セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

ジル・クレイバーグさんを悼む

2010-11-08 23:22:21 | 雑記
 ジル・クレイバーグさんが11月6日に亡くなった。
 好きな女優さんだったんですよ。
 ちょっとオバさん顔なんだけど、年増女の魅力があって。
 酷い例えですけど、腐る一歩手前のメロンみたいな感じで好きでした。

 日本に最初に入って来たのは「電子頭脳人間」(‘74年)なんですね、て
っきり「面影」(‘76年)だとばかり思ってました。
 「電子頭脳人間」は、とにかく酷い映画だったので新顔のクレイバーグな
んて全然、記憶に残ってない。憶えてるのは、カット1つをおぼろげにと、
ひたすら苦痛の時間を過ごした事くらい。
 そんな訳で「面影」が日本デビューだと思ってたんです。
 映画「面影」はクラーク・ゲーブルとキャロル・ロンバートの実録風愛情物
語、出来のほうは可もなく不可もなくな作品でしたが、C・ゲーブルを演じた
役者さんが、そっくりと云う事で話題になりました。クレイバーグは相手役の
ロンバートを演じた訳ですが、こちらは余り似てませんでした。
 悲しいかな、「そっくりさん」って似てるばっかりに役者の印象が全然残ら
ないんですね、その点、似てないクレイバーグの方が印象に残りました、皮
肉なもんです。
 芸歴のピークは割りと早く来て、「結婚しない女」(‘77年)でカンヌの主演
女優賞を獲った辺りなのかもしれません。
 演技的には、この「結婚しない女」が一番評価が高いのかもしれません、
でも、印象の点で言えば、この人は「大陸横断超特急」ではないでしょうか、
個人的には、これが一番好き。
 「大陸横断超特急」(‘76年)A・ヒラー監督 ジーン・ワイルダー、ジル・クレ
イバーグ、リチャード・プライヤー。
 脂の一番乗ってた頃のG・ワイルダーと中盤から物語を引っ掻き回すプラ
イヤー、かなり面白い追っかけコメディです。
 ヒッチコックの「北北西に進路を取れ」(‘59年)をコメディにしたような作品、
オマージュと言う人もいます。
 「北北西~」でエバ・マリー・セイントが演った役どころをクレイバーグが演
じたのですが、エバはヒッチコック好みのツンとした感じの清楚な美人(ブロ
ンド髪はヒッチコックの定番)、対するクレイバーグは美味しそうな腐る手前
のメロン(失礼!)、まあ、どちらが好きかは個人の問題。
 僕は・・・、エバとクレイバーグで両手に花、が理想だけど。(スイマセン、
脳ミソが花畑です)

 J・フォンダ、C・ドヌーブ、J・ビセット、G・ビジョルドのように、出てる映画を
追っかけて名画座を探し廻ったと云う女優さんではないのですが、印象的で
大好きな女優さんでした。
 謹んでご冥福をお祈り致します、合掌。


※前回の記事「まぼろしの市街戦」で、ちょこっとクレイバーグさんに触れた翌
日に死去の報、少しショックでした。

                                   H22.11.9
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「まぼろしの市街戦」&広川太一郎

2010-11-05 21:20:22 | 外国映画
 広川太一郎>思えば罪な人でもあります。
 「お熱いのがお好き」(B・ワイルダー 1959年)
 「グレート・レース」(B・エドワーズ 1965年)
 「まぼろしの市街戦」
 「大陸横断超特急」 (A・ヒラー 1976年)
 他にも色々あるんだろけど、取敢えず記憶に残ってるのだけ挙げてみました。
 上記の作品に共通してる事が一つあります、TVの洋画劇場で見た後に映画
館で観た映画。
 そして、いずれも映画館で観た時に「あれ?何かもっと面白かったような・・・」
と感じた映画です。
 その原因は広川太一郎さん。
 僕達の世代だと、一番有名なのがトニー・カーティスの吹き替えだと思うんだけ
ど、「お熱いのがお好き」なんて、もう広川&愛川欣也版が決定版ですよね。(笑)
 その広川太一郎さん、ちょっと気が付いたのですが(思い込み?)、小原乃梨
子さんとのコンビがやたらと多い、「お熱いのがお好き」こそM・モンローは向井
真理子さんと決まってたから未成立だけど、「グレート・レース」のN・ウッド、「大
陸横断超特急」(※)のJ・クレイバーグもそうだし、先日、TVでやってた「サンタモ
ニカの週末」でも相手役のC・カルディナーレは小原さんだった。
 今回、記事にする「まぼろしの市街戦」では脇役同士なんだけど主役二人を支
える重要な役どころで共演してる、思うに広川さんのヤンチャ気味の甘い突っ込
み声には、小原さんの包み込むような母性的な甘い声がピッタリなんでしょうね。

 「まぼろしの市街戦」(1966年 仏)フィリップ・ド・ブロカ監督 アラン・ベイツ、
  ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド、ジャン・クロード・ブリアリ 音楽 ジョルジュ・ドル
  リュー
 これ、原題は「ハートのキング」、トランプの王様の意味です。
 病院へ逃げ込んだ主役のプランピック通信兵が、追手に「お前は誰だ?」と問
われた時、手にしてたトランプを見て咄嗟に言った言葉がタイトル名になりました。
 そう名乗った事で起きる珍騒動を描いたのが、この映画。
 何故、それが珍騒動に?
 その病院が〇チガイ病院だったから。(笑)
 で、周りの〇チガイ患者達にヨッテタカッテ王様に仕立て上げられちゃう(この映
画では精神病患者とは言いたくない、〇チガイの方が可笑しい)。
 これがハリウッドだと思い込んじゃうんだろうけど、フランス映画だから仕立て上
げちゃうんです、その辺りが如何にもフランス。(笑)
 イギリスのユーモア、アメリカのジョーク、日本の川柳(いずれも下から上を笑い
飛ばす)と違う、フランス流エスプリ(上から目線で上も下も笑い飛ばす)に満ちた
ファンタジー、そして、そこに込められた強烈なアイロニーが特徴的な映画です。
 ゲラゲラ笑う映画とは少し違いますが、でも面白くて可笑しい。
 今回見直してみて、その面白さの重要なポイントがコメディ・リリーフ役の公爵に
あるのが良く解りました。
 公爵役のジャン・クロード・ブリアリは勿論フランスの名優ですが、日本人の僕に
は仏語の微妙なニュアンスも可笑しさも解らない、だから、映画館でフランス版観
た時に完全に乗り切れなかったんだと思います。
 その重要な役が吹き替え版では広川太一郎、もう、これは鬼に金棒!そして、コ
メディエンヌ的役どころの娼館のマダムが小原乃梨子。
 もし、この作品をDVDで観る機会が有りましたら、最初は吹き替え版から見る事
をお奨めします。
 僕、普段はコチコチの原語版派なんですけどね。

 あ、そうそう、この映画ラスト・シーンがフランス版とアメリカ版で違います、僕は
断然アメリカ版を支持します!フランス版は書きすぎ。

 え、何の映画か解らない?
 え~と、そうですね〇チガイ達が誰も居なくなった街を占領し、思い思いに大コス
プレ大会をやる映画です。冒頭のほうで伍長時代のアドルフ・ヒトラーがチョイ役で
出て来ます(役~これはコスプレではありません)。

付録1 どうしても、どんな映画か知りたい人だけ
   http://www.youtube.com/watch?v=5B4Wtdjt7mw&NR=1
 
付録2 ビジョルド ファンへ
    http://www.youtube.com/watch?v=yDxtITsID0w&NR=1

※「大陸横断超特急」>原版も大変面白い映画なんですが、途中ちょっと冗長な感
じがします、これ、民放の洋画劇場で放映した時、上手に短縮カットしたのでTV版
のほうがダレなくてピリッとしてる、そこに広川さんのハイ・テンションが加わります。
DVD版の吹き替えは完全版に声を乗っけてるから、しょっちゅう日本語から英語に
変わり集中できません、もう、あれは幻になっちゃたんですね。
 僕、民放の映画はカットするから嫌いなんですけど。(笑)

                                       H.22.11.5
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「天国と地獄」(ネタバレ)

