庄助さん

浮いた瓢箪流れのままに‥、日々流転。

鮨 素十 (1)  峠道より

2008-01-26 23:59:58 | 小説
 駅からほどなくの下町の路地裏。夕刻ともなると近くの会社を退けたサラリーマンがこの路地裏の飲み屋街にやって来る。どの店もさほど大きな店ではないが結構な賑わいをみせている。そんな賑わいの中に鮨「素十」の店もある。店の佇まいはいたって質素なもので、間口、奥行きとも3間ほどの店内に、使い込まれた3つのテーブルとカウンター席があるだけ。古びた杉板張りの壁に無造作に貼られたカレンダーが妙に印象的で、それ以外はこれといってめぼしいものはない。
 鮨屋の亭主は50も半ばを過ぎた親仁であるが、無愛想で結構な頑固者でもある。親仁はいつもカウンターの向こうで背筋を伸ばし黙々と鮨を握っている。鮨を握っていないときがあるとすればせいぜい包丁を砥いだり、まな板やカウンターを磨いているくらいで、外に出ることも殆んどないようだ。出たとしても早朝の魚河岸への仕入れ以外は、精々暖簾の上げ下げと開店前の水撒きぐらいなもので、近所の人も親仁が何処かへ出かける姿をあまり見たことがないという。



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