セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「ジェレミー」

2012-03-31 00:16:30 | 外国映画
 「ジェレミー」(1973年・米)
   監督 アーサー・バロン
   出演 ロビー・ベンソン
       グリニス・オコーナー
       レオナルド・チミノ

 最近は余り流行らないようだけど、昔はよく有った「初恋物語」です。
 少数意見は承知なのですが、結構、名作だと思っています。
 「初恋映画」は何が良いか?と聞かれたら、僕の答えは、この作品と「ロ
ミオとジュリエット」(1968年版、ロミオは初恋じゃないけど)。
 始まりも展開も結末も「ありきたり」ですが、とてもとてもピュアな作品。
 ジェレミー役のR・ベンソン、スーザン役のG・オコーナーが共に自然体で
演技臭くなく、本当に何処の学校にも居そうな感じで感情移入しやすい。
 特に、G・オコーナーは表情を作るのが凄く上手いんです、とても新人とは
思えません。
 一番最後のスーザンの顔の表情なんて見事としか言いようがありません
でした。
 R・ベンソンも、本当は結構ハンサム・ボーイなんだろうけど、髪型をダサ
くして瓶底眼鏡を掛け、モサッとして内気で、とてもモテそうにない男の子に
なりきっています。
 このモテそうもない文系男子が、可愛い女の子と恋人同士になれた(女の
子の方も、飛び切りの美人じゃなくて、身近に居そうな可愛い子という設定
がいいんです)という事で、自分に自信を持てない世の文系男子が、どれだ
け励まされたか。
 もっとも、ジェレミーは風采はイマイチでも、チェロの腕は学校一番って取
柄があるのを、皆、忘れてるんだけど。(笑)

 NYの芸術学校に通うジェレミーは15才、将来、一流のチェリストになろう
と頑張っている内気な男の子。
 或る日、偶然、デトロイトから同じ学校に転校して来た、一つ年上のスー
ザンを見掛けて一目惚れしてしまう。
 シャイで奥手のジェレミーは、親友にケツを蹴っ飛ばされながら何とか切っ
掛けを掴もうとするのだけど、どうしても一歩が踏み出せない。
 そんな時、校内で演奏会が行われ・・・。
 映画の前半はスローテンポ、中盤から徐々にスピード・アップしてきて、終
盤は怒涛の展開。

 この映画で一番良いのは、ジェレミーの、どうしようもない程の初恋のぎこ
ちなさ、必死さを実に自然に描けている所。
 初恋ドキュメンタリーと言ってもいいくらい。
 モテ男じゃない普通の方なら、きっと胸に覚えのある事をジェレミーが一つ
一つ、一生懸命、真面目にやっていくんです。
 初めての電話で何を話せばいいのか?
 もう、それは必死に悩む、殆んど命懸け。
 可笑しいんだけど、激しく同意してしまうんですよね、僕は。
 まあ、大概はジェレミーみたいに上手くいかないんだろうけど。
 
 そして、この映画、音楽が凄く耳に馴染んで記憶に残る。
 主題歌はR・ベンソンが歌う「The Hourglass Song(Blue Balloon~哀しみ
のジェレミー)」、ちょっと日本のニューミュージック的発声の仕方なんだけど、
下手ウマというか、歌まで一生懸命さが伝わってきて引き付けます。
 間奏のストリングスも綺麗でピュアな二人の「初恋」にピッタリ。
 もう一曲、G・オコーナーが歌う「Jeremy」
 このメロディも途中何回か流れてくるんですが、やはり、終盤、スーザンが
ジェレミーを想って歌う所が哀切極まりなくて忘れられません。
 ここ、対位法を使ってる為か余計に印象的で、又、G・オコーナーの声がR・
ベンソンに輪を掛けて素人っぽく、それがスーザンの静かな心の叫びにリア
リティを与えています。
 この2曲は今聞いても、恥ずかしいけれど目が少し潤みます。

 最後に、もう一つだけ。
 ジェレミーに言いたい。
 自分の少しオカシイかもしれない趣味に「ドン引き」せず、寄り添ってくれる
彼女が居るってのは、最高に幸せな事なんだぞ。
 せっかく出来た彼女を競馬場で失くさなくて良かったな。
 何て運のいい奴だ!(笑)

