セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「黒いオルフェ」

2012-09-30 22:48:32 | 外国映画
 この作品は難しい事を考えず、最初は強烈な色彩とサンバのリズム、そして
素朴なボサノバ、1960年代、まだ市民の祭りだったリオのカーニバルを楽し
むのが一番だと思います。

 「黒いオルフェ」(「Orfeu Negro」1959年・仏)
   監督 マルセル・カミュ
   脚本 ジャック・ヴィオ
   音楽 アントニオ・カルロス・ジョビン
       ルイス・ボンファ
   撮影 ジャン・ブルゴワン
   出演 ブレノ・メロ
       マルベッサ・ドーン
       ルールディス・デ・オリヴェイラ      

 これは作家でギリシャ神話に造詣が深い阿刀田高氏が言うように一種の運
命劇だと思います。
 この映画に一般的なドラマ性を期待すれば失望が大きいかもしれません。

 竪琴と歌の名手オルフェ(オルぺウス)は森の木の妖精ユリディス(エウリュ
ディケ)と愛し合い結婚する。
 しかし婚礼の日、ユリディスは毒蛇に噛まれ突然死んでしまう。
 悲嘆にくれたオルフェは一人黄泉の国へ向かい長い旅の末、地界の王ハデ
スに会いユリディスを返してくれるよう願い出る。
 ハデスも、その妻のベルセポネも彼の悲嘆を哀れに思い、また、彼の歌声に
動かされ、
 「よかろう、だが、太陽の光を仰ぐその時まで決して妻のほうへ振り返っては
ならぬ、これは掟だ」
 しかし、帰りの途中、誘惑と疑心に耐えかねたオルフェは、つい振り向いてし
まう。
 永遠にユリディスを失うオルフェ。
 地上に戻ったオルフェは、まるで生きる屍、ひたすら亡き妻に向け竪琴を鳴
らし歌を歌う。
 そんなオルフェに見向きもされなかった女達が祭りの夜、嫉妬にかられ投げ
つけた石に当たってオルフェは絶命してしまう。

 以上がギリシャ神話「オルフェとユリディス」の話の概略です。
 この話を現代のリオ・デ・ジャネイロに移し映画化したのが本作です。
 この映画は運命劇ですから、前回書いた「幸福」より更に登場人物達は、そ
れぞれの役割を演じる為だけに居ます。
 オルフェとユリディスは何故、一目で恋におちるのか←運命で決まってるから。
 (ロミオとジュリエットだって、深い理由が有るわけじゃない、ロミオとジュリエッ
トだから一目で恋に落ちなきゃ話が進まないんです)
 何故、ユリディスは意味も無く死んでしまうのか←そこで死ぬ事が決まってる
から。
 あの、スパイダーマンみたいなのは何なの?←死神。気まぐれなのかユリデ
ィスに取り憑ついてしまったのです。
 (神話では毒蛇に咬まれて死ぬのですが、そもそも毒蛇に咬まれる事に意味
は何もないように、「死」は、或る日、突然、何の意味も無くやって来る(通り魔
に遭うのに意味がないように))、そういう事を表しています)
 オルフェが石に当たって死ぬのはドジすぎ>そういう話ですから。
(神話では、更に死体は女共に八つ裂きにされ川に捨てられます)
 これらを普通のドラマのように再現するのは容易な事だと思いますが、監督
のカミュは敢えてそれをせず、一種の叙事詩のように作り上げた、それがこの
作品です。

 オルフェ神話は、繁栄と滅亡、戦争と平和、幸福と絶望、そして生と死は、い
つも隣り合わせであり、その境は薄い膜で仕切られてるに過ぎない、又、死を
人の力で覆すことは出来ないと暗示してるんだと思います。
 光が強ければ強い程、作り出す闇も暗く深い。
 その象徴のようにスクリーンに映し出される、煌びやかで、これ以上ないよう
な喧騒、激しいリズムが渦巻くリオのカーニバル、その直ぐ隣にある静寂と暗
闇、強烈なサンバのリズムと哀愁が纏わり付くボサノバ、躍動する肉体と動か
ぬ亡骸。
 まあ、そんな事を内包してるんだと思いますが、まるでミュージカル映画のよ
うに街中が踊りまくってる(フェリーの客が皆踊ってるのは笑える)派手で賑や
かなリオの街とカーニバルを楽しむ映画なんだとも思います。
(下手なミュージカル映画より、よっぽどミュージカルしてる)

 (ちょっと説明)
 警察の13階(不吉)にある不明者係りの部屋から階段を闇に向かって下り
て行くシーン>地の底にある冥界へ向かうオルフェを暗喩しています。
 霊媒師の家の玄関にいる犬>冥界の入口には凶暴な番犬ケルベロスが見
張っています。
 ※ユリディスの死から霊媒師の家をオルフェが出て行くまでが、映画的にちょ
っと冗長になってる気がします。

