セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「恋愛小説家」

2013-03-21 00:05:21 | 外国映画
 「恋愛小説家」(「As Good as It Gets」・1997年・米)
   監督 ジェームズ・L・ブルックス
   脚本 マーク・アンドラス ジェームズ・L・ブルックス
   原案 マーク・アンドラス~「レイト・フォー・ディナー」
   撮影 ジョン・ベイリー
   音楽 ハンス・ジマー
   出演 ジャック・ニコルソン
       ヘレン・ハント
       グレック・ギニア

 ハーレクイン系人気作家ユドール(J・ニコルソン)、その実態は他人と普通の
関係を結べない適応障害者で異常な潔癖症、善意とやさしさを持っているのに、
辛辣な毒舌と尊大な態度という鉄壁の鎧で、本心を絶対他人に掴ませない中年
男。
 そんなユドールが毎日通うレストランのウェイトレス、キャロル。難病の子供を
抱えたバツイチで、状況から耐えずテンパッた状態の中年に差し掛かろうとして
る女、彼女だけがユドールの「取り扱いマニュアル」」を心得ている。
 ユドールのマンションの隣人、画家でゲイのサイモン、そして、彼の愛犬ヴァー
デル。
 この3人と一匹が織り成す大人の恋愛コメディ。

 最初、ユドールが他人の犬をダスト・シュートに放り込むシーンを観て、先行き
に不安を感じましたが有り難い事に杞憂に終わりました、上質の恋愛コメディだ
と思います。
 若い美男美女の恋愛模様もいいけど、顔勝負じゃない大人の恋愛劇は味があ
って良ろしい、好きな「恋愛モノ」を挙げていくと断然、こっち系が多いです。
 この映画、勿論J・ニコルソンは素晴らしいのですが、それよりもH・ハントがい
いですねぇ。
 個人的には、これ、H・ハントの映画だと思っています。
 (「顔勝負じゃない」と言っておきながらナンですが、彼女は美人です。大人の色
気があって、実にチャーミング)
 テンパッた余裕のないギスギスした表情、母親に打ち明ける時の苦哀と絶望感
に満ちた表情、恋に落ちる瞬間の表情(落ちるの早い!)、いろんな表情が自然
に出来ていて・・・、凄く上手な女優さんだと感じました。
 J・ニコルソンが、大嫌いな犬を引き取る事になり、その犬が何故かナツイてき
て困惑してるシーン、その犬に段々愛着が沸いてきて、ちょっとだけ人間らしくな
るシーン、面白かったです。
 (ご馳走を前に我慢してる犬、ウチの食い意地だけが並以上というバカ犬に見
習わせたい・・・、アレって、もしかして河童橋道具街のフェイクなんだろうか~笑)

 「僕が病院へ行って薬を飲むようになったのは、君のお陰だ、君が(君の魅力
が)僕を変えたんだ」(意訳)
 最後の方ににもう一回、ダメ押しの台詞が有りますが、こういう台詞を違和感な
く感じさせる小説家という設定は、ニコルソンというキャラクターを考えると非常に
上手いです。
 また、これを聞いて秒殺でトロケてしまうキャロルの表情が、何とも言えないくら
い可愛い、大人の女の可愛さ!(笑)
 まるで「寅さん」のようにこの雰囲気に慌てて、ユドールが、ぶち壊す台詞の可笑
しさ・・・。

 G・ギニア演じるサイモンがハント側に付いて、強烈な個性の持ち主ユドールとバ
ランスを取るのですが、サイモンの友人フランク(キューバ・グッティング・Jr)共々、
中和剤として抜群に機能してると思います。
 素敵な作品です。

※思った瞬間、脳ミソを経由するより早く言葉が口から出るユドールと、瞬間湯沸か
 し器キャロルの二人、仲良くパン屋を出たのはいいけど、夜明けまで保つんだろう
 か・・・。(笑)
 
コメント (2)
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「荒野の決闘」

2013-03-13 23:21:00 | 外国映画
 「人に言えない、観てない」シリーズ、今年7本目。
 「駅馬車」を観たのなら、これも観なきゃイカンだろうと言う事で「荒野の決
闘」(汗)
 西部劇の二大傑作、J・フォードの二大傑作の一つと言われてる作品。
 どうも、僕は入り方が悪かった。
 これは「荒野の決闘」ではなくて「愛しのクレメンタイン」だと、頭では解って
た積りなのですが、「駅馬車」を観た後だったし、ワイアット・アープ、ドク・ホ
リデイ、クラントン一家とくれば、気持ちがどうしても「ガッツ石松」へ行っちゃ
ってた。(大汗)
 ですから、ちょっと肩透かしを喰った感じがして・・・。
 でもこれは、きっと後から来るだろうなと思ってたのですが、一晩明けたら
案の定、ジワジワ~っと。

