円陣内の微妙な空気を払ったのは是枝平太。
満州から引き揚げてきた老人で、見た目は好々爺そのもの。
ところが、元は出羽三山の修験者だそうで、侮りがたい空気を漂わせていた。
「今は目の前の敵に専念する、それで良いだろう」
是枝老人の言葉の重みが、みんなの気持を引き締めた。
円陣に結界を張っていた呪術者達が口々に報告した。
「岩陰からバンパイアらしき気配が動き始めました」
「どうやら遠ざかる気配」
「雄岳の方向に向かっています」
円陣の結束が堅いと判断したのだろう。
是枝老人が陽子に話しかけてきた。
「その背中にあるのが『風神の剣』かな」
「はい」
老人は刀と陽子を見比べた。
「相性はどうだね」
「上手くやってます」
「そうか、それはなにより。
明日は頼みますよ。たぶん戦いは『風神の剣』次第でしょう」
「そこまで『風神の剣』の事を」
「貴女は琉球生まれだから詳しくは知らないでしょうが、
その刀は我等呪術者が束になっても敵わない魔物を打ち破ってきたのです。
鞘走れば、それだけで逃げ出す魔物もいたとか。
だから頼りにするのですよ」
周りにいた呪術者達が深く頷いた。
口に出さないまでも同じ思いを抱いていたらしい。
「家に残っている記録はここまでだ」と伯父の毬谷紘一。
榊誠がマメな男で、ここまでの事を覚え書きとして残していたのだ。
あまりに中途半端すぎる。
不審に思い、毬子は尋ねた。
「バンパイアとの戦い本番は」
伯父が首を横に振った。
「派遣した榊の者達は一人も還ってこなかった。
榊誠もだ。だから以後の詳しい事は分かっていない」
もしや・・・、と予測していたが、実際に耳にすると、
過去の事とはいえ辛いものがある。
それでも敢えて問う。
「具志堅陽子さんは」
「残念な事に彼女は『風神の剣』を残して行方不明になった」
「えっ、すると・・・バンパイアはどうなったの」
「それは大丈夫。見事に倒して用意して置いた石棺に封じたそうだ」
結果は毬谷家にもたらされ、
同時に『メイド・イン・ウサ』の後始末を頼まれたとか。
傍に控えていた榊英二が口を開いた。
「毬子さん、石棺に興味があるかい」
「少しね」
「それなら、辻斬り騒ぎが収まったら大分に行こう。俺も一度は見てみたい」
「見られるの」と毬子。
伯父が毬子と英二を交互に見た。
「私も今回の騒ぎがなければ、何も知らないままだった。
その意味では、毬谷家の当主として一度は見ておくべきだろうな。
夏休みにでも、みんなで訪れてみようか」
辻斬り事件捜査の一環で意外な事が判明した。
第一の被害者、西木正夫の伯父が牟礼寺の二代目住職であったのだ。
伯父が西木を猫可愛がりしていた関係から、
子供時代の西木が牟礼寺に親しく出入りしていた事も分かった。
その過程で、伯父が甥っ子に『風神の剣』を見せて自慢しても不思議ではない。
たぶん、そうだろう。
肝心の辻斬りに関してだが、捜査を主導する篠沢警部は、
新しく牟礼寺住職となった田原龍一こそが犯人だと思っていた。
姿形のみならず、雰囲気までが辻斬りそのもの。
その上、事件当日を狙ったかのように回峰修行で借家を留守にしていた。
彼が実際に修行をしていたと証明する人間もいない。
しかし、人知れず峰から峰を飛び回る修行なので、
誰に会わなくても不思議ではない。
そう主張されては打つ手がないのも事実。
となれば警察で田原が事件現場に居た事を証明するしかない。
難題に篠沢は頭を悩ませていた。
それとは別に気になる事が。
近頃、管理官の様子がおかしいのだ。
捜査本部に顔を見せる回数が減っていた。
