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津波襲来の専門家知見欠落を露呈する吉田調書

2014年09月14日 13時26分57秒 | 政治経済、社会・哲学、ビジネス、

   

「植草一秀の『知られざる真実』」

                             2014/09/12

             津波襲来の専門家知見欠落を露呈する吉田調書

                               第960号

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吉田調書と吉田証言で吉田が重なり、混乱してしまうが、20011年3月1
1日の東日本大震災に伴って発生した東京電力福島第一原子力発電所の放射能
事故に関するヒアリングをまとめた調書の一部が公開された。

とはいえ、一部が黒塗りになっており、調書が完全開示されたわけではない。

安倍政権に都合の良い部分は公表され、都合の悪い部分は黒塗りにされている
可能性は十分にある。

このことを念頭に入れておかなければならない。

中日新聞が「東電慢心 対策先送り」の見出しとともに報道した吉田昌郎元東
電福島第一原子力発電所長の調書記載内容には重大な証言が含まれている。

伝聞証拠にはなるが、この資料が重要参考資料のひとつとして取り扱われるこ
とになる可能性がある。

最も重大な新事実は、津波対策の不備について、東電の勝俣恒久元会長が詳細
を知り得る立場にあったことを示す証言になっている部分だ。

中日新聞は吉田調書の内容を以下のように伝えている。



翌08年2月、東電の土木調査グループは福島第一原発で想定する津波が7.
7メートル以上になる可能性を社内会議で報告している。

3月には、さらにそれを上回る15.7メートルという試算が出たが、これは
東日本大震災で実際に襲われた津波とほぼ同じ高さだった。

「入社時は、最大津波はチリ津波と言われていて、高くて3メートル。非常に
奇異に感じた。そんなのって来るの、と」

吉田調書で、吉田氏は試算結果を聞いた当時の印象をこう語っている。

結局、東電は最新の試算結果を無視し、津波の想定を従来の6メートルから変
えなかった。

この時、抜本的な安全対策を取っておけば、震災で受けるダメージを軽減でき
たかもしれないが、吉田調書はこう続く。

■お金が一番

「津波自体は、国とか地方自治体がどうするんですかという話とも絡んでくる
でしょう。

東電だけが対応してもしょうがない。」

「当然のことながら一番重要なのはお金。

対策費用の概略をずっと(社内幹部に)説明していた」

「会長の勝俣(恒久)さんは、それは確率はどうなんだと。

学者によって説が違うから詰めてもらっているという話で終わって、それ以上
の議論になっていない」

結果的に安全対策を先送りした吉田氏。

(ここまで中日新聞より引用)



吉田昌郎氏は2007年4月に新設された原子力設備管理部の部長を、発足時
から2010年6月まで務めた人物である。

この吉田氏は、上記の15.7メートルの津波襲来の可能性が指摘された際
に、この警告を無視して津波対策を講じなかった、現場の責任者である。

原発事故発生後、津波対策を講じなかった東電の責任を問う刑事告発が行なわ
れており、吉田氏がこうした刑事責任追及の可能性を念頭に入れて証言に応じ
ている可能性が高いことを念頭に入れて吉田証言を読む必要がある。

津波対策を講じなかったことを正当化する発言が示される蓋然性が、基本的に
高いのである。

こうした証言を読み解く場合に必要なことは、証言はあくまでも証言であっ
て、事実である保証がどこにもないことだ。

発言者や発言者が所属する機関の利害に関わる問題では、発言者がその利害を
踏まえて発言していることが十分に考えられるから、そのことを前提に置いて
読み解く必要が出てくる。



