セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「PK」

2016-11-06 15:12:13 | 外国映画
 「PK」(「PK」、2014年、印)
   監督 ラージクマール・ヒラニ
   脚本 アビジャート・ジョーシー 
       ラージクマール・ヒラニ
   撮影 C.K.ムラニーラダン
   作曲 シャンタヌ・モイトラ
       アジャイ=アトゥル
       アンキト・ティワーリ
   出演 アーミル・カーン
       アヌーシュカ・シャルマ
       スシャント・シン・ラージプート
       ランビール・カブール(特別出演) 

 ある星から地球探査に来た人間そっくりの宇宙人。
 一人地球に降り立ったものの、直ぐに宇宙船との通信機であるペンダント
を盗まれてしまう。
 途方に暮れ地球語も解らずインドを彷徨う宇宙人、彼は人間の手を長時
間握る事でその人の知識をコピー出来る能力があった。(「E.T.」みたい
(笑))
 その能力で言葉をマスターするがトンチンカンな為、出会う人は皆「PK(ヒ
ンドゥ語の酔っ払いを意味する略語」)と取り合ってくれない。
 6ヶ月後、ベルギーでインドの宿敵パキスタン人(イスラム教徒)との恋に
破れインドのTV会社に就職したジャグー(ヒンドゥ教徒)が「面白ネタ」として
彼を見付ける。
 ジャグーはやがてPKが宇宙人と知るが、彼の曇りない純朴な疑問に惹き
付けられていく・・・。

 「きっと、うまくいく」のラージクマール・ヒラニ監督と主演のアーミル・カーン
が再度タッグを組んだ作品。
 ファルハーンの父親とラージューの母親もヒロインの両親として出てました。
(笑)
 伏線の回収は「きっと、うまくいく」に較べスマートでなくかなり強引、一部放
ったらかしてしまったのも有りました。
 そして何よりラストが・・・、インド映画らしくサービス精神一杯としても完全
にやりすぎ。(泣)
 本編、エピローグまでは100点だったんですよ、なのにオマケで10~20
点下げた、たった3分くらいで。
 何とも悔やまれます。
 でも、それを差し引いても素晴しい作品だったし、力作なのは間違いない
と思います、筆の置き所を間違えただけ。

 「きっと、うまくいく」は「学ぶとは」、「考えるとは」という命題の上にコメディ
タッチの物語を破綻なく見事に語った希有な傑作だと僕は思ってます。
 「PK」は、その命題をより処理の難しい「宗教」に変えた作品。
 扱い難さを考えれば上記したような強引さが入っても無理のない事だと思
いました。
 これはルネッサンス映画。
 本来のルネッサンスは王家、貴族、裕福層の為に有った権威的カトリック、
キリスト教を庶民に解放した動きを言いますが(日本で言えば天皇、皇族、貴
族の為の天台宗等の古典仏教に対する鎌倉仏教、曹洞宗、浄土宗、日蓮宗
の勃興、乱暴にいえば親鸞の「善人なおもて往生をとぐいわんや悪人をや」)、
これはヒンドゥ、イスラム、キリスト、ユダヤあらゆる宗教に対して問いかけら
れた新たなルネッサンス。
 地球に取り残され通信手段を失った主人公は、通信機を探す為、人々に聞
いて回ります、その答えは「そんな事は神様しか知らない」。
 で、右も左も解らないPKは神様という人に縋ろうとするのだけど、シヴァ、ア
ッラー、キリスト・・・余りに沢山居て誰に縋ればいいのか途方に暮れてしまう。
 面白い例えで、知識を得ようと真っ白のサリーを着た女性の手を握ったら「喪
服の未亡人に何をする!」とヒンドゥ教徒に追いかけられ、教会の前でウェディ
ング衣装の花嫁にお悔やみを言ったらキリスト教徒に追いかけられ、「黒が喪
色」と聞いて黒のチャドルを着た女性に再度お悔やみの声を掛けたら「縁起で
もない」とイスラム教徒に追いかけられる。
 救いを求める人間と神は1対1(として向き合う)が本来の姿なのに沢山宗教
があるのは何故なんだ、どの神に祈ればいいのか。
 そして彼は悟ります、宗教は神の代理人を称する者が作った会社に過ぎない
と。
 やがて「邪教から神を守るため」と称してテロが起きる。
 PKはヒンドゥ教の権威との対決で「僕も神の存在を信じるが、宇宙を創造し
た神ならば、たった一つの星のちっぽけな人間が「神を守る」など僭越極まり
なく、神は自分で自分を守るから人間達の排斥など無意味な行為にすぎない、
これからもそれを続けるなら、この星に残るのは靴だけだ」と語ります。
 多分、これがこの作品の根元。
 それを監督得意のコメディタッチで小難しくないエンタティーメント作品に仕
上げてるのが才能ですね。
 まぁ、終盤、宗教対決(信長がやった叡山の高僧と伴天連僧の対決みたい
なの)を真正面から描くのかと思ったら、途中でヒロインの元カレ話に上手く
逃げたけど。(笑)
 只、そこを突き詰めたらエンドレスになるし、宗教の本質を観客に考えさせ
る良い手だと思いました。
 これを宗教と生活、人間が密接に繋がってるアラブ・アジアラインにあるイ
ンドで作るのは相当な度胸が要る。
 今、インドはヒンドゥ至上主義の原理派が無視できない勢力に成長してい
て、こんな作品作ったら命の危険さえあります。
 それはインドに多数いるイスラム教徒から見ても同じだし、キリスト教徒も
いい顔はしないでしょう。
 でも、いざ公開したらインド映画史上最高の興収を上げたとか。
 インドメインのヒンドゥ教は日本と同じ多神教だからなのか、多数の宗教が
それぞれの勢力を持ち混在してる国だからなのか、インド国民の懐の深さを
感じると共に、ヒラニ監督とアーミル・カーンの土性骨に感服しました。