来ても篠沢に任せっぱなしで、何も言わないし、何も聞かない。
何やら圧力を受けている気配があった。
思い当たるのは田原の関係。その誰かが警察庁にパイプがあるようなのだ。
そこで篠沢は牟礼寺と、その裏に隠れている者達を混乱させようと図った。
幸いにも手札が一枚あった。
刑事の池辺と親しい漫画家、寺脇サツキ。本名は柴田和代。
彼女が牟礼寺の石碑に興味を抱き、ブログに書いていたのだ。
勿論、写真付き。しかも、『メイド・イン・ウサ』と関連付けもしていた。
ただ残念な事に、ペンネームなので彼女のファンの興味は惹いていたが、
一般への広がりを見せていない。
篠沢は梃子入れする事にした。
餅は餅屋、曙橋分室資料班に依頼した。
偽IDで幾つものブログ、ツイッターが立ち上がるのに時間はかからなかった。
無数のリンクが張られ、より詳しい写真や資料が添付された。
さらには辻斬り事件までが関連付けられるものだから、
話題にならぬ分けがない。
厳しい反応を示したのが『メイド・イン・ウサ』跡地周辺の住民達。
亡骸が十六体。
そしてバンパイア。
それらが埋められているとなれば、騒ぎにならぬわけがない。
住民達が、「真偽を確かめて欲しい」と市役所に詰め掛けた。
★
私が住む町には大学があります。
なので、四六時中賑わっています。
飲み屋、ファミレス、カラオケ等が学生で溢れています。
比べて近隣の町は潰れる店舗が増加傾向です。
一番驚いたのは、3ヶ月ほど前に開店したファミレス系のラーメン屋です。
震災以後を乗り切る事が出来ずに、ひっそりと店仕舞いしてしまいました。
傷口を広げぬうちにと決断したのでしょうが・・・。
最初は震災でしたが、今の不景気は人災としか・・・。
★
ランキングです。
クリックするだけ。
(クリック詐欺ではありません。ランキング先に飛ぶだけです)
満州から引き揚げてきた老人で、見た目は好々爺そのもの。
ところが、元は出羽三山の修験者だそうで、侮りがたい空気を漂わせていた。
「今は目の前の敵に専念する、それで良いだろう」
是枝老人の言葉の重みが、みんなの気持を引き締めた。
円陣に結界を張っていた呪術者達が口々に報告した。
「岩陰からバンパイアらしき気配が動き始めました」
「どうやら遠ざかる気配」
「雄岳の方向に向かっています」
円陣の結束が堅いと判断したのだろう。
是枝老人が陽子に話しかけてきた。
「その背中にあるのが『風神の剣』かな」
「はい」
老人は刀と陽子を見比べた。
「相性はどうだね」
「上手くやってます」
「そうか、それはなにより。
明日は頼みますよ。たぶん戦いは『風神の剣』次第でしょう」
「そこまで『風神の剣』の事を」
「貴女は琉球生まれだから詳しくは知らないでしょうが、
その刀は我等呪術者が束になっても敵わない魔物を打ち破ってきたのです。
鞘走れば、それだけで逃げ出す魔物もいたとか。
だから頼りにするのですよ」
周りにいた呪術者達が深く頷いた。
口に出さないまでも同じ思いを抱いていたらしい。
「家に残っている記録はここまでだ」と伯父の毬谷紘一。
榊誠がマメな男で、ここまでの事を覚え書きとして残していたのだ。
あまりに中途半端すぎる。
不審に思い、毬子は尋ねた。
「バンパイアとの戦い本番は」
伯父が首を横に振った。
「派遣した榊の者達は一人も還ってこなかった。
榊誠もだ。だから以後の詳しい事は分かっていない」
もしや・・・、と予測していたが、実際に耳にすると、
過去の事とはいえ辛いものがある。
それでも敢えて問う。
「具志堅陽子さんは」
「残念な事に彼女は『風神の剣』を残して行方不明になった」
