「植草一秀の『知られざる真実』」
2017/12/30
真っ暗闇の日本に光は差し込むのか
第1932号
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2017年は日本の刑事司法が真っ暗闇であることが改めて確認された1年で
もあった。横綱日馬富士による暴行傷害事件は、犯行態様からすると「殺人未
遂事件」であり、被害者の貴ノ岩は10針を縫う頭部裂傷を負った。通常の警
察対応であれば、ほぼ間違いなく逮捕、勾留される事案である。最終的に鳥取
県警は厳重処分の意見書を付して検察に書類送検した。通常の判断であれば、
検察は日馬富士を起訴して公判を請求する。ところが、警察は逮捕、勾留せ
ず、早々と書類送検の対応がメディアから流布された。警察が書類送検しても
検察が処分を決定するまでは捜査当局の捜査は完了しておらず、貴乃花親方が
相撲協会の事情聴取に応じなかったことは間違った対応ではない。検察の処分
は略式起訴であり、検察とメディアがスクラムを組んで軽微な処分を誘導した
と判定できる。相撲協会には元名古屋高検検事長の高野利雄氏が外部理事に就
任しており、高野氏が相撲協会の危機管理委員会の委員長を務めて、警察、検
察の捜査よりも相撲協会の調査が優先されるべきとの対応を示し続けた。
弁護士の北口雅章氏が専門家の立場から高野利雄氏の対応を厳しく批判してい
る。元高検検事長の肩書に怯えて、メディアが何一つ口を差し挟めない異常な
言論空間のなかで北口氏が常識的な指摘を示している。現実がいかに歪んでい
るのかを知るために、弁護士である北口氏の論評をぜひご高覧賜りたい。
https://www.kitaguchilaw.jp/blog/
12月22日付記事
「高野利雄・元名古屋高検検事長が関わった『最低の裁定』!!」
https://www.kitaguchilaw.jp/blog/?p=1345
には、「腐りきった相撲協会に,もはや「正義」などない。腐臭(ふしゅう)
ただよう相撲協会の『□□』(御用理事)に成り下がった高野利雄・元名古屋
高検検事長に対し強く抗議せざるを得ない。」と記述されている。貴乃花親方
が警察に被害届を提出して、警察、検察捜査に委ねたのは、相撲協会の隠蔽体
質が強く、事件を隠蔽する可能性が高いと判断したからである。通常の刑事事
件においては、警察、検察の捜査が行われている間、外部の第三者は捜査に立
ち入らない。相撲協会が強硬に内部調査を進めることができたのは、検察OB
を雇っており、この検察OBが警察、検察に対して牽制力を行使したからであ
ると考えられる。この構図こそ、検察利権、検察腐敗の基本構図である。
日本の警察、検察には不当に巨大な裁量権が付与されている。その裁量権と
は、「犯罪が存在するのに、その犯罪を揉み消す裁量権」と「犯罪が存在しな
いのに、犯罪をねつ造する裁量権」である。これが、警察、検察の利権の源泉
なのだ。同時に国家権力にとっては、権力に歯向かう危険人物に対して「人物
破壊工作」を実行する主力部隊なのである。警察、検察にこうした不正で不当
な巨大裁量権が付与されているために、企業や団体は競って検察OBを雇用す
る。その目的は、何か問題が生じたときに、その「裁量権」を活用して、問題
を隠蔽したリ、軽微にしてもらうことにある。
北口氏も指摘しているように、相撲協会は巨大利権の巣窟である。そして、そ
の巨大利権は相撲興行から発生する利権である。現在の日本相撲協会にとっ
て、モンゴル力士はまさに利権の源泉であり、彼らがどのような悪事を働こう
が、このモンゴル力士を失うことは、興行上の巨大な損失になる。11月まで
相撲協会には4人の横綱が存在した。しかし、稀勢の里はけがにより極めて脆
弱な状態に陥っている。鶴竜も横綱に昇進したが成績が振るわず、休場も多
い。そして、日馬富士は暴行傷害事件の加害者として刑罰を受けた。実質的に
は横綱白鵬が一人で大相撲人気を支えていると言って過言でない。
この状況下で、横綱白鵬も除名処分を受けるなら、相撲興行は危機に直面す
る。こうした「営利判断」によって、白鵬の責任不問と、日馬富士に対する刑