2010-11-05 15:29:33 | 邦画
 黒澤映画を書くのは苦手なんです、一寸のめり込み過ぎてる所もあるし、
手が付けられない気がして。

  「天国と地獄」1963年 出演 三船敏郎、仲代達也、山崎努
 エド・マクべインの「87分署」シリーズから「キングの身代金」を原作にし
て舞台をニューヨークから横浜に置き換えた作品、ただ、原作を大きく改
変しています。
 黒澤の現代物で超1級のサスペンス映画、1949年に作った刑事物の
原型「野良犬」の発展型。
 新人だった山崎努の出世作で三船&仲代の最終作。
 丘の上に豪奢な邸宅を構える大手製靴会社の重役・権藤(三船)、その
子供を誘拐して身代金奪取を企てる犯人・竹内(山崎)、しかし誘拐した子
供は権藤の子供ではなく、お抱え運転手の子供だった、それでも権藤に身
代金を要求する犯人、誘拐犯を追う刑事チームのリーダー戸倉警部(仲代)。
 前半1時間は殆ど権藤邸の室内が舞台で、緊迫した状況をギリギリまで
高めていきます、そして身代金の受け渡し、当時、日本で最速だった電車
特急「こだま」)を捉えたアングルと轟音で映画は静から動へと一変します、
そして後半は一つ一つ手がかりを摑んで犯人を追い詰めていく刑事達が主
役になります。

 この映画を観た人達の多くが疑問を感じるみたいです。
 犯人は貧しいインターンで、冬は寒く夏は耐えられない暑さの木造アパー
トの小さな部屋に住んでいる、毎日、毎日、その部屋から眺める丘の上の
豪邸が妬ましくてしょうがない、それが恨みとなり犯罪に走る。
 でも、犯人はインターン、今は貧しくても将来は「お医者様、先生」になる
身分じゃないか(当時のインターン制度は、確かに薄給)、そこまで妬むの
はオカシイんじゃないかって。
 以下、誰かが昔、雑誌に書いてた事の受け売りなんですが(これ、探し捲
ったんですが、何処に載ってた記事か今では不明)、それが解答だと思うの
で書いてみます。
 黒澤映画の作り方の多くは、困難を乗り越え人間としてマトモな道を進ん
だ人間と困難に負けて道を誤った人間が出会い対立する、この二人は昔、
同じような境遇、立ち位置にいて、分身同士がぶつかり合う、という形式を
とります。
 黒澤は言います「人生って、どこかに危険な別れ道があるんだよね、そ
こで、どちらに進むかでその人の価値が決まると思うんだよ」
 デビュー作の姿三四郎と桧垣源之助、「野良犬」の新米刑事と犯人・遊佐、
七人の侍と野武士、「椿三十朗」の三十朗と室戸半兵衛、或いは直接対決
しないけど対比して描かれる「酔いどれ天使」のヤクザ松永と女子高生、
「赤ひげ」の医学生二人等々。
 具体的に言えば「野良犬」の新米刑事・村上(三船)と犯人・遊佐は、どち
らも復員直後に全財産を盗まれます、村上は、どうにもならないドス黒い気
分に包まれますが「ここが、危ない別れ道だ」と刑事の道を選びます、対し
て遊佐は、その気持ちに負けて強盗・殺人犯になってしまいます。
 「椿三十朗」では最後に三船が死んでる仲代を見て若侍達に言います、
「こいつは俺とそっくりだ、どちらも鞘に入ってない抜き身だ~」
 さて、「天国と地獄」ですが。(笑)
 本作では権藤=竹内は明快に解るんですよね、同じ不幸な境遇から這い
上がった人間と挫折し負けた人間、最後に権藤と竹内がガラス越しに対面
するのですが、喋ってる竹内の姿とガラスに映る権藤の姿が映像の中で重
なっていきます。
 でも竹内=戸倉でも有るんです。どうも、ここが気付きにくい。
 悪を代表してる竹内と善を代表してる戸倉警部も根っこで共通点が有る
んです。
 戸倉警部、東大法学部あたりを出て、頭が切れ年上の刑事たちを自在に
使い捲る若い刑事課長、つまり、犯人・竹内と刑事・戸倉はエリートという共
通項で結ばれているんです。
 そのエリートが持つ鼻持ちならない独善性に於いて、二人は権藤、竹内と
同じ程、そっくりなんです。
 竹内はエリートなのに今の自分の境遇に負け、「金持ちから金を奪って、
何が悪い」とドストエフスキーの「罪と罰」で質屋を殺すラスコリーニコフと同
じ独善に陥る。
 一方、戸倉は刑事であるにもかかわらず、犯人が解った後も、「誘拐だけ
じゃ死刑にできん、奴は間接的にせよ二人殺してるんだ」と新たな殺人を起
こすまで犯人を泳がし続ける、そこにあるのは正義に名を借りた恐ろしい
エリートの独善なんです。
 権藤=竹内=戸倉≠権藤
 この構図でドラマを展開させる為に竹内の職業はプータローではなくイン
ターンである必要があったんです。
 と、評論家が昔、書いてました。(自爆)
 エリートを犯罪者とした事で本作の竹内は邦画史上、初の本格的知能犯
として記憶されました、電話から響く怜悧で嘲笑うような竹内(山崎努)の声
は逸品です。

※「野良犬」1949年の黒澤作品。
 戦後間もない東京を活写した作品としても有名。
 日本初の本格的刑事物、現在の刑事ドラマの原点にして傑作に数えられ
る作品。
 出番は少ないけど、ピストル密売の手先を演じた千石規子の蓮っ葉ぶり
が秀逸。
 その千石をベテラン刑事・佐藤(志村喬)が取り調べるシーンと、その佐
藤が撃たれる前後のシーンが大好き。

                           H.22.10.28
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「鴛鴦歌合戦」

2010-11-03 11:57:42 | 邦画
 1939年(昭和14年)に作られた日本映画。
 中国では戦線が広がり続け、既に前年、応召した山中貞雄監督は戦病死してる、日
本が戦争体制に突っ込む日独伊三国同盟は翌年の締結、世の中が騒然としてきて、
この年の暮には映画製作にも厳しい検閲が懸けられる事になった年。
 その検閲が懸けられる、ほんの少し前の作品。
 鉦鼓亭はそこそこの数の映画を見ていますが、さすがに真珠湾前(大戦前)の邦画
はこの作品と溝口健二の「浪花悲歌」(浪花エレジーと読みます)、山中貞雄の現存す
る3本だけを見ています。
 いつものように話が横へ逸れますが、皆さん、戦前の映画、保存状態が悪くてモノク
ロで古臭い活動大写真だと思ってる作品群、昔は面白いんだろうけど今見たら耐えら
れない、と考えてませんか。
 鉦鼓亭は真剣に思います、上記の作品達に今の作品が本当に勝っているのか?ま
あ、僕は・・・。

 映画黎明期を過ぎ発展期に入った日本映画、掃いて捨てる程の大手・弱小プロの作
り出す駄作・凡作の数々、でも、そこに吸い寄せられる新鮮な才能の群れ、やがて淘
汰され本当に才能の有る人達が一本立ちしていく。
 この頃はまだ、大御所も巨匠もいない、皆、20代から30代前半で、目の前には手垢
の付いてない、誰でも本邦初が幾らでも出来る世界が拡がっているんです。
 戦前の映画には、そういう若く新鮮な才能が煌いている作品があります、そして、この
「鴛鴦歌合戦」という映画も、その範疇に入る作品です。
 まあ、確かに山中作品や溝口の「浪花悲歌」(個人的には好きではない)に比べたら、
出来は若干落ちるとは思います。
 前者の作品群はしっかりした作品ですから、この作品みたいに「ドサクサ紛れ」で作っ
たのとは訳が違う。(笑)

