セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「あなたの名前を呼べたなら」

2020-09-28 14:11:57 | 映画感想
 「あなたの名前を呼べたなら」(「Sir」、2018年、印・仏)
   監督 ロヘナ・ゲラ
   脚本 ロヘナ・ゲラ
   撮影 ドミニク・コラン
   音楽 ピエール・アヴィア
   出演 ティロタマ・ショーム
      ヴィヴェーク・ゴーンバル
      ギータンジャリ・クルカルニー

 インドとフランスがくっ付くとラストがぶった切りになる。(笑)
 「めぐり逢わせのお弁当」('13)も相当なもんだったけど(でも、ある程度、先の予測はつく)、こちらはもっと凄い、まぁ、あそこで終わるのは充分アリなんだけどね。

 先がないのを知りながら婚家に隠され持参金なしの一見好条件で結婚、僅か4ヶ月で10代の未亡人となり、今度は口減らしのため都会に働きに出る。大手建設会社の御曹司のメイドとして働きながら生家の妹の為仕送りの日々、そんなラトナの夢はデザイナーになる事だった・・・。

   予告篇 https://www.youtube.com/watch?v=RVtt_x5BRHM

 「玉の輿」か「自立」か。
 アジア的には「玉の輿」解釈かもしれないけど、フランス資本が入ってるし、僕は旦那様の愛するが故の置き土産で「自立」だと思う、何となく「世界一キライなあなたに」('16)で御曹司が臨時ヘルパーのルー(E・クラーク)にチャンスを遺していったのと同じ感じがします、彼女もデザイナー志望じゃなかったっけ。(笑)
 カーストのないアメリカで二人が結ばれる「玉の輿」コースは作品のトーンと微妙に違う気がするし、カーストが骨の髄まで染み込んでるラトナの性格で二人がやっていけるのか疑問、友人が言うように親族の問題もある、大体、(カーストの)上の者が下の者に気遣いは出来ても実際を知る事は出来ないと思う、男と女の間の理解が想像でしかないように。

 公式には廃止されたという「カースト制」、しかし、今も厳然と存在しインド人の生活を縛っています、生まれた階層で仕事の上限も年収もほぼ決まってしまう、テーブルの上を拭く人と床を拭く人さえカーストが違う国、映画「きっと、うまくいく」で落第→自殺が何度か出てくるのもITエンジニアと医者が数少ないカースト除外職種だからで、低カースト者が縋る蜘蛛の糸なんです、その為に親戚中からお金を借りて成功へ突き進むけど落第すれば借金と低カーストの中で一生を過ごす人生が待ってる、日本の落第とはまるで意味が違うのです。

 そんなカーストの越えられない厚い壁を心理的に描いた作品だと思います。

※旦那様役の人(ヴィヴェーク・ゴーンバル)、インドのアンソニー・パーキンス(ジェームズ・スペイダーにも似てる)。
※日本でインド人を雇用、掲示板に新入社員としてフルネームを張り出すと人事課にクレーム(泣き)が入る、同じインド人が見ると名前(フルネーム)で所属するカーストが解るらしい。
※インド資本が入っててインドが舞台、演じるのもインド人なのに99分。(笑)

 R2.9.27
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「プレーム兄貴、王になる」

2020-09-22 10:28:06 | 外国映画
 「プレーム兄貴、王になる」(「Prem Ratan Dhan Payo」、2015年、印)
   監督 スーラジ・バルジャーティヤ
   脚本 スーラジ・バルジャーティヤ  アアッシュ・カラン・アタル
   撮影 アアッシュ・カラン・アタル
   音楽 サンジョイ・チョードリー  ヒメーシュ・レーシャミヤー
   出演 サルマン・カーン
      ソーナム・カプール
      アヌパム・カー
      ニール・ニティン・ムケーシュ  
      ディーパク・ドブリヤル

 プリータムプル王国王太子ヴィジャイは王位継承式を数日後に控えていた、許婚であるマイティリ王女も参列する予定、その王女の大ファンである下町の役者プレーム兄貴。
 厳格で傲慢な所のある王太子ヴィジャイと気のいいプレームは瓜二つで、王太子は何者かに狙われ事故で重体、即位式は迫る・・・。(笑)

   予告編 https://www.youtube.com/watch?v=BwGBi-ebRzI

 ・マサラ映画が好きな人 ・インド美人を堪能したい方 大推薦!(笑)
 個人的に「ローマの休日」のアン王女の次に魅力的な王女さまに出会えた。ソーナム・カプール演じるマイティリ王女、本当にキュートな王女さまでした。
 「パッドマン〜5億人の女性を救った男」でその知的な魅力と美貌に出会い、「SANJU/サンジュ」での無駄な使われ方に怒り心頭となったけど、今回で膨大なオツリが来た、それくらい彼女の大人でキュートな魅力が全開になってる、これこそ眼福。
 そして、僕にとって「恋する輪廻〜オーム・シャンティ・オーム」に次ぐ大好きなマサラ映画になりました。(マサラだから歌と踊りのテンコ盛り、そこは覚悟してね)

