セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「ダウンタウン物語」

2011-10-28 22:57:26 | 外国映画
 昔観て、面白いと記録してあった映画を、2本続けて見直してみました。
 「サイレント・ムービー」と「ダウンタウン物語」です。
 まず最初に見た「サイレント・ムービー」、これが、全然面白くない。(笑)
 何で、これに高い評価を与えていたのか、当時の空気に釣られたんで
しょうかね、全く理解出来ません(1年前、「ヤング・フランケンシュタイン」
を見直した時も、それ程、面白くなかった前科アリ)。
 そして、もう1本が。

 「ダウンタウン物語」(原題「Bagsy Malone」 1976年・英)
   監督アラン・パーカー 出演スコット・バイオ、フローリー・ダガー、ジ
    ョディ・フォスター 音楽ポール・ウィリアムス、ロジャー・ケラウェイ

 こちらは、今、見ても断然面白いと言うか、昔、観た時よりも面白かった。
 1920年代の禁酒法の時代、ニューヨークの暗黒街を舞台にファット・
サム一派と新興のダンディ・ダン一派が縄張りを争い、それに巻き込まれ
たチンピラ男とハリウッド女優を夢見る女。
 まるでJ・キャグニーかH・ボカートが出てくるような雰囲気なんですが、
そんな雰囲気の中、出てくるのは平均年齢13歳位の子供ばかり(※)、お
まけにミュージカル仕立て。
 今回、昔、観た時より良く感じた原因の一つは、このミュージカル・ナン
バーにあると思います。
 ジャズ系の曲なんですが、どれもハズレが無く完成度が高い。
 1.バグジー・マローン  
   「Bagsy Malone」
 2.太っちょサムの満塁亭(もぐり酒場) 
   「Fat Sam‘s Grand Slam」(「Speak Easy」)
 3.明日を夢見て    
   「Tomorrow」
 4.悪人ども       
   「Bad Gays」
 5.アイム・フィーリング・ファイン
   「I‘m Feeling Fine」
 6.私の名前はタルーラ  
   「My Name Is Tallulah」
 7.未来のチャンピオン・ボクサー
   「So You Wanna Be a Boxer?」
 8.愚かな私       
   「Ordinary Fool」
 9.貧民救済所の新米ギャング
   「Dawn And Out」
 10.友情はいいもんだ(「Bad Gays」と同じメロディ)
   「You Give a Little Love」
 「Ordinary Fool」はスタンダードにまでなってるようですが、僕は今の
所、「Fat Sam‘s Grand Slam」、「Tomorrow」、「My Name Is 
Tallulah」がお気に入り。
 僕、1970年代はミュージカル不毛の時代だと思ってたのですが、良い
作品を発見した気分です。

 この映画が子供達の「学芸会」にならなかったのは、キャスト・スタッフ
全員が真面目に正攻法で作ってるからだと思います。
 子供達は真剣に大人のフリをして演じてるし、スタッフも役者が「子供」
という感じを微塵も感じさせない。
 立派なセットは子供達の背丈に合わせて作ってあるし、服は勿論、帽
子も子供に合うように作ってる、そこに素晴らしい音楽、達者な演技、決
して奇をてらわない演出(ネタで充分、奇をてらってますけど)、そこが一
級の作品と呼べる原因になってるんだと思います。

 初見の時、率直に感じた「向こうの子役達はトンデモナク達者だ」とい
うのは、今回も再認識しました。
 バック・ダンサー達のチャールストン風の踊り、一部振りがズレたりラ
インが乱れたりしますけど、凄い出来です。
 「Tomorrow」で女の子がソロで踊るシーンも、流れるような滑らかさ
が本当に秀逸。
 この映画の子供達って、殆んど皆、無名なんですよね。

