牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

肉質と枝肉相場

2008-10-18 23:59:01 | 枝肉


最近、出荷牛の枝肉格付成績が上向いてきた。
素牛の選定レベルは、ここ数年同等である。
平成16年前後は稲わらを粗飼料源としたが、その後、ウィートを使用したが、今年3月から、稲わらに替えた。
平成16年頃は、BMS値11~12が良く出ていたが、ウィートに変わってからは、10が出るとやれやれであった。
そして最近、総体的にその数値が、0.6~0.7ポイントほど上昇した。
ところが、肉質は上昇したのに、枝肉単価は、1kg当たり60~70円下落している。
1頭当たり3万円以上の値下げである。
本来、肉質評価が横ばいでの下落なら理解できるが、上がっての下落であるからには、その下落率は、その2倍の6万円以上の下落と言うことになる。
相場下落は、社会的な状況が国民の経済状態を悪化させ、購買意欲がかなり落ち込んでいるためのようである。
ここでは、牛肉の購買意欲を改善させるため、流通関係者も待ちの姿勢ではなく、積極的に販路開拓や消費アップのための策を講じて貰いたいものである。
牛肉の消費動向改善は、販売店等の努力以外にない。
これまで、良いものを作れば価格は上がるが生産者の合い言葉で正しい神話でもあった。
これでは、生産意欲までも下落しかねない。

ロースにアタリ

2008-10-14 23:57:58 | 枝肉


出荷牛の格付け表と仕切り書がFAXで届けられ、格付け表の備考欄に、ロースにアタリとある。
珍しい場所のアタリである。
何故ロースにとアタリがでたのか解せない結果報告であったが、明らかな原因は存在していたのである。
それは写真にある烏害であった。
烏に突かれた場所がロース上で、直径と深さが4~5cmもあった。
多少の炎症を伴えば、アタリがあってもいい傷の大きさであった。
烏の侵入防止策をとらなかった結果である。

枝肉価格

2008-08-29 23:39:13 | 枝肉


肥育牛を仕上げていざ出荷と送り出す。
そして3日後には、格付け表と仕切り書がファクシミリで送られてくる。
それを目に通すなり、一喜一憂である。
日ごとにその成績が厳しい結果となりつつある。
格付け成績が下がると言うことではなく、枝肉単価がじりじりではなく、ぽんぽん下がる感じがする。
4等級なら大丈夫とタカをくくっていたのだが、1,600~1,800円台となった。
70~80万円台になれば大変と記述したが、それが現実になりつつある。
これでは、20~30万円の赤字となる。
A-5率が15%、4等級が50%、3等級以下が35%ではどのように計算しても、赤字経営と言うことになる。
上物率が80%を超えてトントンの計算になる。
素牛価格が55万円、諸々の経費が45万円、これが平均価格である。
実は、素牛価格が55万円はまだ良い方である。
平均65万円という肥育センターもある。
素牛価格が、35万円でペイする現状では、良いものを作るしかない。
仕切り書などを手にパソコンへかかるデータを入力して、出荷牛の一覧表をプリントアウトする。
そこには、枝肉量に単価、格付け成績に加えて、差益欄がある。
近頃は、赤色の文字が目立つようになった。
諸物価の高騰により、牛肉の消費がかなり冷え込んでいることが、枝肉単価に連動しているとのことである。


枝肉の脂肪

2008-08-10 18:14:17 | 枝肉





牛肉の美味しさに深く関わっている一つに不飽和脂肪酸がある。
一般的に、不飽和脂肪酸は、融点が低いとされている。
サシは不飽和脂肪酸の割合が高く、その蓄積が多いほど、融点も低く美味しい。
枝肉の良し悪しを見定めるのに、枝肉の形や枝肉量とともに、肉質に関する項目は当然重要視される。
また、枝肉が仕上げ段階で良くできあがっているかも見定める側は気になる。
それを見分けるのに皮下や筋間脂肪の融点が高いか低いかを見利きする。

2枚の写真は、何れも数年前に近畿東海北陸連合肉牛共進会で優勝したものである。上は雌牛で下が去勢牛である。
この写真を見ると何れも、素晴らしいサシの入り具合で皮下や筋間脂肪の部分の光沢や柔らかさも5等級に匹敵するものである。
さらに皮下や筋間脂肪を注意深く見ると、雌雄間に若干の差があることが判る。
雌の方が実に美味そうな瑞々感がある。
つまり、この2頭では、雌の方の同脂肪の融点は、雌の方が低いために瑞々しく見える。
りっぱに仕上がった牛肉では、一般的に雌の牛肉の方が美味しいと言われている。
そのため、雌の牛肉しか扱わないこだわりの肉料理屋があちこちで見られる。
雌牛は去勢牛よりも脂肪の蓄積具合は、早熟性であると言われている。
必要な肥育技術が伴うことにより、不飽和脂肪酸の割合も高くなる。
ロース廻りの筋間脂肪が瑞々しいのは、融点が低く常温でも油質がにじみ出ているためである。




