「植草一秀の『知られざる真実』」
2015/05/06
安倍首相の米国議会スピーチに対する評価
第1139号
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安倍首相が米国議会でのスピーチについて賛否両論がある。
安倍政権を支持する人はプラスの評価を示すし、支持しない人はマイナスの評
価を示す。
支持、不支持がはっきり分かれるから、評価が分かれるのも当然である。
英語でスピーチを行ったことについても賛否両論がある。
恐らく、ほとんどの聴衆は安倍氏の言葉をほとんど理解できなかっただろう。
聴衆は配布された安倍氏のスピーチドラフト(英語原稿)を手元に置いて、そ
れを読むことで安倍氏のスピーチ内容を把握した模様である。
米国議会でのスピーチであるから英語でのスピーチを選択したのであると思わ
れるが、十分に使いこなせないのであれば、日本語でスピーチする選択もあっ
たと思われる。
とはいえ、安倍氏はleaderではなくreaderであった。
用意されたスピーチ原稿を読んでいるだけなのだ。
米国でも大統領にはスピーチライターが存在する。
優れたスピーチライターの確保は、政治技術上の重要事項である。
しかし、スピーチを行う者がスピーチ内容を完全に自分のものにしていなけれ
ば、想いを聴衆に伝えることはできない。
安倍氏がどこまで「想い」を伝えられたのかは、すべての聴衆に聞いてみなけ
れば分からないことだが、感動とはかけ離れた評価だったのではないかと推察
する。
安倍氏が米国議会でスピーチの機会を得たのは、安倍氏の業績が評価されての
ことではない。
米国議会多数派を共和党が握ったこと、そして、安倍氏が米国共和党の意向に
沿って行動することを確約して、この機会が付与されたものである。
安倍氏のスピーチ券取得には大きな対価が払われたことは間違いなく、日本の
主権者は、この点を冷静に見定める必要がある。
スピーチの評価は、その内容に依拠するべきである。
スピーチそのものは一種の社交辞令、セレモニーであって、スピーチの大半は
儀礼的な内容で占められている。
問題は、日米間の政治課題について、安倍氏がそれをどのように取り上げ、ど
のように話したのかである。
具体的に取り上げられたことは、歴史認識を除けば二点のみである。
TPPと安全保障政策だ。
TPPについて安倍氏は、
「日米間の交渉は、出口がすぐそこに見えています。
米国と、日本のリーダーシップで、TPPを一緒に成し遂げましょう。」
と述べた。
他方、安全保障政策については、
「日本はいま、安保法制の充実に取り組んでいます。
実現のあかつき、日本は、危機の程度に応じ、切れ目のない対応が、はるかに
よくできるようになります。
この法整備によって、自衛隊と米軍の協力関係は強化され、日米同盟は、より
一層堅固になります。」
「戦後、初めての大改革です。この夏までに、成就させます。」
「日本は、世界の平和と安定のため、これまで以上に責任を果たしていく。
そう決意しています。
そのために必要な法案の成立を、この夏までに、必ず実現します。」
こう述べたのだ。
1.TPPを成し遂げる
2.安保法制を夏までに実現する
この二点が具体的言及であり、歴史認識を除けば、論点はこの二つしかなかっ
た。
しかし、TPPについて、安倍自民党は日本の主権者に6項目の公約を明示し
ている。
そして、2012年12月の総選挙で、
「TPP断固反対!」
を宣言しているのである。
他方、安保法制は、これから国会で審議されるものである。
国会がそのような結論を示すのかが確定していない時点で、米国議会で
「法案の成立を、この夏までに、必ず実現する」
と明言することは「暴挙」以外の何者でもない。
逆に言えば、この二点を米国議会で確約することと引き換えに「スピーチ券」
を取得したのだと推察できるのである。
この行為を「売国」以外の用語で表現することは不可能である。
何度も繰り返すが、TPPについて安倍晋三自民党は2012年12月の総選
挙に際して、
6項目の公約
を明示している。
https://goo.gl/Hk4Alg
TPP交渉参加の判断基準
1 政府が、「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する。
2 自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない。
3 国民皆保険制度を守る。
4 食の安全安心の基準を守る。
5 国の主権を損なうようなISD条項は合意しない。
6 政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる。
これが、安倍晋三自民党が明示した選挙公約である。
同時に、安倍晋三自民党は、選挙に際して、
ウソつかない!
TPP断固反対!
ブレない!
日本を耕す!!自民党
と大書きしたポスターを貼り巡らせた。
安倍自民党は、基本的にTPP断固反対を明示し、TPPに参加するかどうか
の基準として6項目を「公約」として明示したのである。
そのなかに、
・コメ、小麦、砂糖、牛肉、乳製品
の5品目の関税を守ること、
・ISD条項を受け入れないこと
・国民皆保険制度を維持すること
・食の安心・安全を守ること
などが明記された。
ところが、いま交渉が進められているTPPには、
ISD条項が含まれている。
また、
5品目の関税が守られることが確約されていない。
したがって、現状で日本がTPPに参加することは、選択肢としてあり得な
い。
誰にでも分かる内容である。
この状況下で安倍氏が米国議会で
「米国と、日本のリーダーシップで、TPPを一緒に成し遂げましょう」
と述べたのは「暴言」以外の何者でもない。
究極の売国行為である。
これを明言することが「スピーチ券取得」の条件であったと推察されるのだ。
また、安保法制は日本国憲法に反する「違憲立法」であることに疑いがない。
日本国憲法第9条に以下の条文が置かれている。
「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動
たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段とし
ては、永久にこれを放棄する。」
「集団的自衛権の行使」とは、
「国際紛争を解決する手段として、
国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使
を行うこと」
である。
「集団的自衛権の行使」
が
日本国憲法第9条に反していること
は明白である。
安倍氏は、この違憲立法を強行しようとしているが、その審議は、国権の最高
機関である国会において、これから始まるものである。
安倍氏は行政府の長であるが、行政府の上位に、国権の最高機関である国会が
位置し、その国会がこれから法案審議を行うのである。
その審議を前に、安倍氏は、
「この夏までに、成就させます」
と発言した。
国会は、このような安倍氏の「暴挙」を糾弾し、安倍氏の首相辞任を求めるべ
きだろう。
主権者が日本の首相に求めることは、主権者の幸福を追求することであって、
主権者の犠牲と引き換えに、米国議会でのスピーチ券を取得することではな
い。
冷静にものごとを考えることのできる主権者は、主権者の利益を損なう安倍氏
の米国議会でのスピーチを最低のものと評価しているはずである。
安倍首相に欠落しrていることは、日本の主権者の利益を守ることが最上位の優
先事項であることに対する認識である。