 「鴛鴦歌合戦」1939年 マキノ正博監督 出演 片岡千恵蔵、志村喬、市川春代、
ディック・ミネ、服部富子 他
 日本初のミュージカル映画。
 う~ん、初と云うのは微妙、同時期、同じジャンルの映画が作られていて、完成が先
か公開が先かで立ち位置が変わります、更に言えば、歌うけど踊らないから「ミュージ
カル」とは言いがたい、wikでは「オペレッタ」と分類されてます、当時、浅草オペレッタ
全盛の時だから、日本版オペレッタとはこういうモノだと勝手に解釈しています。
 この映画の伝説は実に沢山有ります、ただ、それを流布したのはマキノ正博監督自身
のようですから、どこまで信じていいのか(笑)、マキノさんの「千三つ」(千言って本当の
事は3つ位)は有名ですから。(マキノ正博監督~父は「日本映画の父」と言われる牧野
省三、日本映画史に残る映画の名職人、津川雅彦の母は省三の娘であり正博の甥に
あたる、だから、津川が映画監督をした時、マキノ雅彦と名乗った、それくらい邦画の世
界ではブランド名)
 まあ、その中でも真実っぽいやつ。
 別の作品を撮影するつもりが、主演の千恵蔵が急性盲腸炎で入院、スタッフ、キャスト
を集めた段階で企画がオシャカ、「映画館の穴が空く」ってんで、大急ぎに間に合わせた
のが本作、キャスト・スタッフはそのままに1週間(10日説もあり)ででっち上げた作品。
 主演は千恵蔵さんなんだけど、段取りだけ付けといて退院した翌日、1日で撮った(マ
キノさん、2時間で撮ったって言ってるけど、幾らなんでも「マユツバ」でないかい)とか。
 あんまり急いだんで役名考えてる暇がなかったのか、劇中、殆ど芸名呼びしてる。志
村喬→志村さん、市川春代→お春ちゃん、服部富子→お富ちゃん、ディック・ミネ→峰
丹波守、千恵蔵さんだけリッパな役名があるんだけど、相手役に役名と芸名を間違わ
れたりしてる。(笑)
 そんな訳で、主役は千恵蔵さんなんだけど、一生懸命、不在の千恵さんの穴を埋めて
る志村喬のほうが、やたらと目立つというか主役っぽい、千恵さんと違って地声で歌いま
くってるし(レコード会社からスカウトが来た!)。
 どんだけ、いい加減な映画かと思うでしょうねえ、実際、ゆるみぱっなしの脱力系であ
る事は幾らでも保証します。(笑)
 どれ位の脱力系かと言えば、日本初のミュージカル映画にして「ちょんまげミュージカ
ル!!」、しかも戦前!
 冒頭、日本橋を渡ってきた豪商の娘に、♪お富ちゃんったら、お富ちゃん~♪いきなり
歌いながら言い寄る男たち、それが終わるやいなや♪ボックは若い殿様~、家来ども喜
べ~♪と家来を従えスウィングしながら飛び出して来る始祖バカ殿・峰丹波守(ディック・
ミネ~デビューしたばかりの歌手ですから演技・台詞回しは生暖かい目で)、もう、これ
以上ない、ゆるさ加減、おまけにヒロインの「お春ちゃん」の吹き出すような音痴加減、
他の皆さんが上手いから、よけい目立ちます。。
 劇中、歌われる歌は20曲くらい、もう芝居してたかと思うと突然歌いだし、芝居→歌→
芝居→歌と実にテンポがいい、そして、後に世界で5本の指に数えられる程になる宮川
一夫のカメラの明るさ、アッケラカンとした登場人物達の明るさと絶妙にシンクロしていま
す。
 このカメラの透き通るような明るさが、ラストのサービス、カーテンコールを一層引き立て
ています、このシーンを見ると、もう、途中の「いい加減さ」なんか、どうでも良くなっちゃう
んですよ、季節に例えれば、もう本当の「春爛漫」。
 今の映画で、これほど理屈抜き、能天気に「ポヨヨ~ン」とさせてくれる作品って有るの
かなァ。(笑)
 あ、「鴛鴦(おしどり)歌合戦」を「しりとり歌合戦」と読み間違え、ずっと、そう思い込ん
でたのは内緒の内緒。

※歌舞伎の世界は落語の「中村仲蔵」を聞いても解るように下克上のめったに無い世界
です。実力は有るのに出自の為に出世できない実力者達が新しい「活動大写真」に希望
を求める、それは時代の流れと同じく止められない現象だと思います。
 津川雅彦・長門裕之兄弟の父、沢村国太郎もその一人、弟が加東大介、妹が沢村貞子。
※「ちょんまげミュージカル」>日本では余り知られていませんが「ミカド」というオペラが有
ります、G・ホーンの「ファール・プレイ」というコメディ映画に出て来ます。
 この映画のクライマックスに日本人の熟年夫婦を乗せたタクシーをホーン達が乗っ取りカ
ー・チェイスする場面が有るのですが、ヒロインのホーンが後ろの乗客・日本人に状況を説
明するんです「コジャック、BanBan!」、すると年寄りの日本人夫婦が「Oh!コジャック、
バン・バンね」と日の丸の小旗を振り回しながら大喜び、ここが全編通じて最高に可笑しか
った、当時の西洋人の目に映る日本人のイメージって、こんなものだったと思います。(得
体の知れない生き物)
※欧米人が滅茶苦茶な日本と日本人を描いてる映画。
 痛い所突つかれりゃ微妙な所も有るだろうけど、単に無知を晒してるんなら、尖がって目くじら立てるより、遠慮無しに笑っちゃえばいいじゃない。
「007は二度死ぬ」(「You Only Live Twice」)1966年製作、この映画も公開当時から現在に至るまで湯気を立てる人が後を断たないようで。
原題を訳せば「二度死ぬ」じゃなくて「007は再び甦る」なんだろうけど、さすがに宣伝部は上手い。(笑)
僕も最初見た時は、あんまり気分良くなかったですよ、でも二度目は、もう可笑しくて可笑しくて面白かったなあ、アホらしくて嗤う→可笑しい→笑う→大笑い→記憶に残る可笑しさ、みたいな感じ。
どんだけ可笑しいか>地下鉄丸の内線の駅へ降りていくと、秘密の入口が有り日本の諜報組織の本部が有る(爆~ちなみにボスは丹波哲郎(役名タイガー)、S・コネリーに負けてないのが凄い)、で、日本組織の隊員達の戦闘服は忍者衣装、クライマックスでは科学の粋を集めた敵秘密基地で007と忍者が大暴れ。
何が凄いって、作ってる人達は余りジョークと思わず真面目に作ってるのがエライ。(笑)
最初の方でS・コネリーが素性を隠す為に日本人に化けるんですが、髪を黒くしてカラー・コンタクトして甚平着ただけで、誰も見破れない日本人だって(爆)、でも、偽装結婚する相手の浜美枝はとんでもなく可愛いんですよ~!
鉦鼓亭、007シリーズは「ロシアより愛をこめて」が一番と思ってますが、それに並ぶくらい「二度死ぬ」も好きです(思いっきり贅沢に作ったんだけどB級映画)。追記9・15

                                     H.22.9.12
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「狼は天使の匂い」

2010-11-03 11:51:38 | 外国映画
 この映画、鉦鼓亭にとって、ずっと不思議な映画でした。

 僕が映画を観てたのは17才~26頃。
 30年の歳月が過ぎた今、改めて自身のベスト10(洋画)を考えてみると、
 1.「フォロー・ミー」2.「ひとりぼっちの青春」3.「誓いの休暇」、以下順不同、
 「アメリカの夜~映画に愛をこめて~」、「狼は天使の匂い」、「ローマの休日」、
「第三の男」、「冒険者たち」、「甘い告白」、「カサブランカ」辺りでしょうか。

  「狼は天使の匂い」
 1973年 (米・仏)
 監督 ルネ・クレマン
 出演 ジャン・ルイ・トランティニアン、ロバート・ライアン、レア・マッサリ
 DVDはフランス語版(「LA COURSE DU LIEVRE A TRAVERS LES CHAMPS」(
ウサギは野を駆ける)、多分、こちらの方が正統版なのかも、公開当時、この言葉
は何回か耳にしてる)、でも、日本で公開されたのは英語版でタイトルは「・・・AND
HOPE TO DIE」、僕はこのタイトルで憶えてました。
 「禁じられた遊び」、「太陽がいっぱい」のルネ・クレマン最晩年の作で、アメリカ
西部劇のスター、R・ライアンの遺作でもあります。
 この映画が僕にとって「不思議な映画」と云うのは、過去の映画を思い浮かべた
時、この映画が自分にとって絶対外せない映画と認識してるのに、その内容が30
年経った今、殆ど思い出せない。(笑)
  記憶では、これ映画館で2,3度、TVで2度位見てるんですけど、見る度にどん
どん良くなっていって忘れられない映画になってた・・・はずなのに。
 大体、僕が観た1000本近い映画のリストでも、今となっては覚えてるのが50本
位、笑ってしまう程いい加減なモンなのですが、自分のベスト10に入れようって映
画の内容が全然解らないのは、我ながら説明のできないおかしな事でした。
 地味な映画だったからDVDのないのは自身納得してたのですが、去年、知らぬ
内にDVDが出てました(笑)、で、条件反射で密林をポチッ。
 今日(22日)、それが届き、早速観てみたところ。
 カナダ・モントリオールを舞台にしながらフィルム・ノワール(フランス暗黒街モノ)、
ハード・ボイルドを装いながらウェット、バランスが不安定な感じがするのに妙にど
っしりしてる、何か不思議な感覚の映画、そう、この感覚と雰囲気だけは憶えてまし
た。
 そんな中で繰り広げられる、多彩な芸達者達の素晴らしいアンサンブル、特に老
境のR・ライアンと僕が大好きなJ・L・トランティニアンの演技、2時間以上の映画に
も拘らず、どんどん引き込まれていきました。
 
