セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「日の名残り」

2019-01-16 14:29:46 | 映画感想
 「日の名残り」(「The Remains of the Day」、1993年、米)
   監督 ジェームズ・アイヴォリー
   原作 カズオ・イシグロ
   脚本 ルース・プラヴァー・ジャブヴァーラ
   撮影 トニー・ピアース・ロバーツ
   美術 ルチアーナ・アリジ
   衣裳デザイン ジェニー・ビーヴァン ジョン・ブライト
   音楽 リチャード・ロビンス
   出演 アンソニー・ホプキンス
      エマ・トンプソン
      ジェームズ・フォックス  クリストファー・リーヴ
      ピーター・ヴォーン  ヒュー・グラント

 1956年、曰く付きの物件として寂れていたダーリントンホールに新しい主がやって来た。
 スタッフの多くが四散し人手不足に悩む執事スティーヴンス、そんな時、ダーリントンホールが華やかだった全盛期に女中頭として共に働き有能だったミセス・ベンから手紙が来る・・・。

 ノーベル賞作家カズオ・イシグロの代表作を映画化したもの。
 演技、特にA・ホプキンス、E・トンプソンの主演二人、撮影、美術、演出、何れも格調高く素晴らしい。
 でも、解るのは其処までなんですよ、僕にノーベル文学賞作品は難しかった。(涙)
 原作の小論を幾つか読んで、まぁ、当たってたのは執事を親子で勤めた二人が大英帝国の繁栄と没落を象徴してるんだろうな、くらい。(笑)
 原作の評論を読むと、ほぼ、黒澤監督の「羅生門」的作品と思いました、あの映画から二回目の杣売りの証言を抜いて結末へ持っていった感じ、二回目の証言の要素も最小限有るけど。
 つまり、繰り返される回想シーンは語り手スティーヴンスによる美化された世界。
 小説は、「信頼出来ない語り手」による回想と現在の現実を描き、意識的に語られていない事の裏にある実際を推測させ(※1)、そこに見たいものしか見れない、そうありたいという願望と現実の相反を装飾なしに語れない人間というものの弱さを描きながら、それでも人は前に進むしかないのだという事を書いたものだとか。
 高貴で優れた知性と品格の持ち主であるご主人様に貢献する最良の執事である自分、それを誇りとして生きてきた人生。
 が、現実はヴェルサイユ条約によるドイツの疲弊に同情、その理想的宥和主義をナチスに利用された貴族で、結果としてイギリスを大戦に導いた親独派として非難と不名誉を背負ったまま世を去っている。その親ナチスのご主人様に献身した半生を隠すように生きてる現在。
 その相克が、やがてアイデンティティ・クライシスを起こす、映画でその部分を表現してるのは旅先の宿で戦死した宿屋夫婦の息子の写真と一夜を共にするシーンじゃないでしょうか。
 ラストの迷い込んだ鳥を解放する意味は、この束縛に満ちた館(古いイギリス)を出て自由に生きたミス・ケントンを羨むとともに、自分の罪を解放し新しい主人(アメリカ人)の元で生きていく決意を表しているのでしょう。
 この物語の終わりは僕の生まれた1956年、産業革命以来、長く続いたイギリスの栄光がスエズ動乱(第2次中東戦争)によって幕を降ろした年だとか。

