セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「バーフバリ」シヴァガミ この宣誓を法と心得よ!

2019-03-30 23:41:39 | 映画日記/映画雑記
 映画史に残るべき創作神話であり一大叙事詩でもあり、傑出したエンタティーメント。
 宇多丸さんの仰るとおり「「日本に「七人の侍」があれば、インドに「バーフバリ」あり」は正鵠を得た評価だと思います。(僕は余り「伝説誕生」は評価してないけど)
 僕の現時点での生涯ベストは「七人の侍」と「さらば我が愛、覇王別姫」、その「七人の侍」が長い間ベースに成ってる僕の視点から観ると、この作品の見過ごされがちな重要ポイントはシヴァガミを演じたラムヤ・クリシュナ。 
 国母シヴァガミを「七人の侍」に置き換えれば、彼女の立ち位置は勘兵衛(志村喬)なんですよ。
 勿論、全然、違う物語だから当然、役割も違います、でも、勘兵衛が扇の要となってデンと座ってるから菊千代(三船敏郎)を含む六人の侍や百姓達が存分に動き回り、演技も出来るんです。全役者の(敵さえも)演技をじっと受け止め重しとなる演技、もし、「バーフバリ」でシヴァガミにこれができなかったら、この作品、バーフもバーラも、カッタッパ、テーヴァセーナは勿論、ビッジャラテーバさえ軽石の如き浮わついたモノになっていたかもしれません、これだけの外連を利かせた作品ですから。
 僕がバーフバリを演じたプラバースと共にシヴァガミを演じたラムヤ・クリュシナを同等に評価するのは、そこが所以なのです。
 「七人の侍」で志村喬と三船敏郎、どちらを評価するのか?というようなモンですが。(汗)

 シヴァガミ、前編「伝説誕生」で見せていた「誇り高く聡明で、公明正大」なマヒシュマティ王国の偉大なる国母、それが「王の凱旋」では、その公明正大さの為に甥のバーフバリを次期国王に任命する、それは正しい選択だけれど、それ故、実子バラーラデーヴァに負い目を感じてしまい、そこをバーラと夫ビッジャラデーバに利用されてしまう悲劇。
 シヴァガミ演じるラムヤの的確な演技が、この作品の本当の「縁の下の力持ち」になっていて、そこが素晴らしいと僕は思いました。「王の凱旋」だけを観てると、ちょっと、そこが解り難いかもしれません、シヴァガミは、只、目を見開いて愚かな選択をしてしまうオバハンに見えてしまう恐れがあります。
 でも、僕は感じるんです、長〜い回想シーンが終わりマヘンドラが覚醒してバーラの統べるマヒシュマティ王国に攻め込む前後編を通じてのクライマックス、なのに前編のカーラケーヤとの決戦に較べて何処か軽いと。それは、もしかしたらシヴァガミが既に居ない世界で、テーヴァセーナには、まだ、シヴァガミ程のカリスマが無いからではと。
 実際、インド映画に不足しがちな「内面の葛藤」が一番的確に描けているのはシヴァガミだと思っています。バーフは神の末裔だから詮索無用、バーラの内面は先天、後天、イマイチどうにでも捉えられるし、カッタッパはビッチャラデーバへの啖呵があって漸く理屈が通る、テーヴァセーナは一直線。

 まぁ、こんな脳内遊びが出来るのも「バーフバリ」という作品の強靭さ故、ご興味のある方は是非、映画館でこの作品を体験なさって下さい、嵌れば貴重な体験になると思います。
 怒られる案件ですが、この作品は映画館で観てナンボの作品。

※ツインさんのサービス精神には感服だけど、「王の凱旋」完全版の円盤化は大トリなのでしょうか。(涙)
※関係ないけど、ここ3年で僕が最も感銘を受けた「タレンタイム 優しい歌」の円盤化も絶望的、マレーシア映画というだけで。観た人達の評価は抜群なんだから何とかTSUTAYAの発掘良品でいいからソフト化してほしい。
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映画日記 2019年(1)

2019-03-19 22:42:40 | 映画日記/映画雑記
 「家へ帰ろう」(「El ultimo traje」、2017年、スペイン・アルゼンチン)
   監督 パブロ・ソラルス
   脚本 パブロ・ソラルス
   撮影 フアン・カルロス・ゴメス
   音楽 フェデリコ・フシド
   出演 ミゲル・アンヘル・ソラ
      アンヘラ・モリーナ
      オルガ・ボラズ

 ブエノスアイレスに住む元仕立て屋で88歳になるアブラハム、彼は子供達に遺産を分け自らは望まない施設に入る事となった。
 その晩、彼は手持ちの有り金と仕立てた洋服を持ち家を出た、本当の家へ帰る為に・・・

