セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

映画日記 2018年その9

2018-11-24 10:27:19 | 映画日記/映画雑記
 「ストックホルムでワルツを」(「MONICA Z」、2013年、スウェーデン)
   監督 ペール・フライ
   脚本 ペーター・ビッロ   
   撮影 エリック・クレス
   衣装デザイン キッキ・イライダー
   音楽 エリック・クレス
   出演 エッダ・マグナソン
      スペリル・グドナソン
      シェル・ベリィクヴィスト  

 1960年、スウェーデンでドサ回り中の美人ジャズ・シンガー モニカ・ゼタールンド(セッテルンド)はアメリカ人プロモーターに「アメリカで歌ってみないかと」と誘われる。
 本職の電話交換手の仕事を休み、子供を実家に預け希望に胸膨らませ飛行機に飛び乗るが・・・。

   予告編 https://www.youtube.com/watch?v=bi9kmQbpjPs

 スウェーデン伝説の歌姫、北欧ジャズの女王、モニカ・ゼタールンドがニューヨークでの挫折から1964年、巨匠ビル・エヴァンスとの共演「Waltz for Debby」で世界的に有名になるまでの4年間を描いた作品で、繰り返される栄光と挫折、父との確執、強烈な上昇志向がもたらす愛の遍歴が上手く描かれています。
 父「何故、お前は木の天辺まで登ろうする、だから怪我をするんだ」(子供の時、落ちて怪我をしてる)
 モニカ「私は天辺からの景色が見たいの!」
 「代償は払ってる」、その代償の数々、アルコール、続かない夫婦生活、一緒に居られない子供への罪悪感、ets、物語の進行上それ程深くは突っ込んではいないけど、伝記モノとしての人間描写に不足はないと感じました。
 「ジャズは英語で歌うもの」と世界中が思ってた時代、、白人のスウェーデン人が英語で歌うジャズ、それを尊敬するエラ・フィッツジェラルドに「心がない」、「モノマネ」と酷評された事から母国語で歌う事に挑戦、そこから彼女の成功が始まっていくのですが、モニカを演じたエッダ・マグナソンがいいですね、当時、アルバムを二枚出した新人ジャズ・シンガーで映画は初めてだとか、演技も中々のもの。顔かたちがモニカに似てる所から起用されたんだろうけど、彼女の歌うシーンのどれもが良かったです。(モニカに似せて歌ってる)
 ジャズは詳しくないけど、音楽映画、伝記映画として水準以上の作品だと思います、但し、子供より仕事、名声の人だから、そういうのが苦手の人には向かないかもしれません。

※「ストックホルムでワルツを」という曲はありません、彼女の代表作「Waltz for Debby」と活躍したストックホルムを掛け合わせたタイトル。
※「私は好奇心の強い女」、1970年頃、ちょっとしたセンセーションを起こした映画でしたね、久々にタイトル聞いた(笑)、あれでスウェーデン=フリーセックスのイメージが日本中に染み付いた、あの監督の元奥さんだったとは。

 H30.11.18
 DVD

 「空軍大戦略」(「Battle of Britain」、1969年、英)
   監督 ガイ・ハミルトン
   脚本 ジェームズ・ケナウェイ  ウィルフレッド・グレートレックス
   撮影 フレディ・ヤング
   音楽 ロン・グッドウィン  ウィリアム・ウォルトン
   出演 (クレジット順)
       ハリー・アンドリュース  マイケル・ケイン
       トレヴァー・ハワード  クルト・ユルゲンス
       ローレンス・オリヴィエ  クリストファー・プラマー
       ロバート・ショウ  スザンナ・ヨーク
       エドワード・フォックス

   予告編 hyoutube.com/watch?v=9a9qa2dOclIttps://www.

 原題が示すままBattle of Britainを描いた作品で、如何に貧弱なイギリス空軍が物量豊富なドイツ空軍を苦しめ、ナチスのイギリス侵攻を諦めさせたか。Battle of Britainは日本軍に置き換えればミッドウェイ海戦、ガダルカナル攻防戦に当たる分水嶺とも言える戦闘。(大陸やアフリカでは、まだドイツが拡張していきますが、ドーバーを越える事は出来なかった)
 なんだけど、ガイ・ハミルトン監督の力量不足でスターを存分に使いながら余り活きてなく、叙事詩になり損ねたような作品。
 Battle of Britainの勝利は個人的英雄談でなく空軍の皆で勝ち取ったものという事実を淡々と描いていくのはいいけど、主要人物の所属航空隊もどれか解り難く、図上で敵味方の位置取りを示してるのに関わらず誰が何処で戦ってるのか全然解らない、クリストファー・プラマーでさえいつの間にか堕とされてたし(笑)、ハインケル爆撃機が何処に向かってるのか地名言われてもイギリス人じゃないから飲み込めない、仕方なく爆弾落としたのがロンドンって言われても経緯判れど進路がピンとこない。(イギリス人には常識なんだろうけど)
 でも、まぁ、スピットファイアーやメッサーシュミット(英製エンジン)、スツゥーカ(ラジコン機)、ハイネケンがCGじゃなくバンバン飛んでるから、その辺は見応えあります。(多分、男子限定)
 