 今月の企画「音楽映画」には、この作品でエントリーします。
 5,6曲有りましたが何れも楽しいナンバーでした、でも残念ながら「きっと、
うまくいく」ほどキャッチーな曲はなく2曲目ナンバーはひと昔前のマサラ映
画感もありました。
 一番良かったのは二人で芝居を観に行き「恋する輪廻 オーム・シャンティ・
オーム」みたく、舞台の二人と入れ替わって歌う曲かな。
 
 アーミル・カーンは一体何歳なのって感じのフルヌード姿を披露してますが、
均整のとれた筋肉質でした(インドはダンスがあるから贅肉が付かないのかな、
シャー・ルク・カーンはシックスバックの腹筋が売りだし)。
 ヒロインのアヌーシュカ・シャルマは、相変わらずの美人さん、只、インド特有
のエキゾチックさは殆ど無く、インド系アメリカ人って感じで、どちらかというと知
性を感じる健康美人の印象を受けました。
 中々にチャーミングな人。

 今年の僕のお薦め作品の一つ。

 予告編
  https://www.youtube.com/watch?v=7DZXjt1nK58

※インド3大人気男優は皆、カーンが付くので3大カーンとも言われています。
 そして3人ともムスリム、現在、ヒンドゥ原理主義者達から排斥運動を起こされ
 てるし、殺害予告も度々入る状態。
 この作品には、それらの攻撃に対する反論という意味も入ってると思います。
※ちょっとインド映画は、こっちから見ると倫理観の薄い作劇をします。
 「バルフィ!人生に唄えば」では度々公共物破損をやるし、本作では「盗み」
 を頻繁と。(汗)
 一応、「バルフィ!」は身体障害者、本作は善悪が解らない宇宙人が生きて
 く行為とエクスキューズが付くけど、気になる人はそこから崩れるかもしれま
 せん。
 僕は物語の進行上必要なだけで主題は別だから気になりませんけど(「バル
 フィ!」は、その違法行為への反応が当人の判断基準になるのだけど)、やっ
 ぱり、ダメな人にはダメでしょうね。
※コンドーム、踊る自動車、下ネタは今回も健在。(笑)
※インドの森繁さんのようなアミダーブ・バッチャン、今回も数秒顔見せしてた
 ような気が・・・。
 あの人、そういうのが大好きなのかな。(笑)
 (最初の方で大きな看板で出てるけど、それとは別の所)
(追記)
※ジャグーの上司、「きっと、うまくいく」のウィルス校長だとか。
 これは解らなかった。(汗)

 2016.11.5
 恵比寿ガーデンシネマ
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5 コメント

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おもしろそうですね。 (宵乃)
2016-11-07 12:42:56
「きっと、うまくいく」の監督と主演タッグですか。予告編を見たけど、筋肉すごっ!

