セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「三悪人」 (サイレント映画)

2022-12-18 09:19:29 | 映画感想
 「三悪人」(「3 Bad Men」、1926年、米)
   監督 ジョン・フォード
   脚本 ジョン・ストーン
      マルコム・スチュアート・ボイラン
      ラルフ・スペンス
   原作 ハーマン・ホイッテイカー
   撮影 ジョージ・シュナイダーマン
   出演 ジョージ・オブライエン
      オリーヴ・ボーデン
      ルー・テリジェン  J・ファレル・マクドナルド
      トム・サンチ  フランク・カンポー 

 1913年に発表されたピーター・B・カインの小説「三人の名付親」、サイレント時代から幾度も映画化されJ・フォード自身も1948年にJ・ウェイン主演で映画化している、1926年制作の本作は、その「三人の名付親」のバリエーションと言っていいと思う。(三人の名前が付いた赤ん坊は最後に出て来るだけ〜三人が赤ん坊を守る話じゃなく、未来のママを命懸けて守る話)

 1877年、西部開拓が始まった頃、グラント大統領はダコダ準州にあるスー族の広大な土地を取り上げ国民、移民者にその土地を早い者勝ちの掴み取りにさせる政令を発布した、そのLand Rush(ランドラッシュ)の行われる日を目指して各地からダコタへ凄まじい人々が土地と金鉱を求めてやって来ていた、幌馬車の車輪が外れ修復に手間取ってる間に車列から取り残され単独行となったカールトン少佐と娘リーへ馬泥棒達が襲い掛かる、同じく目を付けていたお尋ね者の三悪人ブル、スペード、マイクがその襲撃に割って入るが既に少佐は死に男装の娘リーだけが残されていた、三悪人は助けてくれたと勘違いしたリーに頼られ、満更でもない三人は目的地までの護衛とLand Rushの手伝いまでも引き受ける・・・。

 黒澤明の「隠し砦の三悪人」の元ネタと言ってもいいでしょう、以前、「隠し砦の〜」の記事に書いたように、あの作品は「黒澤明の「三悪人」」なんですね、だから、三悪人は誰かという問いの答えを本作「三悪人」に当てはめれば真壁六郎太、太平、又七だけど、やっぱりそれは半分正解、半分外れで黒澤明が作った(J・フォードの)「三悪人」と言うのが正解なのだと思います。
 ブルが三船敏郎、コメディリリーフのスペード、マイクが太平、又七、気の強いリーが雪姫、更にダコタの土地には金鉱がある(この金鉱の設定、最後はウヤムヤになってるのはご愛嬌)、田所兵衛は居ないけど。
 こう考えるとアメリカのJ・フォードから日本の黒澤明がヒントを貰い、今度はそれをヒントとして再びアメリカのG・ルーカスが「スターウォーズ」としてお里帰りを果たす、中々、壮大な転生物語になっています(笑)。
 この三悪人には聖書の「東方からの三賢人」の意味も有るそうですが、それはさて置き流石にJ・フォード、お話も面白く、切なく最後は涙がポロリだしG・スナイダーマンのカメラが映し出すLand Rushの迫力ある映像は「ベン・ハー」(W・ワイラー監督)の戦車戦より凄まじく、同じフォード監督の「駅馬車」襲撃よりもスケールが大きい(ロンドンで黒澤さんがフォード監督に会った時、「馬のスピード感をどうやって出すのか」聞いたらウィンクしながら「解らんようにコマを落とすんだよ」と答えたとか)、まぁ、このサイレントの時代はあからさまにコマ落としがバレバレだけど、やはり、馬の疾走感は目を見張るものが有ります。
 物語は中盤以降、三人組がリーの婿探しをしたり、リーとダン(実は、この人が主役(笑))という男とのロマンス、三悪人と悪徳保安官一味との確執から対決へと、「隠し砦の三悪人」とは違う方向へ進みますが、それも見応えあるものでした。
 先住民スー族にしてみれば、たまったものじゃないけど、1926年のアメリカ映画として見れば中々の秀作だと僕は思います。(ちょっと、youtubeにupされてるモノとはDVDは音楽が違う気がする、DVD版の音楽は平板で面白くもなんともない)