ここで重要な問題は、吉田氏が

「対策費用の概略をずっと(社内幹部に)説明していた」

「会長の勝俣(恒久)さんは、それは確率はどうなんだと。

学者によって説が違うから詰めてもらっているという話で終わって、それ以上
の議論になっていない」

と証言した部分だ。

津波対策の必要性、津波対策の費用などの詳細を、吉田氏は社内幹部に「ずっ
と」説明していたと証言している。

そして、その社内幹部には、勝俣恒久元会長も含まれていた。あるいは、勝俣
元会長が説明を受けていた中心人物であるとも解釈し得る発言になっている。

福島第一原子力発電所の事故をめぐり、業務上過失致死傷罪などで告訴・告発
され、2013年9月に不起訴とされた東京電力の勝俣恒久・元会長ら旧経営
陣について、住民グループは勝俣恒久元会長ら6人の不起訴が不当であるとし
て、検察審査会に審査を申し立てた。

この事案について、東京第五検察審査会は本年7月31日に、勝又元会長ら3
人について「起訴相当」議決を行った。

東京第五検察審査会は、勝俣元会長などが、津波対策の必要性などについて情
報を得ながら、適切な津波対策を講じなかったことについての刑事責任を問う
必要があると判断したのである。

吉田調書の内容は、この問題に関する勝俣恒久元会長の深い関与を裏付けるも
のになっているのである。



公表された調書では以下のやり取りも伝えられている。

―女川原発では869年の貞観津波を考慮している。第1原発ではどうだった
か。

「福島県沖の波源(津波の発生源)というのは今までもなかったですから(中
略)」

―別の原発で貞観津波を考えているのに、第1原発で考えないのはおかしいと
は思わないか。

「貞観津波を起こした地震よりももっと大きなものが来たわけですから。

日本の地震学者、津波学者の誰があそこにマグニチュード9が来るということ
を事前に言っていたんですか。

貞観津波を考えた先生たちもマグニチュード9は考えていないです(中略)」

「貞観津波の波源で考えたときに、うちの敷地は3メートルか4メートルぐら
いしか来ないから、これは今の基準で十分もつという判断を1回しているわけ
です」



WIKIPEDIAには次の記載がある。

東京電力は、2006年9月に日本の原子力安全委員会の耐震設計審査指針が改定
されたことを受けて、2002年7月の地震調査委員会の三陸沖から房総沖にかけ
ての日本海溝付近でマグニチュード8クラスの地震が起きる可能性がある評価
結果を踏まえ、福島県沖での地震発生を想定し津波の高さは10 mを超えると結
論付け、2008年に津波の想定を従来の試算5.7 mから10 m以上に引き上げてい
たということを2011年8月事故調査・検証委員会の委員長畑村洋太郎に明らか
にしている。

この試算では明治三陸地震と同規模の地震が起こると仮定し、海水取水口付近
で津波の高さ8.4 m~10.2 m、津波遡上高さは1~4号機で15.7 m、5号機・6号
機で13.7 mとした。

吉田氏の証言とは異なり、想定される津波の遡上高は15.7メートルを試算
されていたのである。

2009年6月24日開催の原子力安全・保安院ならびに東京電力との「耐震
・構造設計小委員会」会議の席上で、産業技術総合研究所の活断層研究セン
ター長(地質学)である岡村行信氏が、研究報告に基づいて連動型大地震の危
険性について強くその対策を求めた。

「総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会 耐震・構造設計小委員会
 地震・津波、地質・地盤 合同WG(第32回)」
 
の議事録はいまもネット上に公開されている。

https://www.nsr.go.jp/archive/nisa/shingikai/107/3/032/gijiroku32.pdf

ここで、福島原発の津波対策の不備が厳しく指摘されている。

議事録の一部を抜粋する。

○ 岡村委員 まず、プレート間地震ですけれども、1930年代の塩屋崎沖地震を
考慮されているんですが、御存じだと思いますが、ここは貞観の津波というか
貞観の地震というものがあって、西暦869年でしたか、少なくとも津波に関し
ては、塩屋崎沖地震とは全く比べ物にならない非常にでかいものが来ていると
いうことはもうわかっていて、その調査結果も出ていると思うんですが、それ
に全く触れられていないところはどうしてなのかということをお聴きしたいん
です。
 
○ 東京電力(西村) 貞観の地震について、まず地震動の観点から申します
と、まず、被害がそれほど見当たらないということが1点あると思います。あ
と、規模としては、今回、同時活動を考慮した場合の塩屋崎沖地震でマグニ
チュード7.9相当ということになるわけですけれども、地震動評価上は、こう
いったことで検討するということで問題ないかと考えてございます。
 
