「植草一秀の『知られざる真実』」
2014/10/22
シロアリのエサ代拠出拒否の消費者不買運動広がる
第991号
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日本経済はすっかり暗雲のなかに包まれてしまった。
アベノミクスはアベコベノミクスに転じ、いまやアベノリスクが全開である。
9月3日に発足した第二次安倍改造内閣は船出から1ヵ月半で座礁した。
女性活躍内閣の2名の女性閣僚が相次いで「政治とカネ」の問題で辞任した。
他にも「政治とカネ」の問題が浮上している閣僚が何名も存在する。
辞任した2名の女性閣僚が選挙区の有権者に利益供与していた疑いも浮上して
いる。
政治資金規正法違反だけでなく、公職選挙法違反の疑いが浮上している。
疑惑追及を避けたい安倍政権勢力は、国会では政策論議が必要だと訴え、御用
評論家などにテレビ番組などで
「国会は政策論議をする場であって足の引っ張り合いをする場でない」
などの発言を流布させているが、身勝手にも程がある。
2009年から2010年にかけて、実際には一点の曇りもない政治資金収支
報告を行っていた小沢一郎氏の収支報告の問題を巡って、メディアを総動員し
て攻撃し続けたのは、一体どこのどいつであったのか。
小沢氏の場合には真っ白の問題を真っ黒の問題に仕立て上げて、国会論戦そっ
ちのけで攻撃し続けていた者が、はっきりと真っ黒が判明している問題につい
て、真相解明をそっちのけにして、「政策論議を優先しろ」とは、問屋が卸さ
ない。
当面の国会運営が、安倍政権の「政治とカネ」の問題に集中することは避けて
通れない。
それよりも、安倍政権が日本経済の先行きに不安を感じるなら、不安を増幅さ
せている消費税再増税を先送りすることを明言するのが先だろう。
11月1日に新著を上梓する。
タイトルは
『日本の奈落』(ビジネス社)
http://goo.gl/48NaoQ
サブタイトルには
-年率マイナス17% GDP成長率衝撃の真実-
とある。
帯には
消費税10% 激烈台風の上陸
弱肉強食安倍政権が日本経済を破壊する
とある。
2015年に向けての内外の政治経済金融展望を記述した著書である。
私が執筆している会員制のレポート
TRIレポート=『金利・為替・株価特報』
http://www.uekusa-tri.co.jp/report/index.html
の年次版
“TRI REPORT CY2015”
で、今回の出版が第3作になる。
2014年版のタイトルは
『日本経済撃墜-恐怖の政策逆噴射-』
2013年版のタイトルは
『金利・為替・株価大躍動』
だった。
2013年版では、円安、日本株高を予測し、日経平均株価が16000円水
準まで上昇するとの見通しを示した。
2014年版では、安倍政権が実施する消費税大増税が日本経済が撃墜してし
まうことに警鐘を鳴らすとともに、日経平均株価の反転下落を予測した。
予測は完全に現実のものになった。
2015年版タイトルは『日本の奈落』であり、強い警戒感を示すものになっ
ている。
私の当初の案は『日本の瀬戸際』だったが、最終的に『日本の奈落』になっ
た。
「瀬戸際」の意味するところは重要である。
日本経済は「奈落」に堕ちる瀬戸際に追い詰められているという意味だ。
つまり、まだ落ちてはいないのである。
落ちるかどうかの分かれ目は、消費税再増税の判断だ。
安倍晋三氏は消費税再増税について、迷いを保持している。
これに対して、財務省は「この機会を逸するな」の判断である。
安倍包囲網が敷かれつつある。
安倍晋三氏が財務省包囲網をくぐり抜けて、消費税再増税先送りを判断できる
のかどうか。
最大の焦点はここにある。
しかし、問題はそれだけではない。
米国の金融政策、中国経済、地政学リスク、欧州の経済政策、そして新興国経
済など、目を配らなければならない問題は広範である。
2015年の内外経済、内外金融市場を展望するために、本書をぜひご活用賜
りたい。
さらに、個人投資家のために、株式投資・必勝の極意をまとめてある。
必ず有用な情報を得られると確信している。是非熟読いただきたいと思う。
安倍政権は10月21日、10月の月例経済報告を閣議決定した。
景気判断が2カ月連続で下方修正された。
9月の月例報告で、
「このところ一部に弱さも見られる」
ととしていた「一部に」を削除して、
「弱さがみられるが、緩やかな回復基調が続いている」
とした。
生産については、
「弱含んでいる」
としていたものを
「減少している」
と一段と下方修正した。
「消費」の足踏みが持続するなかで、「生産」の減少が顕著になってきたため
だ。
しかし、雇用・賃金情勢の改善が続いているとして、
「緩やかな回復基調が続いている」
との基本的な見方を変えていない。
かねてより指摘してきているように、日本経済は2014年の年初を起点に、