 「ジェレミー」OPと「The Hourglass Song」
 http://www.youtube.com/watch?v=mKkiJ5knF7k&feature=related

※前回書いた「冒険者たち」が40代後半から60代の映画なら、この映画は
 もっと範囲が狭くて、現在48歳~56歳くらいの人達の映画。
 公開され各地を回り、名画座を巡ってTVで放映された頃、中学から高校生
 +1,2才だった人達に強く印象に残ってる映画で、それ以外の世代には殆
 んど知られていない作品、のような気がします。

 
 
 
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「冒険者たち」

2012-03-27 23:56:09 | 外国映画
 「冒険者たち」(1967年・仏)
   監督 ロベール・アンリコ
   音楽 フランソワ・ド・ルーべ
   出演 アラン・ドロン
       リノ・バンチュラ
       ジョアンナ・シムカス
       セルジュ・レジア二

 現在、40代半ばから60代の映画ファン、特に男達にとって一種のバイ
ブルとでも言うような作品。
 ロマンティズム、ファンタジー、ダンディズムを具現化した美しい抒情詩。
 秀逸な「青春へのレクイエム」
 だから、ちょっと感覚的な映画なのかもしれません、受け付けない人もい
ると思います。

 パリで、それぞれの夢の実現を目指す、パイロットのマヌー、カーエンジ
ニアのローラン、アーティストの卵レティシア、3人が織り成していく恋と友
情の物語。
 映画はトップ・クレジットが終わって10分程で3人の出会いと、それぞれ
の個性を手際良く的確に描いていきます。
 特に物語の最初の句点になる、ローランのレッカー車とレティシアを乗せ
たマヌーの複葉機が併走するシーンは、車と飛行機が、まるで飼い主にじ
ゃれ付く子犬のようで、実に楽しく美しい詩的なシーンになっています。
 やがて物語は、パリを離れ陽光煌くコンゴの青い海に、そして、フランス
西部ラ・ロシェルにあるボワイヤール砦へと・・・。
 
 この作品を成功させた主因は、アラン・ドロン、リノ・バンチュラ、ジョアン
ナ・シムカスの主役3人。
 この中の誰が欠けても、このような名作に仕上がらなかったと思います。
 そのなかでも、話の中心になるJ・シムカスは素晴らしく、清楚で端正な
顔立ちに秘めた強い意志と自我、大人の女を感じさせながらも遊び心に
溢れた少女っぽさが魅力的で、更に、スレンダーながらも、くびれたウエ
ストで抜群のスタイル。A・ドロンの美貌と野性に真っ向対抗出来るナチュ
ラルな美しさがありました。
 映画館の暗い世界で淋しい青春を送っていた野郎共にとって、J・シム
カス=レティシアは眩しすぎる永遠のマドンナになりました。
 そんなシムカスに負けず劣らず魅力的だったのがL・バンチュラ。
 中年に差し掛かろうとしてるオッサンではありますが、ドロン、シムカス
には無い人生の積み重ねによる渋さがあり、男の本当の格好良さを感じ
させます。この映画で、一番美味しい所を持ってちゃった人。
 A・ドロン、前半は天性の美貌、中盤はワイルドな野性味、終盤は陰りと
憂いを滲ませ切なさを感じさせる。
 これだけやっても3人の中で一番貧乏クジを引いた感じがしますが、A・
ドロンにとって、この作品は「太陽がいっぱい」と並ぶ代表作になったと思
います。
 最後のドロンとバンチュラの会話が有ってこその永遠の名作なのですか
ら。

 そして忘れてならないのが、フランソワ・ド・ルーべの音楽。
 主役3人に決して劣らない功労者。
 「レティシアのテーマ」における甘くも哀愁感溢れる口笛、ピアノ。
 クリスチャン・ルグランによるレクイエム「海底への葬列」の切な過ぎる
スキャット。
 映画「冒険者たち」は、ドロン、バンチュラ、シムカスとド・ルーべの音楽
で1セットの作品なんだと思っています。

 まるで数字のゼロを示すかのようなボワイヤール砦の空撮、青い海に
虚しく孤立する砦が徐々に小さくなっていく場面を観ていると、自分では
まるで大した事のなかった青春ではあるけれど、甘味で苦い青春の終わ
りを明確に感じさせてくれるのです。
 
