セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「ハンナ・アーレント」

2014-03-30 19:51:34 | 映画感想
 「ハンナ・アーレント」(「Hannah Arendt」独・ルクセンブルグ・仏・2012年)
   監督 マルガレーテ・フォン・トロッタ
   脚本 マルガレーテ・フォン・トロッタ
       パメラ・カッツ
   撮影 キャロリーヌ・シャンプティェ
   音楽 アンドレ・マーゲンターラー
   編集 ベッティナ・ベーラー
   出演 バルバラ・スコヴァ
       アクセル・ミルベルグ
       ジャネット・マクティア

 ユダヤ系ドイツ人女性ハンナ・アーレント。
 実存主義で高名なドイツ人哲学者M・ハイデッカーの愛弟子であるが、ナチス・ドイツからの迫害を怖れ、フランスへ逃げ、そこでユダヤ・キャンプへ抑留されてしまう、後日、からくも脱走し、生き延びる経験を持つ。
 そして1960年代。南米でモサドに捉えられたナチスSSの幹部アイヒマンの裁判に立ち会う事となる。
 彼女はナチスの悪を哲学的に分析、雑誌に発表した・・・。

 「百万人行けども我行かず」
 自分の信念の元、真理を求め、ひたすらに我が道を行く女性。
 その「生き様」を描いた作品です。
 ドイツ人の映画ですね、強烈な意思と理論。
 映画はハンナの生き様と共に、「悪」とは何かを考えさせるものになっています。
 「人間の根源的な悪は利己心から来るものである、しかし、ナチスの悪は、それと別のものなのだ。全体主義の悪に於いて人間の悪は、考える努力を放棄し全体主義の歯車になり下がる事にある。ユダヤ人にとって、この上ない憎悪の対象、今回の裁判の被告であるアイヒマンに死刑は当然であるが、彼の正体は只の平凡な小役人でしかなく巨大な悪の歯車の一つにすぎないのである、彼は、只、その地位に在っただけである。アイヒマン個人が醜悪な極悪人という訳ではなく、違う人間が、その地位に在れば、その人間がアイヒマンになったのだ。人間は知性と思考を停止すれば誰もがアイヒマンに成り得るのだ」
 その部分で僕が捉えた概略は上記のようなものでした。

 理屈と強い女が好きな人には、お勧めです。
 (僕は、ちょっと避けたいタイプ(笑))

※人間の根源的な悪は利己心から来るものである>
 これは僕が小学生の時読んだ「サイボーグ009~ヨミ編」のクライマックスで、悪の象徴ブラック・ゴーストが言った、
 「この世の悪を殺すには地球上の人間全てを殺さねばならない、悪は一人一人の人間の醜い欲望が作り出すモノだからだ」
 と、ほぼ同義だと思います(思いっきり単純化したものだけど、単純化してるからこそ真理もある)
※似たような洞察は名コラムニストだった故・山本夏彦氏も書いていたと思います。
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「鍵泥棒のメソッド」

2014-03-21 21:01:11 | 邦画
 「鍵泥棒のメソッド」(2012年・日本)
   監督 内田けんじ
   脚本 内田けんじ
   撮影 佐光朗
   音楽 田中ユウスケ
   主題歌 吉井和哉 「点描のしくみ」
   編集 普嶋信一
   出演 堺正人
       香川照之
       広末涼子
       荒川良良 
       森口瑶子

 デビュー作「運命じゃない人」は、仕掛けを見せる映画。
 3作目の本作は持ち味の「仕掛け」をそのままに、よりエンタティーメント性
を追求した作品だと思います。
 その分、話に強引な所も散見されますが、名作「お熱いのがお好き」だっ
てよく考えると相当強引、でも「楽しい」のだからコメディとして突付くより楽し
んじゃった方が正解ではないでしょうか。
 「観てる間、誤魔化せれば、それで良し」と言ったのはヒッチコックでしたっ
け。(笑)
 (この作品、着想のヒントが「お熱いのがお好き」のような気がしないでもな
い)

 「運命じゃない人」に無くて、本作に有るもの、それは「華」。
 堺正人、香川照之、広末涼子に「華」が有る分、観ていて楽しい。
 演技の上手さは「運命じゃない人」の出演陣も決して「鍵泥棒のメソッド」に
劣らず達者なんだけど、殆ど無名に近い人ばかりだから映画としての「華や
かさ」がどうしても足りない気がします。
 シリアス系では、それが良い結果を生むけれど、エンタティーメント系だと
「ちょっと」なんですよね。

 伏線の張り方と回収の鮮やかさは、この監督の一番の特徴で特技でしょう。
 さり気なく張ってパッと回収する、このセンスの良さは、世界を見回してもトッ
プクラスだと思います。
 こういう事の出来る人が日本から出てくるなんて想像外でした。
 伏線の張り方が上手いという事は必然的に小道具の使い方が上手いという
事でもあるんですよね。
 本作では大きい所で非常警戒音、クラッシック音楽、雑誌「VIP」、小さいモノ
では猫とかノート等。
 この辺も、ちょっと日本人離れしてる感じがします。
 流石、話の設計図作りに何年も掛けるだけは有ります。
 只、この緻密さは「こじんまりした話」から抜け出せなくなる怖れが無きにしも
あらず。
 ペーソスを感じさせる「こじんまりした話」も勿論大好きだし良いのですが、パ
ワー溢れるスケールの大きなコメディも観てみたい。
 「鍵泥棒のメソッド」は、デビュー以来進んできた路線の完成形に近いモノの
気がします。
 年何百本作ってた時代と違い、今は失敗したら次が保障されない難しい時代
ですが、次作は、より進化した違う「内田けんじ」の顔を観たいと思っています。
 
※救急隊員の二人は「お笑い系」の人みたいだけど、あの二人のドタバタ部分
 だけ浮いてた、僕にとって完全な不協和音でした。
※本作一番の謎>「弦楽よんじゅうそう」(笑)
 何でチェックを素通りして映画館へ出ちゃったんだろう。
 (今の技術なら、その部分だけアテレコで修正出来ると思うんだけど)
※僕はS・ドーネン監督A・ヘプバーン主演の「シャレード」が物凄く好きなので
 すが、アレに気付かないなんて・・・。(涙)
 何か無駄に歳を取ったなと。(笑)
コメント (9)
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