すでに「景気後退」の局面に移行している。
景気循環をもっとも正確に表示する経済指標は鉱工業生産統計の
製品在庫率指数
である。
製品在庫率指数は、2014年2月に99.3で底をつけて上昇に転じた。
これが8月には118.5に跳ね上がった。
在庫率指数は在庫指数を出荷指数で除したものである。
出荷に対する在庫の比率と考えればよい。
景気が改善している局面では在庫率指数が低下する。
生産よりも出荷が強く、在庫率が低下するからである。
景気が悪化する局面では在庫率指数が上昇する。
出荷が生産よりも落ち込むからである。
つまり、在庫率指数のボトムが景気のピーク、在庫率指数のピークが景気のボ
トムになる。
4月に消費税増税が実施された。
日本経済新聞は
「消費税増税の影響軽微」
の大キャンペーンを展開した。
1面トップで何度もこの見出しを掲載した。
企業経営者のなかには、日本経済新聞の予測記事を信用した人がいたのだろ
う。
そのような企業では、消費税増税後も生産活動にブレーキをかけなかった。
ところが、消費税増税で国内の最終需要は激減した。
2014年7-9月期の実質GDP成長率は、国内最終需要で計算すると、年
率-17%という衝撃的な水準に落ち込んだのである。
文字通り、日本経済は「撃墜」されてしまったわけだ。
生産活動があまり抑制されずに、最終需要が激減すれば、売れ残りが大量発生
する。
これが在庫率急上昇の原因なのである。
個人消費を中心とする最終需要は4月に消費税大増税が実施されて以降、まっ
たく回復していない。
安倍政権と日経新聞、NHKなどは、消費税増税に伴う最終需要の落ち込みは
一時的現象だと主張してきたが、7月以降も最終需要は回復していない。
在庫率は上昇傾向を維持しているのである。
在庫率が急上昇すると、企業経営者は一斉に生産活動にブレーキをかけ始め
る。
賢明な企業経営者は、日本経済新聞が正しい情報を掲載しないことを知ってい
るから、4月の段階で警戒的な行動を示しただろう。
このような企業では、4月以降の最終需要の落ち込みは想定の範囲内の減少で
あったと思われる。
しかし、日本経済新聞を信用してしまったような企業経営者が率いる企業で
は、一転して大減産に踏み切らざるを得なくなった。
こうして、在庫率上昇が時間差を伴って生産の抑制をもたらすのである。
これが「在庫調整」と呼ばれる動きである。
経済の循環メカニズムのなかで、最後に波及するのが雇用、賃金である。
在庫率上昇-生産減少の延長上に雇用抑制=賃金減少が発生する。
月例経済報告が賃金の上昇が維持されているので「景気が緩やかに回復してい
る」の表現を維持したというのは、このメカニズムを理解していないことの表
れである。
賃金が増えたと言っても、夏のボーナスが増えただけのことだ。
夏のボーナスは3月期決算の数値を反映したものである。
3月期決算は好調だったから夏のボーナスが増えた。
しかし、4月から消費税大増税不況に移行しているのである。
7月の1ヵ月だけ、ボーナスで賃金が増えたことを過大評価はできないのであ
る。
また、賃金が増えたと言うが、インフレ率を差し引くと、依然として大幅マイ
ナスが続いている。
家計調査を見ると、勤労者世帯の実質実収入は前年同月比で5%程度も減少し
ている。
だからこそ、実質家計消費が前年比で5%程度減少し続けているのである。
GDPの約6割が民間最終消費支出で占められている。
この消費が実質で5%も減少する状況のなかで、経済がひとりでに浮上するこ
とはあり得ない。
消費税大増税が個人消費を冷やす、もうひとつの原因がある。
それは、官僚機構が官僚利権を一切切っていないことだ。
「シロアリ退治なき消費税増税はやらない」
はずだったのに、
「シロアリを退治しないまま消費税大増税をやった」
のである。
シロアリは退治しないどころか、さらに大繁殖し続けている。
その先頭を走っているのが財務省である。
財務省の最重要天下り先は、
日本銀行、日本取引所、日本政策投資銀行、国際協力銀行、日本政策金融公
庫、日本たばこ、横浜銀行、西日本シティ銀行
などであるが、これらの天下り先の天下りポストを財務省は猛烈な勢いで拡張
しているのである。
改めて、その詳細なデータを開示したい。
こんな状況で、日本の主権者、納税者が納得するわけがない。
消費者は、「こんな酷税を支払うのはまっぴらごめんだ」の心境で、消費を拒
絶し始めているのである。
消費を必要最小限度にとどめる「不買運動」が静かに広がっているのだ。
「シロアリの餌代になるくらいなら、消費そのものをやめる」の心理が広がり
始めている。
この状況下で、消費税10%を決定するなら、消費者の非暴力の大反乱が起こ
るだろう。
政治は主権者を甘く見てはいけないのである。
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