※1 ダーリントン卿は自殺、しかし、映画では「お亡くなりになる前は塞ぎがちでした」としか言ってない、肝心な事を匂わせるだけでボカし、それを饒舌の中に埋没させる、小説はこの手法をフルに使ってるそうで映画も其処は弁えてる。
 映画を観て、「話は解るけど掴み所が無い感じ」を受け、隔靴掻痒感が残ったのは、そういう手法の原作だったからかもしれません。
※スティーヴンスとケントンが当時お互いに思い合ってたのは事実、現在のスティーヴンスにミセス・ベン(ケントン)から来た手紙の全貌は出てたっけ?彼は読みたい所だけ記憶して己の願望と妄想に突き動かされて旅に出た、原作ではミセス・ベンの結婚生活は不幸でなかったし、復職の気持ちも無い。(再会した日の記述だけが無い)
 「孫が生まれるのよ」、映画では復職を諦めた理由で、現実と願望は交わらない意味になってますが、小説は普通に喜びとして発せられる台詞、それによって自分の思いが願望に過ぎなかったと思い知る。
※スエズ動乱〉スエズ運河の権益奪取を狙うエジプトに対し英・仏がイスラエルを使って阻止しようと引き起こした戦争。同時期に起こったハンガリー動乱で第三世界を味方に付けソ連包囲網を作ろうとしていた米だが、スエズ動乱によって第三世界がソ連側に付いてしまい頓挫、激怒。が、これを逆に利用し米は英・仏の力を削ぐ為、国連安保理でソ連側に付き、結局、英・仏がスエズ運河の権益をエジプトに渡す事となって、以後、パックス・アメリカーナの時代になる、本作で新しい主人がアメリカ人と言うのはその意味で、それが1956年。
※J・フォックス、キャスト見た時、E・フォックス(「ジャッカルの日」)と関係あるのかなと思ってました。スクリーンで初めて見た瞬間、「あ、兄弟か」と。目から頬骨の線がそっくり。(後で調べたら兄、兄さんの方が品があるかも、尤も、最近のエドワード見てないから何とも、歳相応に貫禄付いただろうしね)
※今回は、ちょっと解らない所が多かったので色々、調べてしまいました、で、吃驚。(笑)

 H31.1.14
 TOHOシネマズ 日本橋
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初雪

2019-01-12 11:05:40 | 雑記
 パラッパラと来ましたね

  平静と 華のお江戸も 年明けて
     かわらぬ日々に 降るや初雪
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「異人たちとの夏」

2019-01-06 01:45:22 | 映画感想
 「異人たちとの夏」(1988年、日本)
   監督 大林宣彦
   原作 山田太一
   脚本 市川森一
   撮影 阪本善尚
   音楽 篠崎正嗣
   出演 風間杜夫
      片岡鶴太郎
      秋吉久美子
      名取裕子
      永島敏行

  脚本家 原田英雄が体験したひと夏の不思議な物語

 個人的には中々、良かったです。
 大林版「牡丹灯籠」で、そこに「見るなの禁忌」である「鶴の恩返し」(を「鶴の仇返し」にした)を入れたのかな、結末は大林風味のファンタジーとノスタルジーをまぶしたオリジナル。
 只、「牡丹灯籠」と言っても、あくまでサイドストーリーの位置付け、メインは英雄の死んだ父母との再会と別れなんですが、その意味がイマイチ解らない。(「盆帰り」のイメージなのは解るけど)
 新三郎が日に日に衰弱していくのはお露のお陰なのだから、英雄に死相が表れるのはケイが原因で死んだ父母じゃない。
 では、何の為に死んだ父母が出て来て話のメインに位置してるんだろう?
 守護霊なのかと思ったけど父母はケイの事、匂わせもしない、まぁ、ケイの方が「浅草に行くな」と言ってるから守護霊的意味を持たせてるのかもしれないけど、ケイを残して自分たちは消えちゃうし、天から護ってると言うなら、この世の作品、何とでも言い訳が付いちゃいます。
 監督自身が親孝行出来なかった贖罪感を映画で表現し償おうとしたのか、とまで邪推してしまう、それならプライベート・フィルムじゃねえかと。(「親孝行はしておくもんだよ、というなら修身の教科書だし)
 この映画、嫌いじゃないけど、僕の能力では消化不良を起こしてるし、苦手なノスタルジーも有って素直になれない。ファンタジーとしては面白いのですが。

 役者陣では、片岡鶴太郎がいけない、所作、動きは良いのだけど、「江戸っ子」の口跡に「如何にも」の作為を感じてしまいます、例えて言えば「江戸弁」のテキストを聞くようで生味がない。
 秋吉久美子の方が、よっぽど東京下町のサバけた女房を自然に出してます。
 風間杜夫の演技も芝居してますって感じで何だかなと、残念でした。

 スタッフ・キャストが一所懸命に作った作品に点数を付けるのは好きじゃないけど、僕の中では70点という感じの作品でした。

※僕も「牡丹灯籠」を脚色した劇を書きたいと何年も思ってるんですよ。(笑)
 小学生の時、親戚の家でNHKの白黒ドラマを見て、僕を幽霊恐怖症にした恩返しとして。(汗)
※片岡鶴太郎さん、顔が四角いから、余計に寅さんの真似としか見えない。渥美清さんの口跡は自然だけど。
※浅草「今半 別館」のすき焼きは確かに美味しい。去年、娘の合格・就職祝いに、お世話になった親族招いて食事したけど、ヘソクリ半分吹っ飛んで、直後、電動自転車壊れて残り半分持っていかれスッカラカンになった。(涙)