「えっ、すると・・・バンパイアはどうなったの」
「それは大丈夫。見事に倒して用意して置いた石棺に封じたそうだ」
結果は毬谷家にもたらされ、
同時に『メイド・イン・ウサ』の後始末を頼まれたとか。
傍に控えていた榊英二が口を開いた。
「毬子さん、石棺に興味があるかい」
「少しね」
「それなら、辻斬り騒ぎが収まったら大分に行こう。俺も一度は見てみたい」
「見られるの」と毬子。
伯父が毬子と英二を交互に見た。
「私も今回の騒ぎがなければ、何も知らないままだった。
その意味では、毬谷家の当主として一度は見ておくべきだろうな。
夏休みにでも、みんなで訪れてみようか」
辻斬り事件捜査の一環で意外な事が判明した。
第一の被害者、西木正夫の伯父が牟礼寺の二代目住職であったのだ。
伯父が西木を猫可愛がりしていた関係から、
子供時代の西木が牟礼寺に親しく出入りしていた事も分かった。
その過程で、伯父が甥っ子に『風神の剣』を見せて自慢しても不思議ではない。
たぶん、そうだろう。
肝心の辻斬りに関してだが、捜査を主導する篠沢警部は、
新しく牟礼寺住職となった田原龍一こそが犯人だと思っていた。
姿形のみならず、雰囲気までが辻斬りそのもの。
その上、事件当日を狙ったかのように回峰修行で借家を留守にしていた。
彼が実際に修行をしていたと証明する人間もいない。
しかし、人知れず峰から峰を飛び回る修行なので、
誰に会わなくても不思議ではない。
そう主張されては打つ手がないのも事実。
となれば警察で田原が事件現場に居た事を証明するしかない。
難題に篠沢は頭を悩ませていた。
それとは別に気になる事が。
近頃、管理官の様子がおかしいのだ。
捜査本部に顔を見せる回数が減っていた。
来ても篠沢に任せっぱなしで、何も言わないし、何も聞かない。
何やら圧力を受けている気配があった。
思い当たるのは田原の関係。その誰かが警察庁にパイプがあるようなのだ。
そこで篠沢は牟礼寺と、その裏に隠れている者達を混乱させようと図った。
幸いにも手札が一枚あった。
刑事の池辺と親しい漫画家、寺脇サツキ。本名は柴田和代。
彼女が牟礼寺の石碑に興味を抱き、ブログに書いていたのだ。
勿論、写真付き。しかも、『メイド・イン・ウサ』と関連付けもしていた。
ただ残念な事に、ペンネームなので彼女のファンの興味は惹いていたが、
一般への広がりを見せていない。
篠沢は梃子入れする事にした。
餅は餅屋、曙橋分室資料班に依頼した。
偽IDで幾つものブログ、ツイッターが立ち上がるのに時間はかからなかった。
無数のリンクが張られ、より詳しい写真や資料が添付された。
さらには辻斬り事件までが関連付けられるものだから、
話題にならぬ分けがない。
厳しい反応を示したのが『メイド・イン・ウサ』跡地周辺の住民達。
亡骸が十六体。
そしてバンパイア。
それらが埋められているとなれば、騒ぎにならぬわけがない。
住民達が、「真偽を確かめて欲しい」と市役所に詰め掛けた。
★
私が住む町には大学があります。
なので、四六時中賑わっています。
飲み屋、ファミレス、カラオケ等が学生で溢れています。
比べて近隣の町は潰れる店舗が増加傾向です。
一番驚いたのは、3ヶ月ほど前に開店したファミレス系のラーメン屋です。
震災以後を乗り切る事が出来ずに、ひっそりと店仕舞いしてしまいました。
傷口を広げぬうちにと決断したのでしょうが・・・。
最初は震災でしたが、今の不景気は人災としか・・・。
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