 43年前に(その前にTVでも見てると思う)に一度観てるけど、この前、潜水艦映画を観たら急に空の方も観たくなりレンタル、当時、少しファンだったS・ヨークも懐かしくて。(笑)

※Battle of Britainはダンケルク撤退戦の次に行われた、英・独空軍による制空権を掛けた大規模戦闘。
※「ジャッカルの日」のエドワード・フォックスの出世作、なのかもしれない。さして台詞も出番もないけど何か目を引く。(この頃からアスコット・タイなんだね(笑))
※作戦に感情は禁物。

 H30.11.23
 DVD

「ペティコート作戦」

2018-11-11 22:53:44 | 外国映画
 「ペティコート作戦」(「Operation Petticoat」、1959年、米)
   監督 ブレイク・エドワーズ
   原作 ポール・キング   モーリス・リッチマン
   脚色 スタンリー・シャピロ   モーリス・リッチマン
   撮影 ラッセル・ハーラン
   音楽 ジョセフ・ガーシェンソン
   撮影 ケイリー・グラント
      トニー・カーティス
      ジョーン・オブライエン  

 今年のGWに観ようと思ったけどDVD未発売で断念、それが、今日TSUTAYAへ行ったら発掘良品で陳列されてた、お陰さまで40ン年振りに再見、TSUTAYAさん、ありがとう。
 ビートルズの「イエロー・サブマリン」ならぬ「ピンクの潜水艦」のコメディ。

 太平洋戦争開戦2日後、フィリピン、スービック軍港に停泊中の潜水艦「シー・タイガー」は日本軍の奇襲を受け敢え無く沈没。
 艦長のヘンダーソン(フィリピンの空軍基地だね)大佐は、米軍がフィリピンを撤収する2週間内に引き揚げ、応急修理しオーストラリアのドッグまで航行する事を司令部へ約束する。
 そこへ実戦経験も何もなく上官の奥様達の機嫌を取って暮らしていた海軍娯楽係ホールデン大尉(別会社のスターのおちょくり?)が赴任して来る、迷惑顔の艦長だが彼が主張する調達力を一応信じて補給将校に任じる。
 彼の能力で主要部品の調達に成功するが、寄港地で調達した塗装剤は上塗りのペンキがなく、下地は混ぜ合わせた結果ピンクに、更に緊急避難した島から陸軍看護婦隊まで調達してきて・・・。

 あくまで個人的感想ですがB・エドワーズという監督の本質はコメディよりシリアス劇の方に有ったのかもしれない、「酒とバラの日々」、「ティファニーで朝食を」等、「ティファニー〜」の失敗は会社の意向、M・モンローの拒否もあって、セレブ向けとは言え娼婦の役を気品が売りのヘップバーンに振った事、素晴らしいファッション・アイテムではあるけど彼女に娼婦役は合わない、案の定、ファッション的(音楽的にも)には成功したけどミス・キャストの汚名を着る羽目に。(この映画のヒロインが娼婦でないと言う方は「トイレで$50」の意味を納得いくように説明して下さい、男なら、それがハンドジョブかブロゥジョブ、多分、前者を意味するとピンときます〜当時のレートは$1¥360〜それが騒動の後、主役がヒロインに$50押し付ける意味に繋がる、M・バルサムはマフィア組織のその部門の元締め)
 只、この監督のコメディ・センスが当時のハリウッドの中でも輝いていたから、コメディ監督として重宝されてしまった、エドワーズ監督のコメディは瞬発力、持続力共に陸上競技で言えば中距離選手、競馬なら1600~2400で30000mという映画ではガス欠を起こしてしまうんですよ、それは「グレートレース」、「地上最大の脱出作戦」を観れば一目瞭然。(そこが、B・ワイルダーとの差)
 彼が「THE END」までコメディのクオリティを保った作品は少なく、最後まで持続できた貴重な一つが本作、その代わり、瞬発力を捨てイーブンペースで速力を維持した、そんな感じ。
 このコメディ作品の成功はツッコミにT・カーティスを持ってきて女優相手のボケ役を得意としていたグラントに男相手のボケ役を演らせた事にあると思います。(女優相手なら彼の愛嬌が強力な武器になるけど男相手じゃ渋面作るしかない(笑))。