 「荒野の決闘」(「My Darling Clementine」1946年・米)
   監督 ジョン・フォード
   脚本 ウィンストン。ミラー サミュエル・G・エンゲル
   原作 スチュワート・N・レイク
   撮影 ジョー・マクドナルド
   音楽 シリル・モックリッジ アルフレッド・ニューマン
   出演 ヘンリー・フォンダ
       ヴィクター。マチュア
       リンダ・ダーネル
       キャシー・ダウンズ

 一晩経って一番印象に残ってたのは、クライマックスの撃ち合いじゃありま
せんでした。
 床屋の髭剃り辺りからの平穏な日曜日の描写の数々、そして一連のシー
ンのクライマックス、アープとクレメンタインが踊るフォークダンス、ここが最高
に良かった。
 二人で踊る直前、初恋のウブな青年みたいにモジモジしてるアープ、「何時
になったら誘ってくれるの?」と表情をコロコロ変えながら待ってるクレメンタ
イン。
 凄く微笑ましいんですよね、この時の二人。
 (クレメンタイン、先っきまでドクの事で泣いてたのに~フォードさんの描く淑
女は、いつもミステリー~笑)
 何処となく「寅さん」を思い出してしまいます。
 このシーンを例えるなら、さしずめ村祭りの盆踊りを見てる寅とマドンナって
所でしょうか。
 他にも、クレメンタインの初登場シーンは、ニヤけながらマドンナの荷物を持
って「とらや」へ入って来る寅みたいだし、マドンナが居るとも知らず、彼女の前
で身だしなみを整えてるのも、何処かで見たような・・・。
 スイマセン、話が横へ逸れました。

 この一連のシーン、やっぱり戦争の影響が出てるのかもしれませんね。
 髭もオチオチ剃っていられない町だったトゥームストーン、それが仮初めにし
ろ平穏な町になって日曜の朝には近在の人達が安心して集まってこられるよう
になった。
 それは、長い戦争が終わり、ようやく訪れた平穏、だからこそ感じられる硝煙
の匂いのない清らかな朝の空気、祈る場所を作り始める人々、アメリカの194
5年が象徴されている気がします。
 明日が有る世界だから、明日を信じて、明日の話が出来る。
 J・フォードの戦後第一作になる本作、これらのシーンには監督の思いが強く
滲み出ていて、その平穏な日々の有り難さが、不器用な男の精一杯の告白と
いう有名なラストシーンにも繋がっている、と思うのは考えすぎでしょうか。

 主要人物ワープ、ホリデイ、チワワ、クレメンタインは、流石にJ・フォードでよ
く描けていて、4人共、それに応えた的確な演技だったと思います。
 特にH・フォンダのワイアット・アープは、この長閑な西部劇のアープにピッタリ。
 V・マチュアのホリデイも、後の「OK牧場の決闘」より遥かに描き込まれた人物
になっていて、それを観客に納得させるだけの演技をしていました。
 でも・・・、でも、僕の個人的好みを言えば、本作に較べ数段落ちる「OK牧場の
決闘」のバート・ランカスター&カーク・ダグラスの二人の方が好きです。
 アープって、日本で言えば「地廻りと岡っ引き」の二枚鑑札をやってるような人
間なんだから、もう少し強面の方が真実っぽいし、ドクに至っては結核病みなの
に顔の肉付きが良すぎる。(笑)
 フォークダンスのシーンやラストの台詞も、好男子のフォンダより厳ついランカ
スターがやったほうが面白い気がしないでもないんですよね。
 でも、やっぱり、この作品にはそぐわないか。(笑)
 (大体、この頃はまだ二人共無名だし)
 ヴァンプで鼻っ柱の強いチワワを演じたリンダ・ダーネルも感じを良く出してい
て、尻軽女だけどもドクに対する「やるせなさ」は充分感じ取る事が出来ました。
 さて、タイトルにもなってるクレメンタイン役のキャシー・ダウンズ。
 正に「荒野に咲いた一輪の清らかな花」
 この作品に気品を感じるのは殆んどこの人のお陰。
 「西部劇」という事もあって、大ファンは男が圧倒的に多いのですが、そればか
りでなく、この映画のクレメンタインの存在が男性ファンを増やしてるのは間違い
ないと思います。
 彼女の役者人生は残念な事に「一発屋」で終わってしまったようですが、この作
品が有る限り永遠に観る者に強い印象を与え続けていくし、誰もが知ってる「代
表作」が有る役者さんって幸運だと思います。
 (彼女が演じたクレメンタイン、記憶が霞んで顔は思い出せなくなっても、この映
画のクレメンタインという存在は決して忘れる事は出来ないでしょう、・・・男なら~
笑)

 良い作品だと思います。

※たった一ヶ月前、西部劇のトップだった「リオ・ブラボー」が、今では第3位。
 この先、どうなるんだろう。(笑)
 
 
コメント (4)
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