 そんな、無名の子供達に混じって、一人だけビッグ・ネームが居ます。
 ジョディ・フォスター。
 彼女が「タクシー・ドライバー」の次に選んだ仕事が、この作品。役は暗
黒街のボス「ファット・サム(太っちょサム)」の愛人で、酒場の歌姫。
 クランク・インした時は、まだ13歳だったとか・・・。
 でもジョディ、ビック・ネームなのに、この作品のクレジットは3番目、主
役じゃありません。
 主役じゃないんだけど、ジョディが出てくると他を圧倒してしまう存在感
(笑)。
 特に彼女の一番の見せ場、「My Name Is Tallulah」を歌う(吹き
替え)シーンの妖艶さと貫禄は圧巻で、一見の価値有りです。
 そう言えば、クライマックスのシーンで「決め台詞」を言ったのも彼女で
した。
 顔をクリームだらけにしながら、カメラを見下ろし一言、
 「So、This is show business」
 そんなジョディに、かろうじて対抗できてたのはサム役のJ・カッシージ
くらいかもしれません。
 ヒロイン、ブラウジー・ブラウンを演じたF・ダガーは、ジョディのコーラス
という設定上の不利も有って、二人並ぶと、どっちが主役か解らない、少
し可哀そうでした。
 でも、F・ダガー、決して下手な演技はしてません、上手いですよ、只、目
立つ順番が2番か3番目になっちゃっただけなんです。
 そんなF・ダガーより、尚、影が薄かったのが主役バグジー・マローン役
のS・バイオ、C・ゲーブルの線を狙ったのかもしれませんが、ちょっと線
が細い感じが否めませんでした。(後半は良くなってます)

 歌あり、恋あり、笑いあり、おまけにドンパチまで有ってサービス精神に
満ち溢れてる作品、一級の娯楽作品です。
 A・ヘップバーンの「ローマの休日」と同じく、誰が見ても楽しめると思い
ます。


(※)この作品の子供達の年齢については、幾つかの説があります。
   ・平均年齢12歳説
   ・平均年齢13歳説
   ・最高年齢13歳説(ジョディは撮影期間中に14歳を迎えた)、等々。
   僕が見た印象では「平均年齢13歳」説を採ります。
・子供時代の男は、女に絶対勝てませんね。 
 「女の子」は化粧と衣装で5才は上へ行くんだけど、男は、どう足掻いて
も、ていのイイ「七五三」ですもん。
 
☆ミュージカル・ナンバーを幾つか。
 ・「Fat Sam‘s Grand Slam」(「Speak Easy」)
    http://www.youtube.com/watch?v=hNfB58oBjA0
 ・「Tomorrow」
    http://www.youtube.com/watch?v=tc8JnQjSCjQ&feature=related
 ・「My Name Is Tallulah」
  (♪天国に居るより気持ちよくしてあげる ノース・カロライナで磨いたテクよ♪だと)
    http://www.youtube.com/watch?v=_tKdAu7Fnao&feature=related 
 



 

「サイダーハウス・ルール」

2011-10-17 22:56:02 | 外国映画
 1年位前から、ほんのポツポツと又、映画を観出しています。
 そんな時、「これ、いいから」と薦められて見たのがL・ハルストレム監督の
「マイ・ライフ・アズ・ア・ドック」
 これが中々良かったので、涼しくなった今頃になり、この監督の映画を追
いかけてみました。
 「ギルバート・グレイプ」、「HACHI 約束の犬」、そして「サイダーハウス・ル
ール」

 「故郷」、「自分の居場所」と言えばいいのかもしれないけど、この監督の感
覚に僕が一番ピッタリな言葉は「Homeland」。
 ハルストレム監督の映画にはHomelandが空気のように、いつも纏わり付
いてるようです。
 「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」は主人公が新しいHomelandを見つける話。
 「ギルバート・グレイプ」は、自分の新しい人生を生きる為にHomelandを
出て行く話。
 そして「サイダーハウス・ルール」は、束縛された故郷を出て、大人になり・・・。

 「サイダーハウス・ルール」(1999年・米)監督ラッセ・ハルストレム 出演ト
   ビー・マグワイヤー、シャーリーズ・セロン、マイケル・ケイン

 1943年アメリカ、セント・クラウズにある孤児院兼産科医院では、成長した
孤児ホーマー(T・マグワイヤー )が院長先生(M・ケイン)の助手をしながら
生活していた。
 自分の主義と違い「堕胎」を行う院長先生の元を離れ、まだ見ぬ外の世界
を知りたくなる。
 そんな時、若いカップルが「堕胎」をしに孤児院へやって来た、数日後、ホ
ーマーは退院する二人にくっ付いて孤児院を出て行く、落ち着き先は男の親
が経営してる果樹園。
 果樹園の住み込み小屋(サイダーハウス)に暮らしながら、毎日を新しい冒
険のように感じるホーマー、そして、少しずつ外の、理想と違う現実の世界を
知り成長していく・・・。