 
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「カサブランカ」

2012-03-16 00:01:22 | 外国映画
         
 「カサブランカ」(1942年・米) 監督マイケル・カーティス 出演ハンフリ
        ー・ボガート、イングリりット・バーグマン、クロード・レインズ

 えぇ、今回はちょっと自分の「お宝」紹介(今では、「お宝」でも何でもない
んでしょうが、当時は、こういうの無かったんです)。
 「カサブランカ」は、もう、数えきれない人たちが説明しきってる作品です
し、今更、「here's looking at you,kid」が、どうたらと書くのも・・・、ねぇ。

 そんな訳で、僕が今から30年以上前に洋書屋で買って大切にしてる本、
Pan books Ltdから1974年に刊行された「The Film Classics Library
 CASABLANCA」を紹介しようと思います。
 この本は、フィルムから落とした?画像1,500枚を使って作ったもので、
写真の下に全ての台詞が(原語で)付いています、ページ数は256ページ。
 「おまけ」としてI・バーグマンへのインタビュー記事が4ページあります。
 まぁ、インタビューは英語赤点の常連組なので頭が痛くなるだけなんです
けどね。
 画質は使いすぎたフィルムから落とした為か、決してクリアなものではな
く、酷いのになると光と影が滲みまくりボヤケまくりで、辛うじて誰が映って
るのか解るというモノも多数あります。
 でも、まだDVDなど「この世」に無く、ビデオデッキが漸く出回り始めたあ
の頃には、この本、僕にとって本当に貴重なものでした。
 どこの名画座にも掛かっていない時、自分の部屋で寝っ転がりながら、
この本を最初から最後まで見ていくと何となく「カサブランカ」1本観た気に
させてくれるのですから。
 「君の瞳に乾杯!」の正体が「here's looking at you,kid」だって知ったのも、
この本のお陰でした。

         
 ilsa:Where is Rick?~
 Sam:Leave him alone.You`re bad luck to him. まで 
 (P92~P93)

         
 「ラインの守り」VS「ラ・マルセイエーズ」
 「♪Marchons,marchons!♪」の手前まで
 (P182~P183)

           
 左上、最初の写真が有名な
 Rick:We`ll always have a Paris.We didn`t have it, we`d lost it unitil you came to
    Casablanca. We got it back last night.
 右ページ、最初の写真の台詞は、ボギーが言う最後の、
 Rick:Now,now.Here`s looking at you,kid.
 (P236~P237)

 「カサブランカ」のI・バーグマンを見た時の衝撃。
 映画を見始めて3年目、「白い恐怖」は既に見ていたというのに・・・。
 僕の中では、今でも銀幕の美女BEST3の一人です。
 ちなみに、他のお二方は、グレース・ケリーとオードリー・ヘプバーン。


※「The Film Classics Library」シリーズには、他に「マルタの鷹」、
 「サイコ」などが有るようです。
※「As Time Goes By」の訳が、いつの間にか「時の過ぎゆくままに」になって
 いた。(笑)
 約40年前までは通称「時の行くまま」或いは「時の経つまま」でした、僕
 は1984年を最後に映画歴が30年以上途絶えるんですが、久し振りに
 復活してみたら「時の過ぎ行くままに」になっていた・・・。
 歌詞の内容を考えてみれば「時の行くまま」の方がしっくりすると思うんだ
 けど、沢田研二&阿久悠が偉大だったという事でしょうか。

 
 
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「レベッカ」

2012-03-11 00:35:06 | 外国映画
 「レベッカ」(1940年・米)監督アルフレッド・ヒッチコック 出演ローレンス・
        オリヴィエ、ジョーン・フォンテイン、ジュディス・アンダーソン 
        音楽フランツ・ワックスマン 撮影ジョージ・バーンズ

 ヒッチコックと言えば「北北西に進路を取れ」とか「裏窓」、「サイコ」辺りが
代表作になるんだと思います、僕も大好きです。
 でも僕は何故か、この「レベッカ」という作品が一番印象深い。
 ヒッチコキアンや評論家筋には今イチ評価の低い作品で、曰く、「スリラー
(ヒッチコック)よりメロドラマ(セルズニック)が勝ってしまった作品」だとか。
 まあ、それに間違いはないし、ヒッチコック自身、自分の作品群に入れる
べきか迷ってるような所があります。

