まろの公園ライフ

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30年目の向田邦子

2011年08月22日 | 日記
夜来の雨が朝になって激しくなる。



徹夜明けのボンヤリとした頭で煙草を買いに出る。
今日は8月22日
つい先日、古い雑誌の資料を見ていて気づいたのだが
今日は「特別な日」だった。



作家・向田邦子が旅先の台湾で客死したのは1981年8月22日。
今日でちょうど30年目だ。
もう30年も経つのかと茫漠たる思いになる。
大の飛行機嫌いだったのに、よりによって飛行機事故とは・・・
人生というのは本当に不条理だ。



私自身は面識はないのだが
とにかく才気煥発な「凛とした女性」というイメージが強い。
直木賞受賞後はすっかり作家・向田邦子になってしまわれたが
私の世代にとってはやはり脚本家・シナリオライターとしての活躍が印象深い。



「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」「あ・うん」「冬の運動会」
名作ドラマはまさしく星の数だが、倉本聰や山田太一とはひと味ちがった
女性ならではの感性と鋭い人間洞察力は見事で人気ドラマの一方の旗手だった。
こんなエピソードがある、
彼女がまだ駆け出しの頃、偶然、ドラマの予算書を覗き見る機会があり
スタジオのセットに使う「木」の値段が自分の脚本料より高いことに愕然とする。
で、プロデューサーから脚本の直しを要求された折り
「木に書いてもらったら」と突き返したというが、脚本家には笑うに笑えぬ逸話だ。



数あるドラマの中で思い出深いのが「だいこんの花」だ。
元海軍大佐で軍人気質が抜けない頑固者の父(森繁久彌)と
一人息子(竹脇無我)の心温まる「父子」の情愛をえがいたホームドラマだ。
もう40年も前のドラマだから覚えている人は少ないのかも知れない。
今朝方、その俳優・竹脇無我が倒れて病院に運ばれたというニュース。
大丈夫だろうか。




向田さんは無類の「猫好き」でも知られていた。
特にお気に入りはタイ旅行の際に一目ぼれしたというコラット種の「マミオ」。
彼女のエッセイにもしばしば登場する。



マミオを抱く彼女の後ろに飾られた絵は画家・中川一政の作品。
向田さんは画伯の大ファンで小説やエッセイの装丁も数多く頼んでいる。
中川から自筆の書画をプレゼントされた時には大感激で
「人間、願い続ければ夢は叶うものだ」と涙ながらに大喜びしたと言う。
私も大の中川ファンで何と言えぬ親しみを覚えた記憶がある。



エッセイ集もずいぶんと読んだ。
実に研ぎ澄まされた文章と女性らしい感覚の鋭さに何度も舌を巻いたものだ。
辛口評論で鳴るエッセイストの故・山本夏彦でさえ
「向田邦子は突然あらわれてほとんど名人だ」と絶賛したのも頷ける。



30年という歳月は人間の記憶を否応なく風化させていくが
向田さんは「風化しようのない」鮮烈な記憶と才能をこの世に残したと思う。
みんな向田さんを忘れないで欲しい。
もっともっと向田さんを読んで欲しいと思う。



降りしきる雨の中で向田さんを想った。
亡くなったのは直木賞受賞の翌年、まだ51歳の若さだった。

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
30年……。 (ヒガシ)
2011-08-22 15:17:25
最近、「思い出トランプ」を読み返していたところです。
ドラマでは、一番が「阿修羅のごとく」二番が「冬の運動会」かなあ。
竹脇無我も心配ですね……。

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嗚呼30年・・ (まろ)
2011-08-22 16:50:04
僕は向田さんとヒガシがちょっと重なるんだけど・・・
もちろんいい意味で!猫好きと犬好きの違いはあるけど、キリッと生きてる感じでね。
でも、向田さんを知らない世代が確実に増えていて、去る者日々に疎しなのか、ちょっと悲しい。
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向田邦子のシナリオはすごいのですが (さすらい日乗)
2016-07-01 08:37:21
彼女のエッセイを読んだとき、「これは実話ではなく創作だろう」と思ったことがよくありました。
高島先生も、そのように指摘されています。

と言って、彼女のエッセイの価値がなくなるわけではもちろんありませんが。
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向田さんのエッセイに (まろ)
2016-07-01 18:56:28
さすらい日乗様
同じような違和感を覚えたことはあります。
実話か創作かは知る由もありませんが
いかにもテレビ作家らしい「あざとさ」のようなものでしょうか。
ただ、おっしゃるように、それとエッセイの価値とは別ですよね。
高島さんの指摘は頷けるところ大ですが、どこかに「悪意」を感じるので好きになれません。

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