まろの公園ライフ

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火宅の人

2012年12月11日 | 日記

週末、石神井図書館に出かけた。
何となく二階を覗くと「檀一雄」展をやっていた。
閲覧スペースの隅に著作を集めただけのコーナーだったが・・・

檀一雄は石神井ゆかりの作家である。
公園の近くに自宅があって、数々の名作はここで生まれた。
今年で生誕100年になると言う。

若い世代はもう名前を知らない人も多いかも知れない。
太宰治、中原中也、坂口安吾らと親交が深く「最後の無頼派」と呼ばれた。
無頼派とは本来、既成文学に批判的な作家たちの「作風」を指す言葉であったが
いつしか破天荒で無軌道な「生き方」の代名詞になった。
私もその生き方の方に惹かれた類で、大学の頃は夢中になって読んだ。



代表作の「火宅の人」は檀一雄の自伝的私小説である。
通俗小説を量産する売れっ子作家である主人公の「桂一雄」は
妻や精神障害を持つ息子など三人の子供を抱えながら
新劇女優と愛欲に溺れ、自宅を放ったらかしにして放浪を続けている。

「火宅の人」という言葉はもともと仏教用語で
「燃え盛る家のように危うさと苦悩に包まれながらも
少しも気づかずに遊びにのめりこんでいる状態」を指すらしい。
かつての私も多分にそういうところがあって、妙な親近感を覚えたものである。

律子夫人の死後に書かれた「リツ子・その愛」「リツ子・その死」は
1000ページをこえる大作で、名作と言えばむしろこちらの方かも知れない。
放蕩無頼な作家を献身的に支えながら
子育てや息子の看病、食料調達、借金、愛人への嫉妬など
夫人のすさまじい生きざまを克明に描いている。

満州の馬族を描いた「夕日と拳銃」は歴史小説の傑作で
私は見たことはないが1960年代にはテレビの連続ドラマにもなった。
とにかくスケールが大きくて夢中で読んだ。

檀一雄は文壇屈指の料理人でもあった。
とにかく無類のグルメで料理に関する造詣も深かった。
私もこの本を真似ていくつか料理をつくったこともあったけれど・・・



作家・檀一雄を描いた作品も多いが
中でも沢木耕太郎の「檀」は出色と言ってもいいのではないだろうか。
ドキュメンタリー作家が描いた私小説ならぬ「他人小説」で
檀の未亡人への1年以上のロングインタビューを通して書かれた。
やっぱり沢木耕太郎はスゴイ!



石神井公園の近くにある檀一雄邸。
この自宅はのちに区画整理で立ち退きになったが
娘で女優・檀ふみさんは現在もこのすぐ近くにお住まいだと言う。



家庭を顧みない「火宅の父」ではあったが
作家はこの素直で可愛らしい娘を誰よりも可愛がったと言う。
なんとも晴れやかな父親の笑顔である。

帰り道、石神井池のほとりに「ノイバラ」が可愛い実をつけていた。
小さなトゲがあってうっかり触ると大変だ。
「火宅の道」はまさしく「イバラの道」でもあるのだなあ・・・と
「火宅のオジサン」はしみじみと思うのであった。

 


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2 コメント

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Unknown (戸塚貴久子)
2012-12-11 21:44:58
檀ふみさんがご結婚なさらないのもお父上の過去の行状をあれこれ見てるから結婚願望がないのかしらん、と勘ぐってしまいました。笑

火宅のおじさん???
だめですよ~!!



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そのご指摘は・・・ (まろ)
2012-12-11 22:01:49
戸塚貴久子様
鋭いですねえ。良くも悪くも父親の存在が大きすぎると
家庭を持つことに憶病になってしまうのかも知れませんね
彼女の親友である阿川佐和子さんも独身ですが
やっぱりある種の「ファザコン」でしょうか。
私は今やすっかり火宅ならぬ「お宅」の人ですからご心配なく!
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