 この映画が印象深かった理由は実に簡単明瞭。
 ヒロインのJ・フォンテインが清楚で可憐だから。(笑)
 「家柄、教養、金の無いアンタに貴族の奥様が務まる訳ないわ」と言う旧
雇い主ヴァン・ホッパー夫人の送り状付きで、疾風のようにモンテカルロか
らマンダレーの大邸宅に辿り着く内気なヒロイン、玄関のドアを入った瞬間、
まるで猛スピードで厚い壁にぶち当たったような衝撃を受ける。
 時間が止まってるような古い屋敷の薄暗い大ホール、居並ぶ召使い達、
色調も「明」から「暗」へ急転。
 そして、次第に纏わり付いて濃厚になっていく夫マキシム・ド・ウィンターの
死んだ先妻「レベッカ」の影。
 「知性、家柄、美貌」全てに勝ると言われるレベッカに対して劣等感に苛ま
れ、自縄自縛に陥っていくヒロイン「わたし」。
 果たして「わたし」は、夫マキシム・ド・ウィンターと本当の「わたしたち」にな
れるのか?
 この物語はスリラー仕立てなのですが、芯の部分は「わたし」の成長物語、
但し、後半の改変によりダフネ・デュ・モーリアの原作ほど「成長物語」の印
象は濃くありません。

 今回、久し振りに見直して思ったのは、J・フォンテインの美しさもさることな
がら、L・オリヴィエの上手さです。
 中盤のクライマックスでオリヴィエが5分近く殆んど一人で喋るんですが、こ
こが凄い。
 確かにカメラ・アングルの変化、J・フォンテインが合いの手を入れることで
起こる自然な切り返し、更に音楽で変化を付けてはいますが、基本はオリヴ
ィエの一人芝居。
 レベッカの言葉、表情、雰囲気、自分の感情、怒り、屈辱、悲哀を長い台詞
と仕草、時折みせるイラ付きで再現していく、まるで、そこにレベッカが立って
喋っているように。
 5分近く一人で場を保たせるだけでも凄いのですが、更にクライマックスに
相応しい緊迫感と盛り上がりを作っていく力量があります。
 さすが本場のシェークスピア劇で鍛えられた人、後にイギリスの国宝級役者
になったのも必然という気がしました。

 他の役者陣も健闘しています。
 まず、誰もが言うダンヴァース夫人のジュディス・アンダーソンの好演、それ
に劣らない小悪党ファベルのジョージ・サンダース、グラディス・クーパーが演
じたマキシムの姉ミセス・レイシーは小説からそのまま出て来たみたいだし、
フローレンス・ベイツのヴァン・ホッパー夫人も、いかにも俗物という感じが出
ていていいんじゃないでしょうか。
 そして、忘れてならないのが撮影を担当したジョージ・バーンズの仕事ぶり、
とても1940年の仕事とは思えません、素晴らしい。

 ヒッチコックらしさが少ない作品と言われますが、安定した構図に時折挟ま
る不安定なカット、流麗なカメラワーク、不信の種を成長させ、一気に花開か
せるテクニック、紛れも無いヒッチコックの世界だし、この「レベッカ」という作
品は、やっぱりヒッチコックにしか撮れない作品だと思います。
 ただ一つ難を言えば、J・フォンテインが美しすぎて、彼女が足元にも及ば
ないレベッカの美しさというのが、想像力の乏しい自分には今ひとつピンとこ
ない所でしょうか。(笑)


※ヒッチコックは、この作品にもっとユーモアを入れたかったそうですがセル
 ズニックが拒否。この一件、僕は、まあ、ちょっとセルズニックの肩を持ち
 たいと思います、この作品に、これ以上ユーモアは要らないんじゃないでし
 ょうか、コメディ・リリーフの要素があるG・サンダースの存在で充分。
※映画では説明されてなかったと思う壁の肖像画、描かれている人は、ド・ウ
 ィンター家の先祖キャサリン・ド・ウィンターでレベッカではありません。
 ヒロインはレベッカの真似をしたのではなく、ダンヴァース夫人の巧みな教
 唆によってレベッカと同じ事をさせられてしまったのです。
※DVD廉価版は画質、翻訳、余りに酷くお薦め出来ません。
 廃盤になったリマスター版、300円くらいで買えるのが出回ってるから今更、
 品質が良くても高価なリマスター版は復刻しないでしょうね、悲劇です。
コメント (5)
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