罰の軽微化が画策されてきた。その役割を担ったのがヤメ検弁護士の高野利雄
氏である。相撲協会の利益確保の要請に沿って、問題の矮小化を図ることが高
野氏のミッションであったと推察される。この「利益動機」に基づく刑事司法
の捻じ曲げに対して、敢然の立ち向かったのが貴乃花親方である。相撲協会と
高野利雄氏にとっては、目障りな存在でしかなかったはずだ。現実に、高野氏
は貴乃花親方の行動を徹底的に攻撃し、理事からの降格までをも誘導したが、
全体の構図を客観的に見ることのできる人々にとっては、相撲協会と、相撲協
会と癒着する警察、検察、さらにマスメディアによるスクラムの薄汚さが鮮明
に浮かび上がったと言える。
警察捜査が終結し、検察に書類が送られたのち、検察が刑事処分の基本方針を
確定する。ここまでが刑事捜査であり、北口弁護士は「捜査の伸展を静かに見
守るのが関係者の常識的態度というべきであり、高野・元検事長の上記態度・
発言は、非常識極まりない」と指摘している。元高検検事長の肩書にものを言
わせて、非常識極まりない行動を押し通していること自体が、あまりにも卑劣
である。元東京地検特捜部長で元相撲協会外部理事の宗像紀夫氏でさえ、高野
利雄氏が主導した貴乃花親方に対する降格処分については、「重罪犯人に対す
る論告求刑を聞いているような感じ。そんな話じゃない。妥当性を欠く。根拠
がきちっとしているのか」と述べている。また、貴ノ岩の番付が下がることを
容認することも明らかに不当である。腐敗臭に満ち溢れた相撲協会を正すに
は、日本全国の相撲ファンが、当面は観戦を完全にボイコットすることが早道
だろう。そして、この問題が単なる相撲協会の話ではなく、日本の刑事司法の
歪みと腐敗を象徴する事案であることを、すべての主権者が正しく認識する必
要がある。
安倍首相を窮地に追い込んだ籠池泰典氏夫妻は、不当に逮捕、勾留されて、い
まだに保釈もされていない。接見交通権も剥奪されたままである。基本的人権
の尊重などまったく存在しない。刑事訴訟法第一条は、「この法律は、刑事事
件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案
の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とす
る。」と規定しているが、この条文にある「個人の基本的人権の保障を全う」
という部分が完全に空文化している。籠池氏が問われる法令は、補助金適正化
法であり、重罪ではない。5ヵ月にも及ぶ長期勾留の正当な根拠が存在しな
い。実態は、政治権力に歯向かった者への「単純な拷問」である。補助金詐取
を問うなら、これよりもはるかに規模が大きく悪質なのが加計学園による新校
舎建設費水増しによる補助金詐取疑惑を優先するべきではないのだ。
大阪地検特捜部はすでに刑事告発を受理しているのではないのか。しかしなが
ら、まともに捜査を行っている気配すら存在しない。また、森友学園問題の核
心は、時価が10億円を下らないと見られる国有地が実質200万円で払い下
げられた疑惑である。土地価格割引の根拠は希薄であり、近畿財務局が国有地
を不正に低い価格で払い下げた疑いが濃厚である。国有地の不正廉売は財政法
に違反し、刑法の背任罪に該当する可能性の高い事案である。この疑惑につい
ても刑事告発状が受理されているにもかかわらず、大阪地検特捜部はまったく
動かない。少なくとも、近畿財務局と財務省理財局に家宅捜索を行い、関係証
拠の保全を図る必要があるが、これもまったく行われていない。
この問題は、相撲協会の問題と通じるものである。つまり、警察、検察と癒着
している機関や団体、あるいは企業に対しては、「犯罪が存在するのにこれを
揉み消したり、軽微化する裁量権」を行使するのである。この逆に、政治権力
に歯向かう危険人物に対しては、犯罪をねつ造して、無実であるにもかかわら
ず、犯罪人に仕立て上げることが、白昼堂々と展開される。「犯罪が存在しな
いのに犯罪人に仕立て上げる裁量権」が行使されるのだ。安倍昭恵氏は、問題
発覚から10ヵ月が経過するが、いまだに一切の説明責任を果たしていない。