 本作は「ゼンダ城の虜」をヒントに作られたとか、王家の絡むライトコメディだと、おおよそ、「ローマの休日」のような貴種流離譚か、「王子と乞食」に代表される取り替えばや物語になるのだけど、これは、二つを上手にミックスさせてる、大元は王太子ヴィジャイと下町役者プレーム(ヒンディ語で「愛」らしい)の「とりかえばや」で、そこへ王女マイティリが知らずに一般人プレームと過ごすことで本当の愛を知っていくという流離譚が塩梅よく組み込まれています。
 マサラ映画としては「恋する〜」より歌の魅力度、作品の完成度で及ばない、しかし、民族衣装での煌びやかなダンスの美しさは素晴らしいの一言。
 悪のラスボスがオマケかと言うほど薄っぺらいのは難点ですが、そこを除けばとても素敵なインドのお伽話、僕はこういうの大好きです(汗)

・王様軍(男性軍)vs王妃軍(女性軍)のサッカーシーン、全然、サッカーしてないじゃないかと言うけど、あれはダンスでサッカーを面白可笑しく表現したもの、「「ウェスト・サイド物語」のOPで、ジェット団とシャーク団の喧嘩をバレエのようなダンスで表現したのと同じ。
・前日に「ホテル・ムンバイ」観てたので一番目立つ脇役の料理長さんが、こちらでは一番の重臣 宰相を演じてて可笑しかった、他に「バジユランギおじさんと、小さな迷子」で恋人ラスカー(カリーナ・カプール)の父親がこちらでは劇団の団長、もう一人顔知ってるチョイ役の人が最初の方に出てた。
・「恋する〜」にゲスト出演し、その後何かあってキング・オブ・ボリウッドと呼ばれるシャー・ルク・カーンと犬猿の仲になったサルマン・カーン、意趣返しと思われるシーンがありました、冒頭の辺り、劇場で茶々を入れプレームに引き摺り回され許しを乞う客二人の一人がシャー・ルクに服装込みで似ています、また、マイティリ王女の大看板を見上げてるシーンは「恋する〜」のドリーミー・ガールのパロディと言えるし、犯人がシャンデリアでというのも同じ、、定番とは言え凸凹コンビで他にも思い出せないけどもう一つ有った(汗)。そもそも、身分違いのヒロインの大ファンで彼女の為に粉骨砕身って、モロに「恋する輪廻」
・おばば様(皇太后?)が孫娘を「贈りもの」と表現する事に引っ掛かる女性もいるでしょう、まぁ、男尊女卑の強いインドとはいえ現代の表現としてマズいけど、日本でもまだ残ってる「嫁に出す」、「嫁にやる」と似たようなもんだと、ご容赦頂けたらと。

 R2.9.21
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「グリーンブック」

2020-09-14 13:21:04 | 映画感想
 「グリーンブック」(「Green Book」、2018年、米)
   監督 ピーター・ファレリー
   脚本 ニック・ヴァレロンガ  ブライアン・ヘインズ・カリー
      ピーター・ファレリー
   撮影 ショーン・ポーター
   音楽 クリス・ハワーズ
   出演 ヴィゴ・モーテンセン
      マハーシャラ・アリ
      リンダ・カーデリーニ

 1962年、J・F・ケネディ政権下、公民権運動がピークに向かっていく頃、ジム・クロウ法による黒人差別が当然の権利として行われてるアメリカ南部へ著名な黒人ピアノ奏者ドン・シャーリーがツアーに旅立つ、その運転手兼ボディガードとしてイタリア系白人のトニー・リップを彼は雇った・・・。

  予告編 https://www.youtube.com/watch?v=eJ-4zk7WRu8

 この作品に「黒人差別に対する白人救世主」という既視感があるのは確かだけど、あの時代、特にアメリカ南部で戦争以外に「白人と黒人の連帯」など殆ど有り得ないので、タイプで文句は付けられないと僕は思う。(白人にしたってアメリカのヒエラルキーでは下層のイタリア系だし)
 それよりも韓国の「タクシー運転手〜約束は海を越えて」と同じく政治的アピールを凄く感じる、「タクシー運転手〜」が現政権への「おもねり」、「ご機嫌取り」なら、こちらはトランプに対する民主党の牙城ハリウッドの反感でしょう、アカデミー賞に選ばれたのも多分に政治的なものが含まれてる(昔から政治的スタンスというのがアカデミー賞の選考基準には有ったけど、最近は「酷い」というレベルまで来てしまってる)、権威ある賞を政治の道具にして欲しくないとミーハーな僕は甘く考えてしまいます。

 クレームばかり書きましたが映画は面白かったです(映画って、観た人が面白いと感じれば勝ちだよね)、「手錠のままの脱獄」('58 スタンリー・クレイマー監督)から有るような白人と黒人の友情発芽物語だけど、定番だからこその安定と楽しさがしっかりとある。
 ドンがアラバマでの騒動の後、「オレンジ・バード」で解放されたように楽しんでピアノを弾くシーン、トニーの重戦車のような頼もしさと愛妻への手紙で苦闘する優しさ、刺身のツマみたいな扱いだったけどトニーの奥さんの親しみやすい可愛さとラストの台詞の良さ。
 差別問題を扱いながらエンタティメントとの調和が取れていて、とても見やすい作品でした。

※出演者たちを平等に人種へ割り振る、反レイシズムという正義が彼らの大切な「表現の自由」という正義を束縛していく。イデオロギーが作品を制約したソビエトの映画は一部の例外を除きロクなものがなかった、市場がバカでかいから衰退はしないかもしれないが教条主義、啓蒙主義がまぶされた面白くもない作品が増えるのだろう、そして、それを仲間内で褒め称え陶酔してる嫌な世界が見える。(「ポギーとベス」、どうすんのかね)

 R2.9.13
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