>宗教は神の代理人を称する者が作った会社に過ぎない

私もそういうふうに思ってたので、共感できそうです。インドでこういう作品を撮るなんて、本当に度胸のある人たちですね。まさに命がけ!?

音楽はまあまあだったみたいですが、楽しめたようで良かったです。
今回もご参加ありがとうございました♪
返信する
面白かったですよ、今年のベスト10に入ります (鉦鼓亭)
2016-11-07 15:08:26
 宵乃さん、こんにちは
 コメントありがとうございます!

筋肉すごっ!
〉撮影時49だか50歳。(笑)
シャー・ルク・カーンも同年代だけど彼のシックスパックも凄いです。

本当に度胸のある人たち
〉インドでは上映禁止運動もあったようです。
一神教の国では作りづらい作品でしょうね。
作れるとしたらW・アレンくらいな気がします。

音楽はまあまあ
〉こうしてyoutubeで聞き直してみれば初回より良かったりして。(汗)
他にも有ったような気もするけど、一応、主な歌をupしてみました。
長い曲ばかりですがお暇な時にでも、どうぞ。
(聞き直すと最初のベルギーの曲がいいですね(笑))
返信する
コメントをありがとうございました! (しずく)
2017-07-09 12:02:51
申し訳ありません・・・。
昨秋の音楽映画祭でレビューを書かれていたのですね(汗)

>「僕も神の存在を信じるが、宇宙を創造し た神ならば、たった一つの星のちっぽけな人間が「神を守る」など僭越極まりなく、神は自分で自分を守るから人間達の排斥など無意味な行為にすぎない、これからもそれを続けるなら、この星に残るのは靴だけだ」

この肝になるセリフを抜き書きして下さったので、改めてゆっくり噛みしめることができました。

殺害予告もあるインドで良くぞ撮った本作ですね。
厳しいとは推測されましたが、そこまでとは~。
大きな収益を上げたのですから、非難以上に受け入れられた証なのでしょう。上映中のインド映画館で観客の反応を窺いながら鑑賞したらさぞ面白かったでしょう。
倫理観の薄さは全く気になりませんでした。
返信する
「PK]を評価してくれる人が一人増えて嬉しいです (鉦鼓亭)
2017-07-09 21:27:28
 しずくさん、こんばんは
 コメントありがとうございます!

音楽映画祭でレビューを書かれていたのですね
>僕のブログは作品を探すのが解りにくいので、全然、気にする事はないです。

肝になるセリフを抜き書きして
>実際は、字幕の文字数の制約でもう少し短いのですが、誤解が生じないよう自分で少し書き足しました。(汗)

厳しいとは推測されましたが、そこまでとは~
>何処かの州の裁判所へ上映禁止を提訴したのですが、そこの裁判長が中々、粋で、
「観たい人は観る、観たくない人は観なければいい、それがけだ、依って本件は却下!」
だったそうです。

倫理観の薄さ
>僕も映画というフィクションだから全然。
でも、気になる人は気になるだろうなと。

アーミル・カーン、シャー・ルク・カーン、サルマン・カーンで三大カーンと呼ばれてるとか。
この中でも抜き出た人気でキング・オブ・ボリウッドの称号を持つシャー・ルクにも「マイ・ネーム・イズ・ハーン」という似た題材の作品があります。
こちらはイスラム差別の不当性を訴える作品で、良い作品なのですがコメディ色は有るものの歌なしで160分、真面目に語られるのでチト疲れます。
ちなみにハーン(カーン)の発音は、日本語でいうとカとハの中間な感じで、「マイ・ネーム~」で上顎に舌を引っ掛けるように発音すると説明してました。
返信する
追伸 (鉦鼓亭)
2017-07-09 21:42:57
ラストのおまけのおまけ
>ご主人の説明で、僕も納得出来ました。
ありがとうございます!
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