   (替え歌)

  恋しくば 尋ね来てみよ 三階に 愛しきひとも 恨み積もれば

 H31.1.3
 DVD

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2018年 ベスト16

2019-01-02 00:00:50 | ベスト10
  決算編 その2

  (2018年)
    劇場 20本 DVD 50本
    外国映画 62本(3本) 邦画 8本
    初見 67本 再見 3本
    新作 24本(3本) 旧作 46本
    ※( )内は再見

  2018年 マイ・ベスト16
   ☆新作

 1. 「バーフバリ 王の凱旋」IMAX版 ☆
      映画史に残るべき大スケールのスペクタル擬似神話、楽曲も素晴らしい
 2. 「心と体と」 ☆
      現実と幻想を織り交ぜ、一人の女性の始めの一歩を繊細に描いてた
 3. 「ダンガル きっと、つよくなる」 ☆
      スポ根映画の秀作、試合シーンのリアリティが凄い
 4. 「カメラを止めるな!」 ☆
      構成が非常に上手く、このドタバタを映画愛・家族愛に着地させた手腕も見事。去年一番笑った
 5. 「光をくれた人」
      神でも機械でもない人間の弱さと葛藤を丁寧に描いた秀作
 6. 「グレイテスト・ショーマン」 ☆
      ミュージカル・ナンバーそれぞれが近年屈指の名曲揃い
 7. 「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」 ☆
      粗野、粗暴の中にある孤独と優しさ、それに気づいてるモード、主演二人の演技力
 8. 「湯を沸かすほどの熱い愛」
      家族とは何か?を問いかける秀作、演技人が皆、大健闘
 9. 「十二夜」
      シェイクスピアの喜劇を上手く映画化してる、女優とベン・キングスレーが見もの
 10.「今夜、ロマンス劇場で」 ☆
      泣いたね(笑)

 11.「タイタニック」
      主演二人と沈没シーン、そして音楽
 12.「わたしは、ダニエル・ブレイク」
      地味だけど現代の病、合理化の名のもとに弱者を選別してしまうシステムを告発
 13.「皆はこう呼んだ 鋼鉄ジーク」
      日本アニメに対する熱いリスペクトを感じる
 14.「桐島、部活やめるってよ」
      面白い構成を使い高校生たちの友情の脆さを描いてた
 15.「ペティコート作戦」
      古き良きハリウッド・コメディ、今見ても面白い
 16.「彼の見つめる先に」 ☆
      BL版「小さな恋のメロディ」だけど、三人の人間模様を上手く描いてる
 ※「バーフバリ 王の凱旋」は「国際版」、「完全版」、「IMAX版」と有りますが「IMAX版」を代表とします。

  監督   ☆S.S.ラージャマウリ 「バーフバリ 王の凱旋」IMAX版
           ここまで衒いなく突き抜けた演出は凄い、スケールの大きさも素晴らしい、よく撮りきったと思いま
           す、普通なら腰砕け起こすよ 
  主演男優 ☆ブラバース 「バーフバリ 王の凱旋」IMAX版
           ご神体のような筋肉に目が行きがちだけど、父親、息子、アホの子を見事に演じ分けてる、アマレ
           ンドラの時のオーラ!
         ☆イーサン・ホーク 「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」
           粗野、粗暴な男の不器用な優しさと愛、サリー・ホーキンスの演技を上手に受け止めながら自分の
           演技もしっかり組み込んでた
  主演女優 ☆宮沢りえ 「湯を沸かすほどの熱い愛」
           母親であることの強さ、石を投げつけるシーンは秀逸
         ☆アレクサンドラ・ボルベーイ 「心と体と」
           大人の女優が少女のようなピュアさを演技で見せる、これは中々出来ない事だと思う
         ☆サリー・ホーキンス 「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」
           特徴ある役はある意味演じやすいのかもしれない、けれど、モード・ルイス、その人を実際に見て
           るようだった
  助演男優 ☆サティヤージ 「バーフバリ 王の凱旋」IMAX版
           カッタッパ!!ブラバースと絶妙なコンビ、この人が居るからアマレンドラも引き立つ
  助演女優 ☆樹木希林 「日日是好日」
           実力ある若手二人を寄せ付けない演技力、それでいてアンサンブルは決して壊さない
  音楽    ☆「グレイテスト・ショーマン」
         ☆「バーフバリ 王の凱旋」IMAX版
            どちらの作品も最高レベルの楽曲ばかりでハズレが一つもないのが素晴らしい、曲は全てキャッ
            チーで一度聞いただけで印象に残る