 「三悪人」(日本語字幕なし) https://www.youtube.com/watch?v=LytEexTOriA
  1:06分辺りから始まるLand Rushだけでも見て損は無いと思います。(途中、馬車が壊れて悲嘆に暮れる老夫婦が笑顔になるのは
  エンコした所の土が肥沃だったから)

   長かりし 浮世の闇よ 打ち捨てん
     旅の終わりの 晴れわたる空

※「七人の侍」の山塞焼き討ちって、本作の教会焼き討ちがヒントなのかも。
 火を付けるのは悪徳保安官一味で違うけど中にブルの妹が居たりシチュエーションが似てる気がする、そういえば六郎太と妹も死に別れではある。
※あと、1:15:30辺りの平原に保安官一味が姿を現す所なんかも、野武士達が村を襲おうと稜線に姿を現すシーン、巻頭の野武士達登場シーンに似てると言えば似てる気もするし、イカサマ師のスペードが最期、カードを一枚投げ捨てるのも久蔵を思い起こしてしまう。
※しつこく似てると言えば(汗)、山中貞雄監督の「河内山宗俊」の終わりの方にも似てる。

 R4.12.17
 DVD(日本語字幕付き)
 

 
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「RRR」

2022-12-03 14:04:56 | 映画感想
 「RRR」(「RRR」、2022年、印)
   監督 S・S・ラージャマウリ
   脚本 S・S・ラージャマウリ
      サーイ・マーダヴ・ブッラ
   原案 K・V・ヴィジャエーンドラ・プラサード
   撮影 K・K・センティル・クマール
   編集 A・スリーカル・プラサード
   音楽 M・M・キーラヴァーニ
   出演 N・T・ラーマ・ラオ・ジュニア
      ラーム・チャラン
      アジャイ・デーヴガン  アーリヤー・バット
      レイ・スティーヴンソン  アリソン・ドゥーディ
      オリヴィア・モリス

 1920年、大英帝国の弾圧下にあるインド、2枚のコインで総督夫妻に妹を連れ去られたビーム、胸底に大志を隠し警察組織で出世を狙うラーマ、地元太守の忠告から総督府をビームの襲撃から守るよう幹部昇進と引き換えに命令されるラーマ、そんな二人が或る出来事を切っ掛けお互いの素性を知らぬまま兄弟のように親しくなる・・・。

  予告編 https://www.youtube.com/watch?v=c8wjdKMst18

 名作「バーフバリ」監督S・S・ラージャマウリの新作。
 何か自作の二番煎じを感じてしまいました、この監督の持ち味は「外連(けれん)」なのでしょう、でも外連はスタンダードがあってこそ生きる、「毎回、外連はクドイ」と僕は思います、本作も外連好きの方達には大好評のようですが飽きられるのも早いんじゃないかな、僕はもう飽きた。(汗)
 極端な荒唐無稽を超絶なスケールと濃密な物語で創り出す、これは「バーフバリ」という神話だから面白いのであって1920年頃のインドという実在する時間に前作のような神の化身を落とし込まれたら素直に反応出来ない。マカロニ・ウェスタンのように弾の尽きない小銃や弓矢、その癖、既に実在する機関銃は出てこない、重ねて書きますが「バーフバリ」は擬似神話だから有り得ない事もエンタティメントとして成立出来るのです、観ていて確かに面白くはある、でも3時間、何処かで醒めてる自分も居ました。
 「バーフバリ」を未見の人には面白いかもしれませんが、僕は「バーフバリ 王の凱旋」完全版の方が遥かに面白かったです。
 S・S・ラージャマウリ監督、既にパターン化して自縄自縛に陥ってしまっている、貴方の才能はまだ有ると信じたい。

  天竺の 益荒雄ぶりや すさまじき
    運慶呼びて しばしとどめん

※「RRR」、火(fire)の化神のr、水(water)の化神のr、ここまでは間違いないけど3つ目のrは物語(story)だったか、ちょっと自信なし。(汗)
※二人は実在するインドの英雄、ただ史実では二人に面識はないという、その二人がもし出会っていたらという着想で作られた作品だそうです。

 R4.12.2
  ユナイテッドシネマ豊島園 IMAX2D
コメント (2)
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