 この映画の記憶が無くなっていた、これは、どんなに書いても言い訳にしかなら
ないのですが、今、見ても解り難い。(笑)
 自分の記憶では銀行強盗とその末路な話だと思ってたんですが(A・パチーノの
「狼たちの午後」と混同してた)、少しだけ違ってた。
 決してブニュエル、フェリーニ、ゴダール、ベルイマン、タルコフスキーみたいな難
解と云う種類の映画ではないのですが、最初の2,30分、説明のないまま話が進
んで行くので何が何やら良く解らない、ライアン達が何を計画してるのかなんて1時
間経っても全然解らない、結局、最後までR・ライアンは仲間に入れたトランティニア
ンの過去を知らぬまま終わってる、多分、それは、それ程重要ではない、と云う事
なのだと思います。
 観客は何でか知らんがロマ(当時はジプシーって言ってた)に執拗に追われてる
トランティニアン、追われてる最中に偶然、ライアン一味の大事なモノを握ってしまう、
その為、一味のアジトに連行されてしまった。
 それ位の筋さえ解ってればいい、みたいな。(これじゃ30年したら忘れちまう)
 極端に云えば、ストーリーと云うより、この映画の持つ雰囲気(登場人物達の心の
動きと醸し出す雰囲気)にどっぷり浸れば、それで良しなんですよ、この映画。

 「狼は天使の匂い」、犯罪映画をベースにしながら、大人の男がいつまで経っても
持ち続ける、無邪気な子供心を描いた作品です。
 そして、一歩間違えれば臭くてしょうがなくなる話を昇華させてるのは、熟練の演
出と達者な俳優陣に尽きると思います、色気専門と思ってたR・マッサリも凄く良い
し(ここでも色気担当だけど)、ライアンの子分達もそれぞれ存在感を感じる。
 謎めきながらも、実際はありきたりな話を見事に「男の御伽噺」にしている、さすが
にクレマンだと思うし、ライアンの渋い演技にはアカデミーあげても全然文句ない。
 惜しむらくは、これ男専用の作品かな、一言で云えば「究極の連れション」映画。
あと、1度観ただけだと本当の良さが解らない、ちょっと長めの映画だから、その辺
はツライかも、その代わり、観た回数だけ底なし沼のように嵌まります。(好みが合
えば)
 「明日に向かって撃て!」、「俺達に明日はない」をフィルム・ノワールにしたら、こ
んな感じになるのかも、あ、それに「アラモ」のジム・ボゥイ(R・ウィドマーク)も。
 恥ずかしい話、今日、再見して泣きました、こんなに泣けたのって何時以来だろう
と思うくらい。

(H23・6・11追記
 映画に出てくる、ジプシーの意味が解らないという人が多いので。
 ジプシーは「死の象徴」なんです、つまり、「死神」を表現してる、今風に言えば「死亡フラッグ」というやつです。
 「黒いオルフェ」(マルセル・カミュ監督・1959年・仏)という映画にも、突然、脈略もなく「死神」が出てきますが、あれは、「死」というものには、何の意味もない「不条理な死」も一杯有るという事を示しているんだと思います。
 (例えば、ビルのタイルが剥がれて下を歩いてた子供の頭に当たって死んだ、みたいな理屈の外にある死)
 この映画のトランティニアンは、要するに「死神」に憑り付かれた人間なんです。
 橋の上でトランティニアンとジプシーが偶然出会う、あれも、ジプシー=死神なんですからオカシクないんです、死神に憑り付かれた人間は、何処に逃げても「突然、目の前に死神が現れる」のですから。
 その「死神」が「ジプシー」だろうが「マフィア」や「警察」だろうが本当は関係ない、偶々、「映画」の構成上、それが「ジプシー」の姿になった、そういう事なんです)


※どっかのサイトで「鏡の国のアリス」をベースにしてるって見たし、実際、公開時、
そんな事を読んだ気がします、只、どこが「アリス」なのか全然解らない(笑)、人物
を対で配置してるって事かな・・・?
※これぞ正真正銘のアメリカ人、R・ライアンがフランス語喋ってる(吹き替え?)の
は違和感が有る(笑)、まあ、他の人達が仏語喋ってるのは、カナダだからいいんだ
けど。
※これを見直した結果、1.「フォロー・ミー」2.「ひとりぼっちの青春」3.「狼は天使
の匂い」4.「誓いの休暇」以下順不同になりました。(ただ20年前に戻っただけの
気もするけど)
※DVDパッケージには仏・伊合作って書いあります、公開時の資料を元にしてるは
ずの僕の映画ノートには米・仏合作って書いてある、観た後の感覚では自分の方が
正しい気がする。
コメント (4)
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「シベールの日曜日」から、あれこれ

2010-11-03 11:47:01 | 外国映画
 「シベールの日曜日」と「フォロー・ミー」、この2本の映画を考えると「時代は変
わった」なんて年寄りじみた感慨を抱きます。
 どちらも30~40年前の映画なんですけど、今なら「シベールの日曜日」はロリ
コン映画、「フォロー・ミー」はストーカー映画ってレッテル張られるのが必定。
 思えば僕の10代から20才過ぎくらいまで、変質者による少女への犯罪もスト
ーカーによる深刻な被害も、今みたいに日常茶飯ではなかったから作れた作品
なのかも知れません。 
 鉦鼓亭、「フォロー・ミー」は洋画で一番好きだし、「シベールの日曜日」もずっと
記憶に残る好きな映画です。
 シベール化粧品の名は、この映画に感動した創業者が自社名にしたなんて逸
話もあります。
 「シベールの日曜日」(「Cybele ou les Dimanches de Ville d'Avray」(「シベー
ル、或いはビル・ダヴレィの日曜日」1962年 (仏) 監督セルジュ・ブールギニ
ョン)
 インドシナ戦争で記憶喪失になった男と、親に捨てられ心を閉ざしたまま孤児
院で暮らす少女シベールが、パリ近郊の街ビル・ダヴレィで織り成す心の交流。
 やがてそれは、周囲の大人達の無理解によって或る結末を迎える。
 鉦鼓亭も若い時分は大人達の無理解に「酷いなぁ」なんて思いました、単純な
んで。
 でも、今、年頃の娘を持つ親になってみると、「まあ、悲惨な結果ではあるけど、
致し方ないのでは」なんて思います、それだけ感性が鈍ったと言うか汚れたんで
しょうかね、ただ、弟も娘が居るんで、この感想は全く同じでした。
 この映画、記憶喪失の男を演じたH・クリューガーもいいんですが、少女シベー
ルを演じたP・ゴッジが滅茶苦茶いいんです、まあ、だからロリータ映画の元祖な
んて言われるハメになっちゃったんだけど。
 少女が一時期持つ、儚さと可憐、その裏にある傲慢と独善、デリケート過ぎる心
の揺れ、そう云うものが非常に上手く表現できてる~その歳でしか出来ない演技
でもあるけど。
 その2人が遊ぶ冬の公園、白黒撮影の傑作の一つに数えられるほど美しい叙
情的な画面。
 名手H・ドカエが日本の墨絵を参考にして撮影したといわれる美しいシーンの数
々、個人的な感想を言えば、P・ゴッジの好演とH・ドカエの撮影で不朽の名作の
一つに数えられる映画になったとも思えます。
 白黒が美しい?
 全てとは言いません、が、白黒撮影の傑作は決してカラー作品に劣るものでな
いと鉦鼓亭は思っています。
 例えば「第三の男」や「椿三十朗」、「赤ひげ」のコントラスト、「羅生門」や「用心
棒」の白と黒の間の無限のグレー、これはカラーでは表現できないと思います。
 カラー作品の欠点は見た目の色が完全に指定され、想像力を働かす余地が無
い、見た目の赤色はそれ以上でもそれ以下でもなく、それだけなんです。
 対して良く出来た白黒映画は色が無い分、沢山の色を感じさせてくれるのです、
「七人の侍」をカラーで観たいと云う人がいますが、僕からすれば考えられない事
です。
 墨絵には墨絵の良さが、ゴーギャンやゴッホにはゴーギャン、ゴッホの良さが
有ると言う事です。
 それと映画という虚構は、色にしろ画質にしろクオリティーが高すぎるのは馴染
まない気がします。
 TV時代劇にビデオ撮影が導入され画面が鮮明になったお陰で(「水戸黄門」)、
時代劇という虚構が現実に引き寄せられ過ぎて虚構としてのリアリティが失われ、
却って安っぽくなってしまったと思うのは僕だけのでしょうか。

