セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「ディリリとパリの時間旅行」

2019-08-31 23:53:37 | 映画日記/映画雑記
 「ディリリとパリの時間旅行」(「Dilili à Paris」、2018年、仏・独・ベルギー)
   監督 ミッシェル・オスロ
   脚本 ミッシェル・オスロ
   音楽 ガブリエル・ヤレド

 ちょっと今回は辛口、なので、そういうのが苦手の方はスルーして下さい。

 時間旅行と言ってもタイムスリップものではありません、W・アレンの「ミッドナイト・イン・パリ」のように近代フランスの最も華やかだったベル・エポックの時代を舞台にした絵本的なお話。

 ニューカレドニアとフランス人のハーフの女の子が、一人でパリに来て繰り広げる冒険物語。

   予告篇 https://www.youtube.com/watch?v=Re1ZdfsiMlg

 フランスの漫画「バンド・デシネ」の流れを汲む美しく、最早、芸術的と言ってもいいような背景を楽しめるのならいいかも、但し、話は桃太郎の鬼退治を大人になっても真面目に観れるかどうかという感じ。(バンド・デシネ自体、子供が対象ですから)
 背景は綺麗だけどディズニーやジャパニメーションを見てきた僕には動きが辛い、途中、宮崎駿のようなモンマルトル階段落ちみたいな動きもあるけど、全体的には人物がからくり人形のような動きで絵が動いてるだけって感じでした。

・イギリス人が犯罪を起こした時、英国紳士が「あれはイギリス人ではない労働者だ」というジョークがあって、僕の好きなジョークなんですけど、この可笑しみは高慢で階級主義が心底染み込んだジェントルマンを嗤ってるのですが、この作品にもそれが感じられます、だけど、こちらはジョークでなくマジなので凄く鼻に付く。
・作中にも言及があるけど、これはフランスのサロン文化の世界。上流階級のご婦人方が自らの教養を誇示し才能ある芸術家を後援する、表向きはそんな所だけど、実の所は只の有名人マニアと詮索、ゴシップ好きの閉鎖的集まり。作品はその表向きの所で展開してますが、有名人病は隠し切れず、モネ、ロートレック、ドガetcフランスが誇る当時の芸術家総出演って感じで、ここまでやると他国人には厭味としか思えない、「はぁ、凄うござんすね、立派、ご立派」で鼻白んでしまいました。(笑〜そのちょっと前まで庶民は馬小屋の藁の中で寝てたクセに)
・一応、21世紀に合わせて差別反対を入れてるけど、それが何?でしたね。絵に合わせて内容も充実させてみてはどうでしょうか。(汗)

・今年は夏負け、持病の悪化、やる気のない会計事務所のお陰でいつまでも片付かない一件、EVの故障でウン十万円の請求書、映画観るモチベーションがダダ下がり、お盆休みに長くて重い名作を観て辛うじて保ってた鑑賞気力がこの一作で・・・。(泣〜ここ数年、段々、顕著になってたけれど今年に入ったら、もう斬った張った、ドンパチ、ドッカン、ボッカンは殆ど興味がなくなって(「冬の華」の藤田進親分の心境〜何が有ったって主役もヒロインも生き残るんだから)、そうなると観るのって今の時代、すごく限られちゃう)

 R1.8.31
 恵比寿ガーデンシネマ


「存在のない子供たち」

2019-08-04 21:24:32 | 外国映画
 「存在のない子供たち」(「CAPHARNAÜM」 、2018年、レバノン・仏)
   監督 ナディーン・ラバキー
   脚本 ナディーン・ラバキー  ジハード・ホジェイリ
      ミシェル・ケサルワニ  ジョルジュ・ハッパス
      ハーレド・ムザンナル
   撮影 クリストファー・アウン
   音楽 ハーレド・ムザンナル
   出演 ゼイン・アル・ラフィーア
      ヨルダノス・シフェラウ
      カウサル・アル・ハッタード
      ハーレド・カーメル・ユーセフ
      
   予告篇 https://www.youtube.com/watch?v=6TPeIoJ8yHc

 かつてアラブの真珠とも言われたレバノン ベイルート、1975年に始まった激しい内戦とイスラエルに隣接する国故、過激派の流入を誘いそれがイスラエルの更なる攻撃を呼ぶ、結果は大量の貧困、シリア難民の流入がそれに輪をかける。
 そんなベイルートの貧民窟で出生届も出して貰えなかった12歳(推定)のゼイン、彼の多くの弟妹もまた同じ。
 傷害の罪で服役中の彼は両親を告訴した、「生活も出来ないのに僕を産んだ罪で」

 連鎖する貧困のDNAという面で見れば、これはレバノン版「フロリダ・プロジェクト」、ドキュメンタリー・タッチのドラマという部分にも共通性がある。
 あの作品には少しも心を動かされなかったけど、この作品はズシンとくるものがありました、まるっきりシンパシーを感じられなかった「フロリダ・プロジェクト」の母子に比べ、この作品のゼインには充分シンパシーを寄せられる、そこが原因でしょう。エチオピアからの不法移民でヨチヨチ歩きの赤ん坊を抱え必死に生きてる母親ラヒルも、「フロリダ〜」の母親と較べれば雲泥の差がある、只、映画としてラヒルの結末の付け方に疑問は残りました、此処までシビアに描いてきたタッチにそぐわない。映画「羅生門」的といえば言えるけど、この作品ではトーンを変えない方が良かったと僕は思います、また、その方がゼインのラストの表情の意味に重みが出るんじゃないかな。

 「フロリダ・プロジェクト」が合わなかった僕には、些かダレる感無きにしも非ずだけど、扱ってる内容の重さはそれなりに受け止められたと思います。
 もう一度観たいかと問われればノンだけど、観ておくに値する作品だと思います。

※親も「存在しない大人」なんだろうね。
※役者さん達は、皆、役と似た境遇の素人?を使ってるが、下手な感じはまるでない。(「嵐電」の監督、素人使ったって違和感なく出来るんだよ)
※ラヒルも「フロリダ〜」の母親と同じことをしようと決心したんじゃないかな。(夫婦と子供で違法入国して共犯から逃れる為、別々で暮らし挙句、夫は助けにならず貧困に追い詰められて)
※今年は子役の当たり年、このまま行ったら主演男優がこの子で、主演女優が「バジュランギおじさんと〜」のあの子になってしまう。
※そろそろ軽い映画が観たい(笑)、現在、予定の2作品も重いし長い、暑いし息抜きしたいヨ。(まぁ、1本は暑い中で観てこその作品ですが(多分、通しなら3回目))

 R1.8.3
 シネスイッチ銀座