鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

366 白露の句歌

2024-09-12 13:16:00 | 日記

節季は白露となったものの、予報ではまだまだ猛暑日が続くようだ。

せめて気分だけでも秋にしようと、露の句歌の名作を出してみた。


露の俳句と言えば先ずは川端茅舎だろう。



(川端茅舎句集 初版 竹籠 昭和初期)

「金剛の露一粒や石の上」茅舎

先月運良くこの「川端茅舎句集」の2冊目が手に入った。

限定千部なのでなかなか市場に出回らず、名作は3冊づつ集めろと言う猟書神ラングの教えにはまだ遠い。

表紙にも箱にも何も書かれておらず、背表紙だけに小さな金文字で「川端茅舎句集」とあるだけの簡素さが、如何にも茅舎らしい。

句集の巻頭に並べられた二十余の露の句に、この集を世に問う茅舎の敢然たる想いが伝わって来る。

この句中の「金剛」はダイアモンドの事だが、仏教の金剛心とも思えば「石の上」も更に生きて来るだろう。

この句集を高く評価した彼の師の虚子旧居近くから見る夕富士で、病身ながらも句画を志した茅舎を偲び私も露の句を詠んでみた。

ーーー影富士の聳える露の寂野かなーーー


和歌では以前少し話した、我が遠き祖先である源三位頼政の露の一首だ。



(歌裂軸 源頼政 平安末期 古瀬戸花入 合鹿椀 桃山時代)

「狩衣われとはすらじ露しげき 野原の萩の花にまかせて」頼政

新古今集にも入っている有名な一首で、「狩衣の色は萩の野露で自然に染まるのが良いなあ」と言う、鵺退治の英雄らしく野趣に溢れた万朶の露の輝く夢幻世界の歌だ。

彼自身もこの歌が出来た時にはさぞ満足出来たのではないか。

多分生活環境を比べれば現代人の方がずっと贅沢なのだが、精神は遥かに古の武人の方が豊穣に思える。

今後は毎年秋にはこの歌裂を隠者流夢幻歌の始祖としてお祀りしよう。

図らずもこの軸を飾った夜から我が荒庭に鉦叩きの高く澄んだ音が聞こえ出した。

ーーー虫の音に埋もれて灯る写経かなーーー


月曜日は重陽の節句だったので、田能村竹田の菊露酒の句画軸を掛けた。



(菊酒画讃 田能村竹田 江戸時代 古九谷茶器 幕末頃)

菊の句画軸に古九谷の茶器も菊模様が描かれているので生花は無しだ。

花屋にはあまり良い菊が売っておらず、上の茅舎句集に添えた小菊も安い仏花用で茎が真っ直ぐ過ぎる。

小菊は野生の背の低い茎の曲がった物が欲しいが、庭に植えてあったのも例によって家人が切り尽くし絶えてしまった。

従って今は絵の菊で楽しむ他無いのだ。

菊慈童や菊の雫を硯に受ける故事など古人達は皆菊花を愛でて来たが、今では仏花葬式花のイメージで抹香臭いとか縁起が悪いと嫌う人も増えている。

他の古画などを見ても梅と小菊は風雅の侘棲みには必須の花なのだが………

ーーー乱菊や父の残夢の庭継ぎてーーー


買物に町へと出れば全く秋の気配は無いが、帰宅して机前に座れば古書画の中からは秋風が通って来る。

もうすぐ先の中秋を楽しみに待つとしよう。


©️甲士三郎



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