※日曜洋画劇場で淀川さんが、こんな事を言ってました。
 「リオの街では中・上流階級の人間が海辺の平地に住んで、貧しい人達は山
 の上に暮らしてるんですね、そんな貧しい人達が山を降り大手を振って大路
 の主役になる日、それがカーニバルの日なんですね、だから、そんな人達に
 とってカーニバルの日がどんなに待ち遠しいことか、楽しいことか」
 日本に置き換えると日にち限定の「ええじゃないか」という所かも。
※信じられないかもしれませんが、これ、TV放映も、40年前名画座を回ってた
 フィルムも、全部モノクロだったんですよ。
 僕は、つい最近まで、この作品はモノクロ作品だと思ってました。
 どうやら、モノクロ版とカラー版と二つ有るようです。
 (カンヌは、どっちで獲ったんだろう?)
※ユリディスの最期のシーン。
 オルフェは暗闇の中、声だけで見えないユリディスを探す為に電気を通すの
 ですが、ちょっと、オルフェに当たってる光で、そう見えない。
 演出の拙さなんだけど、あれではユリディスが電線に掴まってるのを知りなが
 ら通電したように見えてしまいます。

 
コメント (2)
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「幸福」

2012-09-23 00:09:48 | 外国映画
 ヌーヴェル・ヴァーグ後期に作られた、女性監督による作品。
 「幸福」は「しあわせ」と読みます。
 淀川さん風に言えば、
 「ハイ、皆さんご覧になりましたか、この映画、ホントに怖い映画でしたね、
綺麗な音楽、綺麗な風景、でも、そこで起こってることの残酷さ、最後のシ
ーンが終わった後、皆さん、ゾッとしませんでしたか?」
 この映画、今から40年近く前、18才頃に観て漠然と「怖い映画だな」と
思いました、で、その「怖さ」を、もう少し具体的に確認したくて再見してみ
たのですが、やっぱり「漠然と怖い映画」のままでした。
 どうも40年、殆んど成長出来なかったようです。(笑)

 「幸福」(「Le Bonheur」1965年・仏)
   監督 アニェス・ヴァルダ
   撮影 ジャン・ラビエ
       クロード・ボーゾレーユ
   出演 ジャン=クロード・ドルオ
       クレール・ドルオ
       マリー=フランス・ボワイエ

 幸福そのもののような夫婦と子供達、或る日、そんな夫が一人の女と知
り合いになる・・・。

 この作品はヌーヴェル・ヴァーグによく有る解りづらい作品ではありませ
ん、けれど、観念劇とでもいうように登場人物達は非常に単純化・抽象化
されています。
 ここに登場する男一人、女二人にはフランソワ、テレーズ、エミリと名前
が付けられていますが、与えられた役割を果たす為に存在するだけで、
その内面は深く描かれず性格にも最低限の肉付けしかされていません。
 そして、ドラマというよりドキュメンタリーのように描くことで登場人物3人
の誰一人にも感情移入できないように作ってあります。
 中に入らず外から見ろ、という事なんだと思います。
 単純化されている分、直接的というか反射的な「怖さ」はないのですが、
頭の奥とか心の奥にスッと印刷される「怖さ」があります。
 女から見ると男はこう見えるのか、フランソワは不誠実で、人を思いやる
という感覚が完全に欠落してIQはゼロに近い、妻のテレーズは絵に描いた
ような模範的人間、そして愛を求めるもう一人の女。
 そんな男一人に女二人の典型的ドラマが展開され収束していきます、で
も人間を深く描いていないので、どこか現実離れしたような、有り得ない感
覚が残るんです。
 確かに、この作品に描かれるような極端で単純な話は現実じゃないので
すが、よく考えれば、ただ単に現実を単純化しただけで、この話をちょっと
複雑にすれば現実の世界にザラにある話ではないでしょうか。
 この映画の「怖さ」は最初のシーンと最後のシーンの同一性にあります。
 唯一無二と思ってる自分の存在が「有って無いようなもの」に過ぎないと
思わせる「怖さ」とともに、自分の中にも有りそうな無邪気な酷薄さ、それを
否定しきれない、それがこの映画の持つ、もう一つの「怖さ」、そんな気がし
ました。

 この映画で一番可笑しい所。
 エミリとの情事の後、フランソワがデリカシーの欠片もない手前勝手な演
説をした挙句エミリに、
 「解る?」
 「ええ、フランス語もあなたも」と答えるシーン。
 男の監督だと、せいぜい、
 「解るような、解らないような・・・」(女、曖昧な微笑をうかべる)

 公開当時、その個性的な色使いが評判でしたが、残念な事に現在のD
VDは色が退色していて昔ほど鮮やかでない気がします。(夫は「シェルブ
ールの雨傘」のジャック・ドミ、似た者夫婦です)
 作品は今の目からみると技巧に走りすぎてる所もあり、映画研究会の学
生達が製作したような雰囲気で、完成度が高いとは言いかねる作品だと思
います。
 でも「幸福」という言葉の側面を皮肉的な視線で捉え、それを冷徹に描くこ
とに成功してると思うし、独特の雰囲気を持っている事は間違いありません。
 特に、画調、演技、雰囲気、見えるもの全てが「明るい」中にある、目に見
えない酷薄な闇の「暗さ」、その対比が鮮やかで素晴らしいと思います。
 