○ 岡村委員 被害がないというのは、どういう根拠に基づいているのでしょう
か。少なくともその記述が、信頼できる記述というのは日本三大実録だけだと
思うんですよ。それには城が壊れたという記述があるんですよね。だから、そ
んなに被害が少なかったという判断をする材料はないのではないかと思うんで
すが。
 
○ 東京電力(西村) 済みません、ちょっと言葉が断定的過ぎたかもしれませ
ん。御案内のように、歴史地震ということもありますので、今後こういったこ
とがどうであるかということについては、研究的には課題としてとらえるべき
だと思っていますが、耐震設計上考慮する地震ということで、福島地点の地震
動を考える際には、塩屋崎沖地震で代表できると考えたということでございま
す。
 
○ 岡村委員 どうしてそうなるのかはよくわからないんですけれども、少なく
とも津波堆積物は常磐海岸にも来ているんですよね。かなり入っているという
のは、もう既に産総研の調査でも、それから、今日は来ておられませんけれど
も、東北大の調査でもわかっている。ですから、震源域としては、仙台の方だ
けではなくて、南までかなり来ているということを想定する必要はあるだろ
う、そういう情報はあると思うんですよね。そのことについて全く触れられて
いないのは、どうも私は納得できないんです。
 


(中略)

○ 岡村委員 先ほどの繰り返しになりますけれども、海溝型地震で、塩屋崎の
マグニチュード7.36程度で、これで妥当だと判断すると断言してしまうのは、
やはりまだ早いのではないか。少なくとも貞観の佐竹さんのモデルはマグニ
チュード8.5前後だったと思うんですね。想定波源域は少し海側というか遠
かったかもしれませんが、やはりそれを無視することはできないだろうと。そ
のことに関して何か記述は必要だろうと思います。
 
○ 纐纈主査 名倉さん。
 
○ 名倉安全審査官 先ほど杉山先生から御指摘いただきました1点目につきま
して、事務局から説明させていただきますと、中間報告提出時点におきまし
て、双葉断層ですけれども、東京電力は47. 5kmで暫定評価としておりまし
て、それで地震動価を実施した結果を報告してきました。途中で37kmに切り替
えたのですけれども、それは地質調査の追加調査結果を踏まえた双葉断層の評
価として短くしたということであって、地震動評価結果につきましては、37km
の補正は実は行われていなかったんですね。

そういうこともありまして、当初報告がなされた暫定評価の47.5kmで審議を進
めてきたので、それでまとめたと。結局、双葉断層の37kmの評価をAサブグ
ループで最終的な評価として妥当なものと認めたのが最後の回でしたので、地
震動評価につきましては37kmの評価は実施されていない状況で、基本モデルだ
けは実施していただいたんですけれども、不確かさモデルについては実施して
いないということで、これを実はこの評価書の中にも少し書いてございます
が、東京電力では、本報告までに37kmの評価を実施することにしておりまし
た。

したがいまして、 47.5kmというのは、あくまでも中間報告提出時の評価、暫
定的なものに対して評価を保安院の方でしたということでありまして、最終的
な確定した双葉断層の長さとは少し違いが出てきておりますので、もう少し地
質調査と地震動評価のところで明示的にわかるような形、一応書いてはいるん
ですが、もう少しわかるような形に修正させていただきたいと思います。以上
です。



共同通信が伝える吉田調書では、次の発言が示されている。

―女川原発では869年の貞観津波を考慮している。第1原発ではどうだった
か。

「福島県沖の波源(津波の発生源)というのは今までもなかったですから、そ
こをいきなり考慮してやるということは、仮想的にはできますけれども、原子
力ですから費用対効果もあります。

お金を投資する時に、根拠となるものがないですね。それだったら極端なこと
を言えば、福島沖にマグニチュード9の地震が来ますとなったら、20メート
ルぐらいの津波が来る。