  予告編 https://www.youtube.com/watch?v=LJ9mdsOdq5E

 前半部はまあまあ、後半に進むに従ってリアリティ・ラインが崩壊。
 ロードムービィは、それぞれの場所での出来事が大事なんだけど、パリから先は物語をゴールに進める為だけのイベントで余りに安易、この安直さが災となってラストの感動値が上がりきらない。
 また、道中を通じて主人公が成長や本質に気付いたりしていくものだけど、老年という事もあって、それも殆ど無い。(ドイツ女性に対して幾らかあったけど)
 一応、ラストは涙は出た、でも、それだけで残るものは殆ど有りませんでした。
 題材は面白くなる話だと思うのですが、よくある「ユダヤ人とナチス」ものの中でも出来の悪い作品じゃないでしょうか。(僕にとって)

※戦後、恩人に何かを届けるって、幾つも似た作品が有った気がする。
※シリアスで暗めの作品なのにご都合主義に走ったら台無しは必然。(この作品、全てがラストの為の舞台装置にしか過ぎない)

 H31.2.23
 銀座シネスイッチ

 「ラッキー」(「LUCKY」、2017年、米)
   監督 ジョン・キャロル・リンチ
   脚本 ローガン・スパークス  ドラゴ・スモンジャ
   撮影 ティム・サーステッド
   音楽 エルビス・キーン
   出演 ハリー・ディーン・スタントン
      デビッド・リンチ
      ロリー・リビングストーン

 90歳のラッキーは健康だが一人暮らし、繰り返される単調な日々のなか、やがて迎えるであろう「死」の恐怖を感じている・・・。

  予告編 https://www.youtube.com/watch?v=EFiyUKIt2mU

 そんなに面白くなかったし魅力ある作品とは思えませんでした、まぁ、悪い作品でもないのだけれど。
 老年だから動きは当然鈍く、日々のスケッチのような作品で展開もノンビリしてるし、人生の残照にどれだけ共感できるかで受け取り方に違いが出てくる気がします。

 子供の時から生涯に渡って水と油だった父が1月に亡くなったばかりなので、いろいろ思う所はありました。
 特にラッキーがハーモニカを吹くシーン、父も92歳だったから映画の主人公とほぼ同世代、戦地で覚えたらしいハーモニカを子供の時、何回か聞いたのを思い出していました。
 僕の父は10年以上アルツハイマーが進行していって何も解らないまま亡くなったけど(多分)、ラッキーのようにかくしゃくと覚醒してるより、全て?忘れるというのは或る意味良いのかもしれない、その分、家族は大変だけどね。
 最後の3年、施設に入って、毎日、顔を合わせなくなって、漸く、僕も「憎む」事に疲れた。10日に一度、ヨーグルトを渡しに行って少し喋って・・・、これで僕も長男の務めから解放されたのかな。

 ♪歳をとるのはステキなことです そうじゃないですか
  忘れっぽいのはステキなことです そうじゃないですか♪ by中島みゆき「傾斜」
  ※若い時間は瞬く間に過ぎ、やがて白秋、玄冬を迎える、どんなに辛い事も悲しい事も、忘れてしまえるなら、それは幸せなことかも、という歌。(これ、20代半ばで書いた歌詞なんだよね、還暦過ぎの身で見れば若い所も有るけど「親子の行き違い」を40年前に鋭く突いてるのも事実)

※父との経験から。呆けると重い持病がない限りストレスも忘れてしまうので身体は健康?になるみたい。

 H31.3.17
 DVD
 
コメント (2)
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「いつだってやめられる〜」三部作

2019-03-13 01:04:20 | 映画感想
 シリーズもので単独でも観られるけど三つで一つの物語、しかも軽い円環構造になってるから1→2→3と観るべき。
 但し、三本とも75点レベル(僕基準)の出来だから、そのレベルで5時間半見続けられる方に推薦します。(3作、トータルの評価は80点くらい)
 黒澤監督の「七人の侍」、数人のブロフェショナルがチームを組んで、というプロットを犯罪に使って成功したのが「オーシャンズ」シリーズで、イタリアにも「黄金の七人」というヒット・シリーズが昔ありました、まぁ、その現代版のような作品だけど、如何にもイタリアな感じのヌケかたが楽しい作品でした。
 ちょっと、各研究員たちの専門性の発揮が回を追うごとに希薄になってくきらいはあるし、3ではただ居るだけって感じの研究員もチラホラで活かしきれてない感もするけど、シャープさはなくとも伏線回収は巧みだし、物語や可笑しさのレベルはシリーズ通じて落としていないのでガッカリ感は殆ど無いと思います。

 まだ、もう少し続きが観たい気にさせる作品でした。
 味方も敵も、皆、優秀な研究員という設定は面白い。でも、研究員たちを悪行に堕とした諸悪の根源みたいな俗物教授やエライさんに何の報いが無いのも、頑張った研究員たちに相応しい報酬が無かったのもカタルシスに欠ける気がする、だから、長時間の割にスカッと感が余りしない、そこを「未来への希望」で補うのがイタリア式なのかな、一言でいえば残尿感。(笑)
 なんか欠点ばかり書いてる気がしてきたので、良かった所も。
 2から出てくるコレッティ警部、決して善人ではなさそうだけどキュートな人でした、検索して中の人の画像見たら撮り方によってはイタリアのメラニー・ロラン(+ルーニー・マーラ÷2)て感じ。制服萌えは20代で卒業しましたが、2のラスト、肩章付きの正装姿に萌えました(汗)、バットなシーンだけどね。
 とにかく、何が良かったって1にグレタ・スカラーノ、2にグレタ・スカラーノ、見続けられた主因。(笑)
 最後にイタリア映画と言えば無駄にオッパイというイメージが有るのですが、年初に観た「愛と銃弾」も本シリーズも、そういうシーン皆無でした、少し残念(笑)、3では無駄に男たちの全裸は有った、そっちが趣味なんだろうか。