 ロリータって言えば、「小さな恋のメロディ」も少年と少女の愛を描いた映画と思
われがちなんだけど、あれは、鉦鼓亭の解釈だと結婚制度とイギリスの階級社
会を笑い飛ばした風刺劇、一部ではアイドル映画とも間違われてますね、風刺
劇としては非常に良く出来た映画だと思ってます。
 少年と少女の初恋物語としては、73年のアメリカ映画「ジェレミー」も有りまし
た、ちょっと「恋・メロ」の柳の下を狙った感じもしますが、悪くはなかったと思って
ます。
 こっちは典型的な初恋物語で決着のつけ方も思いっきりありきたりなんだけど、
2人のHシーンが有るのがちょっと異色、今じゃ問題になるかもですけどね、あと、
ヒロインのG・オコーナーが如何にもというか、どこにでも居そうなアメリカ少女で、
それ程可愛くないのが妙にリアルっぽかった。
 でも、とってもピュアな感じのする映画。
 あ、もう一つ、男の子を演ってたロビー・ベンソン、今もまだ現役だそうで、こうい
う役を演った子って大概は消えてくんだけど、しぶとく生き残りましたね、大したも
んです。

 また、だらだらと書き連ねてしまいました。 
 何か、世の中、どんどん潔癖になってきて、ちょっとした事でも許す事ができな
くなり、鉦鼓亭、酸欠の金魚みたいな気分で憂鬱です、根が思いっきりズボラで
すから。

※(5.2追記)
 ロリコン趣味(鉦鼓亭はロリコン嫌いです、大人の女の色気が好きです)が暴走
してる今、この映画も巻き添えを食って排除、封印されてるみたいですね。この映
画は絶対ロリコン映画ではなく、記憶喪失で子供に帰った男と孤独な少女の心の
交流を美しく描いた作品です、この二人に性は感じません、むしろ、この映画、「性」
を排除してるとさえ思います、男・ピエールと恋人兼看護婦のマドレーヌとの間でさ
え「性」は排除されてる気がします。
 そのマドレーヌの台詞、(自分の同僚に向けて)「病気なのは貴方達の方よ、これ
っぽっちも理解しようとしないで、排除するだけ・・・」
 ただ少女と男の話と云うだけで誤解を怖れて葬り去ろうとする人々、砂利と真珠
の選別が面倒だと云って一緒くたに排除してしまう事なかれ主義、40年前の彼女
の台詞は今の時代にも充分通用するんじゃないかと思います。
※「病気なのは貴方達の方」で同時代の同じ国の映画を思い出しました、タイトル
は「まぼろしの市街戦」 町外れの精神病院の中で平和に明るく暮らす患者達、折
りしも町では戦争中の両国が衝突、双方の軍は全滅、それを眺めてた患者たちが
「気が狂ってる」って呆れかえる。アイロニーとエスプリに満ちた名作です。
コメント (2)
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「誓いの休暇」VS「二十四の瞳」

2010-11-03 11:43:25 | ミックス
 「二十四の瞳」(木下恵介監督・日)と「誓いの休暇」(G・チュフライ監督・
ソ連)
 どちらも鉦鼓亭が好きな映画です。
 どちらも反戦映画の傑作だと思っています。両作とも「戦争反対!!」
(当り前)なんて叫んだり、強調したりしてません。
 戦闘場面は「誓いの休暇」では物語最初5分位、「二十四の瞳」に至って
は皆無。でも、見終わって気がつくと戦争の悲惨さが心に沁みる映画なの
です。
 特に「誓いの休暇」(原題は「ある兵士のバラード」)はソ連映画です、共
産党独裁の国でプロバガンダでない反戦映画を撮る事は本来不可能に近
い事でした。偶々、フルッショフの時、ほんの束の間有った雪解けの時代
(政治的にも映画製作においても)に出来た作品です。
 それでも宣伝臭はします、最初と最後のナレーション、あの新兵苛めで有
名なソ連軍のくせに妙に優しい上官や兵隊とか。でも、これ位にプロバガン
ダ臭を抑えただけで、この監督、何年も干されてます。それ程共産主義の国
らしくない映画なのです。
 簡単にストーリーを書いてみます。
 戦場で偶然手柄を立ててしまった少年通信兵アリョーシャ、勲章をくれると
云う話を断り、故郷の母に会いに行く為、休暇が欲しいと願い出て(「家の屋
根が壊れ、女手一つでは直せなくて困ってる」と母からの手紙が有る)、将軍
から特例で六日間の休暇を貰います。
 この映画はその六日間の物語、故郷の母に会うまでのソ連版ロードムーヴィ
です。
 大まかに言って三つの出来事を繋げていくのですが、その二つ目の話、偶
然、アリョーシャの乗る貨車に潜り込んで来た少女シューラとの出会いと別れ、
これが素敵でした。若い二人の瑞々しさと云うか、こんなに初々しく、また瑞々
しい二人は他に見た事がありません。
 その二人の初恋とも言えない位、淡い恋心。それを映し出すH・ドカエも真っ
青な位の美しい映像(このカメラマンは全編通じて素晴らしい仕事をしていま
す。白黒なのですが、果てしなく続くロシアの地平線、夕日を遮る白樺林等々、
どれもこれも美しい。「第三の男」やH・ドカエの「シベールの日曜日」、宮川一
夫の「羅生門」と並ぶ白黒フィルムの傑作だと思います)。
 鉦鼓亭、「反戦映画」と書きましたが、それは俯瞰で見た表現で、中身は青
春映画だとも思います、儚い、ほんの一瞬の青春物語。

 「二十四の瞳」
 古い映画ですね、「誓いの休暇」よりもっと、もっと古い。
 一般的には大石先生と12人の子役達との交流を描いてる前半の方が評判
がいいようですね(ウチの母もそうだった)。
 でも鉦鼓亭は、ちょっとクサイかもしれませんが最後の手前のシーンが一番
泣けます。(ここは弟と同意見です)
 戦争が終わり、島で先生を呼んで簡単な同窓会を開く、12人の内、戦争や
病気で生残った者は5,6人、男は盲目になってしまった一人だけが生き残って
る。
 で、昔みんなで撮った集合写真を残った者達が見てる場面。
 以下、記憶だけで書きます。

女A「○○(男の名(田村高広))、あんた写真見えないでしょうに」
男、写真を手に取り、それをなぞるようにしながら、
男 「うん、でもな、この写真だけは見えるんや、一番左に○○がおって、その後
ろに○○、その横で○○が??みたいな顔しててな、そんで、その前が○○や、
・・・・・」
戦争で盲目になった男が一人一人、指でなぞりながら説明していく。その半分は
もうこの世にいない。

 このシーンは堪らんです。
 鉦鼓亭、戦争は知りませんが戦争とはこういう事だと思います。


※「誓いの休暇」
 DVDは発売されてます。日本語字幕付なのですが、何カ国語も有る中からロシ
ア語で日本語訳を探すのがチト骨。オマケに最初の台詞は始まってから3分位、
そこでやっと見てるのが何語版なのか解る次第で。
 カンヌで特別賞を受賞した作品ですが、白黒で地味でソ連映画ですから、まず、
レンタル屋さんで見つけるのは不可能でしょう。図書館で取り寄せられればいい
のですが。あとは買うしかない。
 