 この監督、人が生活していく上で起こりそうな小さな起伏や少し大きな起伏
を上手く繋ぎ合わせてドラマにし、それを淡々と優しく描いていくので好きなん
です。
 何か小津チックとでもいう感じ。
 派手な事、吃驚させるような事は全然ないのに、観てる者を惹きつけて離
さない強さがあります、きっと編集がとても上手いのでしょう、それに、いずれ
の作品も役者さん達の演技が自然で素晴らしい(「HACHI~」は除く)、特に
子供達を描かせたら天下一品ですね。
 この映画の子供達も、ただそこに居るんじゃなくて、みんな、そこで生きて生
活してるリアルさがありました。
 そして、ちょっとワンパターン気味ではあるけど音楽の使い方が上手い(これ
も「HACHI~」を除きます)、この作品では珍しく「対位法」も使っていますね。
 昔々、20代の頃、小津作品が苦手で完全な黒澤派だったんですけど、こう
いうテンポの映画がしっくりくるんだから、そろそろ小津さんの作品を見直して
みようかな、そんな気にさせられました。
 今のところ、ハルストレム監督の4作品の中では、この作品が最高に良くて、
ここ1年の間に新しく観た映画の中でも、これが№1だと思っています。


・全然異質ではあるけど、話の流れは「ローマの休日」に少し似ていなくもない。
 もっとも、こちらは王女様ではないので素敵なアドベンチュラルという訳には
 いかず、一歩外へ出れば「喰っていかなきゃ」ならないんですけどね。(笑)
・役者達ではM・ケインがいいですね、若い頃のケインって、むき出しの才能と
 いう感じで、僕は何か馴染めなかったのですが、枯れた歳になって、いい味
 を出すようになった気がします。




「シャレード」

2011-10-02 17:46:03 | 外国映画
 オードリー・ヘップバーン。
 レビューの余談の項で少し辛辣な事も書きましたが、僕、ヘップバーン
のファンですよ、大ファンと言ってもいいくらい。
 でも、J・フォンダやJ・ビセットなら、ポスターを壁に貼ってという感じだ
けど、ヘップバーンの場合、壁なんてトンデモナイ、御写真を額に入れて
高いところに掲げなければ畏れ多いという感じ。(笑)

 「シャレード」(1963年・米)監督・スタンリー・ドーネン、出演・オードリー・
    ヘップバーン、ケーリー・グラント、ウォルター・マッソー、音楽・ヘン
    リー・マンシー二

 ミュージカルの名人S・ドーネンが、大好きなヒッチコックのタッチで作っ
たサスペンス・コメディの傑作。
 イギリス人のユーモア感覚と、アメリカ人のユーモア感覚の違いが良く
解ります。
 これが製作された裏側には幾つか業界のエピソードも有るようですが、
別に知らなくてもいい事ばかり。
 ヘップバーンの生活費でホテル住まいが出来るのか?
 何でヘップバーンは出てくる度に、衣装が変わるのか?
 こんな展開で警察が黙ってる訳がないとか?
 そんな事に、いちいち目くじら立てる人は、この映画には縁無き衆生。
 「トリックが、ありきたり」と自慢げに仰る方には、「はあ、そうですか」
 これは、サスペンスフルな世界で繰り広げられるヘップバーンとグラント
の小粋なユーモア、マッソー、コバーン、ケネディ他、出演者達の存在感
をお洒落に楽しむ映画(誤解してる人が多いのですが、3人はこの後、
大スターになった)です。
 だけど、サスペンスもトリックも、僕はヒッチコックに決して劣らないと思っ
てます、ヒッチ・タッチの最高傑作。