  (監督)
    エニュディ・イルデイコー 「心と体と」
    上田慎一郎 「カメラを止めるな!」
    デレク・シアンフランス 「光をくれた人」
  (主演男優)
    ロバート・デ・ニーロ 「レナードの朝」
    アーミル・カーン 「ダンガル きっと、つよくなる」
    ヒュー・ジャックマン 「グレイテスト・ショーマン」
  (主演女優)
    イレニア・パストレッリ 「皆はこう呼んだ 鋼鉄ジーク」
    アリシア・ヴィキャンデル 「光をくれた人」
  (助演男優)
    ベン・キングスレー 「十二夜」
    ロビン・ウィリアムズ 「レナードの朝」
    ルカ・マリネッリ 「皆はこう呼んだ 鋼鉄ジーク」
  (助演女優)
    杉咲花 「湯を沸かすほどの熱い愛」
    キアラ・セトル 「グレイテスト・ショーマン」
    ラクヤ・クリシュナ 「バーフバリ 王の凱旋」IMAX版
    ヘレナ・ボナム=カーター 「十二夜」
  (音楽)
    「タイタニック」
    「ダンガル きっと、つよくなる」
    「刑事」

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  2018年 新作 マイ・ベスト12 ‘17.12.21~‘18.12.20 
 
 1. 「バーフバリ 王の凱旋」IMAX版
 2. 「心と体と」
 3. 「ダンガル きっと、つよくなる」
 4. 「カメラを止めるな!」
 5. 「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」
 6. 「グレイテスト・ショーマン」
 7. 「今夜、ロマンス劇場で」
 8. 「彼の見つめる先に」
 9. 「シェイプ・オブ・ウォーター」
 10.「勝手にふるえてろ」

 11.「ワンダー 君は太陽」
 12.「タクシー運転手 約束は海を超えて」 
 

 
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2018年 下半期ベスト

2019-01-01 00:00:00 | ベスト10
 あけまして おめでとうございます
  旧年中はご来訪を頂き、ありがとうございました
   本年も引き続き、宜しくお願い致します

  先ずは決算編、その1から。

 2018年下半期 印象に残った作品ベスト(初見のみ)
   ☆新作

1.  バーフバリ 王の凱旋 IMAX版 ☆
2. カメラを止めるな! ☆
3. 光をくれた人
4. 湯を沸かすほどの熱い愛
5. 今夜、ロマンス劇場で ☆
6. 桐島、部活やめるってよ
7. ソフィの選択
8. ペティコート作戦
9. 勝手にふるえてろ
10.KUBO/二本の弦の秘密

11.ストックホルムでワルツを
12.日々是好日 ☆
13.ワンダー 君は太陽 ☆

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 スタッフ・キャスト

  (監督)
 上田慎一郎 「カメラを止めるな!」
 デレク・シアンフランス 「光をくれた人」
 中野量太 「湯を沸かすほどの熱い愛」
 吉田大八 「桐島、部活やめるってよ」

  (主演男優)

 ロバート・デ・ニーロ 「レナードの朝」
 マイケル・ファスベンダー 「光をくれた人」
 ジェイコブ・トレンブレイ 「ワンダー/君は太陽」
 アクシャイ・クマール 「パッドマン 5億人の女性を救った男」

  (主演女優)
 宮沢りえ 「湯を沸かすほどの熱い愛」
 アリシア・ヴィキャンデル 「光をくれた人」
 メリル・ストリープ 「ソフィーの選択」
 エッダ・マグナソン 「ストックホルムでワルツを」
 松岡茉優 「勝手にふるえてろ」

  (助演男優)
 ロビン・ウィリアムズ 「レナードの朝」
 ウディ・ハレルソン 「スリー・ビルボード」
 東出昌大 「桐島、部活やめるってよ」

  (助演女優)
 樹木希林 「日々是好日」
 杉咲花 「湯を沸かすほどの熱い愛」
 ソーナム・カプール 「パッドマン 5億人の女性を救った男」
 大後寿々花 「桐島、部活やめるってよ」

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