                                     H21、3,20
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「ひとりぼっちの青春」

2010-11-03 02:50:57 | 外国映画
 「バーバレラ」でロジェ・ヴァディムに愛想を尽かし、アメリカへ戻って出
演した最初の作品、ヴァディムへの反動、J・フォンダのこれからの10年
が暗示されてます。
 この映画に関して言える事は、「いい時に巡り会った」に尽きると思いま
す。
 高3と云うアンバランスで感受性が強く、そして、大人の世界を知らない
(今でも、解りませんが)微妙な時、受験勉強の合間、将来への不安、そ
して当時から強かった人間不信。
 そう云う感情と映画の内容が強烈に共鳴してしまった映画、地元の名
画座で「J・フォンダが出てる」とウキウキしながら観に行き、以後、映画に
嵌まる決定打になった作品、僕の1、000本近いリストの中で、洋画ベス
ト2の作品です。
 この映画は、他人に勧められる映画とは違います、内容は暗く、完璧に
救いは無く、有るのは絶望だけ。
 これを観たのは17の時ですけど、この映画が描写する、「人間は他人の
不幸を眺めて喜び、安心する」は、鉦鼓亭に強烈に刻み込まれました。
 その思いは、今もそれ程変わっていません、むしろ、今の風潮、自分より
上の生活をしてる者を妬み、許せずに、引き摺り下ろし、次の獲物を飽きる
事ない執念で探し回るのを見てると、映画の時代より一層浅ましくなってい
るのでは、とさえ思います。
 人間が永遠に持つ宿命、「欲望とジェラシー」が正義の名の元で合理化
されてハイエナ化していく。「009~ヨミ編」で悪の象徴「ブラック・ゴースト」
の最後のメッセージに納得してしまった僕が(勿論、ラストシーンの姉の台
詞にも共感します、交じり合えない善悪ニ元論ではありますが)、次に辿り
着いた例示が、この映画です。
 舞台は20世紀初頭、大恐慌時代のアメリカ西海岸、1ヶ月以上続く「マラ
ソン・ダンス」と云う競技の中で、出場者達が壊れていくサマを描いてる映
画です。
 映画を観終わって、救いようもない結末に暗然として、映画館を出て来る
のですが、すぐ解るんですよ、映画を観てた自分は、決して競技者と云う
見世物じゃなく、それをポプコーン口に放り込みながら見ていた観客と同じ
だって。それは、「自分は正しい」と思い勝ちな10代には強烈なパンチでし
た。

 こんな映画です。
 http://www.youtube.com/watch?v=612kUnqBM7o&feature=related
 用もないのに、マラソンに付き合って「どっと疲れる」、観終わった後、そ
んな感覚に襲われる映画です。(笑)

(注)「マラソン・ダンス」、大恐慌時代、アメリカで実際に行われていたが、
その「非人間性」が問題となり、景気の回復と共に中止された競技(?)。
 そのルール。 
 1.2時間踊り(身体を揺らし続ける)10分休憩、それが、昼夜問わず
延々と続けられる。
 2.食事は踊りながら摂る。
 3.静止状態、或いは膝が10秒以上地面に着くと失格。(レフリーが絶
えず監視している)
 4.男女のカップルで出場、どちらかが失格となった場合、24時間以内
に新しい相手(出場者の中で)を見つけないと失格。
 5.優勝カップルにのみ賞金が与えられる。
 
 実際はどうだったか解らないけれど、映画では1,000時間(一ヶ月以
上)を越えても、決着は付いてなかった。
 鉦鼓亭、こんな「見世物」やってた国に、人権問題を言われたくない。

(注2)邦題は、気を効かした(笑)タイトルになってますが、
    原作ホレイ・マッコイ「THEY SHOOT HORSES, DON'T THEY?」
    タイトル訳は30年の間、いろんなのが出ました、今のスタンダードは
   「彼らは廃馬を撃つ」、鉦鼓亭の訳は「だって、廃馬は撃ち殺すんだろ?」。


                                  H.21.9.21
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「フォロー・ミー」(ネタバレ)

2010-11-03 01:50:57 | 外国映画
 祝 「午前10時の映画祭」にて上映決定!


 鉦鼓亭の1番好きな洋画、ほんわか温かく、ちょっぴり切ない大人の御伽噺。
 「フォロー・ミー」 1972年 (米)
 監督は「第三の男」、「落ちた偶像」のキャロル・リード。(これが遺作)
 脚本は12年後「アマデウス」でアカデミーを獲るピーター・シェーファー
 音楽は「007」で有名なジョン・バリー
 ギリシャ神話のオルフェウスとユリシーズ(ローマ神話表記で勘弁)のエピソード。
 突然、死の国へ行ってしまったユリシーズ、連れ戻そうと死の国の王ハデスに会い
に行く恋人オルフェウス。
 そんなオルフェウスにハデスが突き付けた条件、
 「太陽を見るまで、オルフェウスは後ろに居るユリシーズを決して見ても喋ってもい
けない、それができたら、お前はユリシーズを再び得ることができるだろう」をヒント
にした物語。
 舞台はロンドン、主人公は3人。
 ロンドンの上流階級に属し一流会計士のチャールズ(M・ジェイストン)、その妻で
ヒッピーのような生活をしながらロンドンに流れ着いたアメリカ人のべリンダ(M・ファ
ロー)、チャールズに雇われる探偵クリストフォルー(トポル)。

 独身貴族だったチャールズが、ふとした切っ掛けでちっちゃなレストランで働きだし
たべリンダと出会う、2人は自分に無いものを相手に感じ、目出度く結婚。
 だが、その結婚生活は上流階級の堅物ジェントルマン、チャールズと自由な空気
の中で生きて来たベリンダの価値観の違いから、急速な失望に変わる。
 やがて窮屈な家庭生活に耐え切れなくなったベリンダは、ロンドンの街をほっつき
歩くようになり、それを浮気と疑念を抱いたチャールズが探偵社に調査を依頼する。

 この映画、良い所が一杯なんですが、やはり、多くの人を魅了したのは、ジョン・バ
リーの柔らかで優しい音楽の中、無言のまま繰り広げられるベリンダとクリストフォル
ーの街歩きのシーンだと思います。
 そのシーンは2つ、クリストフォルーがチャールズに調査第一日目の報告をするシ
ーン、もう一つはベリンダがチャールズに、ここ数日の出来事を告白するシーン。
 このシーンの数々がとても素敵なんです。
 白いスクーターに乗り、白いコート&ハンチングという、やたらに目立ついでたちの
探偵、どこへ行っても変な白い男がくっ付いて来るので最初は気味悪がってたけど、
悪い男でも無さそうだし、自分と同じ仲間のような気がして親近感を抱いてしまうベリ
ンダ。
 家庭に居場所が無いベリンダと、空虚な自分と向き合うのが怖くて何十回と職を転
々としてきたクリストフォルーの楽しい追跡劇が始まります。
 2人は思いつくままロンドンの街を歩き回ります、ハイド・パーク、ウエスト・エンドの
劇場街、パブ、ナショナル・ギャラリー。
 いつしか、それぞれが案内役になって見せたいものを見せるようになっていきます。
 ベーコン通り、胡椒通り、ダチョウ街、プリン横丁、名前だけは楽しい横道の数々、
ハンプトンコートの迷路、キュー・ガーデンの温室。
 決して喋らず一定の距離を置いたまま。
 この映画が好きで、映画に出てくる場所を捜し歩いた日本人も随分居るみたいです、
残念ながら現実は映画のように美しくはないようですが。(笑)

 楽しかったひと時は、ベリンダが事の真相を知る事で終りを告げます。
 「don't touch me!!」
 そう言い捨て、二人の前から姿を消すベリンダ。
 失ったものの大きさに初めて気付くチャールズ、探偵も探偵で、キュー・ガーデンで
見付けたベリンダの心が、まだチャールズに有る事を知ります。
 そして・・・、失踪から数日後。
 テムズ河の遊覧船に白いコートを着たチャールズ、その2つ手前の席には、そ知ら
ぬ顔をしながらも嬉しそうなベリンダの姿が・・・。