 B・エドワーズ監督のコメディ部門、破壊力だけなら「地上最大の脱出作戦」、作品の質なら本作が僕のNo.1。(3番目は皆の評価の低い「ピンクの豹」かな、3番目はこれも大昔、TVで見ただけだから何とも言えない)
 太平洋戦域とは言えヘンな日本機(テキサン?)と東京ローズ(声のみ)くらいしか出てこなくて、取り敢えずの日本印みたいなもんだから、日本人が観ても特段、差し障りはないと思います。
 今から観れば大変緩いコメディだけど、僕は楽しく観終えました。

※「ティファニーで朝食を」のヒロインは、やはり皆が言うようにM・モンローが適役、若しくはシャーリー・マックレーン、但し、映画が今のように残ったかは予測不能。
※不調のエンジン音、艦名に合わせて虎を使ってるんだとか、確かに聞き直してみたら、ありゃ虎だわ、イビキも使ってる。(笑)
※この監督のもう一つの戦争コメディ「地上最大の脱出作戦」でも死者は1名(撃ち合いでなく住民による毒殺)、こちらは空襲、誤爆もあるけど死人無し(多分)、気楽に観られる作品です。
※懐かしのTVドラマ「奥様は魔女」の二代目ダーリンが乗ってました。(笑)

 H30.11.11 
 DVD
 

「今夜、ロマンス劇場で」

2018-11-04 21:49:48 | 邦画
 「今夜、ロマンス劇場で」(2018年、日本)
   監督 武内英樹
   脚本 宇山佳佑
   撮影 山本英夫
   音楽 住友紀人
   出演 綾瀬はるか
      坂口健太郎
      本田翼
      柄本明  加藤剛

 あらすじは予告編で  https://www.youtube.com/watch?v=KeZYFeVWbtM 

 実に厨二病を拗らせた作品、しかし、「カメラを止めるな!」と同じく映画愛に溢れ、盛大にロマンティックな純愛映画。
 冒頭の「ローマの休日」、「オズの魔法使い」、「三銃士」のつるべ打ちから始まり「おとうと」、「ニュー・シネマ・パラダイス」、「タイタニック」で終わる、様々な映画のエッセンスやシーン、パロディの塊(音楽まで綾瀬はるかのTBSドラマ「JIN」に似てる)のような映画だけど観終わると意外と芯はしっかり、真っ直ぐな作品でした。
 集約すれば「カイロの紫のバラ」の男女逆転版というような映画で、日本版「カイロの紫のバラ」で「蒲田行進曲」要素入り。

 おっそろしく微妙なバランスの上に立ってる作品、ヒロインの綾瀬はるかも思いっきり下手に見えるんだけど肝心な所はちゃんと見れるのだから演技も演出も狙いどうりなのでしよう。昭和初期の人物が平成言葉で通したのは最後まで違和感あったけど。(笑〜これは、ヒロインをA・ヘップバーンに似せてるから余計に)
 始めチョロチョロ、中ハッパ、時間が来るまでドドンドン、そんな感じでした、何だか知らないけど今年一番泣いたような気がする。(歳のせいで涙腺緩みっぱなしだけど、ここ半年、余り泣いた記憶はない※「湯を沸かすほどの熱い愛」が有った、でも、あれは全力で泣かしにくる作品だし)

 しかし、この監督、A・ヘップバーン大好きでこんな妄想してたんだろうか。(笑)
 かなりロマンティックだから観る人選ぶかもしれないけど、映画好きでロマンティックが好きな人には大推薦したい映画てした。

