庄助さん

浮いた瓢箪流れのままに‥、日々流転。

鮨 素十 (3)

2008-01-31 22:44:19 | 小説
 水を撒き終えるとシュロの箒で猫の額ほどの玄関前の庭を掃く。僅かな土のスペースであるが杉彩模様に箒の刷毛目をつけ、そして、最後に暖簾を下げる。その後玄関前に立ち、暖簾に向かって手を合わせる。何を祈念しているのかは分からないが、祈念する親仁の姿を見ていると誰をも寄せ付けない雰囲気を漂わせている。
 この一連の動きが、開店前に決まって行われる親仁独特のセレモニーであり、型である。
 水撒き前には店内の清掃はすっかり終わっていて、土間にも薄っすらと水打ちがされている。
テーブルと椅子は規則正しく配置され、カウンターは見事なくらいに拭き清められて、長年の使用に耐えてきた貫禄のようなものを感じさせられる。そんなカウンターの表面を電球の光が鈍く優しく射していた。
 


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