 まあ、そんな内容の話なのですが、無言のデート?を描いた作品だから、きっと静
かな映画なんだろうとイメージするかもですが、このシーン以外は登場人物達が実
に良く喋るので結構賑やかなんです、そのポンポン飛び交う台詞がシェークスピアみ
たいな警句交じりで、これが又、面白い。
 「娼婦と客はお互いを軽蔑しながら抱き合う」
 「秘書の居る所、スプーン有り」(これは関係ないか)
 そんな台詞の数々を聞いてるだけでも、楽しいんです。

 閑話休題、良くレビューなんか見るとM・ファローとトポルは大好評なんですが、M・
ジェイストンの評判がイマイチなんですね、でも、あの役は堅物で面白味の無い男と
いう設定なので上手く演れば演る程、魅力の無い男になっちゃう。
 これは同じ監督の「第三の男」で主役ホリー・マーチン(J・コットン~ハリー・ライム
役のO・ウェルズは脇役です)が、やっぱり上手く演じるほど情けない男そのものに
なってしまうのと同じです(実際、J・コットンは一世一代と思える位の好演だった)。
 イギリス出身の同業ヒッチコックに、いつも美味しい所を持っていかれるリード監督
の分身の一つなのかもしれないけど、ちょっと貧乏クジで気の毒だと思ってます。

 長々と書き連ねましたが、もう、何と言うか頭の先から尻尾の先まで大好きな映画
なんです。
 最初の回想シーンの始め、テーマ曲が流れ出し、ハイド・パークの階段をクリストフ
ォルーがこちらに向かって登ってくる、白いハンチングが見え、顔、白いコート、そして
全身が現れる、もう、このシーン見る度にツーンときてしまうんです、恥ずかしながら。
 口下手な日本人にとって、一言も喋らずに恋が出来ると云うのは実に楽(笑)で魅
力的なのか、この映画、日本で一番人気が有ります。
 周防監督が1996年に作った「Shall We ダンス?」は、この映画をヒントにしてま
すね。
 「Shall~」では構図が逆で、夫の行動に不審をもった妻が探偵を雇います、訪ねて
行った探偵社の壁には、ちゃんと「フォロー・ミー」のポスターが貼られてるんです。(笑)
 ただ、探偵を女性にすると夫と恋愛関係になってしまい草刈民代さんの出番が無く
なるので、探偵は柄本明でしたが。
 隠れた名作(佳作)、人気のある映画なんですが何故かDVD化されてません、鉦
鼓亭が大好きな、もう一つのラブコメ?「ウィークエンド・ラブ」もDVD化されてない、関
係ないけど、ブラック・コメディで一番好きな「魚が出てきた日」もDVDない。
 お願いだから、どっかでこの3点DVD化してくれ~~~!!

※原題は「Follow Me! 」、アメリカ以外では、このタイトルで公開されました、アメリカ
でのタイトルは「The Public Eye」、これは私立探偵を意味する「Private Eye」に引っ
掛けたものと言われてます。

・本編とは音楽と画面が一致してないんだけど、これが一番「フォロー・ミー」の雰囲
 気を伝えてると思います。
  http://www.youtube.com/watch?v=DNWGCJCOQ_Y&feature=related

・「フォロー・ミー」16分割
  http://www.youtube.com/watch?v=GvlQ1I0uC1s
                                     H.22.3.13

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「マタンゴ」&東宝特撮映画

2010-11-03 01:45:56 | 邦画
 僕が子供の頃の楽しみは、夏休みと正月に上映される怪獣映画でした。
 TVではウルトラシリーズ第一弾になった「ウルトラQ」が始まり、以後、「ウルトラ
マン」、「ウルトラセブン」と続きます、考えると幼稚だけど幸せな時代だったのかも
しれません。
 特撮映画には熱狂的ファンの方々が大勢いらっしゃるので、迂闊な事は余り言え
ないんですが、大人になっても見られるモノは非常に少ないですね、やっぱり対象
が小学生辺りですから。(あくまでも鉦鼓亭の個人的見解ですよ)
 名作の誉れ高い「ゴジラ」(1954年)にしても、アイデアは抜群だし良い所も一杯
有るんですが、主演の宝田明と河内桃子(特に宝田明さん)の芝居が限度を越えて
下手っぴすぎるので、ドラマの部分で興醒めしてしまうんです、むしろ「空の大怪獣
ラドン」(1956)の滅びの美学や、「モスラ」(1961)のファンタジーに鉦鼓亭は惹
かれます。
 そんな中でも後世に残る作品は有ります、1963年の「マタンゴ」、大映が1966
年に作った「大魔神」、この二作は名作と呼べる域にあると思います。
 どちらも人間のドラマ部分が非常にしっかりしてるので、今観ても充分耐えられる。
 「大魔神」は大映の作なので、ここでは除外。
 「マタンゴ」については後述するとして、もう少し他の映画について書いてみます。

 「海底軍艦」(1963年) 海底軍艦「轟天号」のフォルムが美しい、この軍艦の美
しさは東宝美術の傑作。(デザインは巨匠 小松崎茂)
 (20年以上前に「ゴジラ」が復活した際、「轟天号」と名の付くやつが出て来ました
が、論外!!!!!)
 その轟天号の試運転シーン、地下の秘密ドックに注水が開始される所から海面に
浮上、更に空に飛び上がる一連のシーンは、今、見てもワクワクします。
 音楽も轟天号がムウ帝国攻撃の為、空を駆け抜けるシーンに使われる「海底軍艦
のマーチ」が凄く好きです。(伊福部メロディでは、これと「地球防衛軍のマーチ」、「ゴ
ジラ」が好き)
 あとは藤山陽子(学園ドラマの始祖「青春とはなんだ!」のヒロイン)が見られる。
 でも、それだけですね、評価できるのは、後は酷いもんです。(泣)
 何が酷いって、これ、いくらでも面白い話に出来るのに、これ以上無い程チャチな
話にしてる、何か、一生懸命ツマラナクしてしまったかねにとって怒りの作品です。
 「ガス人間第一号」(1960年)
 変型人間シリーズ最終作、カルトなファンの居る作品、僕はそこまでの名作とは思
わないけど、秀作一歩手前くらいと思ってます。
 これは大人向けの作品で、ドラマが主で特撮が従。
 この映画の魅力は、八千草薫の美しさに尽きます、宝塚から東宝入社間もない頃
の作品だと思いますが、彼女の姿を見るだけでも、この作品の価値はあります。
 鉦鼓亭、「今迄の邦画で誰が一番綺麗だったか」と聞かれたら、躊躇なく、この作
品の八千草さんと答えます。
 他に彼女の下僕役の左卜全(この人は国宝級役者だと思ってる)も良いし、主役の
土屋嘉男も頑張ってるので、ドラマの部分がしっかりしてます。
 「美女と液体人間」(1958年)は見直してガックリでした、ただ、カエルが液体動物
に変化する所は怖いし、液体人間が隙間からドロドロっと侵入してくる所も不気味。
 でも、これも白川由美(二谷英明の奥様)の艶っぽさを楽しむ映画。

 「マタンゴ」 監督 本多猪四郎 出演 久保明、土屋嘉男、水野久美
 肝心のキノコ人間「マタンゴ」の造形がチープ極まりないんですが、そんな事はどう
でもいい位、ドラマで見せる作品、これもドラマが主で特撮は従なんですが、セットの
作り込みは頑張ってます。
 最初に、当時の夏と正月は怪獣シリーズの興行と書きましたが、これも夏休みに公
開された作品で併映は「ハワイの若大将」。(実に素晴らしいカップリング~笑~)
 で、みんな騙された。(笑)
 僕を含めて、一体どれくらいの子供達が怪獣シリーズを想像して映画館に足を運ん
だのか、僕と同世代にはキノコ恐怖症になった人間が多数居ますが、みんな、これ
のお陰。
 僕も20才位までキノコ苦手でしたよ。
 つまり子供向けの映画じゃないんです、大人向けのスリラー、水野久美の「男はみ
んな私が欲しいのよ」なんて台詞もあるし、そんな台詞の意味、昔の小学生には解
りませんよ。
 話はクルーザーで遊びに出た7人が、難破して誰も知らない南の島に漂着する。(
今では使えないシチュ)
 そこは極端に食料が乏しく、食べると身体にキノコが生えてきて、終いには全身キ
ノコになってしまうという毒キノコ「マタンゴ」ばかりの島だった。
 南洋の雨と湿気、更にカビに囲まれ、しだいに理性を失いエゴイズム丸出しになる
人間達、そして一人、また一人と禁断の「マタンゴ」に手を出していく。
 しかし、キノコ人間「マタンゴ」ってオルグは熱心だけど凶暴じゃないんです、むしろ
人間の方がよっぽど凶暴で醜い。
 多分、テーマはそんなとこ、「南洋の自然のジャングルの方が、欲望だらけの都会
の人工的ジャングルよりよほど平和だ」
 だけど、そんな陳腐なテーマを吹き飛ばしてしまう、強烈な面白さがこの映画には
有ります。
 それは極限状態に追い込まれた人間達のエゴイズム、そして、エゴイズムの果て
に突付けられる「人間として飢え死にするか、キノコの化け物になって生きていくか」
という究極の選択。
 更にもう一つ、隠れたテーマだと思うのですが、自分の一番大事な人が「化け物」
になると決まった時、あなたならどうする?「捨てる」か「一緒に化け物になるか」?