アンモニアガスとV.A欠

2008-08-06 00:27:52 | 枝肉


30年前に肥育牛舎を建てた頃は、廃校になった学校の建物を払い下げして流用した時期があった。
そのため、天井が低く、換気が悪く、薄暗く、せせこましい牛舎が今も利用されている。
いつも、その畜舎に出入りしている者は、慣れっこになっているらしく、時折獣医師が舎内に入ると、「くせぇー」と返ってくる。
アンモニアガスである。
このガスが舎内に充満した状態で、仕上げるのは肉色が赤みを帯びる結果となる。
写真はリブロースの切断面であるが、荒サシではあるが結構入っているが、ロース芯の色が暗赤色をしている。
これは、アンモニアと深く関わっていたためである。
また、写真の右から下側に斜めに位置する僧帽筋、通称カブリの下側は、俗に言われるズル状態であり、筋肉水腫になっている。
これは、ビタミンA欠が悪化するとなり易い。
牛が飼えればいいと、そのまま放置しておくことは、様々なデメリットを引き起こす。
牛床の清掃や換気を改善することが肝要である。
ビタミンAについては、育成中にその対策を怠った結果である。

枝肉格付け結果の公表

2008-08-02 16:01:50 | 枝肉


肥育成績を生産者サイドにフードバックして貰いたいという要望は良く聞く。
出荷したら、その肥育成績を知りたいと聞いてくる素牛の生産者もいる。
生産者は、新規導入雌牛の産子成績の良し悪しを知りたいのである。
ところが、成績が芳しくない場合には、そこで途切れてしまうケースがある。
肥育成績が良くない理由には、母牛だけの理由ではなく、肥育に問題があるケースや父牛との相性が合わない場合、育成時に問題があるなど様々なケースがあることを念頭に置いて繁殖牛の能力は判断すべきである。
結果が今一の場合には、精液を替えてみるなどの試みも必要である。
1産目からA-5の成績が出れば、生産者は2産目以降にも期待をこめて繁殖を継続することになる。
現実には、3産目が生まれる頃に1産目の肥育成績は出る。

一方、種雄牛を管理し精液を販売している家畜改良事業団や日本食肉格付協会などは、肥育牛の出荷者に了解を求めて、肥育牛個々の肥育データ(格付け結果など)の提供を求めている。
同事業団は、種雄牛個々の成績や、交配関係での成績等を詳細に取りまとめて報告している。
日格協も肉量および肉質を年度別に等級ごとの割合を一覧表等 で明示している。
しかし、全国の格付け頭数に対して、データの提供割合は、50%に満たない現状であるという。
この種のデータの公表は、データ数が多いほど信頼性が高くなるため、これらを参考とすることで、将来の和牛改良や優秀な種雄牛の作出に深く関わることが考えられるので、提供割合の増加を期待している。
全国的に年々上物率が向上していることなどは、これらのデータにより判断している。




美味しい牛肉(1)

2008-06-08 13:11:12 | 枝肉


前述したが、食肉市場へ出荷した肥育牛は、と畜直前に獣医師による健康チェックと計量が行われる。
と畜後は、枝肉以外の内臓・スカート肉部分・頭部・四肢・被毛皮膚・尾はそれぞれ専門処理のため、副生殖物処理担当部署へ回される。
枝肉は水洗いなどによる清掃後、計量して冷凍室で1~2日保管される。
左右半丸の体腔内に、個体識別番号をもとにと畜番号と上場番号は同一番号となるが、その番号が筆書きされるとともに、計量値などが印刷されたシールも貼り付けられる。
上場日の朝、完全硬直した左右半丸は、冷凍室から出され、胸椎6~7間が写真のように開かれる。
(社)日本格付協会の格付員が格付けに必要なロース芯面積、皮下脂肪の厚さ、背の厚さなどを測定して、そのデータに基づいて、格付けを行う。
格付けにより、A5 A4 B3などが枝肉へ打印される。

