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『黒い雨』 の衝撃

2015年08月20日 | 日記

映画「黒い雨」を初めて観た。
見逃していた昔の映画という訳ではなく
気が重くて観るのをずっと避けていた映画なのである。



1989年の公開作品、原爆の恐怖と悲劇を描いた映画である。
監督は巨匠・今村昌平、脚本は尊敬する石堂淑朗。
日本アカデミー賞の最優秀作品賞を始め、日本映画大賞、キネマ旬報ベストワンなど
数々の映画賞を総なめにした映画史に残る名作である。
にも関わらず、悲惨さがわかりきった原爆映画を観るのは気が重かった。



実際、映画は悲惨極まりないものだった。
原爆投下シーンも特撮映像を駆使して徹頭徹尾リアルに描いている。
皮膚が焼けただれた被災者たちがまるで亡霊のように
瓦礫の町をさまようシーンは「地獄絵」そのもので思わず目をそむけたくなる。
あえてモノクロ映像を選んだ今村昌平の手法に執念を感じる。
しかし、映画には声高な主張は一切なく、あくまでも静かに淡々と流れるのである。

主人公の夜須子役はスーちゃん(田中好子)である。
幼い頃から叔父の重松夫婦のもとで育てられてきた二十歳の少女。
直接の被爆者ではないが、瀬戸内海を渡る小船の上で
原爆投下直後に降る「黒い雨」を浴び、大きく運命が暗転する。

やがて夜須子も適齢期になり縁談の話も持ち込まれるが・・・
いつも「ピカに遭った女」という噂が立ち、決まって破談になってしまう。
叔父の重松はそんな姪っ子を不憫に思い
医者で「健康証明書」を発行してもらったりするのだが・・・

やがて叔母のシゲ子が体調に異変を覚えて病床に。
周囲の村人にも次々と死者が出るなど「原爆後遺症」が現実のものとなる。
そして、いつしか夜須子の体にも・・・
あまり観たくはないかも知れませんが、せっかくですから予告編を・・(笑)

『黒い雨』 予告編


当時は適齢期を迎えた娘が嫁に行くのは当然のことでした。
夜須子自身もそんな平凡な幸せを信じて疑わず
やがて来る結婚生活にささやかな夢を思い描いていたのでしょうが
その「当たり前」の夢さえ奪ってしまったのが「原爆」であり「戦争」でした。



やがて夜須子の髪の毛がこっそり抜け始めるシーンは
あまりに悲惨で正視にたえませんでした。
その夜須子が病院に運び込まれるシーンで映画は終わるのですが
最後の最後まで「抑制」を効かせた今村昌平の演出は見事というしかありません。

スーちゃんの演技は素晴らしく
この作品で数々の演技賞を手して高い評価を受けました。
スタッフ、キャストのほとんどが鬼籍に入り
ピカピカと輝いていたそのスーちゃんさえ、もうこの世にはいません。

どんな映画も「エンターテイメント」でなければと思う反面
目を背けてはならない映画もある・・・
それをあらためて痛感した映画でもありました。
傑作ではないかも知れませんが、まぎれもない「名作」ですね。

 


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