 この映画、或る意味、本多版「羅生門」だとも思います。
 只一人、島を脱出し救助された男(久保明)の回想と云う形で語られる話は、黒澤
の「羅生門」で木樵(志村喬)が話す二回目の供述と同じで、人間の口から語られる
話には必ず自己正当化が含まれて本当の真実はわからない。
 意味深なラスト・シーンには二つの解釈が出来ますが、悪い方の解釈をすれば、こ
の話は、より一層ダークさが増します。
 今でも、小学生低学年に見せたらトラウマになる危険が有りますよ。(笑)
 でも、何度も観たい映画じゃない。


                                    H.22.4.13

※空を飛ぶ軍艦、鉦鼓亭の記憶の中では、この海底軍艦「轟天号」が最初、「ヤマト」の
 10年以上前、「ヤマト」の最後部(ロケット部分)と「轟天号」の最後部は似てる気がし
 ないでもない。
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山中貞夫監督のこと

2010-11-03 01:40:56 | 雑記
○陸軍歩兵伍長としてはこれ男子の本懐、申し置く事ナシ。
○日本映画監督協会の一員として一言。
 「人情紙風船」が山中貞雄の遺作ではチトサビシイ。
 負け惜しみに非ず。
○保険の金はそっくり井上金太郎氏にお渡しする事。
○井上さんにはとことん迄御世話をかけて済まんと思います。
 僕のもろもろの借金を(P・C・Lと「なるせ」へ払ッて下さい。)
 多分足りません。そこ、うまく胡麻化しといて戴きます。
○万一余りましたら、協会と前進座で分けて下さい。
○最後に、先輩友人諸氏に一言
 よい映画をこさえて下さい。
                  以上。

                      昭和十三年四月十八日
                           山中貞雄

 上記は、以前一度書いた事のある山中貞雄監督の従軍ノートの最後に書かれ
ていた遺書です。
  中国戦線で国民軍の「黄河決壊作戦」の為、大量の汚水を飲み、結果「腸チフ
ス」に罹り、1938年9月17日29歳の若さで戦病死してしまった映画監督です。
 一部の映画ファン以外、認知もされていない監督です、しかし、知った人達にと
っては「とてつもない」監督です。
 もし生き延びていたら、ハリウッドのB・ワイルダー、英のA・ヒッチコックと並び評
される「映画の職人」になっていたと思います。
 日本の有名監督と云えば黒澤・小津・溝口・成瀬・木下が挙がりますが、タイプ
としては、黒澤に近いと思います。どちらもエンタティーメントに優れた才を持って
いますが、黒澤はダイナミック、アクション系であり、山中はウィットに富んだ悲喜
劇が得意なタイプという印象、どちらもユーモアの感覚が上手いです。
 鉦鼓亭が熱狂的に好きな日本の映画監督は、この二人しか居ません。

 そんな山中監督の残存する貴重な3作品を、NHK-BS2が11月10日(火)・
11日(水)に放映してくれます、もし、もし、御興味のある方は是非録画してみて
下さい。
 お奨めは10日PM1:10~の「丹下左膳余話 百万両の壺」
 (但し、どのフィルムでやるのか、Fセンターが保存してるもの、或いはそれを元
にしたDVD版ならいいのだけど、それ以外だとかなり聞き取りにくい)
 元々の「丹下左膳」はハードボイルドな話なのですが、これは、それをパロディー
にしてしまった作品、お陰で原作者 林不忘の怒りを買い、原作者名を外し、「余
話」を付けて公開されたものです。
 しかし、これが傑作だったので、以後、どちらかと云うと、このパロディー版が本
家より人気が有るような感じです。
 平成になってからリメイクされた豊川悦司版、中村獅童版、いずれも本家でなく、
このパロディー版でした。
 今の早いリズムでパッ・パッ・パッと見せていく訳ではありません、戦前の映画
です。
 でもね、それが面白いんです。例えば江戸末期・明治に作られた古典落語を今
聞いても面白いのと同じです。
 のんびり、茶でもすすりながら古典落語を聞く感じで見るのがいいと思います、
ゆったり、のんびりしたリズムに乗ってしまえば極楽です。
 (老婆心ながら一言)
 このフィルム、冒頭の3分間が特に聞き取りにくい。(DVDは、かなり改善されて
ますけど)
 そこだけ、チクッと説明します。
 原作は2本ある「丹下左膳」モノから「こけ猿の壺」の巻。
 映画の冒頭は、その「こけ猿の壺」のいわれを謡のように朗々と読み上げていき
ます、そこの前半が特に解り難い。
 そこで言ってる事を要約すれば、
 「柳生藩主のご先祖が、軍資金百万両を隠した地図を記し、それを「こけ猿の壺」
に埋め込んだ」と云う話。
 物語は、現藩主のボンクラ次男を江戸の名門道場の婿養子に押し込んだ際、そ
の秘密を知らずに「こけ猿の壺」を引き出物に持たせてしまった事から起こる騒動。
 名門道場のお嬢さまは、「こんな汚い壺、引き出物として飾っとけないわ」と屑屋
に二束三文で売ってしまったから、さあ大変!
 (ちなみに、平成版では屑屋が廃品回収業になってたらしい~笑~)

 残りの2本。
 「河内山宗俊」 DVD化にあたって音も映像も、かなり改善されたけど、やっぱり
           一番落ちる。
           伝説の大女優・原節子の残存する一番若い映像、15才だったとか。
 「人情紙風船」 出来の「人情」、好きな「丹下」。
           暗く、救いのない話です、でも、最後まで引きずり込んでいく名人技。
           ちょっと中・上級者向け。(笑)

 最後に伝説か真実か解りかねるエピソード。
 山中監督の顔は異様に長い、監督が出征した後、仲間達が「あいつの顎まで届
く帽子(のアゴ紐)はないから、帰されるじゃないか」と噂してたそうです。
 所が、ホントに不適格とされて(理由は不明~それに、まだ支那事変後だったか
ら、軍にも余裕が有った)監督を含む3人が帰される事になりました。
 それぞれの行先へ帰る為、駅前の旅館に3人が泊まります、その内の一人が「な
んの面目あって、故郷に帰るのか」(それぞれ、日の丸の小旗に送られて来てるの
だから~山中は「送り、送られる悲劇、いや、これは喜劇か」と手帖に書いてます)
と自殺を図ります、それを押し止どめる二人。
 そうこうしてるうち、「俺もだ」、「俺だって」になり、連隊本部に連絡、やって来た御
偉方が「さすが、これこそ日本男児である」と感激して、連隊に連れ戻しちゃったそう
です。
 嗚呼。

 これに対して黒澤。
 生まれは、ほんの少しだけ山中が早い、しかし映画界では、PCLに入社しペーペー
の助監督としてコキ使われてた同時期、京都からPCLに移籍して来た山中は、20代
にして既に名監督だった。
 だが、黒澤が受けた徴兵検査では、担当者が偶然にも黒澤の父(日本陸軍草創期
の軍人)の「かつての部下」だった為、丙種合格に回され戦争に行かずにすんだ。
 鉦鼓亭、来世も前世も、どうでもいいし、運命論者じゃないし、占い嫌い(そんだけ弱
いんです、笑い飛ばす余裕がない~)。
 でも、非常時に於いて、天は同じ才能を二人欲しがらない気はしています。

                                  H.21.11.7
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