「ロイ・ビーン」(「The Life and Times of Judge Roy Bean」、1972年、米)
監督 ジョン・ヒューストン
脚本 ジョン・ミリアス
撮影 リチャード・ムーア
音楽 モーリス・ジャール
歌 アンディ・ウィリアムス「Marmalade, Molasses & Honey」
衣装 イーディス・ヘッド
出演 ポール・ニューマン
ヴィクトリア・プリンシパル
ロディ・マクドウォール ネッド・ビーティ
ゲスト エヴァ・ガードナー アンソニー・パーキンス
ジャクリーン・ビセット ステイシー・キーチ
予告編(
ロング・バージョン)
予告編(
スタンダード)
西部劇の時代が終わり、町には金持ちの自動車が行き交う。
そこへ突然現れる、馬上の人物。
顔形は逆光で解らない。
それを見つめるロイ・ビーンの娘ローズが呟く、
「まるで昔の絵本から抜け出たみたい・・・」
これはクライマックス直前のシーンですが、この作品を凝縮した台詞。
この作品はJ・ヒューストンとP・ニューマンが組んで作った「男のお伽噺」、
絵本なんだと思います。
女性が観ると、結構、カチンと来る言葉が幾つも出て来ます。
(男のメルヘンを壊すのは女の正義感と現実主義だと(笑))
ロイ・ビーンは実在した人物。
G・クーパー主演の「西部の男」にも出てきて、そこでも主演のクーパーを
存在感で喰ってしまったような人物。
元々は銀行強盗のお尋ね者、それがテキサス・ぺコス川の先、無法地帯、
文明世界の外の小さな村に流れ着き、先住の無法者達をぶっ殺して住み着
く。
勝手に判事を名乗り、凶状持ち・無法者を片っ端から死刑(首吊り)にし、
その財産を巻き上げる。
付いた仇名が「首吊り判事」、実際、この作品の噂を当時のロードショー誌
で見た時はロイ・ビーンの前に「殺し屋判事」だったか「首吊り判事」の副題
が付いてました。
でも、そこは映画で、まして主役がP・ニューマン。
実際のロイ・ビーンを拡大して、いいトコを抽出した人物に作り上げてます。
まず吊るしてから裁判みたいな男だけど、巻き上げた金で村を町に発展さ
せたり、唯我独尊な「正義」でも、それなりに生一本で無法地帯に秩序を作り
上げてもいる。
女に純情でスター女優 リリー・ラングトリーを神の如く崇め(町の名もラン
グトリーと命名)、手下の保安官にも同じ事を強要する。
或る時、酒場でポーカーをしてるロイ達の後ろで、酔っ払ったならず者が赤
塚不二夫のお巡りさんみたいにピストルを乱射、それでも動ぜず無視してポ
ーカーを続けるロイ、マリー、保安官達、それがリリーのポスターに狙いを定
めた瞬間、皆に撃ち殺される。
付いた罪名が「騒乱罪?」で、所持金が罰金となりポーカーの掛け金に変
わっちゃう。(笑)
この作品、こういう可笑しさを受け入れられないと、ちょっと無理かもしれま
せん。
表面だけ見れば殺伐とした話だけど、P・ニューマンの隠れた愛嬌と適材
適所の配役、ゲストスター達のキャラクター、それに監督の演出が相俟って
陽性で伸びやかな作品に仕上がってます。
お伽噺に西部劇へのレクイエムを上手く混ぜ込んだ、極めて優れた作品
だと思います。(男、限定!)
はっきり言ってP・ニューマンのワンマンショー的な作品ですが(それを言っ
たら「用心棒」、「椿三十郎」だって三船さんのワンマンショー)、「男のお伽
噺」を輝かせるのは何と言っても女優陣。(笑)
ロイの妻となるマリー(V・プリンシパル(新人))は可愛いし、終盤にゲスト
出演するJ・ビセットはファン、そして永遠の憧れリリーとして登場するE・ガー
ドナーの妖艶さと貫禄。
揃いも揃って、皆、強気な気性が西部劇に相応しいんです。
あ、忘れちゃいけないのが物語の節目を作る熊。
CGの無い時代、滅茶苦茶に好演してます。
(酒場の扉を潜って中に入っていくのは、流石に「着ぐるみ」だと思うけど)
熊とロイ、マリーがピクニックに行くシーンは、もう明らかに「明日に向かっ
て撃て」でP・ニューマン、R・レッドフォード、K・ロスの名場面「雨にぬれて
も」のパロディ。
こちらもA・ウィリアムスの歌う「小さな愛のワルツ」がマッチして微笑ましく
楽しいシーンになっています。
こちら→
「小さな愛のワルツ」(原題「Marmalade, Molasses & Honey」)
やってる事は昔ながらの「西部劇」ですが、そこにアメリカン・ニューシネマ
のドライな感覚が入ってカラッとしてる、老監督J・ヒューストンの「まだまだ、
やれまっせ!」の心意気が感じられます。
埋もれさせてしまうには惜しい作品。
※ラストのドンパチ、もうチョット合理的にやって欲しかった。(笑)
まず最初に撃ち倒すのは中央のマシンガンを持ってる男でしょ。
あんな後回しでは5秒で負けちゃいますよ。
包囲網を敷く相手に皆で撃って出るのも「明日に向かって撃て」のパロデ
ィかな?
※エピローグで「ローズは結婚しました」と見せられる写真。
ローズの肩を抱いてる男は、当時、リアル同棲中だったM・サラザン。
(ビセットとサラザンの仲は皆が知ってるコトでした)
こんな感じでパロディ、楽屋落ち、文字通り「どてっ腹に風穴が空く」をやっ
てみせるジョーク等が挟み込まれている楽しい映画です。
※製作はファースト・アーティスツ。
P・ニューマンが専属制崩壊後の役者の地位向上を旗印に立ち上げたプ
ロダクション。
有体に言えば自分達のギャラ・アップの為で、この作品を制作した頃はF・
ダナウェイ、S・マックイーン、アリ・マックグロウらが加わっていました。
あの「タワーリング・インフェルノ」にも影響力を及ぼしてると思います。
2016.6.26
DVD