 バカンスから一人パリのアパルトマンへ戻って来たヘップバーン、ドアを
開け中へ入って吃驚、家財道具は全て無くなり空家同然。
 追い討ちを駆けるように、離婚しようとしてた夫が殺されてる事が判明、
そんなヘプバーンの前に、ボディーガードを買って出る知り合ったばかりの
男、更に正体不明の3人の男達が現れる。
 アメリカ大使館に呼び出され、バーソロミューという男から聞かされた話
は、「戦争中、アメリカの軍用金25万$をドサクサに紛れて横領した5人
組がいる、その内ダイルという男が死んで残りは4人、貴女の死んだ旦那
は、その1人で、どうやら、その金を独り占めして逃げる所を殺された、で
も、肝心な25万$は見つからなかったらしい、連中は貴女が持ってると思
ってる、気をつけなさい」というもの。
 25万$の行方と、殺人犯は誰なのか。
 誰も信じられない展開。

 ヘプバーンを中心に、グラント、J・コバーン、G・ケネディ、N・グラスが入
り乱れ、連続殺人という異常事態が進行していきます。
 そんな殺伐とした話なのに、監督のS・ドーネンはヘップバーンとグラント
の持ち味を最大限に生かし、ウィットに富んだ台詞とユーモアで、お洒落な
雰囲気を決して壊しません。
 演出、音楽、役者、演技、全てが程よく調和してるからこそ出来る芸当。
 個人的な事ですが、この作品は僕にとって正真正銘のマスター・ピースの
一つなんです。
 
 オシャレな世界と対極の所に居る僕ですが、この映画、とにかく「お洒落」
要素に溢れています。
 ジパンシィの衣装をさり気なく着こなすヘプバーン、相手は夢の工場ハリ
ウッドで「一番スーツが似合う男」と言われたグラント、甘い旋律を書かせた
ら「右に出るものなし」のH・マンシー二の音楽、そして、舞台は「花の都パリ」
ですもん。(笑)。
 一人で観ても、カップルで観ても、家族で観ても楽しめる、最高の娯楽映
画だと思います。


※ヘプバーンが亡くなった時、日本のニュースでは「ローマの休日」の画像
 が使われ、アメリカでは「シャレード」の画像が使われたそうです。「清楚・
 清純」が重宝される日本と「大人の女」が好きなアメリカ人の違いが出て
 います、彼女にとって、この2作が最大公約数の代表作なんだと思います。
※ヘプバーンが長期リタイヤする以前(「ローマの休日」~「暗くなるまで待っ
 て」)の作品群の中で、大ヒット作と通常のヒット作を分けると、面白い特徴
 があります。
 それは、相手役が彼女と同世代だと余り成績が良くないんです。
 例外は「ティファニーで朝食を」と「暗くなるまで待って」くらいでしょうか。
 でも、前者は音楽が大ヒットしたお陰、現在、音楽とジバンシィの衣装が語
 られる事はあっても映画の内容に関して語られる事が殆んど無いのを見
 ても、その辺は感覚的に理解できると思います。
 「後者」は脚本が良かった、他に、もう一点理由があるのですが、それは
 最後に書きます。
 「ローマの休日」、「昼下がりの情事」、「シャレード」、「マイ・フェア・レディ」、
 相手役は、それぞれG・ペッグ、G・クーパー、C・グラント、R・ハリソン。
 これら大ヒットした作品に共通するのは、相手役が異常な程に年上な事。
 生身の人間に対して「妖精」と呼ぶのは余り好きじゃないのですが、彼女
 の場合、相手役が同世代に近づく程ダメ、多分、リアルなSEXを感じさせ
 る年頃の男はダメなんですね、潜在意識の辺りで観客が拒絶反応を起こ
 しちゃう。
 年が離れて、男と女の形だけになった「お伽話」の世界まで行くと、A・ヘプ
 バーンという女優さんは「この世の人間」とは思えないくらい輝き出し、現実
 の世界にも、こんな「お伽話」が有ったっていいじゃないかと思わせてしまう
 稀有な存在、だから、やっぱり「妖精」としか言いようがないのかも知れませ
 ん。
 最後に「暗くなるまで~」ですが、つまり、あの時は、もう「妖精」という歳で
 もなくなり、神秘性が薄れてしまったので同世代の男でも拒絶反応が起き
 にくくなったんだと思います。