※「みじかくも美しく燃え」(1967年・スウェーデン)にはモーツァルトの「ピアノ・
 コンチェルト第21番」が効果的に使われていましたが、この映画では「クラリ
 ネット五重奏曲」が溶け込むように使われています。
 最初と最後がピクニックというのも似ています。
※ゴッホを連想させるようなヒマワリ、モネを想起させる水辺の公園、そんな絵
 画的なシーンの多い映画です。
 僕はヒマワリを見ると、M・マストロヤンニ&S・ローレンの「ひまわり」(1970
 年・伊)より、この作品を思い出します。
※アニェス・ヴェルダはヌーヴェル・ヴァーグの外縁部に居た人だと思っていま
 したが、この作品の演出法は当時のヌーヴェル・ヴァーグ色がかなり出てい
 ました。(もっとスタンダードな映画だと思ってた)
 彼女自身はヌーヴェル・ヴァーグ以前に世に出た監督です。
 
コメント (5)
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「シャイニング」

2012-09-06 00:20:57 | 映画日記/映画雑記
 「シャイニング」(1980年・英・米)
   監督 スタンリー・キューブリック
   原作 スティーヴン・キング
   撮影 ジョン・オルコット
   音楽 べラ・バートク
   出演 ジャック・ニコルソン
       シェリー・デュヴァル
       ダニー・ロイド

 生涯ただ一度の恥辱。
 怖さに耐え切れず10分で映画館を飛び出してしまった作品(二人の女の子
が映って血がドバ~の所)。
 今回の企画で長年引き摺っていたものをメデタク断ち切ることが出来ました。

 鑑賞後の感想>ちっとも怖くない!(笑)
 そして、これが一番の問題なんだけど、観る時を完全に逸した・・・。
 30年前に、ちゃんと観てれば今よりずっと怖かったと思います。
 この作品と「カッコーの巣の上で」でJ・ニコルソンがどんな演技(顔)をするか
周知の事となってしまったし、こういうタイプの映画が以後量産されてしまった
ので今更の驚きが全然無かった。
 (ニコルソンのような狂気を演じる人も、以後何人か出たし)

 良かった所。
 「2001年 宇宙の旅」に似た無機質で冷たい画調を用いたのが面白い。
 「たたり」のような情念の世界を描くのに、不向きというか正反対の画質を使
った意味は解らないのですが、閉塞された広大な空間という矛盾した世界、人
間世界から隔離された疎外感と冷え冷えとした孤独感は上手く出ていたと思い
ます。
 構図は流石なものが有りましたが、もっとバランスを崩したほうが良かったか
も。
 奥さん役のシェリー・デュヴァルは好演だと思いますが、子役は世評程良いと
は思いませんでした。

 しかし、黒人の料理長ハロランは何を見たんでしょうね。
 子供に危機が差し迫ってる所?
 子供の目に写ったニコルソンの狂気?
 それなのに大きな声を上げながらホテル内を探し回るなんて、軽率の極み。
 脱出用の雪上車を運ぶ為に必要な都合上の役だったのでしょうか。
 エンド・クレジットの後で「何か」が起きたと思うんですけど、「何か」が有った
のならあの写真は何で飾ってあるんでしょう、記念は記念だから?(笑)
 最後のあの写真で急に安い「因果話」に堕ちてしまった気がします。
 全体的にキューブリックにしては・・・、の感が有りました。

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 ああいうリゾート・ホテルって好きなんですよね、行ってみたいなァ。(海より山が好き)
 NZのマウント・クックの麓にあるリゾート・ホテルを思い出しました(新婚旅行で行った)。
 スケールは二回り位小さいのですが、周りの雰囲気は似ています。
 宿泊?
 しませんよ(笑)、飛行機の待ち時間が有ったので「お茶」を飲みに寄っただけ。
 海外旅行も飛行機が怖いので、それっきりです。

 日本のお薦めは長野県美ヶ原の頂上にある「王ヶ頭ホテル」
 http://www.ougatou.jp/
 天気に恵まれればロケーションは日本一だと思います。
 料理も2000mの山の上とは思えない美味しさだし、何よりスタッフのホスピタリティが素晴ら
しい(これも日本一だと思う)。
 セレブ気分に浸りたいなら「上高地帝国ホテル」
 部屋は梓川向きでベランダ付きがベスト、但し、財布には堪えます。
 (道路側の部屋だと景色悪いわバスの音がウルサイわで印象悪くなります)
 河童橋からの眺めは日本っぽくなくて素晴らしいけど、諸事全般、物価が高いのが玉にキズ。
 (高所なのでアルコールの回りが早くなるから注意が必要、ぶっ倒れて前歯折った人を見ました)
コメント (4)
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