 「いつだってやめられる 七人の危ない教授たち」(「SMETTO QUANDO VOGLIO」、2014年、伊)
   監督 シドニー・シビリア
   原案 シドニー・シビリア  ヴァレリオ・アッタナージオ
   脚本 シドニー・シビリア  ヴァレリオ・アッタナージオ   アンドレア・ガレッロ
   撮影 ヴラダン・ラドヴィッチ
   音楽 アンドレア・ファッリ
   出演 エドアルド・レナ (ズィンニ 神経生物学・有機分子学)
       ステファーノ・フレージ (アルベルト 計算化学)
       リベロ・デ・リェンツォ (バルトロメオ 数理経済学)
       パオロ・カラブレージ (アルトゥーロ 考古学)
       ピエトロ・セルモンティ (アンドレア 人類生物学)
       ヴァレリオ・アブレア (マッティア ラテン言語学)
       ロレンツォ・ラヴィア (ジョルシオ ラテン言語学)
       ネーリ・マルコレ (ムレーナ 流体力学)
       ヴァレリア・ソラリーノ (ジュリア ズィンニの妻 薬物中毒患者リハビリ施設のカウンセラーとして勤務中)
        

 学位を三つ持ち有能な神経生物学者であるピエトロ・ズィンニは科学予算削減のあおりを受け大学を解雇、正式採用の知らせを待つ妻ジュリアに本当の事が言えず途方にくれる。
 ひょんな事から2ユーロで作れる合法ドラッグが100ユーロで密売されてるのを知ったズィンニは、同じようにリストラされどん底生活をしている有能な学者たちを集め製造、販売する事を思い付く・・・。

  予告編 https://www.youtube.com/watch?v=JVCNeIWskgI

   H31.3.2 DVD


 「いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち」(「SMETTO QUANDO VOGLIO: MASTERCLASS」、2017年、伊)
   監督 シドニー・シビリア
   原案 シドニー・シビリア   フランチェスカ・マニエーリ   ルイジ・ディ・カプア
   脚本 シドニー・シビリア   フランチェスカ・マニエーリ   ルイジ・ディ・カプア
   撮影 ヴラダン・ラドヴィッチ
   音楽 ミケーレ・ブラガ
   出演 前作と同じ
       グレタ・スカラーノ (コレッティ警部)
       ジャンパオロ・モレッリ  (ルーチョ 機械工学)
       マルコ・ポニーニ (ジュリオ 解剖学)
       ロザリオ・リスマ (ヴィットリオ 教会法)
       ルイジ・ロ・カーショ (ヴァルテル 無機化学)

 1年後、皆の罪を被り強盗、恐喝、合法ドラッグ密売の罪で服役中のズィンニ、たくましく刑務所内で化学の講師をして身重の妻ジュリアに仕送りする日々、しかし、ジュリアからは離婚届のサインを求められている。
 そんな或る日、合法ドラッグの蔓延に悩むコレッティ警部がやって来て、30種類の合法ドラッグの成分分析から製造元をそれぞれ割り出せば罪科抹消するという取引を持ちかけられる。
 仮出所した彼は「一度くらい世の中の為に仕事しようじゃないか」と仲間を説得、新たに三人をスカウトしチームを再結成・・・。

  予告編 https://www.youtube.com/watch?v=Z02C9o0GMcw

   H31.3.10 DVD


 「いつだってやめられる 闘う名誉教授たち」(「SMETTO QUANDO VOGLIO- AD HONOREM」、2017年、伊)
   監督 シドニー・シビリア
   原案 シドニー・シビリア  フランチェスカ・マニエーリ  ルイジ・ディ・カプア
   脚本 シドニー・シビリア  フランチェスカ・マニエーリ  ルイジ・ディ・カプア
   撮影 ブラダン・ラドビッチ
   音楽 ミケーレ・ブラガ
   出演 前作と同じ
       ペッペ・バーラ (シネヴラ 無機化学 ヴァルテルの恋人)

 合法ドラッグを追っていくうち見つけた最強の合法ドラッグ「sopox」、しかし、製造者にとってそれは目的ではなく手段だった。
 化学方程式からそれに気付いたズィンニだが誰も信じてくれない、彼は再び監獄の中・・・。

  予告編 https://www.youtube.com/watch?v=heViVa47t-s

   H31.3.11 DVD


※まぁ、敵対勢力がマフィアだったら、何処にいても全員皆殺しでしたね。(笑)
※広川太一郎さんが存命だったら・・・。
 
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