部分肉

2008-06-02 19:55:05 | 枝肉
牛体は枝肉とその他の部分に分けられる。
枝肉とは、頭部、被毛皮膚、四肢(膝・肱から下の)、尾、内臓、血液の各部を外した残りの胴体部分をいう。
枝肉は、頸から尻までの脊髄に沿って2分体にされ、左側を左半丸、右を右半丸と呼ばれ、通常左右それぞれを半丸とも呼ばれている。
枝肉は半丸単位で、頸部、ウデ、カタロース、ロース、バラ、腿に分割され、これらの部分肉の筋肉や脂肪が精肉に、腱や靱帯などがすじ肉となる。
また、枝肉以外の部分からは、頭部や尾の筋肉やスジ、スカート肉と称される横隔膜やサガリ、内臓各器官などが、それぞれ食肉に利用されている。
枝肉は、約100種類の筋肉、17種類の骨、5種類の脂肪、靱帯や腱などのスジからなっている。
これらの筋肉は、牛体図などに表示されている名称と食肉処理や販売で明示される名称は異なっている。
写真は、体重900kg程度の去勢肥育牛を上方から撮影したもので、背中に当たる部分である。
この胴体部分が枝肉であるが、手前(下方)から頸部で、カタロース、ロース、尻の順である。
ウデは、両肩に付着し下方(体下線方向)の前肢の肱上までをいい、バラはカタロースからロースの下側に位置し、腿は尻部から下方の膝上までを言う。
写真のように、前駆から後躯まで体幅に富んでいれば、個々の筋肉も大きく、とくにロースの大きさも期待できる。

黒毛和種は産肉性に優れている

2008-06-01 22:36:46 | 枝肉


我が国では、従来枝肉を評価するのに、牛の外部審査を基に肉質等を予測するという方法が取られていた。
その後、69年頃から各地に枝肉市場が開設され、枝肉を直接見ることによる格付け方法が取られるようになった。
それまで枝肉購買者らは、枝肉の中身を予想して入札していたが、格付け実施後は、肉質等が評価された枝肉を、実際に見ながらセリ価格を想定できるようになったのである。
筆者は、30数年前から約20年間で数百頭の枝肉の解体作業に携わり、筋肉、脂肪(筋肉内脂肪以外の体脂肪)、骨、靱帯等を調査したことがある。
この作業を経験したことから、枝肉の精肉歩留とか筋肉や脂肪や骨などの構成割合が把握できた。これらの割合は、肥育結果によりかなりの個体差があることも判明した。
黒毛和種の大方の割合は、筋肉55%、脂肪33%、骨10%、その他2%程度であったが、筋肉割合では黒毛和種が最も高い割合であり、黒毛和種が産肉性において他品種より優れていることを確認した。
そして、毛色が真っ黒、骨味が粗野、角が白角など資質の悪い牛は、肉質が悪いとされていたが、実際には、その様なことは根拠のないものであった。


肥育よもやま話

2008-05-31 20:27:55 | 枝肉


美味しい牛肉を生産するには、配合飼料を多給することで実現すると前記した。
ところが、100%そのように旨くいくかといえば、必ずしもそうは問屋が卸さないのが現実である。
だから、結果的にA・B・Cの肉量ランクと、1~5段階の肉質等級が設定されている。
この設定の上位ランクに格付けさせようと、肥育生産者はあの手この手の手法を懲らしているのが現状である。
肉質向上に関する諸条件には、
①優れた血統であること。
②子牛育成がトラブル無しで育てられ持病となる疾患がないこと。
③子牛は生後4ヶ月から12ヶ月までは、良質粗飼料を多量摂取していること。
④生後13ヶ月令から20ヶ月令まで配合飼料を可能な限り多量摂取させる。
⑤その間、生後15ヶ月から20ヶ月令待て、ビタミンAコントロールを確実に実施する。
⑥肥育の前半と仕上げ期のそれぞれ半年間は、おやつを与える。
⑦ビタミンコントロールを開始する頃から、肥育期間中の粗飼料は、国産稲わら(2年物)を与える。
⑧日ごと肥育牛の体調を把握して飼料給餌すること。
⑨日常、牛にストレスを与えない。
⑩内外寄生虫や烏の被害を受けない。
⑪肥育牛には、牛床の飼育条件を整え、アンモニアガスの影響を与えない。
⑫出荷直前は、ストレスを与えず、適度の飼料摂取を保たせる。
⑬毎日の個体観察と個体毎の体調を把握する。
⑭体調異変をほっとかないで、即対応する。
⑮仕上げ時を設定して、それに合わせた飼料給与管理を行い、涸れた牛作りを熟練する。
⑯肥育データの管理を実施している場合は、過去の出荷実績から、上位ランクされる子牛生産者から素牛を導入する。

いちいちあげれば切りがない。
いずれにせよ、人と牛の真剣勝負を果たすことである。
結果的に、事故率0.5%未満、上物率75%以上であれば、飼い方は合格である。
経営を考えれば、如何に低コストが実現しているかである。
中でも、最も影響を受けるのが、素牛のレベルとそれにマッチした導入価格である。
増体能力と肉質等級を想定する審査眼を自負するなら、例えば、A-5以上を見越せる素牛なら55万円、A-4なら45万円、A3なら30万円、それ以下なら20万円以下をセリ価格とするならば、その肥育経営は、無難な経営が期待できる。
常にA-5ばかりを狙う素牛導入では、より以上の審査眼と、綿密で精巧な肥育技術を有しない限り、ギャンブル性に富む経営だと想定できる。

この様な事柄を念頭に配合飼料を多給してこそ、結果は得られることになろう。