせてくれており、充分に楽しめる。ヴォルフ:イタリアのセレナードは、ヴォルフが27歳の時の作品。ゲーテやアイヒェンドルフ、メーリケなどの詩に付けた数多くの歌曲で知られるヴォルフであるが、器楽曲は交響詩「ペンテレージア」や、この「イタリアのセレナード」などが知られているほどで、極めて少ない。ここでのイ・ムジチ合奏団の演奏は、分厚くしかも緻密な音の表現力を存分に聴かせてくれている。ロッシーニが6曲からなる弦楽のためのソナタを書いたのは、1804年頃とされており、まだ12歳であったという。ロッシーニは、モーツァルトのように幼い頃に英才教育を受けたわけでもなく、今日聴いてみて一人前の作曲家の作品としか思えない作品を、わずか12歳の少年が書いたというのは奇跡的だとしか言いようがない。この曲でのイ・ムジチ合奏団は、楽しそうに合奏しているところが目に浮かぶようであり、聴いているだけで浮き浮きしてくる演奏内容だ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ウィリアム・ベネットのフルートとグリュミオー・トリオのモーツアルト:フルート四重奏曲全曲(第1番~第4番)

2023-11-09 09:38:27 | 室内楽曲


モーツァルト:フルート四重奏曲全曲(第1番~第4番)

フルート:ウィリアム・ベネット

弦楽三重奏:グリュミオー・トリオ

       アルテュール・グリュミオー(ヴァイオリン)
       ゲオルク・ヤンツェル(ヴィオラ)
       エヴァ・ツァコ(チェロ)

発売:1979年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) 13PC‐45

 モーツァルトは、4曲のフルート四重奏曲を書いたが、このLPレコードには、その4曲が収められており、フルート四重奏曲の全貌を通して聴くことができる。演奏も、フルートのウィリアム・ベネットと弦楽のグリュミオー・トリオとの息がピタリと合い、この4曲の演奏で、これ以上は望めないほどの見事な仕上がりの演奏を聴かせる。4曲ともいかにもモーツァルトらしい軽快感に満ちたもので、聴いていてわず心が弾むような気持ちにさせられる。この4曲を聴く時は、心が落ち込んでいる時は避けた方が無難かもしれない。屈託がなく、そこらじゅう幸福感に満ち溢れた音楽に仕上がっているからだ。まあ、見方によれば貴族のお遊びの音楽ということもできるかもしれないが、モーツァルトの天分は、そんな俗な見方を遥かに凌駕して、音楽の純粋な喜びに溢れた曲にまとめあげており、曲も短めで、緊張感もほどほどあり、室内楽のビギナーが聴くのに、これほど適した曲はあるまい。昔は、ラジオからこれらのモーツァルト:フルート四重奏曲は、しょっちゅう流されていたが、最近は聴く機会が少なくなっているように思う。どうも最近のクラシック音楽放送は、小難しい大曲だけを重視して、小品の名曲を軽視する傾向があるのではないか。このモーツァルト:フルート四重奏曲第1番~第4番を聴いてそんな思いに駆られた。それに、このような室内楽の小品こそ、LPレコードの音質の特徴であるビロードのような柔らかさがよく合うのだ。フルートのウィリアム・ベネット(1936年―2022年)は、イギリス、ロンドン出身。ロンドンでジェフリー・ギルバートに、フランスではジャン=ピエール・ランパルとマルセル・モイーズに学ぶ。 ロンドン交響楽団、アカデミー室内管弦楽団やイギリス室内管弦楽団ほか多くのオーケストラの首席奏者を歴任した。ソリストとしても国際的に広く活躍をし、イ・ムジチやイギリス室内管弦楽団との共演・録音は世界的に極めて高い評価を得た。1960年代後半に、他のイギリス人のフルート奏者とイギリスのフルートメーカーと協力して、音程を改善した「ベネット・クーパー・スケール」を開発。このスケールは現在世界のフルートの標準になっている。1995年には女王エリザベス2世より、その音楽への貢献に対して名誉大英勲章第4位(O.B.E)を受章。このLPレコードのおいてウィリアム・ベネットは、モーツァルトの曲想にぴったりと合った、フルート特有の美しい音色によって、リスナーを魅了して止まない演奏を披露している。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇イエルク・デムス&バリリ四重奏団員のブラームス:ピアノ四重奏曲第1番/第3番

2023-10-19 09:38:09 | 室内楽曲


ブラームス:ピアノ四重奏曲第1番/第3番

ピアノ:イエルク・デムス

弦楽三重奏:バリリ四重奏団員
       
        ワルター・バリリ(ヴァイオリン)
         ルドルフ・シュトレング(ヴィオラ)
        エマヌエル・ブラベッツ(チェロ)