安倍首相が説明責任を果たさせることを妨害しているのだ。財務省前理財局長
の佐川宣寿氏は、国会で虚偽答弁をしたことが明白になっているのに、公の場
での説明に応じず、政府は佐川氏を国税庁長官に昇格させた。この国は、根底
から腐り果てていると言ってこごんでない状況が眼前に広がっている。
他方で、もとTBS社員の山口敬之氏は、準強姦容疑で逮捕状が発付されたに
もかかわらず、警視庁刑事部長の中村格氏が逮捕状の執行を取りやめさせた。
政治権力の側に位置すると、重大犯罪までもが揉み消されるという驚愕の事実
が明らかになった。政府は捜査の結果、警察、検察が不起訴にしたと言うが、
逮捕状発付と不起訴に関する整合的な説明が存在しない。検察審査会がブラッ
ク・ボックスになっている以上、検察審査会の機能について信頼を置くことは
まったくできない。刑事司法は国家権力の根幹である。1789年のフランス
人権宣言の主要部分は刑事司法に関する諸規定である。罪刑法定主義、法の下
の平等、無罪推定原則、身体の自由の保障、適法手続などが定められている。
近代国家の根幹は刑事司法の適正さである。北朝鮮を人々が恐れるのは、北朝
鮮の刑事司法が公正さを欠くからである。しかし、日本はとても北朝鮮を非難
できない。日本の刑事司法が「真っ暗闇」なのだ。美濃加茂市長の藤井浩人氏
の冤罪事案も地裁で無罪判決が示されたにもかかわらず、高裁、最高裁が不当
な有罪判決を示した。藤井氏は「日本に冤罪が実在することを知った」と述べ
ているが、国家による重大犯罪である「冤罪」が数多く存在するのが実態なの
だ。
マーティン・ニーメラーは次の詩を残したと伝えられている。
ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった
私は共産主義者ではなかったから
社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった
私は社会民主主義ではなかったから
彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった
私は労働組合員ではなかったから
そして、彼らが私を攻撃したとき
私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった
刑事司法の歪みや腐敗について、一般の人々は、自分には関係のないことだと
思うだろう。実際、刑事事件に巻き込まれる確率は決して高いとは言えない。
しかし、日本の真っ暗闇の刑事司法の現実が放置されるなら、その害悪がいつ
自分の身に降りかからないとは言えない。とりわけ、安倍政治の問題を指摘
し、不正を正そうとする者には、いつ権力が刃を向けてくるかも分からない。
日馬富士による貴ノ岩暴行傷害事件は、単純な刑事事件であり、そもそも、警
察が迅速に行動して、犯人逮捕、勾留、起訴の手続きを取るべき事案であっ
た。この対応が取られていれば、貴乃花親方が不当な攻撃を受けることもな
かった。しかし、相撲協会には検察利権ポストに検察OBが在籍しており、こ
の検察OBがすべてを歪める方向で問題の不当処理を進めていった。しかし、
このことにより、日本相撲協会の「真っ暗闇の体質」が誰の目にもはっきりと
浮かび上がったことだろう。とても子供たちが無邪気に楽しむ場ではないこと
がはっきりしたと思われる。
日馬富士暴行傷害事件の陰の主役は横綱白鵬である。横綱白鵬の意思によって
貴ノ岩に対する暴行・傷害が実行されたとの疑いはまったく払拭されていな
い。今後、刑事告発が行われる可能性も否定できない。社会が歪み、不正が白
昼堂々と繰り広げれられているときに、その災厄を未来に持ち越さないために
は、市民が堂々と声を上げることが重要なのだ。自分には関係のないことだと
口を閉ざすならば、本当の窮地に陥ったときに、問題を是正する者は一人もい
なくなってしまっているだろう。2018年以降の日本が明るさを取り戻すた
めには、日本の真っ暗闇の刑事司法にしっかり批判を突きつけてゆかねばなら
ないと思う。
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