だから起きようによっては、いくらでもあの計算からすれば来るわけです。何
の根拠もないことで対策はできません」

―防潮堤を20メートルにかさ上げすると設備投資がかさむ。

「20メートルの津波といった時には、基本的に廃炉にしないと駄目です。あ
の立地だと、抜本的に駄目です」

―別の原発で貞観津波を考えているのに、第1原発で考えないのはおかしいと
は思わないか。

「貞観津波を起こした地震よりももっと大きなものが来たわけですから。

日本の地震学者、津波学者の誰があそこにマグニチュード9が来るということ
を事前に言っていたんですか。

貞観津波を考えた先生たちもマグニチュード9は考えていないです。

それを言い始めると、結局、結果論の話になりますと言いたいです」

「貞観津波の波源で考えたときに、うちの敷地は3メートルか4メートルぐら
いしか来ないから、これは今の基準で十分もつという判断を1回しているわけ
です。

貞観津波の波源のところにマグニチュード9が来ると言った人は、今回の地震
が来るまでは誰もいないわけですから、それを何で考慮しなかったんだという
のは無礼千万だと思っています。

そんなことを言うんだったら、日本全国の原子力発電所の地形などは関係な
く、全部15メートルの津波が来るということで設計し直せということと同じ
ことですね」

「今回2万3千人死にましたね(実際は死者・行方不明者計約1万8千人)。

これは誰が殺したんですか。マグニチュード9が来て死んでいるわけです。

こちらに言うんだったら、あの人たちが死なないような対策をなぜその時に打
たなかったんだ。

そこが論理飛躍して東京電力のここの話だけに持ってくるのはおかしいだろ
う。

これは日本人の財産と生命を守るための基本的なあれだと言うんだったら、中
央防災会議で取り上げて、市町村も含めて対策をしないといけない話です。そ
こが国はなっていないわけです」



こうして見ると、吉田氏の証言内容には誤りが多い。

吉田氏は、東電は、貞観津波の波源で、福島原発には3メートルか4メートル
の津波しか来ないと考えて、これならいまの対策で十分だと考えていたと、東
電の対応を正当化する。

そして、誰も想定していないマグニチュード9で、想定されていない津波が来
て事故が発生した。つまり、東電に過失はないとの主張を展開しているのであ
る。

しかし、現実はまったく異なる。

上記の2009年6月24日開催の「総合資源エネルギー調査会原子力安全・
保安部会 耐震・構造設計小委員会 地震・津波、地質・地盤 合同WG(第
32回)」で、産業技術総合研究所の活断層研究センター長(地質学)の岡村
行信氏はこう述べているのだ。

「海溝型地震で、塩屋崎のマグニチュード7.36程度で、これで妥当だと判断す
ると断言してしまうのは、やはりまだ早いのではないか。少なくとも貞観の佐
竹さんのモデルはマグニチュード8.5前後だったと思うんですね。想定波源域
は少し海側というか遠かったかもしれませんが、やはりそれを無視することは
できないだろうと。」

つまり、岡村氏は専門家としての知見として、塩屋崎のマグニチュード7.3
6を前提とするのは誤りで、少なくともマグニチュード8.5程度の地震発生
を前提に津波襲来の可能性を予見しておくことが必要であるとの見解を示して
いるのである。

そして、この過程を置いて計算された津波の遡及高が15.7メートルで、こ
の程度の津波に備える対策が必要であるとの見解が正式に示されたのである。

実際に福島原発に襲来した津波は、この想定通りのものだった。



産総研は東北大学、東京大学と共同で綿密な調査研究を実施し、津波堆積物が
常磐海岸にも来ているとの事実を明らかにしたうえで、震源域として、仙台の
方だけではなく、南までかなり来ているということを想定する必要はあること
を的確に指摘していたのである。

権威と責任のある研究機関が十分な調査研究を踏まえて提示した津波襲来の想
定を、結局無視して、適切な津波対策を講じなかったのは東電と国なのだ。

吉田調書に一部に振り回されずに、事実関係を綿密に調査して、責任問題に決
着をつける必要がある。



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