LP:東芝EMI(ウェストミンスター名盤シリーズ) IWB‐60025

 ブラームスは、生涯に歌劇を一曲なりとも書かなかった。書かなかったという意味は、書こうとしても書けなかったのか、そもそも最初から書く意志がなかったのであろうか?多分、華やかな歌劇場の雰囲気は、自分の性分に合わないと頭から考えていたのではなかろうか。大学祝典序曲などは、ブラームスにしては、比較的歌劇的な要素の多い曲だが、このほかの曲でで歌劇を連想させ作品は思い至らない。これに対して、室内楽については、ブラームスは強烈な執着心を持って作曲し、名曲を数多く遺している。室内楽は、自分の心の内面との対話といった趣が強く、歌劇とは正反対な性格を有している。つまり、室内楽こそブラームスが本当に作曲したかったジャンルであり、こここそがブラームスの奥座敷であると言ってもいい。その奥座敷のそのまた奥に位置づけられるのが、今回のLPレコードのピアノ四重奏曲第1番/第3番であろう。室内楽が好きな人にとっては、誠に聴き応えがする曲であり、ここにこそブラームスの本音が語られているということを聴き取ることができる。ピアノ四重奏曲の第1番と第3番では性格が異なる。第1番はブラームス中期の重要な作品と評価されることも多く、一見地味な曲想に見えて実は、交響曲を連想させるようなスケールの大きさが垣間見れ、青年作曲家ブラームスの意欲が溢れ出ている佳作。実際、シェーンベルクによってオーケストラ版に編曲され、演奏会でも時々取り上げられている。実際「この曲の第1楽章は、ベートーヴェンの第9交響曲の第1楽章以後に書かれたもっとも独創的で感銘を与える悲劇的な作品」(ドナルド・フランシス・トヴェイ)と高い評価も受けている。最初の公開演奏は、1861年にハンブルグでクララ・シューマンのピアノで行われた。一方、第3番は、この曲を作曲中に、ブラームスの師でもあるシューマンの投身自殺という悲劇に直面し、そのためか暗い思いが曲全体を覆う。それを聴くリスナーも居たたまれなくなるような悲痛さに直面して、うろたえてしまうほど。でも、そこには、ある意味、人生の真の姿が投影されており、全曲を聴き終えた満足感は、計り知れないものがあるのも事実だ。ウィーン生まれの名ピアニト、イエルク・デムス(1928年―2019年)とバリリ四重奏団員の演奏は、そんなブラームスの曲を、重厚さと同時にロマンの色濃く演奏しており、ブラームスの心情を一つ一つ解き放ってくれるかのような名演奏を披露してくれる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フランス弦楽三重奏団のモーツァルト:弦楽三重奏のためのディヴェルティメント K.563

2023-09-28 09:48:24 | 室内楽曲


モーツァルト:弦楽三重奏のためのディヴェルティメント K.563

弦楽三重奏:フランス弦楽三重奏団
            
        ジェラール・ジャリ(ヴァイオリン)
        セルジュ・コロー(ヴィオラ)
        ミシェル・トゥールナス(チェロ)

発売:1971年

LP:東芝音楽工業 AA‐9619

 ディヴェルティメント(喜遊曲)は、貴族が室内で食事などをするときに演奏する曲である。このためディヴェルティメントの多くは、明るく、軽快な曲がほとんどで、食事がうまく運ぶような内容となっている。従って、間違っても深刻で重々しい曲は、ディヴェルティメントとしては失格だと言ってもそう間違いでない。ところがある。モーツァルトは、このディヴェルティメントの概念に真っ向から挑戦状を突きつけたのであるから凄い。モーツァルトは、時々こんな破天荒な試みをして、回りを唖然とさせる気性があったようである。今回のLPレコードのモーツァルト:弦楽三重奏のためのディヴェルティメントK.563を聴くと、思わず、これがディヴェルティメントなのかと考え込んでしまうのである。つまり、内容の密度が濃く、軽くないことにもってきて、内面をじっと見つめるような重厚さすら感じさせる。これでは食事が喉を通らず、暫し、音楽に集中せざるを得なくなる。多分、モーツァルトは、貴族ががやがやとおしゃべりしながら食事をして、添え物としてディヴェルティメントが流れていること自体が我慢ならなかったのではないのか。「食事とおしゃべりに夢中の貴族に一泡ふかしてやろう」と作曲したのではないかとすら思えてくる。この曲は、モーツァルトが30曲ほど書いたディヴェルティメントの最後の曲で、1788年に作曲された。この1788年は、最後の3大交響曲第39番、第40番、第41番「ジュピター」が書かれた年でもあり、モーツァルトの筆が、飛躍的に深みを増した時期に当たる。それだけに、この全部で6楽章からなる弦楽三重奏のためのディヴェルティメントK.563も、深みがあると同時に、一種の達観したような明るさを兼ね備えた名曲となっている。ここでのフランス弦楽三重奏団の演奏内容は、まず、その流れるような美しい演奏に耳が吸い寄せられる。フランスの弦楽器演奏が醸し出す軽妙洒脱な演奏は、この曲の真価を再認識するのには打ってつけ、と言ってもよかろう。フランス弦楽三重奏団は、1963年に結成された。ヴァイオリンのジェラール・ジャリ(1836年―2004年)は、1951年の「ロン=ティボー国際音楽コンクール」で第1位大賞の受賞者。ヴィオラのセルジュ・コローは、世界的なカルテットのパレナン弦楽四重奏団に在籍していたことがあり、ソリストとしても著名な演奏家。チェロのミシェル・トゥールナスも弦楽四重奏団の奏者としての経験も持ち、独奏者としても知られていた。(LPC)

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