※最初、三谷幸喜風に始まって「ザ・マジックアワー」の悪寒が蘇ったけど、「ザ・マジックアワー」の上位転換とでも言うような作品でした、狙いが違ってるので同じ土俵じゃないけど、この作品の方が個人的には断然良かった。(DVD買っちゃいそう)
※何の偶然か昨日が樹木希林さんの遺作で今日は加藤剛さんの遺作、合掌。
 この、あり得ないような成り行きにリアリティを少しでも付けられたのは加藤剛さんのキャラクターに負う所が大きい。(加藤剛さんは、スターはウ◯コしないって幻想を体現出来る希少な人だから)
※昨日の黒木華、「着物、何枚持ってんだ!」、今日の綾瀬はるかのお召替え、ファンタジーだから映画の嘘でOK(笑)。
※追記 綾瀬はるかの喋り方、中盤で「この言い方、何処かで」と思って「あれ」かと思い出したけど、そのまま。
 朝になってツラツラ考えてみたら、やっぱり黒澤監督の「隠し砦の三悪人」のパロディなんでしょうね、「隠し砦の〜」は、ある意味、黒澤版「ローマの休日」だし(恋愛要素ゼロですが)、ヒロインの名前は「雪姫」、本作のヒロインは作中、名前が出てこなかったけど(最初の方で「王女の美雪だ」と言ってた(汗))、wik見たら「美雪」だと。(笑)


  時来たり 夜空の月も 満ち足りて
   君へ駆けゆく 足ぞ軽けき

    ↑未見の方は「タイタニック」のラストシーンを思い出して下さい。

 H30.11.4
 DVD

「日日是好日」 

2018-11-03 23:57:50 | 映画日記/映画雑記
 「日日是好日」(2018年、日本)
   監督 大森立嗣
   脚本 大森立嗣
   原作 森下典子 「日日是好日-「お茶」が教えてくれた15のしあわせ-」
   撮影 槇憲治
   美術 原田満生 堀明元紀
   衣装 宮本まさ江
   音楽 世武裕子
   出演 黒木華
      樹木希林
      多部未華子 
      鶴見辰吾
      
  予告編 https://www.youtube.com/watch?v=NTpltHFcjis 

 このタイトル名を見ると学生時代に流行ってた揶揄をどうしても思い出してしまう、「親身の集金、日日(ひび)是決算 代々木ゼニナール」(元は代ゼミの当時のキャッチフレーズ「親身の指導 日日是決戦」)
 この作品のタイトル読みは正しい読み方の「にちにちこれこうじつ」

 作品は、目標もなく何となく生きて就職期を迎えた典子が、ひょんな事から茶道教室へ通いだし、教室に掲げられてる「日日是好日」の意味を茶道を通して気付く迄、その成長の四半世紀を描いていきます。
 そこに描かれているのは茶道の深さと、それ故の面白さ美しさ。
 茶道のハウツー映画と言ってしまえば身も蓋もないけど、「日日是好日」、「一期一会」を具現化しようと考えぬいてるのは判ります。
 只、その意余って「日本の美」を意識しすぎてる気はしました、国際映画祭狙いみたく強調しすぎなんだなぁ、もう少しサラッと描いてよかったんじゃないかと。
 それと、この監督、終盤に余計なシーンを入れ込むのは癖?「さよなら渓谷」でも余計を感じたけど、この作品の父とのイメージシーン要るのかなぁ、真木よう子とか黒木華のような実力派を使ってるんだから演技で「それ」を感じさせるのが正攻法だし演出の工夫からも逃げてる気がする。(あのシーン、僕の目が歪んでるんだろうけど黒木華の演技も戸惑ってる感じがした)

 元がエッセイ集の為か、それほど人物造形に深みはなくドラマ性は薄い、意図的に親兄弟以外男を出さず女だけの世界で主人公の「移り変わりと変わらないもの」を描き、それを茶道とシンクロさせるのが本作(原作)の狙いなのでしょう。
 そんな抽象的世界を具現化させ、観客の興味を持続させてるのが樹木希林、黒木華、多部未華子の三人。
 多部さんは黒木さんと対比させるのが目的の存在だから、ちょっと貧乏クジで霞むのは仕方ない、黒木華は今回も実力を発揮してるとは思います(彼女の日本人顔と和服の相性が良く、和室や四季に映え美しい)、でも、やはり、この作品は樹木希林でしょう。
 強くてたおやかで飄逸、凛とした女性を見事に演じています、実際、樹木希林さんの遺作となってしまったけど、この作品の主題「一期一会」を自らの生命をもって表現してるようでした。

 自然を敬い、畏れ、そんな自然を愛でながら自然と同化していく、「日本の美学」の根底にあるものに触れようとする意欲作だと僕は思いました。

※黒木華と多部未華子、並ぶとホント和と洋。
※衣装持ちやね。(笑)

  たおやめの ありし日偲ぶ 秋日和

 H30.11.3
 銀座シネスイッチ